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君の横顔と、送れないメッセージ。
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配信が始まり、今日もカイリはいつもの地下に下りていく。
(あいつは今回も来ているのだろうか?)
前回、配信中の数時間丸々かけて広くした地下を、どうするのかカイリは少し楽しみにしていた。
地下に下りて見れば、黒っぽいスキンのSHOUJOAが既に何かを作り始めていた。
理人は携帯電話を手にとる。
[な に を て つ だ う ?]
ゲーム内のチャット欄は配信用のもので、それに関係の無い会話は、携帯電話のアプリを使って個別でするルールになっている。これがカイリは苦手で、裏方ばかりしている理由の一つでもあるのだ。
[石レンガを作って欲しいです。]
すぐに返ってきた返事に、カイリは頷いて、昨日の配信中の掘削で手に入れた丸石のブロックを手に取る。いつもなら必ず地上の倉庫に置きに行くのだが、いちいち持っていくのも面倒だったので、こちらにも物を収納できるようにしたのだった。
石レンガを作る作業は、そこそこ手間がかかる。今日も地味な作業になりそうだと、画面に映るカイリを見ながら、理人は溜め息をついた。
丸石を焼きながら、ただただ石レンガを作るだけではつまらないからと、自動で生成できるシステムを作っていく。材料さえ入れれば、後はほぼ自動でできるような状態にしてしまえば良いのだ。さすがにそれぐらいは地味作業係のカイリにも出来る。
カイリは手作業で石レンガを作りながら、その脇に石レンガ製造機を作成していった。
(しかし、ほんと地味だな。さっきから、画面はずっと灰色だ。)
いつものことながら、その地味さに呆れる。最近はそれでも手を抜くようになって、席を離れることもしばしばだったが、今日はやることがあるのだ。離席は許されない。久々にやる気を感じて、理人はふっと笑った。
(参加し始めた頃は、これが楽しいと思ってたんだよなぁ。)
たまに石レンガを取りにSHOUJOAがこちららに来るたび、理人は念のため携帯電話のチャット欄を確認する。会話もできるのだが、ほぼ初対面の人間とそうすることは少し、いや、だいぶ憚られる。慣れない携帯電話でのチャットを、理人は今日は仕方がないがやろうと決めていた。
SHOUJOAが、もう何度目かになるが、石レンガを補充しに来たとき、出来上がった装置を見て[すげぇ]と言った。
[つ ぎ は な に す る ?]
理人は少し気分を良くして、次の作業の指示を仰ぐ。本当はもう少しサボってからと思っていたのだが、誉められてちょっと調子に乗ってしまったのだ。しかし、やつはその返信を打っている最中に建築現場へと戻ってしまっていた。理人は自分の携帯電話の入力の遅さを悔いる。
(キーボードがあれば早く打てるんだけどなぁ。携帯電話のキーボードは小さすぎて打ち間違うし。)
理人は、携帯電話の画面を睨んだ。
(フリック入力はやっぱり苦手だ。たまに恐ろしく早いやつ、いるよなぁ。)
打った文章を送信して、もう一度パソコンの画面に目を戻す。
(そういえば、三田も早かった気がする。)
前に理人の呟きにコメントをしていた三田を斜め後ろから見ていた時の、入力の早さを理人は思い出していた。短い文章だったけど、それでも携帯電話をポケットに隠すまであっという間だった。そして、その時見せた嬉しそうに笑った顔…。
(いや、俺、何考えてるんだ。)
理人はパソコンの前で頭を抱える。今日、このポーズをするのも、もう何度目かわからない。気がつけば三田のことを考えている自分の頭が、いよいよおかしくなってしまったのだと理人は髪の毛をぐしゃぐしゃと掻いた。
頭を抱えたまま画面に視線を戻せば、SHOUJOAがこちらを覗きこんでいた。
(近っ!)
その黒髪の顔が目の前にあって、理人は驚き、そして笑った。
(悪い。悪い。完全に脱線してた。)
そう心の中で謝りながら、携帯電話を確認する。
[地上への階段を石レンガにしてもらって良いですか?]と既に返信が来ていた。
ずいぶん凝ったものにするらしい。
[り ょ う か い]
そこまで打った時には、既にSHOUJOAはいなかった。
(なんか、すげぇせっかちなやつなのか?)
理人はくくっと笑いながら、石レンガの階段ブロックを準備するためカイリを動かした。
用意を終えて地上への階段の方へ向かえば、SHOUJOAは既に立派な外壁を作り上げたところだった。その規模のでかさに唖然とする。
その画面の中の、まだ薄っぺらいが、それでもひどく凝ったそれを理人は目を凝らし見ていた。画面の中でカイリが、頭だけを動かしてそれを見ている。
[す ご つ も]
たった三文字をミスって焦る。
[すごっ]と、もう一度送り返せば、[あざます]とミスっているのかミスっていないのかわからないお礼が返ってきた。
そこで、そういえばと思った理人が携帯電話に再び打ち込む。
[か い だ ん ]
そこまで打って、一度送る。
[ハ ー フ B ?そ れ と も]
そしてここでまた送る。相手を待たせていることへの申し訳なさから、身に付いた技だ。
[か い だ ]
[階段ブロックで大丈夫です。]
打っている最中に返信が来て、それを慌てて消す。
[り ょ う か]と、そこまで打ったところで[5マス幅だと石レンガ足りないですか?]と、また奴からメッセージが来た。
[了解]なんて丁寧に打とうとせずに、[り]だけにすれば良かったと悔いながら、理人は再びやっと打ち込んだ文章を消す。
[す ぐ つ く れ]
[あ、でも、またすぐ作れば良いですね!]
あっという間に自己完結して返ってくるメッセージに、再び自分の文章を消しながら、さすがに理人はイライラしてきていた。自分のタイピングの遅さにも、こちらの返事を待てないSHOUJOAにも。
[う つ の お そ く て]
そこまで打ったとき、既にやつは建築にとりかかっていた。
「くあーっ!」
妙に腹が立って、声が出ていた。今は夜中だ。まずいと理人は慌てて口を閉じる。それでも理人は文章を打ち続けた。この地下を一緒に作り上げていくなら、大事なことだ。
[打つの遅くてごめん。でも、人の話は最後まで聞いてほしい。]
そうしっかり書いて、理人は送信ボタンを押した。建築中のSHOUJOAはそれに気がつくだろうか?外壁の上の方で作業しているSHOUJOAをしばらく観察していたら、急にやつは固まって、カイリの方を見下ろした。そして、ペコペコとお辞儀した。その姿に、理人は笑う。
携帯電話には[り]とだけ返信があった。
(あいつは今回も来ているのだろうか?)
前回、配信中の数時間丸々かけて広くした地下を、どうするのかカイリは少し楽しみにしていた。
地下に下りて見れば、黒っぽいスキンのSHOUJOAが既に何かを作り始めていた。
理人は携帯電話を手にとる。
[な に を て つ だ う ?]
ゲーム内のチャット欄は配信用のもので、それに関係の無い会話は、携帯電話のアプリを使って個別でするルールになっている。これがカイリは苦手で、裏方ばかりしている理由の一つでもあるのだ。
[石レンガを作って欲しいです。]
すぐに返ってきた返事に、カイリは頷いて、昨日の配信中の掘削で手に入れた丸石のブロックを手に取る。いつもなら必ず地上の倉庫に置きに行くのだが、いちいち持っていくのも面倒だったので、こちらにも物を収納できるようにしたのだった。
石レンガを作る作業は、そこそこ手間がかかる。今日も地味な作業になりそうだと、画面に映るカイリを見ながら、理人は溜め息をついた。
丸石を焼きながら、ただただ石レンガを作るだけではつまらないからと、自動で生成できるシステムを作っていく。材料さえ入れれば、後はほぼ自動でできるような状態にしてしまえば良いのだ。さすがにそれぐらいは地味作業係のカイリにも出来る。
カイリは手作業で石レンガを作りながら、その脇に石レンガ製造機を作成していった。
(しかし、ほんと地味だな。さっきから、画面はずっと灰色だ。)
いつものことながら、その地味さに呆れる。最近はそれでも手を抜くようになって、席を離れることもしばしばだったが、今日はやることがあるのだ。離席は許されない。久々にやる気を感じて、理人はふっと笑った。
(参加し始めた頃は、これが楽しいと思ってたんだよなぁ。)
たまに石レンガを取りにSHOUJOAがこちららに来るたび、理人は念のため携帯電話のチャット欄を確認する。会話もできるのだが、ほぼ初対面の人間とそうすることは少し、いや、だいぶ憚られる。慣れない携帯電話でのチャットを、理人は今日は仕方がないがやろうと決めていた。
SHOUJOAが、もう何度目かになるが、石レンガを補充しに来たとき、出来上がった装置を見て[すげぇ]と言った。
[つ ぎ は な に す る ?]
理人は少し気分を良くして、次の作業の指示を仰ぐ。本当はもう少しサボってからと思っていたのだが、誉められてちょっと調子に乗ってしまったのだ。しかし、やつはその返信を打っている最中に建築現場へと戻ってしまっていた。理人は自分の携帯電話の入力の遅さを悔いる。
(キーボードがあれば早く打てるんだけどなぁ。携帯電話のキーボードは小さすぎて打ち間違うし。)
理人は、携帯電話の画面を睨んだ。
(フリック入力はやっぱり苦手だ。たまに恐ろしく早いやつ、いるよなぁ。)
打った文章を送信して、もう一度パソコンの画面に目を戻す。
(そういえば、三田も早かった気がする。)
前に理人の呟きにコメントをしていた三田を斜め後ろから見ていた時の、入力の早さを理人は思い出していた。短い文章だったけど、それでも携帯電話をポケットに隠すまであっという間だった。そして、その時見せた嬉しそうに笑った顔…。
(いや、俺、何考えてるんだ。)
理人はパソコンの前で頭を抱える。今日、このポーズをするのも、もう何度目かわからない。気がつけば三田のことを考えている自分の頭が、いよいよおかしくなってしまったのだと理人は髪の毛をぐしゃぐしゃと掻いた。
頭を抱えたまま画面に視線を戻せば、SHOUJOAがこちらを覗きこんでいた。
(近っ!)
その黒髪の顔が目の前にあって、理人は驚き、そして笑った。
(悪い。悪い。完全に脱線してた。)
そう心の中で謝りながら、携帯電話を確認する。
[地上への階段を石レンガにしてもらって良いですか?]と既に返信が来ていた。
ずいぶん凝ったものにするらしい。
[り ょ う か い]
そこまで打った時には、既にSHOUJOAはいなかった。
(なんか、すげぇせっかちなやつなのか?)
理人はくくっと笑いながら、石レンガの階段ブロックを準備するためカイリを動かした。
用意を終えて地上への階段の方へ向かえば、SHOUJOAは既に立派な外壁を作り上げたところだった。その規模のでかさに唖然とする。
その画面の中の、まだ薄っぺらいが、それでもひどく凝ったそれを理人は目を凝らし見ていた。画面の中でカイリが、頭だけを動かしてそれを見ている。
[す ご つ も]
たった三文字をミスって焦る。
[すごっ]と、もう一度送り返せば、[あざます]とミスっているのかミスっていないのかわからないお礼が返ってきた。
そこで、そういえばと思った理人が携帯電話に再び打ち込む。
[か い だ ん ]
そこまで打って、一度送る。
[ハ ー フ B ?そ れ と も]
そしてここでまた送る。相手を待たせていることへの申し訳なさから、身に付いた技だ。
[か い だ ]
[階段ブロックで大丈夫です。]
打っている最中に返信が来て、それを慌てて消す。
[り ょ う か]と、そこまで打ったところで[5マス幅だと石レンガ足りないですか?]と、また奴からメッセージが来た。
[了解]なんて丁寧に打とうとせずに、[り]だけにすれば良かったと悔いながら、理人は再びやっと打ち込んだ文章を消す。
[す ぐ つ く れ]
[あ、でも、またすぐ作れば良いですね!]
あっという間に自己完結して返ってくるメッセージに、再び自分の文章を消しながら、さすがに理人はイライラしてきていた。自分のタイピングの遅さにも、こちらの返事を待てないSHOUJOAにも。
[う つ の お そ く て]
そこまで打ったとき、既にやつは建築にとりかかっていた。
「くあーっ!」
妙に腹が立って、声が出ていた。今は夜中だ。まずいと理人は慌てて口を閉じる。それでも理人は文章を打ち続けた。この地下を一緒に作り上げていくなら、大事なことだ。
[打つの遅くてごめん。でも、人の話は最後まで聞いてほしい。]
そうしっかり書いて、理人は送信ボタンを押した。建築中のSHOUJOAはそれに気がつくだろうか?外壁の上の方で作業しているSHOUJOAをしばらく観察していたら、急にやつは固まって、カイリの方を見下ろした。そして、ペコペコとお辞儀した。その姿に、理人は笑う。
携帯電話には[り]とだけ返信があった。
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