鋼鉄の棺を魔女に捧ぐ

立川ありす

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第3章 装脚艇輸送作戦

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「ピアース!? なんてこったい!」
「博士、危険です!」
 歯噛みするボーマンをかばうように、ライフル89式小銃を構えたレジスタンス立ちふさがる。

 コンクリートの床一面にはヤニ色の血肉がぶちまけられている。
 だが脂虫どもの数が減ったようには見えない。
 それどころか包囲網は狭まり、挙句には弾薬が危うくなる始末だ。さらに、

『ひょ、ひょ、ひょ、ひょ、ひょっ! ゲリラ滅っ! さぁぁぁつ!』
 通路の先で、6本腕の装脚艇ランドポッドが、赤黒く染まった剣をかざす。
 釈尊である。

 剣先に串刺しにされた何かがゆれる。
 こぼれ落ちた眼鏡を、地に横たわる装脚艇ランドポッドの残骸が受け止める。

 大破したカリバーン2号機の頭に似せた青い飾りは無残にも砕かれていた。
 手足は斬り落されていた。
 コックピットを内包していた砲塔には、心臓を貫かれた巨人の如く赤黒い大穴。

『ピアース! ピアース……!! うわぁぁぁ!』
「スプラ! 待ちな!」
 4号機が無限軌道キャタピラを唸らせて突撃する。
 目の前で仲間を屠られたスプラは正気を失っていた。

 釈尊は剣に炎を宿らせてピアースを焼き尽くし、そのまま突きを放つ。
 4号機はハンドミキサーで受け流そうとするも叶わない。
 逆に無防備になった砲塔部分に炎の剣が迫る。

 だが、それだけ。
 4号機【装甲硬化ナイトガード】の異能力によって強化された装甲が、コックピットに迫った狂剣を辛うじて押しとどめていた。

 だが、釈尊の肩が開き、無数の符を吐き出す。
 符が装甲に貼りついた途端、4号機は停止した。

『ひょっひょ! ナイトガァァドの弱点は、爆発した貴様の仲間が教えてくれた!』
 釈尊は、動かない4号機の装甲の隙間に剣先を滑りこませる。

 異能力【装甲硬化ナイトガード】の効果は装甲の強化だ。
 装甲の隙間を守ることはできない。

『ぐぁ! ぎゃぁぁぁ!』
 フィードバックによって、腹を貫かれる痛みにスプラが叫ぶ。
 釈尊は4号機をなぶるように何度も突き刺す。
 拡声器ごしの悲鳴が通路に響き渡る。

 そして釈尊は剣を振り上げ、

『そぉらぁぁぁ! とぉどぉめぇだぁぁぁ!!』
「スプラ!!」
 車体と砲塔の隙間めがけて振り下ろす。
 ボーマンは絶叫し――

 ――甲高い金属の音色。

 次の瞬間、巨大な刃が機体の真横に突き刺さる。
 釈尊の剣は根元からへし折られていた。

『来てたんなら挨拶くらいしろよ、ヤギ野郎』
 拡声器から響いた声に振り返る。
 そこには拳銃低反動砲を構えたスクワールが立っていた。

『小娘めぇ! 大きな口を叩いておいてぇ! 力の宝珠メルカバーの確保に失敗したかぁぁぁ!』
 釈尊が折れた剣の柄を投げ捨てる。
 4本の細い腕が不気味に蠢く。
 機体の各所を飾っていた数珠が不気味に輝く。

 スクワールは機銃を掃射する。
 だが放たれた無数の弾丸は空中で停止し、地に落ちる。
 不可視の壁が攻撃を阻んでいるらしい。

『敵装脚艇ランドポッドの周囲に重力場の形成を確認。【不動行者加護法アチャラナーテナ・ラクシャ】と推測されます』
 声が警告を発する。
 だが舞奈には不敵な笑み。

「バリアか。けど、ぶち抜く手段ならあるさ! ……ピアシングバレル・セット」
 武装交換シーケンスに従い、スクワールの両腕が拳銃低反動砲を尻尾の横に並べる。
 尻尾の両サイドが開いてアームを展開する。
 拳銃低反動砲の砲身に長砲身のバレルを刺しこむ。
 専用弾倉をセットしてアサルトライフル低反動カノン砲へと換装する。

 その隙に釈尊は術を完成させる。肩のハッチが開く。

『【摩利支天鞭法マリーチナ・バンダ】と推測。投射体に接触することにより――』
「――知ってる術だ!」
 叫びつつ操縦桿をひねる。
 飛来する無数の符を、スクワールは横に跳んで避ける。

 続けざまに、右腕に構えたアサルトライフル低反動カノン砲の照準を釈尊の胴にあわせる。
 引鉄トリガーを引く。
 鉄杭のように鋭く重い砲弾が釈尊めがけて放たれる。
 だが砲弾は、先ほどの機銃と同じように不可視の障壁に阻まれ、逸らされる。

 反動で機体が回転することで前に出た左腕のライフルで追撃。
 だが、こちらも障壁に阻まれる。

 さらに着地しながら地を踏みしめ、両腕をそろえて放たれた次弾も逸れる。
 だが同時に数珠が軋む。
 反動による後退を、脚を地面にめりこませて耐えつつ3発目。4発目。
 そうやって1ダースほど鉄杭をぶちこんだところで、

『ひょっひょぉぉぉ!? 我が障壁の礎となる守護念珠がぁぁぁ!!』
偏向装置デフレクターの破壊を確認。重力場、消滅します』
 釈尊が吠える。
 声が冷徹に事実を伝える。

 次の瞬間、乾いた音とともに数珠が砕け、障壁も消えた。

 いかなる種類の防御魔法アブジュレーションも完全なる不死への切符には成り得ない。
 異能力【装甲硬化ナイトガード】と同様だ。
 他の非魔法の防御手段と同じく、壊れるまで壊し続ければ壊れる。

 かつて黒髪の魔術師ウィザードは降りそそぐ無数の稲妻によって泥人間の炎の衣を消し去った。
 舞奈がしたのも同じことだ。

『貴様だけはぁ! 貴様だけは許せぬぅぅぅ!! 小娘ぇぇぇ!!』
「バカのひとつ覚えかよ!」
 4本腕を蠢かせる釈尊を見やり、再びアサルトライフル低反動カノン砲の照準を合わせる。だが、

『【不動火車の法アチャラナーテナ・アグニチャクラ】と推測。高熱源体の掃射に備えてください』
 声が警告を発する。

 背面から放射状に放たれた符のそれぞれが火矢と化す。
 そして釈尊の周囲に炎の輪を形作る。
 レナの警告どおり強大な魔力によって生み出された炎は、1発でもレジスタンスを壊滅させられるであろう。

 舞奈は舌打ちする。
 釈尊の狙いはスクワールではない。
 生身のレジスタンスだ。

「おまえたち! 逃げろ!」
 警告を発するも、今も脂虫どもと交戦中の彼らに後退する余裕はない。

『ひょぉぉぉ!! 燃え尽きろぉぉ! ゲリラどもぉぉぉ!!』
 釈尊は叫ぶ。
 側で立ちすくむ4号機【装甲硬化ナイトガード】は、符を貼られたまま動けない。

電磁シールドエクスカリバーは!?」
『現在の出力では使用不能』
「糞ったれ!」
 火弾の雨からレジスタンスたちを守るべく、スクワールは両腕を広げて踊り出る。

「うあっ!!」
 衝撃がコックピットまで伝わる。

『敵機が妖術の準備を開始しました。回避を進言します』
「……畜生、これ以上、仲間をやらせるかよ!」
 栗鼠の壁に守られ、レジスタンスは炎の雨をしのぐ。
 だが、次の瞬間、

「!?」
 パネルに灯っていた数多の光が狂ったように点滅する。
 モニターは支離滅裂なエラーを表示する。
 計器はどれも異常な数値を指し示す。

『外的要因により制御系に深刻な障害が発生。システム維持不能。緊急停止』
 声だけが淀みのない口調のまま無常に伝える。
 同時にいくつかのランプが消える。

『【摩利支天鞭法マリーチナ・バンダ】による魔術的なジャミングと推測されます。現在、本機は兵装の使用を含む一切の機動が不能。単体でのシステム復旧も不可能です』
「ああ! そうかい!」
 警告に逆らうように操縦桿をガチャガチャと動かす。
 だが、符を貼られた機体は異常な駆動音を立てるだけで動かない。

『こうなったらボクが、ボクが舞奈を守るんだ! ボクの異能力で!』
 幸か不幸か外部モニターだけはノイズまみれながらも映ってはいる。
 その中で、スクワール同様に動けない4号機の拡声器ごしにスプラが叫ぶ。
 彼もまた異能力者である。

 4号機が淡く輝く。
 正しくは、4号機を縛める符が燐光に包まれる。
 スプラ自身の異能力は【魔力破壊マナイーター】。異能を消し去る異能力だ。
 先ほどは機体の【装甲硬化ナイトガード】が消える恐怖から使いどころを逃したが、スクワールへと狙いがそれた今ならば安全に使用できると判断したのだろう。だが……

「……やめろスプラ! 相手が悪すぎる!!」
『うあぁぁぁ! ボクが守るんだ! ボクにその力があるってこと、見せてやる!!』
「そうじゃない! 妖術師ソーサラー相手におまえの異能力じゃ――」
『ゲリラの異能力者風情がぁ! 魔帝マザーに賜った我が力に触れるなど汚らわしいぃぃ!!』
 舞奈とゴートマンの叫びが重なる。

 次の瞬間、4号機の背面が爆ぜた。
 コックピットハッチを内側から吹き飛ばし、赤い飛沫と欠片がほとばしる。

 悲鳴はない。
 やわらかな頭髪をこびりつかせたオープンタイプのヘルメットが宙を舞う。
 パイロットを失った4号機の背後に不吉な色の何かがぶちまけられる。
 漏水などではないことは明らかだ。

「スプラ! 畜生!!」
 舞奈は叫ぶ。
 魔法消去の異能力【魔力破壊マナイーター】は諸刃の刃だ。
 消し去ろうとした術の使い手が強力であれば、逆に使い手が爆発させられる。
 かつて黒髪の魔術師ウィザードが、そうやって泥人間【魔力破壊マナイーター】を屠るところを何度も見た。

魔帝マザーよ! このわたしが敵の復刻機リバイバルを屠るのですぅ!』
 生き残っている外部モニターの中で、6本腕の装脚艇ランドポッドが2号機の剣を拾いあげる。

『ひょっひょ、ひょ、小娘ぇぇ! 機体ごと焼き尽くしてやろうかぁ!? それともコックピットを一突きにしてやろうかぁ!?』
「させないよ!」
 叫び声に見やると、倒れ伏したスクワールの目前をバイクが駆け抜ける。

「この子は、わたしたちの最後の希望なんだ!」
「やめろボーマン!! 何やってるんだ! やめてくれ!」
 叫ぶ舞奈が見やる前で、ボーマンはサイドカーに詰まれたアタッシュケースをかかえてバイクから飛び下り、床を転がる。
 釈尊の足元に激突したバイクが手榴弾のように爆発する。
 爆薬を仕掛けていたのだろう。
 だが装脚艇ランドポッドは傷ひとつつかない。

『無駄なあがきだぁ! 女ぁぁぁ!!』
「そう思うかい?」
 レジスタンスのリーダーは口元に不敵な笑みを浮かべる。
 サングラスに隠されて瞳の色は見えない。

「こいつは鹵獲したソードマンのPKドライブを改造した対装脚艇ランドポッド用特殊地雷さ。わたしがスイッチを押せば、あんたはその機体ごと木っ端微塵だ」
 ボーマンはアタッシュケースを掲げ、

「あんた、たしか前にもそうやって機体を壊したことがなかったかい?」
『なぁんだとぉぉぉ!?』
 ゴートマンの動揺にほくそ笑む。
 だがその頭上に釈尊の巨大な拳が迫る。

『ならその前に貴様おぉぉぉ! 女ぁぁぁ!!』
「逃げろ! ボーマン!!」
 間に合わないと理解しつつも、腰を浮かせる。

 直後、何かが引き潰れるグシャリという音が、やけに大きく聞こえた。

「ボーマン!! 何だよ……畜生! 畜生!!」
 舞奈はピクリと動かないコントロールパネルに拳を叩きつける。
 だが何も変わらない。

 いつだってそうだった。
 目に映るもの全てを守ろうとして、結局何も守れない。

 それでも舞奈はアサルトライフルガリルARMを握り、背後のコックピットハッチに手をのばす。

 ボーマンの望みは魔帝マザーを倒すことだった。
 そうやって散った者の意志を継いで、軽薄な笑みを浮かべ、次に守りたいものを見つけて、舞奈は失った痛みを誤魔化してきた。
 今までずっと、21年前もずっと、そうしてきた。

『……現地住民が大能力と呼称する擬似魔法能力体系に属する、【戦士殺しワルキューレ】であると推測されます』
「そうかい」
 響く知の宝珠トーラーの声を聞き流す。
 何気に振り返り、外部モニターを見やる。

「……どういうことだ?」
 そこに映し出された凄惨な状況を見やり、舞奈は目を見開く。

 釈尊の胴は半ばまで潰れ、2本の太い腕はひしゃげていた。
 まるで装脚艇ランドポッドをはるかに超える巨人の拳に打ち据えられたかのように。

『復唱します。大能力【戦士殺しワルキューレ】であると推測』
 声が情報を繰り返す。

『因果律への介入により近接攻撃を無力化、それにより対象が被るはずの損害を攻撃者へと反転する大能力です』
「わたしのぉ! わたしの釈尊に何をしたぁぁぁ!!」
 残骸と化した砲塔の中から男が立ち上がった。
 黒い袈裟を着こみ、山羊の角が付いた呪術めいた仮面を被っている。
 釈尊のパイロット、ゴートマンだ。

「っひょ? っひょ? っひょ? っひょ? っひょ!?」
 袈裟に真紅の薔薇が咲く。
 軽めの銃声は小型拳銃グロック26
 ゴートマンは撃たれた腹から赤いものを垂らしつつ、足元を見やる。

「やっぱり9パラじゃ一撃必殺ってワケにはいかないね」
 女性は毒づき、撃ち尽くした弾倉マガジンを落す。
 白衣の裏からスペアを取り出し素早く交換する。

「ボーマン!」
「女ぁぁぁ! なぁぁぁぜ生きているぅぅぅ!」
 ゴートマンは剣を抜く。

 袈裟をひるがえして機体から飛び下り、恐るべき速度でボーマンに走り寄る。
 舞奈はハッチを蹴り開け、ボーマンめがけて転がり落ちるように走る。
 だが敵のほうが早い。間に合うはずもない。
 ゴートマンは剣を振り上げ、両腕で頭をかばうボーマンの真上から振り下ろす。

「ボーマン!!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 舞奈の叫びを悲鳴がかき消す。

「う腕がぁ、腕が腕が腕がわたぁぁぁしの腕がぁぁぁ!!」
 ぼとりと地に落ちた自身の腕を見やって叫ぶ。

「きぃさまぁぁぁ! 魔帝マザーに聞いた事があるぅ近接攻撃を跳ね返す異能力者かぁ!?」
 叫びつつ、ゴートマンは信じられない跳躍力で釈尊のコックピット跡へ跳びあがる。

「ならばぁ!!」
 釈尊の4本の腕が蠢く。
 虚空に炎の矢が生み出される。

「ボーマン、スクワールの陰に! 弾除けくらいにはなる!」
 舞奈はボーマンの尻を押しやるように、自分の機体の陰へと急ぐ。
 その背後で、装脚艇ランドポッドすら焼きつくす灼熱の矢が膨れあがる。

「燃ぉぉぉえ尽きろぉぉぉ!!」
運命ウィアド!!』
 声とともに炎は消えた。

『気をつけなさいって言ったでしょ!!』
 光の粉を振りまきながら、スクワールをかばうように鋼鉄の猫が降り立つ。次いで、

『下がりなさい! こいつはわたしが片づける! イサ!!』
 ランドオッタは掌をかざして金属片を放つ。
 氷の棘が釈尊を縛める。

 舞奈のアサルトライフルガリルARMがゴートマンを威嚇する。
 その隙にボーマンは装脚艇ランドポッドに背を向けて走り出す。
 脂虫が統制を失い手の空いたレジスタンスたちがボーマンの退路を確保する。

「何をするぅ! 小娘ぇぇぇ!」
 巨大な4本の腕が蠢き、氷の棘がゆらぐ。
 釈尊の魔力を使ってレナの魔術を消し去るつもりであろう。
 だが次の瞬間、釈尊の4本の腕は関節とは明らかに違う位置でへし折れる。

『まさか魔帝マザーに施しを受けただけのニセモノが、直々に教えを受けた魔術師ウィザードの魔術に干渉できるなんて思い上がってるんじゃないでしょうね!?』
「貴様あぁぁぁ! 魔帝マザーを裏切るというのかぁぁぁ!?」
『ママを裏切るよりましよ!! ヤ、ヤギ野郎!』
 ランドオッタは、掌から飛び出した新たな金属片を構える。

 その時、無限軌道キャタピラが地を駆ける音が通路に響き渡った。
 そして通路の奥から3台の装脚艇ランドポッドが姿をあらわす。
 ソードマンだ。
 音からして、奥に十数機は控えているはずだ。

魔帝マザーがぁ! 魔帝マザーが援軍を遣わして下さったぁぁぁ!!」
 ゴートマンが叫ぶ。

 視界の端に、スクワールに貼られた符がひとりでに剥がれる様子が映る。
 術の効果が切れたのだ。

 舞奈はコックピットに駆け戻る。
 外部モニターの隅で、ボーマンが後方のレジスタンスと合流するのを確認する。
 新たな敵機との戦闘に備える。だが、

「待てぇ! 待てぇぇぇいぃ!! わたぁぁしは味方だぁぁぁ!!」
 3機のソードマンが両手に構えた重機関銃キャリバー50を向ける先。
 そこには半壊した装脚艇ランドポッドとゴートマンがいた。

『いや、敵であっとる! 撃て撃て! 撃ちまくれ!!』
 ソードマンの拡声器から聞きおぼえのある声が響く。
 同時に、自衛隊の基地から拝借したとおぼしき重機関銃キャリバー50が一斉に火を吹く。
 ゴートマンがあわてて張り巡らせた不可視の障壁を、50口径弾が雨のように叩く。

「その声、爺さんか!?」
 それはトゥーレ基地ベースに向かったサコミズ主任の声であった。
 よくよく見やると、ソードマンたちのカメラには頭部に見立てた鉄板が取り付けてある。どうやら鹵獲機のようだ。
 サコミズらは鹵獲機を駆り出し、舞奈たちのピンチに駆けつけてくれたのだ。

「おっ、おっ、おっ……おぉぉぉのぉぉぉれぇぇぇ! ゲェリラどもぉぉぉぉぉ!!」
 妖術師ソーサラーは素早く印を組み、

「覚えているがいいぃぃぃ!!」
 釈尊を囲うように輝く曼荼羅が描かれ、半壊した機体ごとかき消えた。

『次は【猫】じゃ! 撃て撃て! 撃ちまくれ!!』
 鹵獲機の銃口がランドオッタに向けられる。
 銃弾が装脚艇ランドポッドの装甲を叩く。

『ちょ、ちょっと待ちなさい! わたしは……!!』
『あんたも敵じゃろう! 待てと言われて待つものか!!』
「いや爺さん、そいつは味方だ」
 通信モニターに映った口ひげのサコミズを見やる。
 背後に横たわる4号機の残骸を意識して、口元に乾いた笑みを浮かべる。

 ピアースの、スプラの意思を継いで。
 園香の想いを継いで。
 彼ら、彼女らが願った通り、未来を見据えて生きるために。
 舞奈は、そういう生き方しか知らないから。

「紹介するよ。ガールフレンドの真神レナと、ランドオッタだ」
『なんじゃと!?』
 重機関銃キャリバー50の掃射が止まる。
 通信モニターの中で口をあんぐり開いた爺さんに、

「優しくしてやってくれないかな? 彼女、寂しがり屋なんだ」
 舞奈は口元をゆがめて軽口を叩いた。

 そしてレジスタンスの奮戦により脂虫たちも全滅し、戦闘は終わった。
 ボーマンはちらりと戦場の片隅を見やる。

 倒れ伏す4号機と、転がるスプラのヘルメット。

 そして2号機の残骸。
 ここにピアースという少年がいたことを示すものは、何もない。

「結局、生き残らせることができたのは、あの子だけだったね……」
 口元に皮肉げな笑みを浮かべ、ひとりごちた。

「けど、わたしは、あの子をあの塔に送り届けなきゃいけないんだ」
 ボーマンはサングラスをはめたまま、通路の天井を見やる。

 ここからでは見えない地上のそのまた上には、鉛色に閉ざされた空がある。
 漆黒の雲に閉ざされた暗闇の中。
 疲れ果て擦りきれた幽鬼のように、魔帝マザーが住まう塔が浮かぶ。

「……それが、約束だからね」

――――――――――――――――――――

 予告

 打倒魔帝マザーの足掛かりをつかんだレジスタンスは再戦に備えて奮起する。
 舞奈は失い続けた旅路の先で掴んだ絆を握りしめる。
 勝利を、愛を、もう二度と離さぬように。

 次回『追憶』

 変わらないものなどない。
 想いも。命も。
 それを彼女は知っている。
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