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第4章 あやまちと後悔を積み重ねた城で
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「なあ、トーラーさんよ」
舞奈はゆっくり立ちあがる。
「21年前まで時間をまき戻すには、どうすればいい?」
口元を半笑いの形に歪めたまま問いかける。
『……魔力王が知るべきではない事柄です』
舞奈の手の中で、石は平坦な口調で答える。
だが声色に微かな焦りを感じられるのは気のせいだろうか?
『時間遡行は大量の魔力を消費します。魔力王が指定する期間の遡行によって、我が半身に蓄えられた魔力は枯渇するでしょう』
(ビンゴだ)
舞奈は理解した。
やはり明日香は蓄積した魔力を使って時間をまき戻そうとしていた。
舞奈が明日香の側にいたあの時代まで。
だが知の宝珠はそれを魔力の浪費と見なした。
だから明日香を魔力王の座から引きずり下ろした。
それでも舞奈は笑う。
あの頃からずっと、情報の取捨選択は明日香の役目だった。
そして明日香の無茶な計画を無理やりにでも完遂させるのが舞奈の役目だった。
今回もまた明日香が計画し、そして一命を賭して舞奈に託した。
舞奈はそれに全力で答えるだけだ。だから、
「そっか。じゃ、別の質問だ」
口元に楽しげな笑みが浮かぶ。
「破魔弾って知ってるか?」
『はい。対魔法用の特殊弾です。防御魔法や回復魔法を阻害する効果を持ちます』
唐突に毛色が変わった舞奈の問いに、石は答える。
『破魔弾に対する魔術、妖術による防御は至難。召喚魔法による被召喚物は一撃で破壊され、術による回復も弾頭が摘出されない限り不可能。魔力王が先ほどの戦闘で敵機に致命打を与えた銃弾が、それに相当します』
「正解だ。手に入れるのに結構な金がかかるってのが抜けてる以外はな」
舞奈は口元に不敵な笑みを浮かべる。
石を手にしたまましゃがみこむ。
足元で眠るレナを左腕でそっと抱き上げ、抱きしめる。
子供が母親に勇気を借りるように。
「実はな、そいつが1発残ってるんだ。失くしたと思ってたけど、コートじゃなくてジャケットのポケットの奥から出てきたんだよ」
言い放つ。
舞奈は鮮血色の石を天高く放り投げる。
ジャケットの裏からすばやく拳銃を抜く。
ピタリと狙いを定めた先は、宙を舞うハート形の石。
『魔力王よ! それは愚かな行為です!』
「冴えてるナァそいつも正解だ!! あたしはバカで不器用で、ひねくれ者で図々しくて鈍感で、21年前からこれっぽっちも成長しちゃいない!」
吠える舞奈の口元には凄惨な笑み。
双眸にはギラつく光。
だから明日香が意図した通り、あの優しい日々をありありと思い出すことができる。
背後を守る生真面目な相棒がいれば、舞奈にできないことなんてない。
舞奈と明日香は、幾多の怪異を狩り出し、蹴散らしてきた無敵の仕事人だから。
舞奈は狂気と紙一重な満面の笑みを浮かべながら、
「……最後の質問だ。時間をまき戻すには、どうすればいい?」
引鉄を引く。
銃声。
手に慣れた反動。
石は怯えるように輝く。
先ほど奴自身が語った情報は真実だ。
対魔法用の破魔弾は、魔力をため込んだ魔法の石を一撃で破壊する。
そして知の宝珠は自身で術を使うことはできない。
木端微塵になりたくなければ舞奈をなだめすかして術を使わせるしかない。
だが防御魔法は術者を中心に発動する。
便宜上の術者である舞奈の手を離れた石を守ることはない。
だから奴が知るはずのどんな魔法も、この状況で奴自身を救うことはできない。
……拳銃の引鉄が引かれる前まで時間をまき戻す以外では。
極度の集中によってスローモーションのように流れる視界の中。
舞奈は石を見つめたまま、21年前に何を思ったかに想いをめぐらせる。
花を贈りたかった。
あの懐かしい日々が永遠に続く訳などないと理解していた。
だから去る者と残される者の間に絆を残すことができるのだと信じたかった。
愛する少女に花を贈りたかった。
『現在の興奮状態を維持したまま、力の宝珠に「2100秒前まで時間をまき戻せ」と唱えてください!』
根負けした知の宝珠が叫ぶ。
いっそ拍子抜けするくらい捻りのない、ありきたりな呪文。
否。言葉が重要なのではない。
魔術の引き金となるのは言葉に引きずられた心の形、イメージだ。
舞奈は石の言葉によって、それを確認することができた。
答えを得た舞奈の笑みは、鮫のように凄惨に歪む。
そして――
「――21年前まで時間をまき戻せ」
生真面目な黒髪の彼女が当然のように隣にいた、あの時代に戻りたい。
それが舞奈の答えであり、望みだ。
だから銀色の弾丸が鮮血色の石を砕く寸前、世界が凍りついた。
何かに引き寄せられるような感触に、ふり返る。
そこにはもうひとりの舞奈がいた。
懐かしい花屋のショーウィンドーの向こうで、買ったばかりの花束をかかえて微笑む21年前の自分。
舞奈は銃を捨て、過去の自分に手をのばす。
もうひとりの舞奈も気づき、花束を抱えたまま手をのばす。
2人の舞奈の意識が混ざりあう。
否、混ざり合うまでもなく2つは同じものだった。
そして世界が、過去に引きずられるようにゆらぎ始め――
――気づくと舞奈は宙に浮かびながら、ゆらぐ景色を眺めていた。
よくよく見やると、それは過去へと向かう時間の断片のようだった。
舞奈が見やる前でスクワールはヘッジホッグと死闘を繰り広げ、レナが眠りにつき、ボーマンが駆る5号機が群なす敵へと飛びこんでいく。
サコミズの鹵獲機が敵の侵攻を食い止める。
スプラが爆ぜ、ピアースが釈尊の剣に刺し貫かれる。
舞奈はレナと出会い、スクワールに乗りこみ、バーンと1号機が爆発する。
トルソが吹っ飛び、目覚めた舞奈がボーマンの胸を揉んだ。
「時間がまき戻ってるってことか……?」
『はい。力の宝珠の魔力を消費し、魔力王が指定した時間遡行が行なわれています』
見やると、側に鮮血色の石が浮かんでいた。
舞奈は石を睨みつける。
石は舞奈を引っかけようとしたのだ。
石が指定した2100秒前は、およそ魔帝との戦闘中だ。
舞奈が提示された呪文を一言一句違わずに唱えて指定通りに時間をまき戻そうとすると、時間はヘッジホッグと戦闘中までまき戻る。
そこで知の宝珠は魔帝に与する。
そうすれば機体を抜け出した舞奈をヘッジホッグの火力で始末できるという算段だ。
つまり危惧した通り知の宝珠は舞奈を裏切ろうとしたのだ。
だが魔帝がほうが石より一枚上手だった。
彼女が遺した仕掛けによって、舞奈の心はあの時の穏やかな気持ちに満たされた。
そして21年前に戻る正しい呪文を思いつくことができた。
何食わぬ顔で目前にたゆたうハート型の石を見やり、(面の皮の分厚い奴だな)という言葉を飲みこむ。代りに、
「2100秒前ってのは、何年くらい前なんだ?」
『35分前に相当します』
「そうかい」
『そして、私は魔力王に時間遡行の注意点を伝達せねばなりません』
「……面の皮の分厚い奴だな」
『遡行により、世界の全てに対する指定期間中の変化がリセットされ、指定期間直前の状態に戻ります。ですが遡行を実行する我らの魔力と、遡行を命じた魔力王の記憶だけは例外として現状のまま変化しません』
「そうかい」
『また力の宝珠の魔力はほぼ枯渇します。これ以上の消費は推奨されません』
「魔力が完全になくなると、どうなるんだっけ?」
『魔力王は、世界を改変するほどの力を永久に喪失することになります』
「……そうかい」
舞奈は生返事を返し、再び景色を眺め始める。
もう興味も失せた石の戯言なんかより、こちらのほうが目を引くからだ。
資料が連なる研究室とおぼしき部屋で、美しい金髪の女性が髪にハサミを入れる。
サングラスを取り出し、身につける。
レジスタンスのリーダー、ボーマン博士の誕生である。
そしてボーマンは部屋を後にする。
残された部屋の片隅には、額縁に入ったセピア色の写真が立てかけられていた。
写真に写っているのは6人の男女。
粗野な雰囲気の野猿じみた青年、優男、筋骨隆々とした大男に、華奢な少年。
そして長髪を染めた軟派な青年と、内気そうな金髪の少女。
別の断片を見やる。
床には曼荼羅が描かれ、壁にはルーン文字が散りばめられた大広間。
その中央で、魔帝は真言を唱え、魔術語の一語で締める。
モニターを兼ねた壁一面に、雨の如く無数に降りそそぐ稲妻が映しだされる。
魔帝による破壊の雨の行使である。
モニターは稲妻の雨が地表をえぐり痛めつける様を映し出す。
ビルは紫電の槍に射抜かれて崩れる。
光の鍬で耕された地面は瓦礫とアスファルトが積もった荒野と化す。
副次効果によって上空は磁気嵐に覆われ、既存の航空機は飛べなくなった。
地面は稲妻に蹂躙されて穴だらけになり、装脚艇ほど大きな瓦礫が次々に転がった。
稲妻は車両そのものへも容赦なく襲いかかった。
バイクを消滅させ、乗用車を真っ2つにへし折り、トラックを八つ裂きにした。
モニターの片隅で、稲妻がタンクローリーを蜂の巣にして爆散させる。
それは21年前の世界から舞奈を奪ったのと同じ種類の車両だった。
その様を見やり、魔帝は愉快げな笑みを浮かべた。
魔帝の胸元で、鮮血色の石が輝いた。
そして、また別の断片。
先ほどと同じ研究室らしき部屋で、金髪の少女は端末に向かって調査をしていた。
その側には同様に机に向かう黒髪の少女。
明日香とレインは共同でモノリスの解析をしていた。
共に何かを失った者として。
液体に満たされた5つのケースには生体部品と思しき薄桃色の何かが浮かんでいる。
各々のケースには名が記されていた。
『TSUBASA』
『RAITO』
それは舞奈や明日香、レインと共に闘い、そして散った【グングニル】の異能力者たちの名でもあった。
机上に置かれた鮮血色の石が、何かを急かすように輝いた。
さらに別の断片。
やつれて、それでも美しい母となった園香が、微笑みながら眠りにつく。
幼いレナは母親にすがって泣きじゃくる。
その時、玄関のドアが軋む音が、男の帰りを告げた。
タバコとギャンブルに人生を費やす害虫のような男は、ギャンブルに負けた腹いせに横たわる園香とすがりつくレナに向かって怒鳴る。
幼いレナはゆっくりと立ちあがる。
うつむいた彼女の表情をうかがい知ることはできない。
男はヤニで濁った目で幼いレナを睨み、握りつぶされたビールの空缶を投げつける。
空缶がレナの頬をかすめ、尖った個所が当たったか赤い糸を引く。
レナは手にしていた木片を握りしめる。
指先で頬の血をぬぐい、木片に刻まれた文様になすりつける。
顔を上げたレナの双眸は、舞奈が最初に見た彼女のそれと同じ光を宿していた。
光の名は憎悪。目前にいる誰かを許さないと決意する固い意志。
男を見やるレナの唇が魔術語を形作る。
野牛、と。
そんな家族の末路を、ひっそりと魔帝が見ていた……
「……!?」
不意に抱いていたレナの姿がゆらぎ、溶けるように消えた。
舞奈の腕が、虚しく自身を抱きしめる。
舞奈は気づいてしまった。
時間をまき戻した先で、園香を傷つける男の存在を舞奈が許すわけがない。
だが、それはレナが生まれてこないことを意味する。
舞奈は慟哭した。
舞奈が知るレナと、21年前の園香が姉妹のように笑いあう。
舞奈は無意識に、そんな都合のいい情景を脳裏に思い浮かべていた。
だが、そんなことが起こりえるはずなどないことは理解できる。
否、もっと早く理解しなければいけなかった。
舞奈の選んだ答えはいつも間違っていた。
今度もまた、正しい答えをつかみ損なった。
その結果、守りたかったものを失った。
「すまない……レナ……」
妄想の中で、レナと園香が姉妹のように並んで歩く。
分別のない願いを脳裏から消し去ろうとして、失敗して、舞奈は無理やりに視線を上げて景色を睨みつける。
美しい女性となっていた園香が、男の誘いを受け入れる。
相手はヤニで歪んだ醜い顔をして、薄汚れた背広を着こんだ、人間のクズとしか表現しようのない男であった。
だが園香は舞奈という心の拠りどころをなくしていた。
だから行き場を失った母性と保護欲の矛先を、無様な男に向けるしかなかった。
一方、明日香は人気のない校舎裏を訪れていた。
華奢な少女の手には紙片。
後藤マサルに呼び出されたのだ。
少女の前には後藤マサル。
その側には高等部の制服を着崩した大柄な少年が2人。
さらに校舎の影からもくわえタバコの少年たちが姿をあらわし、明日香を取り囲む。
少年たちは下卑た笑みを浮かべ、ヤニ色に濁った双眸で少女をぬめつける。
後藤マサルは舞奈に救われた場面を明日香に目撃され、女装癖を知られたと思った。
だから彼女を高等部の校舎裏に呼び出し、悪友たちと結託して口封じを試みた。
助けは来ない。
学校という閉鎖空間では、閉じられた世界における権力者の利害にさえ反しなければ非道も凶行も容認され、隠蔽される。
少年のひとりが、手にしたナイフを見せつける。
別の少年は卑猥な笑みを浮かべながら、明日香にビデオカメラを向ける。
カメラのレンズが、多数の少年に囲まれた明日香の華奢な身体を捉え――
――ひび割れた。
驚きあわてる少年たちの胸に、腹に、ヤニ色に濁った薔薇が咲く。
逃げ出す背中に榴弾が直撃し、ヤニ色の欠片に変える。
少年たちは、ぶちまけられたニコチン色の絨毯の上に散らばり、あるいは倒れ伏す。
明日香は木陰に目をやる。
それぞれ小型拳銃と軍用拳銃を構えた2人の警備員が手を振った。
側にはグレネードランチャーまで据え置かれている。
明日香はカメラを持ってへたりこんでいた少年の側にしゃがみこむ。
頭部に怪我がないことを確認して安堵の笑みを浮かべる。
少年も釣られて笑う。
その目が不意に見開かれた。
明日香は硝煙を立ちのぼらせる45口径を手にして立ちあがる。
手つきがややおぼつかないので、小口径から替えたばかりだと思われる。
重い反動に慣れようとするように、銃口を足元に向けて2発、撃つ。
それを何かの許可と受け取ったか、警備員の肩書きを持ち、警備員の制服を着た外国人の傭兵たちは、生き残った少年たちを標的代わりに試射会を楽しむ。
助けは来ない。
学校という閉鎖空間では、閉じられた世界における権力者の利害にさえ反しなければ非道も凶行も容認される。
明日香は学校の警備を引き受ける警備会社の社長令嬢だった。
やがて傭兵は、腰の抜けた後藤マサルの両腕をつかんで持ち上げる。
哀れで愚かな不良少年は、かつて悪友だった破片にまみれて許しを請い、泣き叫ぶ。
明日香は拳大の黒い骸骨を取り出す。
手にしたそれを、後藤マサルの額に埋める。
明日香の胸に輝く鮮血色のペンダントが、歓喜するように輝く。
傭兵たちが手を離す。
後藤マサルは口の端からよだれをたらし、明日香にひざまずいた。
おそらくこれが、ゴートマン誕生の瞬間であろう。
そして魔帝の。
教室の窓際の席には、花束が供えられていた。
舞奈はタンクローリーの爆発に巻きこまれて消えた。
結果、元の時間では故人として扱われていた。
学校机の上に佇む仏花を、大人びたボブカットの少女が悲しげに見つめていた。
そんな様子を、ぐんじょう色のワンピースをまとった黒髪の少女が一瞥する。
その胸元で、鮮血色の石が不気味に輝く。
明日香の瞳には、舞奈と初めて会った頃と同じ、暗い光が宿っていた。
(あいつらの人生を狂わせたのは、あたしだったってのか?)
舞奈は思う。
レインの、園香の、明日香の、少女たちの人生の歯車を最初に狂わせたのは、舞奈の不在だった。
(ならせめて、あたしは自分の過ちを取り消したい。あの時、あの場所に戻って)
舞奈は願う。
後ろ向きに流れる時間が加速し、そして視界が赤い光に染められて――
――愛する少女に、花を贈りたい
舞奈はふと我に返った。
耳に飛びこんでくる喧噪。
廃墟の街では絶対に聞けない類の。
周囲を見渡す。
壁一面にイミテーションの林檎の木が並んだ店内は、見知った花屋の内装だ。
舞奈は戻ることができたのだ。21年前に。
その事実が脳に染み渡るにつれ、舞奈の口元に笑みが広がる。
その時、甲高い音が耳をつんざいた。
見やると、通りを走るタンクローリーがブレーキ音をけたたましく鳴らしていた。
トラックの進行方向に少女がいる。
長髪の少女が、地響きをたてて迫り来る鋼の怪物に驚き、身を強張らせる。
(あれは女の子じゃない。後藤マサルだ)
そんなことはわかっている。
だが長い髪を見やるうち、舞奈は走り出していた。
少女の長い髪は、黒髪の友人を思いおこさせるから。
口元に乾いた笑みが浮かぶ。
舞奈の選んだ答えはいつも間違っていた。今までも。今だって。
そして、あの時と同じように全身を衝撃が襲う。
(けど、あいつだけは、今度はあいつ自身を傷つけない答えを出してくれればいいな)
自分でも苦笑するような身勝手な願いを脳裏に描いて――
――衝撃。意識が途切れた。
舞奈はゆっくり立ちあがる。
「21年前まで時間をまき戻すには、どうすればいい?」
口元を半笑いの形に歪めたまま問いかける。
『……魔力王が知るべきではない事柄です』
舞奈の手の中で、石は平坦な口調で答える。
だが声色に微かな焦りを感じられるのは気のせいだろうか?
『時間遡行は大量の魔力を消費します。魔力王が指定する期間の遡行によって、我が半身に蓄えられた魔力は枯渇するでしょう』
(ビンゴだ)
舞奈は理解した。
やはり明日香は蓄積した魔力を使って時間をまき戻そうとしていた。
舞奈が明日香の側にいたあの時代まで。
だが知の宝珠はそれを魔力の浪費と見なした。
だから明日香を魔力王の座から引きずり下ろした。
それでも舞奈は笑う。
あの頃からずっと、情報の取捨選択は明日香の役目だった。
そして明日香の無茶な計画を無理やりにでも完遂させるのが舞奈の役目だった。
今回もまた明日香が計画し、そして一命を賭して舞奈に託した。
舞奈はそれに全力で答えるだけだ。だから、
「そっか。じゃ、別の質問だ」
口元に楽しげな笑みが浮かぶ。
「破魔弾って知ってるか?」
『はい。対魔法用の特殊弾です。防御魔法や回復魔法を阻害する効果を持ちます』
唐突に毛色が変わった舞奈の問いに、石は答える。
『破魔弾に対する魔術、妖術による防御は至難。召喚魔法による被召喚物は一撃で破壊され、術による回復も弾頭が摘出されない限り不可能。魔力王が先ほどの戦闘で敵機に致命打を与えた銃弾が、それに相当します』
「正解だ。手に入れるのに結構な金がかかるってのが抜けてる以外はな」
舞奈は口元に不敵な笑みを浮かべる。
石を手にしたまましゃがみこむ。
足元で眠るレナを左腕でそっと抱き上げ、抱きしめる。
子供が母親に勇気を借りるように。
「実はな、そいつが1発残ってるんだ。失くしたと思ってたけど、コートじゃなくてジャケットのポケットの奥から出てきたんだよ」
言い放つ。
舞奈は鮮血色の石を天高く放り投げる。
ジャケットの裏からすばやく拳銃を抜く。
ピタリと狙いを定めた先は、宙を舞うハート形の石。
『魔力王よ! それは愚かな行為です!』
「冴えてるナァそいつも正解だ!! あたしはバカで不器用で、ひねくれ者で図々しくて鈍感で、21年前からこれっぽっちも成長しちゃいない!」
吠える舞奈の口元には凄惨な笑み。
双眸にはギラつく光。
だから明日香が意図した通り、あの優しい日々をありありと思い出すことができる。
背後を守る生真面目な相棒がいれば、舞奈にできないことなんてない。
舞奈と明日香は、幾多の怪異を狩り出し、蹴散らしてきた無敵の仕事人だから。
舞奈は狂気と紙一重な満面の笑みを浮かべながら、
「……最後の質問だ。時間をまき戻すには、どうすればいい?」
引鉄を引く。
銃声。
手に慣れた反動。
石は怯えるように輝く。
先ほど奴自身が語った情報は真実だ。
対魔法用の破魔弾は、魔力をため込んだ魔法の石を一撃で破壊する。
そして知の宝珠は自身で術を使うことはできない。
木端微塵になりたくなければ舞奈をなだめすかして術を使わせるしかない。
だが防御魔法は術者を中心に発動する。
便宜上の術者である舞奈の手を離れた石を守ることはない。
だから奴が知るはずのどんな魔法も、この状況で奴自身を救うことはできない。
……拳銃の引鉄が引かれる前まで時間をまき戻す以外では。
極度の集中によってスローモーションのように流れる視界の中。
舞奈は石を見つめたまま、21年前に何を思ったかに想いをめぐらせる。
花を贈りたかった。
あの懐かしい日々が永遠に続く訳などないと理解していた。
だから去る者と残される者の間に絆を残すことができるのだと信じたかった。
愛する少女に花を贈りたかった。
『現在の興奮状態を維持したまま、力の宝珠に「2100秒前まで時間をまき戻せ」と唱えてください!』
根負けした知の宝珠が叫ぶ。
いっそ拍子抜けするくらい捻りのない、ありきたりな呪文。
否。言葉が重要なのではない。
魔術の引き金となるのは言葉に引きずられた心の形、イメージだ。
舞奈は石の言葉によって、それを確認することができた。
答えを得た舞奈の笑みは、鮫のように凄惨に歪む。
そして――
「――21年前まで時間をまき戻せ」
生真面目な黒髪の彼女が当然のように隣にいた、あの時代に戻りたい。
それが舞奈の答えであり、望みだ。
だから銀色の弾丸が鮮血色の石を砕く寸前、世界が凍りついた。
何かに引き寄せられるような感触に、ふり返る。
そこにはもうひとりの舞奈がいた。
懐かしい花屋のショーウィンドーの向こうで、買ったばかりの花束をかかえて微笑む21年前の自分。
舞奈は銃を捨て、過去の自分に手をのばす。
もうひとりの舞奈も気づき、花束を抱えたまま手をのばす。
2人の舞奈の意識が混ざりあう。
否、混ざり合うまでもなく2つは同じものだった。
そして世界が、過去に引きずられるようにゆらぎ始め――
――気づくと舞奈は宙に浮かびながら、ゆらぐ景色を眺めていた。
よくよく見やると、それは過去へと向かう時間の断片のようだった。
舞奈が見やる前でスクワールはヘッジホッグと死闘を繰り広げ、レナが眠りにつき、ボーマンが駆る5号機が群なす敵へと飛びこんでいく。
サコミズの鹵獲機が敵の侵攻を食い止める。
スプラが爆ぜ、ピアースが釈尊の剣に刺し貫かれる。
舞奈はレナと出会い、スクワールに乗りこみ、バーンと1号機が爆発する。
トルソが吹っ飛び、目覚めた舞奈がボーマンの胸を揉んだ。
「時間がまき戻ってるってことか……?」
『はい。力の宝珠の魔力を消費し、魔力王が指定した時間遡行が行なわれています』
見やると、側に鮮血色の石が浮かんでいた。
舞奈は石を睨みつける。
石は舞奈を引っかけようとしたのだ。
石が指定した2100秒前は、およそ魔帝との戦闘中だ。
舞奈が提示された呪文を一言一句違わずに唱えて指定通りに時間をまき戻そうとすると、時間はヘッジホッグと戦闘中までまき戻る。
そこで知の宝珠は魔帝に与する。
そうすれば機体を抜け出した舞奈をヘッジホッグの火力で始末できるという算段だ。
つまり危惧した通り知の宝珠は舞奈を裏切ろうとしたのだ。
だが魔帝がほうが石より一枚上手だった。
彼女が遺した仕掛けによって、舞奈の心はあの時の穏やかな気持ちに満たされた。
そして21年前に戻る正しい呪文を思いつくことができた。
何食わぬ顔で目前にたゆたうハート型の石を見やり、(面の皮の分厚い奴だな)という言葉を飲みこむ。代りに、
「2100秒前ってのは、何年くらい前なんだ?」
『35分前に相当します』
「そうかい」
『そして、私は魔力王に時間遡行の注意点を伝達せねばなりません』
「……面の皮の分厚い奴だな」
『遡行により、世界の全てに対する指定期間中の変化がリセットされ、指定期間直前の状態に戻ります。ですが遡行を実行する我らの魔力と、遡行を命じた魔力王の記憶だけは例外として現状のまま変化しません』
「そうかい」
『また力の宝珠の魔力はほぼ枯渇します。これ以上の消費は推奨されません』
「魔力が完全になくなると、どうなるんだっけ?」
『魔力王は、世界を改変するほどの力を永久に喪失することになります』
「……そうかい」
舞奈は生返事を返し、再び景色を眺め始める。
もう興味も失せた石の戯言なんかより、こちらのほうが目を引くからだ。
資料が連なる研究室とおぼしき部屋で、美しい金髪の女性が髪にハサミを入れる。
サングラスを取り出し、身につける。
レジスタンスのリーダー、ボーマン博士の誕生である。
そしてボーマンは部屋を後にする。
残された部屋の片隅には、額縁に入ったセピア色の写真が立てかけられていた。
写真に写っているのは6人の男女。
粗野な雰囲気の野猿じみた青年、優男、筋骨隆々とした大男に、華奢な少年。
そして長髪を染めた軟派な青年と、内気そうな金髪の少女。
別の断片を見やる。
床には曼荼羅が描かれ、壁にはルーン文字が散りばめられた大広間。
その中央で、魔帝は真言を唱え、魔術語の一語で締める。
モニターを兼ねた壁一面に、雨の如く無数に降りそそぐ稲妻が映しだされる。
魔帝による破壊の雨の行使である。
モニターは稲妻の雨が地表をえぐり痛めつける様を映し出す。
ビルは紫電の槍に射抜かれて崩れる。
光の鍬で耕された地面は瓦礫とアスファルトが積もった荒野と化す。
副次効果によって上空は磁気嵐に覆われ、既存の航空機は飛べなくなった。
地面は稲妻に蹂躙されて穴だらけになり、装脚艇ほど大きな瓦礫が次々に転がった。
稲妻は車両そのものへも容赦なく襲いかかった。
バイクを消滅させ、乗用車を真っ2つにへし折り、トラックを八つ裂きにした。
モニターの片隅で、稲妻がタンクローリーを蜂の巣にして爆散させる。
それは21年前の世界から舞奈を奪ったのと同じ種類の車両だった。
その様を見やり、魔帝は愉快げな笑みを浮かべた。
魔帝の胸元で、鮮血色の石が輝いた。
そして、また別の断片。
先ほどと同じ研究室らしき部屋で、金髪の少女は端末に向かって調査をしていた。
その側には同様に机に向かう黒髪の少女。
明日香とレインは共同でモノリスの解析をしていた。
共に何かを失った者として。
液体に満たされた5つのケースには生体部品と思しき薄桃色の何かが浮かんでいる。
各々のケースには名が記されていた。
『TSUBASA』
『RAITO』
それは舞奈や明日香、レインと共に闘い、そして散った【グングニル】の異能力者たちの名でもあった。
机上に置かれた鮮血色の石が、何かを急かすように輝いた。
さらに別の断片。
やつれて、それでも美しい母となった園香が、微笑みながら眠りにつく。
幼いレナは母親にすがって泣きじゃくる。
その時、玄関のドアが軋む音が、男の帰りを告げた。
タバコとギャンブルに人生を費やす害虫のような男は、ギャンブルに負けた腹いせに横たわる園香とすがりつくレナに向かって怒鳴る。
幼いレナはゆっくりと立ちあがる。
うつむいた彼女の表情をうかがい知ることはできない。
男はヤニで濁った目で幼いレナを睨み、握りつぶされたビールの空缶を投げつける。
空缶がレナの頬をかすめ、尖った個所が当たったか赤い糸を引く。
レナは手にしていた木片を握りしめる。
指先で頬の血をぬぐい、木片に刻まれた文様になすりつける。
顔を上げたレナの双眸は、舞奈が最初に見た彼女のそれと同じ光を宿していた。
光の名は憎悪。目前にいる誰かを許さないと決意する固い意志。
男を見やるレナの唇が魔術語を形作る。
野牛、と。
そんな家族の末路を、ひっそりと魔帝が見ていた……
「……!?」
不意に抱いていたレナの姿がゆらぎ、溶けるように消えた。
舞奈の腕が、虚しく自身を抱きしめる。
舞奈は気づいてしまった。
時間をまき戻した先で、園香を傷つける男の存在を舞奈が許すわけがない。
だが、それはレナが生まれてこないことを意味する。
舞奈は慟哭した。
舞奈が知るレナと、21年前の園香が姉妹のように笑いあう。
舞奈は無意識に、そんな都合のいい情景を脳裏に思い浮かべていた。
だが、そんなことが起こりえるはずなどないことは理解できる。
否、もっと早く理解しなければいけなかった。
舞奈の選んだ答えはいつも間違っていた。
今度もまた、正しい答えをつかみ損なった。
その結果、守りたかったものを失った。
「すまない……レナ……」
妄想の中で、レナと園香が姉妹のように並んで歩く。
分別のない願いを脳裏から消し去ろうとして、失敗して、舞奈は無理やりに視線を上げて景色を睨みつける。
美しい女性となっていた園香が、男の誘いを受け入れる。
相手はヤニで歪んだ醜い顔をして、薄汚れた背広を着こんだ、人間のクズとしか表現しようのない男であった。
だが園香は舞奈という心の拠りどころをなくしていた。
だから行き場を失った母性と保護欲の矛先を、無様な男に向けるしかなかった。
一方、明日香は人気のない校舎裏を訪れていた。
華奢な少女の手には紙片。
後藤マサルに呼び出されたのだ。
少女の前には後藤マサル。
その側には高等部の制服を着崩した大柄な少年が2人。
さらに校舎の影からもくわえタバコの少年たちが姿をあらわし、明日香を取り囲む。
少年たちは下卑た笑みを浮かべ、ヤニ色に濁った双眸で少女をぬめつける。
後藤マサルは舞奈に救われた場面を明日香に目撃され、女装癖を知られたと思った。
だから彼女を高等部の校舎裏に呼び出し、悪友たちと結託して口封じを試みた。
助けは来ない。
学校という閉鎖空間では、閉じられた世界における権力者の利害にさえ反しなければ非道も凶行も容認され、隠蔽される。
少年のひとりが、手にしたナイフを見せつける。
別の少年は卑猥な笑みを浮かべながら、明日香にビデオカメラを向ける。
カメラのレンズが、多数の少年に囲まれた明日香の華奢な身体を捉え――
――ひび割れた。
驚きあわてる少年たちの胸に、腹に、ヤニ色に濁った薔薇が咲く。
逃げ出す背中に榴弾が直撃し、ヤニ色の欠片に変える。
少年たちは、ぶちまけられたニコチン色の絨毯の上に散らばり、あるいは倒れ伏す。
明日香は木陰に目をやる。
それぞれ小型拳銃と軍用拳銃を構えた2人の警備員が手を振った。
側にはグレネードランチャーまで据え置かれている。
明日香はカメラを持ってへたりこんでいた少年の側にしゃがみこむ。
頭部に怪我がないことを確認して安堵の笑みを浮かべる。
少年も釣られて笑う。
その目が不意に見開かれた。
明日香は硝煙を立ちのぼらせる45口径を手にして立ちあがる。
手つきがややおぼつかないので、小口径から替えたばかりだと思われる。
重い反動に慣れようとするように、銃口を足元に向けて2発、撃つ。
それを何かの許可と受け取ったか、警備員の肩書きを持ち、警備員の制服を着た外国人の傭兵たちは、生き残った少年たちを標的代わりに試射会を楽しむ。
助けは来ない。
学校という閉鎖空間では、閉じられた世界における権力者の利害にさえ反しなければ非道も凶行も容認される。
明日香は学校の警備を引き受ける警備会社の社長令嬢だった。
やがて傭兵は、腰の抜けた後藤マサルの両腕をつかんで持ち上げる。
哀れで愚かな不良少年は、かつて悪友だった破片にまみれて許しを請い、泣き叫ぶ。
明日香は拳大の黒い骸骨を取り出す。
手にしたそれを、後藤マサルの額に埋める。
明日香の胸に輝く鮮血色のペンダントが、歓喜するように輝く。
傭兵たちが手を離す。
後藤マサルは口の端からよだれをたらし、明日香にひざまずいた。
おそらくこれが、ゴートマン誕生の瞬間であろう。
そして魔帝の。
教室の窓際の席には、花束が供えられていた。
舞奈はタンクローリーの爆発に巻きこまれて消えた。
結果、元の時間では故人として扱われていた。
学校机の上に佇む仏花を、大人びたボブカットの少女が悲しげに見つめていた。
そんな様子を、ぐんじょう色のワンピースをまとった黒髪の少女が一瞥する。
その胸元で、鮮血色の石が不気味に輝く。
明日香の瞳には、舞奈と初めて会った頃と同じ、暗い光が宿っていた。
(あいつらの人生を狂わせたのは、あたしだったってのか?)
舞奈は思う。
レインの、園香の、明日香の、少女たちの人生の歯車を最初に狂わせたのは、舞奈の不在だった。
(ならせめて、あたしは自分の過ちを取り消したい。あの時、あの場所に戻って)
舞奈は願う。
後ろ向きに流れる時間が加速し、そして視界が赤い光に染められて――
――愛する少女に、花を贈りたい
舞奈はふと我に返った。
耳に飛びこんでくる喧噪。
廃墟の街では絶対に聞けない類の。
周囲を見渡す。
壁一面にイミテーションの林檎の木が並んだ店内は、見知った花屋の内装だ。
舞奈は戻ることができたのだ。21年前に。
その事実が脳に染み渡るにつれ、舞奈の口元に笑みが広がる。
その時、甲高い音が耳をつんざいた。
見やると、通りを走るタンクローリーがブレーキ音をけたたましく鳴らしていた。
トラックの進行方向に少女がいる。
長髪の少女が、地響きをたてて迫り来る鋼の怪物に驚き、身を強張らせる。
(あれは女の子じゃない。後藤マサルだ)
そんなことはわかっている。
だが長い髪を見やるうち、舞奈は走り出していた。
少女の長い髪は、黒髪の友人を思いおこさせるから。
口元に乾いた笑みが浮かぶ。
舞奈の選んだ答えはいつも間違っていた。今までも。今だって。
そして、あの時と同じように全身を衝撃が襲う。
(けど、あいつだけは、今度はあいつ自身を傷つけない答えを出してくれればいいな)
自分でも苦笑するような身勝手な願いを脳裏に描いて――
――衝撃。意識が途切れた。
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