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第1章
【1.0.3】 人間という害獣と―――。
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「しかし、これは面白いな。」
そう言って、ギンはベッドから立ち上がると、先ほどの戦場が映し出されているPCの前に立った。身長が、ちょうど合うらしい。全く屈むことなくマウスを握ると、裏返してその青い光を見る。銀色の瞳が、メタリックブルーに変色する。そしてまたマウスを元に戻せば、ぐるりと円を描いた。
「それだけじゃ無いぞ。」
クロは、倫太郎の肩の上で足をぶらぶらさせながら言った。黒い尻尾がゆらゆらと揺れて、倫太郎の視界をくすぐる。
「おい、倫太郎。スマホ貸せ。」
突然、こちらを向いたクロにそう言われ、ビクッとした倫太郎だったが、慌ててスウェットのポケットに手を当てた。
「え?あれ?無い。」
(どこかで落とした?いや、無意識にどこかに置いた?)
焦ったようにスウェットに包まれた身体をペタペタ触っていると、「さっき、机に置いただろう。」とクロが呆れたように言った。
「え?あ?ほんとだ。」
身体を起こして机を見れば、ギンがいじったマウスの横にスマホが置かれていた。そこは倫太郎にとってスマホの定位置で、おそらくは無意識に置いたのだろう。
スマホを取るためには、PCの前にいるギンが邪魔だった。しかし、倫太郎がそれを取る必要は全く無かったようで、ギンがあっさりとそのスマホを手に取った。
「ほお。」
ギンが頷きながら、スマホを見ている。画面にはロックをかけていたから、中は見えないはずだ。それなのに、ギンは興味深々な様子でその銀色の目を輝かせている。彼には、何かが見えているようだ。
「見えないから、見えるようにしたのか。」
「下等動物なりに色々と考えているのさ。」
「じゃあ、これも同じか。」
ギンがそう言って、再びPCを触る。マウスでも、キーボードでも、コントローラーでもなく、PC本体を。
「なるほどな。ああ、ここからでも入れそうだ。しかしまあ、ずいぶん無理矢理突っ込んだな。だから歪んだのか。」
PCとスマホと同時に見比べるようにしながら、ギンはにやにやと笑った。
「感じているくせに、見えていないから質が悪いのだ。本ぐらいで済ませておけば良かったものを。」
「てことは、お前たちがいなくなったのは、こいつが原因か?」
ギンはそう言って、手に持ったスマホをペラペラと揺らした。倫太郎のそれが、薄っぺらい何かに見える。
「まあ、そうとも言えるが、それだけでも無い。うまく向こう側に逃げたものもいるが、ほとんどは力を失って消えたと言って良いだろう。」
「…そうか。」
クロが、何度目かわからない溜息をつく。すると、ギンは少し申し訳なさそうな、残念そうな、そんな顔をしてクロを見た。
ギンの意外な表情に倫太郎が驚いていると、銀色の瞳と目があった。ギンがニヤリと笑う。先ほどの表情は、嘘だったのだろうか。
「人間は、下等動物というよりは、もはや害獣だ。」
そんなギンの表情を同じく見たであろうクロが、吐き捨てるように言った。ギンが机の椅子に腰かける。寄りかかられてそれはギシッと音が―――、したような気がした。それすらももう、自信が無い。
足が地面につかないギンは、椅子の上で胡坐をかいた。
「そう、言うな。序列を作るのは勝手だが、お前たちは傲慢がすぎる。」
「だから、諦めろというのか。」
「そういうものだ。仕方がないだろう。」
倫太郎にとって、全くわからない会話が続く。言葉としては頭に入って来るが、内容が全く理解できない。ただ、怖かっただけの二人が会話している姿を見ていると、少しずつその怖さが薄れ、慣れていくような気がすることだけは不思議だった。
人間でないものが目の前にいるというのに、なぜ正気でいられるのか。―――そんなことを倫太郎は考えて、それすらも二人には伝わっているのだということを思い出し、何も考えないように考えないようにと考える。
軽くパニックを起こして頭を抱えると、「倫太郎も、もう諦めろ。」とギンが苦笑したのがわかった。
「じゃあ、今更何をしに来たと言うんだ。」
クロがいら立ちを隠さずに言った。横目に見えるその灰色の目が、ギンに向いている。
「別に。ただの暇つぶしだ。」
「―――は?今この状況で、奴は何をしているんだ。」
「それすらも最早、偶像の産物だ。全ては、お前たちの自業自得だ。」
どうやら、ギンが言い負かしたらしい。面倒くさそうに銀色の髪の後ろで手を組んで、椅子の背もたれに寄りかかったギンを、クロが何も言わずに睨んでいる。
昔からの知り合い…ということなのだろうか。明らかに友達とかではないただならぬ雰囲気も、子供と黒猫という見た目のせいで、それほどシリアスなものには感じられない。
(見た目って、想像以上に大事なんだな。)
そんなことを考えて、倫太郎は自分の今の格好を見下ろせば、だらしないスウェット姿に、子供のように体育座りをした自分が、妙に情けないものに見えた。
「それで、お前は?今の現状をどうにかしようとでも言うのか?」
ニヤニヤと笑うギンのその顔は、何かを期待しているようでもあった。
チッという舌打ちが耳元で聞こえ、黒い尻尾が顔にべしべしと当たる。八つ当たりをされているらしい。
「まあ、良い。せっかくだ。お前たちの意見も聞こう。他の奴らがいそうな場所はわかるか?」
「ほとんどは、その中だろうな。」
そう言ってクロが指を差したのは、ギンが手に持っている倫太郎のスマホだった。一度その手元に目を落としたギンは、「ふぅん?」と言いながらそれを持ちあげてみせる。
「生きてるのか?」
「どうだろうな。その中も、もうほとんどが無気物に汚染されている。」
「それなら、一番汚染されてなさそうな所を探すか。」
そう言って、ギンが諦めたように大きく息を吐くと、両手で持ったスマホをその銀色の目でじっと見た。そして、何かを見つけたらしい。
「よし、行くぞ。」
「私もか?なんて面倒な。」
「倫太郎もだ。」
突然名前を呼ばれ、倫太郎はうろたえる。「え?は?いや。」なんて言っている内に、再びグワリと世界が歪んだ。
そう言って、ギンはベッドから立ち上がると、先ほどの戦場が映し出されているPCの前に立った。身長が、ちょうど合うらしい。全く屈むことなくマウスを握ると、裏返してその青い光を見る。銀色の瞳が、メタリックブルーに変色する。そしてまたマウスを元に戻せば、ぐるりと円を描いた。
「それだけじゃ無いぞ。」
クロは、倫太郎の肩の上で足をぶらぶらさせながら言った。黒い尻尾がゆらゆらと揺れて、倫太郎の視界をくすぐる。
「おい、倫太郎。スマホ貸せ。」
突然、こちらを向いたクロにそう言われ、ビクッとした倫太郎だったが、慌ててスウェットのポケットに手を当てた。
「え?あれ?無い。」
(どこかで落とした?いや、無意識にどこかに置いた?)
焦ったようにスウェットに包まれた身体をペタペタ触っていると、「さっき、机に置いただろう。」とクロが呆れたように言った。
「え?あ?ほんとだ。」
身体を起こして机を見れば、ギンがいじったマウスの横にスマホが置かれていた。そこは倫太郎にとってスマホの定位置で、おそらくは無意識に置いたのだろう。
スマホを取るためには、PCの前にいるギンが邪魔だった。しかし、倫太郎がそれを取る必要は全く無かったようで、ギンがあっさりとそのスマホを手に取った。
「ほお。」
ギンが頷きながら、スマホを見ている。画面にはロックをかけていたから、中は見えないはずだ。それなのに、ギンは興味深々な様子でその銀色の目を輝かせている。彼には、何かが見えているようだ。
「見えないから、見えるようにしたのか。」
「下等動物なりに色々と考えているのさ。」
「じゃあ、これも同じか。」
ギンがそう言って、再びPCを触る。マウスでも、キーボードでも、コントローラーでもなく、PC本体を。
「なるほどな。ああ、ここからでも入れそうだ。しかしまあ、ずいぶん無理矢理突っ込んだな。だから歪んだのか。」
PCとスマホと同時に見比べるようにしながら、ギンはにやにやと笑った。
「感じているくせに、見えていないから質が悪いのだ。本ぐらいで済ませておけば良かったものを。」
「てことは、お前たちがいなくなったのは、こいつが原因か?」
ギンはそう言って、手に持ったスマホをペラペラと揺らした。倫太郎のそれが、薄っぺらい何かに見える。
「まあ、そうとも言えるが、それだけでも無い。うまく向こう側に逃げたものもいるが、ほとんどは力を失って消えたと言って良いだろう。」
「…そうか。」
クロが、何度目かわからない溜息をつく。すると、ギンは少し申し訳なさそうな、残念そうな、そんな顔をしてクロを見た。
ギンの意外な表情に倫太郎が驚いていると、銀色の瞳と目があった。ギンがニヤリと笑う。先ほどの表情は、嘘だったのだろうか。
「人間は、下等動物というよりは、もはや害獣だ。」
そんなギンの表情を同じく見たであろうクロが、吐き捨てるように言った。ギンが机の椅子に腰かける。寄りかかられてそれはギシッと音が―――、したような気がした。それすらももう、自信が無い。
足が地面につかないギンは、椅子の上で胡坐をかいた。
「そう、言うな。序列を作るのは勝手だが、お前たちは傲慢がすぎる。」
「だから、諦めろというのか。」
「そういうものだ。仕方がないだろう。」
倫太郎にとって、全くわからない会話が続く。言葉としては頭に入って来るが、内容が全く理解できない。ただ、怖かっただけの二人が会話している姿を見ていると、少しずつその怖さが薄れ、慣れていくような気がすることだけは不思議だった。
人間でないものが目の前にいるというのに、なぜ正気でいられるのか。―――そんなことを倫太郎は考えて、それすらも二人には伝わっているのだということを思い出し、何も考えないように考えないようにと考える。
軽くパニックを起こして頭を抱えると、「倫太郎も、もう諦めろ。」とギンが苦笑したのがわかった。
「じゃあ、今更何をしに来たと言うんだ。」
クロがいら立ちを隠さずに言った。横目に見えるその灰色の目が、ギンに向いている。
「別に。ただの暇つぶしだ。」
「―――は?今この状況で、奴は何をしているんだ。」
「それすらも最早、偶像の産物だ。全ては、お前たちの自業自得だ。」
どうやら、ギンが言い負かしたらしい。面倒くさそうに銀色の髪の後ろで手を組んで、椅子の背もたれに寄りかかったギンを、クロが何も言わずに睨んでいる。
昔からの知り合い…ということなのだろうか。明らかに友達とかではないただならぬ雰囲気も、子供と黒猫という見た目のせいで、それほどシリアスなものには感じられない。
(見た目って、想像以上に大事なんだな。)
そんなことを考えて、倫太郎は自分の今の格好を見下ろせば、だらしないスウェット姿に、子供のように体育座りをした自分が、妙に情けないものに見えた。
「それで、お前は?今の現状をどうにかしようとでも言うのか?」
ニヤニヤと笑うギンのその顔は、何かを期待しているようでもあった。
チッという舌打ちが耳元で聞こえ、黒い尻尾が顔にべしべしと当たる。八つ当たりをされているらしい。
「まあ、良い。せっかくだ。お前たちの意見も聞こう。他の奴らがいそうな場所はわかるか?」
「ほとんどは、その中だろうな。」
そう言ってクロが指を差したのは、ギンが手に持っている倫太郎のスマホだった。一度その手元に目を落としたギンは、「ふぅん?」と言いながらそれを持ちあげてみせる。
「生きてるのか?」
「どうだろうな。その中も、もうほとんどが無気物に汚染されている。」
「それなら、一番汚染されてなさそうな所を探すか。」
そう言って、ギンが諦めたように大きく息を吐くと、両手で持ったスマホをその銀色の目でじっと見た。そして、何かを見つけたらしい。
「よし、行くぞ。」
「私もか?なんて面倒な。」
「倫太郎もだ。」
突然名前を呼ばれ、倫太郎はうろたえる。「え?は?いや。」なんて言っている内に、再びグワリと世界が歪んだ。
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