君と見た黄昏の夕焼け

霧野新庄

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始まりの厄災

壊された歯車

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次の日。

「んー。今日は待ちに待った。再開の日だー!あいつら元気にしてるかな~?」

真司は嬉しさのあまりほとんど寝付けなかった。

『ガラガラ』

「行ってきまぁーす」真司は誰もいない家に声をかけ、飛び出した。

『ん?』

真司は島の違和感に気が付いた。彼は学校に行く道中。ほとんど、いや。一人の生徒とも出会わなかったのだった。

『あれーみんなもう行ってるのかな?っというか、江戸崎ってこんなに人が少なかったかな?』

『ガラガラガラ』

真司が力強くドアを開けた。

「おっはようございまーす」

『なんだぁ。みんなもういるじゃん。心配して損したー』

クラスのほとんど全員が、もうすでに着席していた。

これはまだ、序章に過ぎなかった。真司はこれから変わってしまった江戸崎の悲しい真実を知ることになる。

『キンコンカンコーン』

チャイムの音が教室中に鳴り響く。と、同時に一人の少女が席を立つ。見覚えがあった。

「茜―!」

彼女は一瞬ビックリしたような顔をこちらに見せたが、構わず走り去って行く。

「待てよ!」

真司が彼女の腕を掴んだ。

「触らないで!」

「え…?」

「ごめん…」

彼女の目には涙が浮かんでいた。彼女の手がするすと真司から離れていく。

真司はわけもわからず突っ立っていた。

『え?なんで?茜。俺…』

真司の目から自然と涙が零れ落ちる。

「あれ?なんでだろう?俺。何で泣いてるんだろう…なんのために、誰に会いに帰ってきたんだろう…」

『ダッダッダ』

「君?転校生の榊原真司君?駄目じゃない!転校初日で授業さぼったら!」

「え?でも茜が…」

「茜?誰のこと?言い訳はいいから早く戻りなさい!」

『誰ってなんだよ!あんた茜の担任だろ?ほっとくのかよ!』

真司は動転のあまり声にならない声で叫んだ。だが、その教師は有無を言わせず、真司を連れ戻した。

 教室に戻った時。彼は思った。

『何もさっきと変わっていない』

机や椅子の配置は当たり前だが、何より誰一人として動いた形跡がないのだ。
元々、真司はずば抜けて感性や洞察力が優れているわけじゃない。だが、明らかに誰一人として微動だにした形跡がないのだ。教室にいる全員がただ、人形のように椅子に座っている。真司はその光景に怖くなった。

「ほら早く座りなさい!」

担任の教師が真司に向かって言った。真司は仕方なく自分の席についた。

 時間は刻刻と過ぎていった。二時間目。三時間目。しかしながらその光景は変わらなかった。

『この人たちは生きているのか?』

真司はふと右隣の女子生徒に声をかけてみた。

「すみません。この学校っていつもこんな感じなんですか?」 

「……」

 返事がない。彼女はただ、ぼぉーっと前の一点を見つめている。真司ははじめ無視されているだけだと思い、今度は左隣の男子生徒に声をかけてみた。

「あのー無視しているだけなんですよね?」

「……」

 またしても返事がない。彼も同じくただ一点を眺めている。真司は自分がおかしいのではなく、周りがおかしいことに気が付いた。

 四限が終わり。担任の目が離れたところで真司は屋上に向かった。数時間前、真司は茜を追いかけ、屋上に上がったのを目撃したのだ。
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