16 / 27
第3章 装脚艇輸送作戦
郷愁
しおりを挟む
舞奈が駆るスクワール。
レナが操るランドオッタ。
2体の装脚艇はコンクリート床の長い通路を並んで駆け抜けながら、
『捨てられてなお、ママは貴様を信じていた! 貴様の帰りを待っていた!!』
「聞いてくれ! 事故にあってたんだ!」
モニターの中で怒り狂うレナに向かって舞奈は叫ぶ。
「轢かれそうになって、気がついたら20年後だった」
『そんな見えすいた嘘で!!』
レナは取りつく島もなく叫ぶ。
並走するランドオッタの肩と胸、腰のハッチが開いてスリットが露出する。
6箇所のスリットと掌のハッチを合わせた8個所。
そのすべてから、それぞれ金属片が撃ち放たれる。
『【雷弾】と推定。大出力の荷電粒子ビームによる攻撃に備えてください』
知の宝珠の警告。
同時に金属片は光の砲弾と化し、スクワールめがけて飛来する。
多方向から矢継ぎ早に襲いかかるビームを、推進装置を小刻みに吹かして避ける。
スクワールが通り過ぎた床や壁がビームに抉られ、通路が揺れる。
「あんたを騙す気なら、もうちょっとましな話をでっちあげるよ!」
叫びつつ、ふと舞奈は思う。
ビームを放つ【雷弾】という名の魔術。
かつて黒髪の魔術師が多用した【雷弾・弐式】と関係があるのだろうか?
襲いくる光の群れが電撃ではなく、冷たい色のビームなのが癪に障った。
途端、背後からの一撃が肩口をかすめ、焦がす。
対ビーム気化装甲すら貫き、衝撃がコックピットにも伝わる。
バカ強い威力だけが、舞奈が知る電撃の魔術と同じだった。
『小うるさいネズミみたいに、ちょこまかと!』
拡声器の叫びとは裏腹に、ランドオッタのスピードが落ちる。
不吉な気配を感じて背面モニターを見やる。
その中で、ランドオッタは背にマウントされていた何かを手にとり、両腕で構える。
復刻機の両手の中で、それは広がり、展開する。
『対艦用の大型レーザー砲と推測されます。危険』
知の宝珠の警告。
砲口を覆う巨大な防盾と、砲身から等間隔で生える安定化装置が、鋼鉄の猫が腰だめに構えたそれを魚の骨のように見せる。
「あんなんで当たるのか?」
魚の頭に似た防盾を見やり、肩をすくめる。
だが別のモニターに映しだされた予測被害範囲を見てぎょっとする。
ランドオッタが構えた大砲は通路すべてを隙間なく焼きつくすことができるらしい。
「おいおい、冗談キツイぜ!」
舞奈は叫ぶ。
魔術師が火砲を操ることに対して違和感はない。
彼女らは魔術を極めたが故にその弱点も熟知している。
なので短所である詠唱の隙を補うために銃を隠し持つこともある。
舞奈の知る黒髪の魔術師も、クロークの内側に拳銃を隠し持っていた。
だが己が魔術を差し置いて主力となり得るほどの重火器を携行することは稀だ。
舞奈はスロットルを引きしぼる。
スクワールの機動輪がフル回転して床を削る。
通って来たときの記憶では、しばらく進んだ先で通路がカーブしていたはずだ。
そこまでたどり着いてレーザーの射線から逃れれば、蒸発を免れることができる。
猛スピードで進む通路の先に、記憶どおりの曲がり角。
だが安堵する暇はない。
背後が白い輝きに満たされ、コンクリート壁がひび割れ、はがれて蒸発する。
あの光に飲まれたら、たぶん爆発とか消滅とかするのだろう。
『機体温度が限界域まで上昇。危険』
「んなこたぁ、わかってる!」
噴き出した汗に構わず、舞奈はスロットルに渾身の力をこめる。
前方に曲線を描いた壁が迫る。
勢い余って激突しそうになって、跳躍して壁に跳びかかる。
そのままの速度で壁面に機動輪を押しつけて疾走し、無理やりにカーブを曲がる。
その背後で閃光が通路にあふれ、コンクリートの床や壁や天井を焼く。
スクワールは間一髪で対艦砲から逃れられたようだ。
それまでの通路よりさらに開けた大広間に出る。
「あの娘はどこだ?」
背面モニターを見やった瞬間、
「――!?」
視界が捻じ曲がった。
世界が変容する。
コンクリートの床が、天井が、壁という壁が、巨大なルーン文字が刻まれた鋼鉄の扉へと変わる。だが扉に鍵穴などない。
『ルーン魔術【戦場召喚】と推測。特定区域を――』
「――結界に閉じこめられたんだろ?」
声を遮る。
結界とは、範囲内の空間を周囲から『切り離す』ことによって隔離する技術だ。
出入りするには魔術で穴を開けるか、破壊するか、あるいは術者を倒すしかない。
確かに厄介な代物ではある。
その利便性ゆえ仕事人時代に多くの敵対者によって用いられた。
だが、その度に難なく対処してきた。明日香と2人で。
『振り切れるとでも思ったの!? ……野牛!!』
背後から放たれたビームを横に跳んで避け、ふり返る。
ランドオッタが両目の加粒子砲を乱射しながら迫ってくる。
舞奈は光線を見切って避けつつ、
「なあトーラーさんよ。仔猫ちゃんのエンジンってどこにあるんだ?」
『ランドオッタのヴリル・ドライブは構造上、現地製の装脚艇における動力源とほぼ同じ機体後方に位置しています』
モニターに構造図が映しだされる。
それによると、ランドオッタのエンジンは、砲塔と一体化した車体部分、つまりカリバーンやソードマンと同じ腰にある。
「じゃ、そいつをぶっ壊したらどうなる? PKドライブみたいに大爆発か?」
『魔力の供給が不可能となり、機体が停止します。ヴリル・ドライブは比較対象と異なり安定した魔力を生成するため、爆発はしません』
「そいつは結構!」
舞奈は口元に笑みを浮かべ、
「インフィニット・マガジン、セット」
武装交換のシーケンスを開始する。
両腕が自動化された動きで拳銃を尻尾の横に揃える。
尻尾のサイドが開いてアームを展開する。
銃から散弾を外し、替わりに長い弾倉を差しこむ。
知の宝珠の言葉が確かなら、ヴリル・ドライブを破壊すればパイロットを生かしたままランドオッタを止めることができる。
『貴様に捨てられたせいで、貴様のせいで、ママはあんな男を選んだ!』
武装交換の隙に、ランドオッタが金属片を放つ。
『言い寄られて、断れなくて、結ばれた!!』
「あんな男ったって、いちおうあんたの親父さんだろ?」
魔術の媒体となる金属片を頭部の機銃で撃ち落す。
そのまま本体を牽制する。
「そいつがいなかったら、あんただってこの世にいなかったはずだ!」
敵機の下半身に照準をあわせ、引鉄を引く。
両手の拳銃から、機銃の如き勢いで砲弾が放たれる。
だが同時に、ランドオッタは差し出した掌から金属片を放つ。
『櫟の樹』
叫びと共に、目前に氷の壁が創造される。
無数の砲弾が氷塊の壁をえぐる。
だがレナは新たな施術で氷の壁を補強する。
『あの男はママを傷つけた! 苦しめた!』
レナの答えに、歯噛みする。
『あんなに優しいママを、あの男は愛してすらいなかった! あんなにやつれた、傷だらけのママを見ているくらいだったら、生まれてなんてこないほうが良かった!』
(……畜生! あたしがあいつの想いを裏切ったってのか!? そのせいであいつは傷つけられて、最後まで苦しみ続けたって、そういうことなのか!?)
舞奈は引鉄をにぎりしめながら、氷の壁に激突して地に落ちる砲弾の雨を睨む。
その時、
『敵機が大魔法の準備を開始しました。【ミョルニルの魔鎚】と推測』
声の警告。
見やると、霜をまとう半透明の氷壁の向こう側。
両腕を振り上げた猫のシルエットの頭上に何かが形作られていく。
それは棒状の柄の先に太く大きな筒が付いた何かだった。
舞奈の目には、装脚艇の大きさにあわせた道具のように見える。
「こいつはわかるぞ。トンカチだろ?」
軽薄に言いつつ、口元に浮かぶのは乾いた笑み。
トンカチと聞いて思い出すのはトルソと、彼に話した園香の父親だ
園香の部屋で楽しんでいたら、父親がトンカチを投げて追いかけてきた。
……と彼にした話は少しばかり吹かしすぎたと今でも思う。
それでも女の家に忍びこんで、その娘の父親に追い立てられながら仕事に向かう楽しい毎日が本当にあって、ずっとそうしていられたら良かったのにと素直に思う。
1発くらい避け損ねて、親父に溜飲を下させてやるのも悪くないと思う。
その話を別の男にして小馬鹿にされるのも。
彼ら、彼女らがいない世界よりずっと。だが、
『戦術級の空間振動弾です。疑似的な重力崩壊により空間内の物質を破砕します』
「そうかい」
舞奈は声に生返事を返す。
空間、という言葉から気化爆弾の凄い版だろうかと想像するが、実際のところ、とにかく凄い爆弾くらいにしか理解できない。
『空間振動弾について、魔力王の推察どおり、その外観から未開惑星の現地住民にハンマーと誤認された事例が確認されています』
「今度は土人呼ばわりかよ!」
毒づく。
途端、氷壁が消え去た。
魔力の余波で輝く爆弾を掲げたランドオッタの姿があらわになる。
猫は手にしたそれを、柄付手榴弾のように投げつける。
『あの世でママに詫びなさい! 志門舞奈!!』
「待て! この距離でそんなことしたら、おまえだって!!」
『速やかな後退及び電磁シールドによる防御を進言します。最大出力での展開により、損害を約20パーセント軽減可能と推定されます』
声が警告する。
だが舞奈は機動輪をフル回転させ、ランドオッタめがけて突き進む。
スクワールをレナの盾にするためだ。
美少女に目がない舞奈は、目の前の少女が失われることに耐えられない。
だから次の瞬間、視界が黒く染まって――
――気づくと舞奈は静かな場所にいた。
可愛らしいチェック模様のテーブルクロスに、ぼんやりと頬杖をついていた。
目前には園香。
フライパン片手にオムレツを焼いている。
大人びたハーフアップの髪と、薄手のワンピースに包まれた形の良い尻が、ふりふりと誘うように揺れる。
(これは夢なのか?)
舞奈は訝しむ。
脳があの幸福な日々を反芻しているのだろうか。
置き去りにした過去を悔やむように。
否、自分は大魔法による爆発にまきこまれたはずだ。
なるほど、これを天国だといわれたら納得もできる。
見やるとダイニングとひとつながりになったキッチンには舞奈と園香しかいない。
本来ならば舞奈も手伝うべき状況だ。
だが園香はひとりで手際よくケチャップご飯を炒め、鼻歌交じりに卵を焼いている。
そこに尻をさわるくらいしかできることがない舞奈が出しゃばっても、邪魔にしかならない。あの頃はいつもそうだった。
(それなら、これは贖罪なのか?)
舞奈は真理へと近づいた。少なくとも、そうだと信じた。
フライパンのジュウジュウという音。
園香が口ずさむ鼻歌。
夢にまで見た福音のメロディーを聞きながら、舞奈は思う。
この部屋の外に世界なんてない。
舞奈はただ園香と他愛もない会話をし、料理を食べて、どこかで傷つき苦しめられていた彼女を永遠に慰め続ける。そういうことなのだろうか?
なら、それも悪くない。
「……すまない、園香」
「え?」
ボブカットを揺らして園香が振り返る。
奥手な彼女にしては珍しい満面の笑みが浮かんでいる。
料理が会心の出来なのだろう。
「いや、何でも」
あいまいな笑みを返す。
テーブルクロスの上に並べられたウサギ柄の皿に、ケチャップご飯とふわふわのオムレツが盛りつけられる。
食欲をそそられる卵の甘い香りに舞奈は目を輝かせる。
園香は仕上げとばかりに火から下ろした鍋とおたまを手に取る。
そして湯気をあげるソースを、オムレツの上にたっぷりとかける。
濃厚なデミグラスソースの香りが鼻孔いっぱいに広がる。
「こりゃ美味そうだ」
満面の笑みを浮かべてみせる。
園香はネコの柄のエプロンを外して向かいのイスに座る。
2人でいただきますを言ってから、スプーンとフォークを手に取る。
ソースに浸かったオムレツとご飯をすくって口に運ぶ。
とろけるようにやわらかな卵の感触と優しいソースの風味が、口いっぱいに広がる。
ふと見やると、園香も同じように自信作をほおばっていた。
花弁のような唇の端にソースをつけて自分と同じものを咀嚼する少女の面持が、舞奈の目には艶めかしく映る。
「マイちゃん、ひょっとして口に合わなかった?」
「そんなことないよ。最高の出来だ」
園香の不安げな問いに、呆けた顔で彼女に魅入っていたことに気づいた。
あわてて返した舞奈の言葉に、園香は安堵の笑みを洩らし、
「マイちゃんは、今、幸せ?」
優しげな瞳で舞奈を見つめる。
「ああ、幸せだよ」
舞奈は園香の垂れぎみな目じりを見やり、口元に笑みを浮かべる。
「屋根のある家の、あったかい部屋に、美味い飯があって、おまえがいる。これ以上の幸せなんてないさ」
口元に笑みを浮かべる。
だが微笑む園香から目をそらし、
「……すまない、園香。この1年、おまえのこと忘れてた」
小さく詫びる。
「こんな世界にだって何処か平和な場所があって、おまえだけはそこで夢見るように幸せな家庭を築いて暮らしてるって、勝手に思ってた。けど違ってた」
謝罪と懺悔を吐き出す。
だが園香は満面の笑顔を返す。記憶の中の彼女そのままに。
そんな園香に笑みを返そうとして、失敗して、
「いつもそうだった。あたしはバカで生意気で不器用で、ひねくれ者で図々しくて鈍感で、だから何も守れない」
「マイちゃんはロマンチストなのよ」
園香の笑みに救われる。
あの頃と同じように。けれど、
「そして優しすぎるの。だからみんなの痛みや悲しみを全部背負いこんで、それでも自分の心と折り合いをつけて笑ってる」
「何かを諦めるのに慣れてるだけだよ」
耐えきれずに自嘲する。
「守ろうとして、守れなくて、諦めて、それでもどうしようもなく寂しくなって、だから何人もの女の子の間を渡り歩いた。蝶々みたいにさ。いろんな花にとまって、いろんな蜜を吸った。どの花も綺麗だった」
どうしようもない自分を語りながら、唇を笑みの形に歪めようとして、
「でも振り向いたら……全部なくなってた」
それにすら失敗する。
「成長がないって、事あるごとに明日香に責められてた。いつもあいつが正しくて、あたしの選んだ答えは間違ってた。なあ園香……」
ふと言い淀んで言葉を切る。
気がつくと、部屋は寝室になっていた。
ベッドの上ではシーツをまとった園香が優しく艶めかしく微笑む。
「……一緒に逃げないか? ずっと遠くに」
思わず園香を抱きしめる。
園香の身体からは甘いミルクの香りがした。
何もかもに満ち足りていたあの頃と、同じように。
「どこか平和な場所を見つけて静かに暮らすのさ。もし、今いるここが夢なら、願ったことが何でも叶うんだったら、世界の片隅にお菓子の家を建てて、森の動物たちと歌いながら暮らすことだってできるはずだろ?」
何かにすがるように、逃げるように言葉を紡ぐ。けれど、
「最初から……そう、最初から全部やり直すんだ。何もかも――」
「――そうできたらいいのにね」
園香は舞奈の言葉をやんわりと遮り、百合の花のように艶やかに笑う。
いつもそうだった。
園香は舞奈の全てを受け入れ、許してくれた。
「でもマイちゃんが一番よく知ってるはずよ? そんな場所、ありっこないって」
微笑みながら、園香は囁く。
どこまでも優しく。
包みこむように、慈しむように。
舞奈は不意に、レナがどんな風に母親を好きになっていったか理解した。
否、彼女を好きじゃない奴なんていなかった。
彼女に出会った誰もが彼女を愛し、彼女もそのすべてに愛で答えた。
でも、だれも彼女を幸せにはできなかった。
舞奈もそんなクズどものひとりにすぎない。
そんな舞奈に、それでも園香は微笑みかける。
「マイちゃん、ひとつだけお願い聞いてもらってもいい?」
「……ああ」
「レナちゃんをお願い。娘なの。あたしのいちばんの幸せで、わたしの宝物。とっても可愛くて、お母さん思いで、しっかりしてるの。マイちゃんにちょっと似てるかな」
「知ってるさ」
「よかった」
舞奈の答えに、園香は花のように顔をほころばせる。
「それに凄く賢いの。明日香ちゃんに借りた占いの本が大好きで、いつも読んでた」
「そいつが占いの本だって、ちゃんと確かめたのか? 魔術書じゃなくて」
軽口に、園香は笑みを返す。
「けどね、ひとつだけ失敗しちゃった。レナちゃん、とっても寂しがり屋なの。あんまり構ってあげられなかったからかな」
「これからは違うさ。知ってるだろ? あたしがカワイコちゃんに目がないって」
「よかった」
舞奈は口元に乾いた笑みを浮かべる。
園香は満面の笑みを浮かべる。
その背後に男性のシルエットが浮かびあがる。
不埒な間者を追い払おうとあらわれた彼女の父親だろうか? それとも……。
舞奈の逡巡を覆い隠すように、園香は熟れた肢体を広げて背後の影を隠す。
それが彼女の意思だからと都合のいい理由をつけて、舞奈は園香の背後に迫る影から目をそらす。それでも園香は優しく微笑む。
「ねえ、マイちゃん」
「なんだい?」
「……愛してる。いつまでも」
「ああ。あたしもさ」
そんなやり取りを最後に、再び舞奈の意識は途切れて――
――――――――――――――――――――
予告
光も差さぬ地下通路。
不倶戴天の子猫と栗鼠は銃火を交わす。
弾丸が尽きたら罵声を交わし、言葉が尽きたら想いを交わす。
全てが尽きた、その先は……?
次回『和解』
捨てられた者。
大事な何かを失くした者。
互いに銃口を突きつけながら、見据えるものは同じ。
レナが操るランドオッタ。
2体の装脚艇はコンクリート床の長い通路を並んで駆け抜けながら、
『捨てられてなお、ママは貴様を信じていた! 貴様の帰りを待っていた!!』
「聞いてくれ! 事故にあってたんだ!」
モニターの中で怒り狂うレナに向かって舞奈は叫ぶ。
「轢かれそうになって、気がついたら20年後だった」
『そんな見えすいた嘘で!!』
レナは取りつく島もなく叫ぶ。
並走するランドオッタの肩と胸、腰のハッチが開いてスリットが露出する。
6箇所のスリットと掌のハッチを合わせた8個所。
そのすべてから、それぞれ金属片が撃ち放たれる。
『【雷弾】と推定。大出力の荷電粒子ビームによる攻撃に備えてください』
知の宝珠の警告。
同時に金属片は光の砲弾と化し、スクワールめがけて飛来する。
多方向から矢継ぎ早に襲いかかるビームを、推進装置を小刻みに吹かして避ける。
スクワールが通り過ぎた床や壁がビームに抉られ、通路が揺れる。
「あんたを騙す気なら、もうちょっとましな話をでっちあげるよ!」
叫びつつ、ふと舞奈は思う。
ビームを放つ【雷弾】という名の魔術。
かつて黒髪の魔術師が多用した【雷弾・弐式】と関係があるのだろうか?
襲いくる光の群れが電撃ではなく、冷たい色のビームなのが癪に障った。
途端、背後からの一撃が肩口をかすめ、焦がす。
対ビーム気化装甲すら貫き、衝撃がコックピットにも伝わる。
バカ強い威力だけが、舞奈が知る電撃の魔術と同じだった。
『小うるさいネズミみたいに、ちょこまかと!』
拡声器の叫びとは裏腹に、ランドオッタのスピードが落ちる。
不吉な気配を感じて背面モニターを見やる。
その中で、ランドオッタは背にマウントされていた何かを手にとり、両腕で構える。
復刻機の両手の中で、それは広がり、展開する。
『対艦用の大型レーザー砲と推測されます。危険』
知の宝珠の警告。
砲口を覆う巨大な防盾と、砲身から等間隔で生える安定化装置が、鋼鉄の猫が腰だめに構えたそれを魚の骨のように見せる。
「あんなんで当たるのか?」
魚の頭に似た防盾を見やり、肩をすくめる。
だが別のモニターに映しだされた予測被害範囲を見てぎょっとする。
ランドオッタが構えた大砲は通路すべてを隙間なく焼きつくすことができるらしい。
「おいおい、冗談キツイぜ!」
舞奈は叫ぶ。
魔術師が火砲を操ることに対して違和感はない。
彼女らは魔術を極めたが故にその弱点も熟知している。
なので短所である詠唱の隙を補うために銃を隠し持つこともある。
舞奈の知る黒髪の魔術師も、クロークの内側に拳銃を隠し持っていた。
だが己が魔術を差し置いて主力となり得るほどの重火器を携行することは稀だ。
舞奈はスロットルを引きしぼる。
スクワールの機動輪がフル回転して床を削る。
通って来たときの記憶では、しばらく進んだ先で通路がカーブしていたはずだ。
そこまでたどり着いてレーザーの射線から逃れれば、蒸発を免れることができる。
猛スピードで進む通路の先に、記憶どおりの曲がり角。
だが安堵する暇はない。
背後が白い輝きに満たされ、コンクリート壁がひび割れ、はがれて蒸発する。
あの光に飲まれたら、たぶん爆発とか消滅とかするのだろう。
『機体温度が限界域まで上昇。危険』
「んなこたぁ、わかってる!」
噴き出した汗に構わず、舞奈はスロットルに渾身の力をこめる。
前方に曲線を描いた壁が迫る。
勢い余って激突しそうになって、跳躍して壁に跳びかかる。
そのままの速度で壁面に機動輪を押しつけて疾走し、無理やりにカーブを曲がる。
その背後で閃光が通路にあふれ、コンクリートの床や壁や天井を焼く。
スクワールは間一髪で対艦砲から逃れられたようだ。
それまでの通路よりさらに開けた大広間に出る。
「あの娘はどこだ?」
背面モニターを見やった瞬間、
「――!?」
視界が捻じ曲がった。
世界が変容する。
コンクリートの床が、天井が、壁という壁が、巨大なルーン文字が刻まれた鋼鉄の扉へと変わる。だが扉に鍵穴などない。
『ルーン魔術【戦場召喚】と推測。特定区域を――』
「――結界に閉じこめられたんだろ?」
声を遮る。
結界とは、範囲内の空間を周囲から『切り離す』ことによって隔離する技術だ。
出入りするには魔術で穴を開けるか、破壊するか、あるいは術者を倒すしかない。
確かに厄介な代物ではある。
その利便性ゆえ仕事人時代に多くの敵対者によって用いられた。
だが、その度に難なく対処してきた。明日香と2人で。
『振り切れるとでも思ったの!? ……野牛!!』
背後から放たれたビームを横に跳んで避け、ふり返る。
ランドオッタが両目の加粒子砲を乱射しながら迫ってくる。
舞奈は光線を見切って避けつつ、
「なあトーラーさんよ。仔猫ちゃんのエンジンってどこにあるんだ?」
『ランドオッタのヴリル・ドライブは構造上、現地製の装脚艇における動力源とほぼ同じ機体後方に位置しています』
モニターに構造図が映しだされる。
それによると、ランドオッタのエンジンは、砲塔と一体化した車体部分、つまりカリバーンやソードマンと同じ腰にある。
「じゃ、そいつをぶっ壊したらどうなる? PKドライブみたいに大爆発か?」
『魔力の供給が不可能となり、機体が停止します。ヴリル・ドライブは比較対象と異なり安定した魔力を生成するため、爆発はしません』
「そいつは結構!」
舞奈は口元に笑みを浮かべ、
「インフィニット・マガジン、セット」
武装交換のシーケンスを開始する。
両腕が自動化された動きで拳銃を尻尾の横に揃える。
尻尾のサイドが開いてアームを展開する。
銃から散弾を外し、替わりに長い弾倉を差しこむ。
知の宝珠の言葉が確かなら、ヴリル・ドライブを破壊すればパイロットを生かしたままランドオッタを止めることができる。
『貴様に捨てられたせいで、貴様のせいで、ママはあんな男を選んだ!』
武装交換の隙に、ランドオッタが金属片を放つ。
『言い寄られて、断れなくて、結ばれた!!』
「あんな男ったって、いちおうあんたの親父さんだろ?」
魔術の媒体となる金属片を頭部の機銃で撃ち落す。
そのまま本体を牽制する。
「そいつがいなかったら、あんただってこの世にいなかったはずだ!」
敵機の下半身に照準をあわせ、引鉄を引く。
両手の拳銃から、機銃の如き勢いで砲弾が放たれる。
だが同時に、ランドオッタは差し出した掌から金属片を放つ。
『櫟の樹』
叫びと共に、目前に氷の壁が創造される。
無数の砲弾が氷塊の壁をえぐる。
だがレナは新たな施術で氷の壁を補強する。
『あの男はママを傷つけた! 苦しめた!』
レナの答えに、歯噛みする。
『あんなに優しいママを、あの男は愛してすらいなかった! あんなにやつれた、傷だらけのママを見ているくらいだったら、生まれてなんてこないほうが良かった!』
(……畜生! あたしがあいつの想いを裏切ったってのか!? そのせいであいつは傷つけられて、最後まで苦しみ続けたって、そういうことなのか!?)
舞奈は引鉄をにぎりしめながら、氷の壁に激突して地に落ちる砲弾の雨を睨む。
その時、
『敵機が大魔法の準備を開始しました。【ミョルニルの魔鎚】と推測』
声の警告。
見やると、霜をまとう半透明の氷壁の向こう側。
両腕を振り上げた猫のシルエットの頭上に何かが形作られていく。
それは棒状の柄の先に太く大きな筒が付いた何かだった。
舞奈の目には、装脚艇の大きさにあわせた道具のように見える。
「こいつはわかるぞ。トンカチだろ?」
軽薄に言いつつ、口元に浮かぶのは乾いた笑み。
トンカチと聞いて思い出すのはトルソと、彼に話した園香の父親だ
園香の部屋で楽しんでいたら、父親がトンカチを投げて追いかけてきた。
……と彼にした話は少しばかり吹かしすぎたと今でも思う。
それでも女の家に忍びこんで、その娘の父親に追い立てられながら仕事に向かう楽しい毎日が本当にあって、ずっとそうしていられたら良かったのにと素直に思う。
1発くらい避け損ねて、親父に溜飲を下させてやるのも悪くないと思う。
その話を別の男にして小馬鹿にされるのも。
彼ら、彼女らがいない世界よりずっと。だが、
『戦術級の空間振動弾です。疑似的な重力崩壊により空間内の物質を破砕します』
「そうかい」
舞奈は声に生返事を返す。
空間、という言葉から気化爆弾の凄い版だろうかと想像するが、実際のところ、とにかく凄い爆弾くらいにしか理解できない。
『空間振動弾について、魔力王の推察どおり、その外観から未開惑星の現地住民にハンマーと誤認された事例が確認されています』
「今度は土人呼ばわりかよ!」
毒づく。
途端、氷壁が消え去た。
魔力の余波で輝く爆弾を掲げたランドオッタの姿があらわになる。
猫は手にしたそれを、柄付手榴弾のように投げつける。
『あの世でママに詫びなさい! 志門舞奈!!』
「待て! この距離でそんなことしたら、おまえだって!!」
『速やかな後退及び電磁シールドによる防御を進言します。最大出力での展開により、損害を約20パーセント軽減可能と推定されます』
声が警告する。
だが舞奈は機動輪をフル回転させ、ランドオッタめがけて突き進む。
スクワールをレナの盾にするためだ。
美少女に目がない舞奈は、目の前の少女が失われることに耐えられない。
だから次の瞬間、視界が黒く染まって――
――気づくと舞奈は静かな場所にいた。
可愛らしいチェック模様のテーブルクロスに、ぼんやりと頬杖をついていた。
目前には園香。
フライパン片手にオムレツを焼いている。
大人びたハーフアップの髪と、薄手のワンピースに包まれた形の良い尻が、ふりふりと誘うように揺れる。
(これは夢なのか?)
舞奈は訝しむ。
脳があの幸福な日々を反芻しているのだろうか。
置き去りにした過去を悔やむように。
否、自分は大魔法による爆発にまきこまれたはずだ。
なるほど、これを天国だといわれたら納得もできる。
見やるとダイニングとひとつながりになったキッチンには舞奈と園香しかいない。
本来ならば舞奈も手伝うべき状況だ。
だが園香はひとりで手際よくケチャップご飯を炒め、鼻歌交じりに卵を焼いている。
そこに尻をさわるくらいしかできることがない舞奈が出しゃばっても、邪魔にしかならない。あの頃はいつもそうだった。
(それなら、これは贖罪なのか?)
舞奈は真理へと近づいた。少なくとも、そうだと信じた。
フライパンのジュウジュウという音。
園香が口ずさむ鼻歌。
夢にまで見た福音のメロディーを聞きながら、舞奈は思う。
この部屋の外に世界なんてない。
舞奈はただ園香と他愛もない会話をし、料理を食べて、どこかで傷つき苦しめられていた彼女を永遠に慰め続ける。そういうことなのだろうか?
なら、それも悪くない。
「……すまない、園香」
「え?」
ボブカットを揺らして園香が振り返る。
奥手な彼女にしては珍しい満面の笑みが浮かんでいる。
料理が会心の出来なのだろう。
「いや、何でも」
あいまいな笑みを返す。
テーブルクロスの上に並べられたウサギ柄の皿に、ケチャップご飯とふわふわのオムレツが盛りつけられる。
食欲をそそられる卵の甘い香りに舞奈は目を輝かせる。
園香は仕上げとばかりに火から下ろした鍋とおたまを手に取る。
そして湯気をあげるソースを、オムレツの上にたっぷりとかける。
濃厚なデミグラスソースの香りが鼻孔いっぱいに広がる。
「こりゃ美味そうだ」
満面の笑みを浮かべてみせる。
園香はネコの柄のエプロンを外して向かいのイスに座る。
2人でいただきますを言ってから、スプーンとフォークを手に取る。
ソースに浸かったオムレツとご飯をすくって口に運ぶ。
とろけるようにやわらかな卵の感触と優しいソースの風味が、口いっぱいに広がる。
ふと見やると、園香も同じように自信作をほおばっていた。
花弁のような唇の端にソースをつけて自分と同じものを咀嚼する少女の面持が、舞奈の目には艶めかしく映る。
「マイちゃん、ひょっとして口に合わなかった?」
「そんなことないよ。最高の出来だ」
園香の不安げな問いに、呆けた顔で彼女に魅入っていたことに気づいた。
あわてて返した舞奈の言葉に、園香は安堵の笑みを洩らし、
「マイちゃんは、今、幸せ?」
優しげな瞳で舞奈を見つめる。
「ああ、幸せだよ」
舞奈は園香の垂れぎみな目じりを見やり、口元に笑みを浮かべる。
「屋根のある家の、あったかい部屋に、美味い飯があって、おまえがいる。これ以上の幸せなんてないさ」
口元に笑みを浮かべる。
だが微笑む園香から目をそらし、
「……すまない、園香。この1年、おまえのこと忘れてた」
小さく詫びる。
「こんな世界にだって何処か平和な場所があって、おまえだけはそこで夢見るように幸せな家庭を築いて暮らしてるって、勝手に思ってた。けど違ってた」
謝罪と懺悔を吐き出す。
だが園香は満面の笑顔を返す。記憶の中の彼女そのままに。
そんな園香に笑みを返そうとして、失敗して、
「いつもそうだった。あたしはバカで生意気で不器用で、ひねくれ者で図々しくて鈍感で、だから何も守れない」
「マイちゃんはロマンチストなのよ」
園香の笑みに救われる。
あの頃と同じように。けれど、
「そして優しすぎるの。だからみんなの痛みや悲しみを全部背負いこんで、それでも自分の心と折り合いをつけて笑ってる」
「何かを諦めるのに慣れてるだけだよ」
耐えきれずに自嘲する。
「守ろうとして、守れなくて、諦めて、それでもどうしようもなく寂しくなって、だから何人もの女の子の間を渡り歩いた。蝶々みたいにさ。いろんな花にとまって、いろんな蜜を吸った。どの花も綺麗だった」
どうしようもない自分を語りながら、唇を笑みの形に歪めようとして、
「でも振り向いたら……全部なくなってた」
それにすら失敗する。
「成長がないって、事あるごとに明日香に責められてた。いつもあいつが正しくて、あたしの選んだ答えは間違ってた。なあ園香……」
ふと言い淀んで言葉を切る。
気がつくと、部屋は寝室になっていた。
ベッドの上ではシーツをまとった園香が優しく艶めかしく微笑む。
「……一緒に逃げないか? ずっと遠くに」
思わず園香を抱きしめる。
園香の身体からは甘いミルクの香りがした。
何もかもに満ち足りていたあの頃と、同じように。
「どこか平和な場所を見つけて静かに暮らすのさ。もし、今いるここが夢なら、願ったことが何でも叶うんだったら、世界の片隅にお菓子の家を建てて、森の動物たちと歌いながら暮らすことだってできるはずだろ?」
何かにすがるように、逃げるように言葉を紡ぐ。けれど、
「最初から……そう、最初から全部やり直すんだ。何もかも――」
「――そうできたらいいのにね」
園香は舞奈の言葉をやんわりと遮り、百合の花のように艶やかに笑う。
いつもそうだった。
園香は舞奈の全てを受け入れ、許してくれた。
「でもマイちゃんが一番よく知ってるはずよ? そんな場所、ありっこないって」
微笑みながら、園香は囁く。
どこまでも優しく。
包みこむように、慈しむように。
舞奈は不意に、レナがどんな風に母親を好きになっていったか理解した。
否、彼女を好きじゃない奴なんていなかった。
彼女に出会った誰もが彼女を愛し、彼女もそのすべてに愛で答えた。
でも、だれも彼女を幸せにはできなかった。
舞奈もそんなクズどものひとりにすぎない。
そんな舞奈に、それでも園香は微笑みかける。
「マイちゃん、ひとつだけお願い聞いてもらってもいい?」
「……ああ」
「レナちゃんをお願い。娘なの。あたしのいちばんの幸せで、わたしの宝物。とっても可愛くて、お母さん思いで、しっかりしてるの。マイちゃんにちょっと似てるかな」
「知ってるさ」
「よかった」
舞奈の答えに、園香は花のように顔をほころばせる。
「それに凄く賢いの。明日香ちゃんに借りた占いの本が大好きで、いつも読んでた」
「そいつが占いの本だって、ちゃんと確かめたのか? 魔術書じゃなくて」
軽口に、園香は笑みを返す。
「けどね、ひとつだけ失敗しちゃった。レナちゃん、とっても寂しがり屋なの。あんまり構ってあげられなかったからかな」
「これからは違うさ。知ってるだろ? あたしがカワイコちゃんに目がないって」
「よかった」
舞奈は口元に乾いた笑みを浮かべる。
園香は満面の笑みを浮かべる。
その背後に男性のシルエットが浮かびあがる。
不埒な間者を追い払おうとあらわれた彼女の父親だろうか? それとも……。
舞奈の逡巡を覆い隠すように、園香は熟れた肢体を広げて背後の影を隠す。
それが彼女の意思だからと都合のいい理由をつけて、舞奈は園香の背後に迫る影から目をそらす。それでも園香は優しく微笑む。
「ねえ、マイちゃん」
「なんだい?」
「……愛してる。いつまでも」
「ああ。あたしもさ」
そんなやり取りを最後に、再び舞奈の意識は途切れて――
――――――――――――――――――――
予告
光も差さぬ地下通路。
不倶戴天の子猫と栗鼠は銃火を交わす。
弾丸が尽きたら罵声を交わし、言葉が尽きたら想いを交わす。
全てが尽きた、その先は……?
次回『和解』
捨てられた者。
大事な何かを失くした者。
互いに銃口を突きつけながら、見据えるものは同じ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!


セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる