鋼鉄の棺を魔女に捧ぐ

立川ありす

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第2章 魔帝と仔猫と栗鼠と

異形

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『見ねぇ型だな? 新型か?』
 バーンのいぶかしげな声につられ、大通りの先にたたずむ2機を見やる。

 1機はソードマンの亜種に見える。
 漆塗りの角張った機体は金の縁取りやオカルトじみた数珠で飾りつけられている。
 だが最も特徴的なのは、砲塔から生えた6本の腕。
 何とも奇妙な外見だ。

「なんだありゃ? 神輿か?」
『おそらく全滅した第2次攻撃部隊が目撃した、釈尊って名前の機体だ。まずいな。奴の異能力について、物騒な噂がいくつもあるんだ……』
「物騒って、具体的にどんなよ?」
 沈着冷静なピアースにしては珍しく歯切れの悪い言葉に、舞奈は思わず聞き返す。
 だが、

『そんなもん、どうだっていいじゃねぇか!』
 通信モニターの中でバーンが笑う。
 相棒のフォローをしたつもりなのだろう。

 彼とピアースは、互いの背中を預け合うパートナーだ。
 かつてのスプラとトルソのように。
 ……あるいは舞奈と明日香の。

『敵がどんな異能力を持っていようが、俺たちにかかればイチコロよ!!』
「そうかい」
 大口に、舞奈はおざなりな返事を返す。
 その視線は、釈尊の側に立つもう1機に釘づけになっていた。

 その黄金色の装脚艇ランドポッドは、さらに異様な風体をしていた。

 横に並ぶ釈尊と比べてひと回り小柄な、砲塔と一体化した流線型の車体。
 車体から後にのびる、細い尻尾のような安定化装置スタビライザー
 しゃがみこむように折りたたまれた優美な脚に、無骨な無限軌道キャタピラはついていない。
 小ぶりな腕。
 そして砲塔の上部に取り付けられた、急造ではない、ちゃんとした頭部。

 舞奈には、それは直立した巨大な猫に見えた。

『俺はその釈尊って奴ををヤる! ピアースは【猫】だ! 舞奈は援護に回れ!』
 1号機は無限軌道キャタピラを唸らせて敵機めがけて突き進む。
 拳銃低反動砲を車体のラックに戻し、背部から剣を抜く。
 その刃が燃える。【火霊武器ファイヤーサムライ】だ。さらに、

『俺の中の狼の牙よ! カリバーンに宿れ!!』
 叫びとともに、機体そのものも燐光に包まれる。
 念動力を身体に作用させることにより俊敏にする【狼牙気功ビーストブレード】。
 搭乗者であるバーン自身の異能力である。

 2号機もそれにならい、冷気の剣を構えて突撃する。
 異能力者が異能力を使用する際にはアドレナリンが過剰に分泌され、身体能力を高めると同時に恐怖心を拭い去る。
 だからこそ彼らは異能を操る鋼の巨人にすら勇敢に立ち向かえる。
 だが、その反面、愚かで無謀な選択によって身を亡ぼすことも多い。

「気をつけろ! そいつら強いぞ!!」
 胸騒ぎをおぼえて舞奈は叫ぶ。

 装脚艇ランドポッド8機による奇襲をたった3機で押し返し、今や優劣は逆転し2対3となった。
 その昂揚に、異能力の副次効果が加わって彼らを突き動かしていた。

 2号機は剣を構えたまま【猫】に突撃する。
 無限軌道キャタピラの速度に装脚艇ランドポッドの全重量を乗せた必殺の一撃が、異形の敵機に迫る。

 だが次の瞬間、【猫】の姿が蜃気楼のようにゆらぎ、4体の【猫】と化した。

 斬撃は4体になった【猫】のうちのひとつだけを貫く。
 否、必殺の一撃は、そこに何もなかったかのようにすりぬけた。
 貫かれた【猫】は幻のように溶けて消える。

 舞奈は舌打ちする。
 知る限り、こういう現象を引きおこす異能力はない。

(分身の魔術? 魔術師ウィザードか!?)
 幻を斬った勢いのまま大通りを走る2号機の背に向け、残る3体の【猫】が短い腕を差し向け、何かを放つ。金属片のようだ。
 狙いが逸れたか足元を穿ったそれを、2号機の無限軌道キャタピラが踏み潰す。
 その途端、地面から氷の棘があらわれて2号機を縛める。

『何だと!?』
 モニターの中でピアースが驚く。
 いきなり訳のわからない手段で動きを止められたからだ。

 だが舞奈はその正体に見当がついた。
 おそらく拘束の魔術であろう。
 投げつけた何かを媒体に作りあげた氷の棘で縛るのだ。

 次いで【猫】は両腕を天にかざす。
 別の――おそらく必殺の魔術を放つつもりか。

「させるかよ!」
 舞奈は両手の引鉄トリガーを引く。
 2丁の拳銃低反動砲が火を吹き、2体の【猫】が消える。
 だが砲弾が残った1機を捉える寸前、【猫】の姿は上方へと消えた。

 見やる舞奈の目前で、【猫】は両脚の先から光の粉を振りまきながら上り続ける。
 そして1際高い廃ビルの頂上へと降り立った。

「猫のクセに空飛ぶのかよ!」
『――どうなってやがる!』
 驚く舞奈の視線を、通信機から漏れる悲鳴が地上へと引き戻した。
 バーンの声だ。

『動かねぇ! 機体が動かねぇ!!』
 見やると1号機も、剣を振り上げた姿勢で停止していた。
 こちらは全身に長方形の紙片が貼り付けられている。

『ひょ、ひょ、ひょ、ひょ、ひょ!』
 拡声器で増幅された狂った笑い声が響く。
 数珠と漆で装飾された6本腕の装脚艇ランドポッドからだ。
 どうやら釈尊とやらのパイロットは甲高い声の男のようだ。

『聖なる摩利支天マリーチの神符で仏敵を縛る、これぞ【摩利支天鞭法マリーチナ・バンダ】っ!!』
「畜生! こっちは仏術使い……妖術師ソーサラーかよ」
 舞奈は2丁の砲門を釈尊へ向ける。

 釈尊は砲塔の横から生えた2本の腕を前へと突き出す。
 そして背部から生えた細い4本の腕で印を結ぶ。

 舞奈は引鉄トリガーを引く。
 だが釈尊が突き出した太い腕の先に業火が灯り、盾と化す。

 業火の盾が砲弾を受け止め溶かす様に顔をしかめつつ、さらに引鉄トリガーを引く。
 だが舞奈の焦りに答えたのは警告音。

「糞ったれ! 弾切れだ!」
 カリバーンの両腕が自動化された弾倉交換を開始する。要する時間は数十秒。
 だが舞奈は弾倉交換を無理やりに中断する。
 カリバーンは2丁の拳銃低反動砲を取り落とす。

 鳴り響く警告音に構わず、舞奈は3号機の脚部を操作する。
 カリバーンは先ほど撃破したソードマンが持っていた得物を蹴り上げる。
 アサルトライフル低反動カノン砲を腕部でつかむ。
 そのまま両腕で構える。
 自走砲に積まれているような長砲身・大口径砲の重量に機体が沈みこむ感触を感じつつ、舞奈は高層ビルの頂上に照準をあわせて引鉄トリガーを引く。

 衝撃が車体にまで伝わる。

 装脚艇ランドポッドが用いる銃砲は従来の無反動砲とは異なり、疑似的な慣性制御による革新的な反動軽減技術が用いられているため『低反動砲』などと呼ばれている。
 だが、その分だけ装薬の量も増えているので結果的に反動は変わらない。
 大口径砲ともなると、敵を壊したいのか自機を壊したいのか判別がつかないくらいの衝撃が襲いかかる。

 だが、その甲斐あってか2号機を縛めていた氷の棘が溶ける。
 ビルの頂上に逃げた【猫】が被弾し、氷の棘を維持できなくなったのだろう。
 たいていの魔術は維持するために集中が不可欠だ。
 それを21年前に魔術師ウィザードと組んで仕事人トラブルシューターをしていた舞奈は知っている。

「くっ……動ける!?」
「ピアース! 挟み撃ちだ!」
「ああ、了解した!」
 縛めを解かれた2号機は舞奈の言葉に急かされ走る。
 標的は1号機と対峙する6本腕の異形、釈尊。

 対する釈尊は背部の腕で印を結ぶ。
 巨大な炎矢を放ち、背後に迫る2号機を牽制する。

 同時に炎の盾が消える。
 舞奈はチャンスとばかりにアサルトライフル低反動カノン砲の狙いをさだめる。

 だが釈尊の腕には剣が握りしめられていた。

「クソっ! 動け! 動けってんだよ!!」
 1号機は身動きがとれない。
 釈尊は剣を構える。
 舞奈は迎撃しようとするが間に合わない。

「やめろぉぉぉぉ!」
『ゲリラめぇぇぇっ――!』
 ピアースと敵パイロットは同時に叫ぶ。
 次の瞬間、宝飾された鋭い剣が、1号機の砲塔を串刺しにした。
 通信機から漏れる悲鳴。

『――っさぁぁぁっつ!!』
「バーン!?」
『バァァァァァンッ!!』
 舞奈とピアースが同時に叫ぶ。

 爆音が轟き、通信機がコックピットに断末魔をぶちまける。
 釈尊の剣が爆炎に包まれ、1号機の砲塔を内部から吹き飛ばしたのだ。

『ひょ、ひょ、ひょ、ひょ、ひょ!』
 拡声器から耳障りな笑いを放ちつつ、釈尊は胸を焼き貫かれた1号機を蹴り倒す。
 そして地を転がる1号機の剣を踏み折った。
 鋼鉄がへし折れる痛ましげな音色が廃墟に響く。

 通信モニターの中でピアースが歯噛みする。
 バーンは彼の相棒だった。

『ひょ、ひょ! ゴミが燃えるイイ臭いがするねぇ!』
 不意にモニターに男が映る。
 黒い袈裟を着こみ、山羊の角が付いた異形の仮面を被った男。
 1号機を屠った敵機――釈尊からの通信だ。

『我は魔帝マザーが忠実なる僕、ゴォォォトマン! 貴様らゲリラをめっ、さぁぁぁつ! 滅殺するものなりぃ!!』
『滅殺するのは貴様だ! ゴートマンとやら! バーンの仇!!』
 哄笑を遮って、怒りに震えるピアースの叫び。
 だが無限軌道キャタピラを唸らせて迫る2号機を、

『ひょっひょ!』
『ぐわぁ!!』
 釈尊は奇声あげつつ炎の剣で打ち据える。
 受け止めた2号機の剣が砕け、握っていた右腕ごと千切れ飛んだ。
 敵は妖術で機体のパワーを強化しているらしい。

「……ピアース、さがれ」
『くっ……。けど舞奈!?』
「今の見たろ? あんたがどうにかできる相手じゃない」
『じゃ、おまえならどうにか出来るのか!?』
 遺された仲間を制止しながら、3号機を走らせる。

 そうしながら【機関】の仕事人トラブルシューターだった21年前の記憶を呼びおこす。
 否、舞奈にとっては、ほんの1年前の。

「……出来るさ」
 ひとりごちる。

「あんなの目じゃないよ、あたしが知ってる魔法使いに比べたら雑魚だ」
『おのぉれぇ! 魔帝マザーに力を賜りしこの我を愚弄したなぁ!!』
 舞奈の言葉に山羊の角仮面は怒り狂う。

『釈尊! あの小娘を先に殺すぞぉ!! 子供がぁぁぁ! 女がぁぁぁ! 我を破れる道理なしぃぃぃ!!』
「ハハッ! できるといいな!」
 ゴーントマンの怒声を聞き流し、舞奈の口元に凄惨な笑みが浮かぶ。
 脳裏に黒髪の魔術師ウィザードの面影が浮かぶ。

――妖術師ソーサラーは己が身に蓄えた魔力によって妖術を使うの。強力だけど汎用性には劣るわ
――真言を使うタイプの妖術師ソーサラーは、さしずめナイフを持った武道家ってところね
――何か投げてくることはあるけど、避け方は銃弾と同じよ

「……分かってるよ、そんなこと」
 ひとりごちつつ、3号機は釈尊にアサルトライフル低反動カノン砲の一撃を見舞う。

 すぐさま廃ビルの陰に走りこむ。
 次の瞬間、ビル壁に無数の符がぶつかり、空振りした拘束の術が燃え散って消える。

『女のクセにぃ! 子供のクセにぃ! なぁぜぇ避けるぅぅっぅ!!』
 釈尊のコックピットでゴーントマンは地団太を踏んで悔しがる。

 一方、舞奈はそのまま廃ビルの合間を縫うように3号機を走らせる。
 敵は再び拘束の術を行使する。
 だが先ほどと同じように放たれた符の束を、舞奈も同じようにビル壁で防ぐ。
 こちらには対処できる。

 3号機を走らせながら、レーダーに映った敵機の位置を確認する。
 ちょうど廃ビルを挟んだの向こう側だ。

 コンクリートを撃ち抜く攻撃魔法エヴォケーションを使う隙など与えるつもりはない。
 残弾を確かめ、アサルトライフル低反動カノン砲の標準をあわせる。
 大口径・長砲身の威力にまかせて壁越しに釈尊を撃ち抜く算段だ。

 妖術師ソーサラーの乗機といえど悪霊の類ではない。
 所詮は高機能かつ多機能の装脚艇ランドポッドにすぎない。
 防御が間に合わない距離から車体か砲塔を撃ち抜けば撃破することは可能だ。だが、

『術者の死角を知ってるみたいね! けど、あんたの相手は2人いるのよ!!』
 声とともに、頭上から氷の刃が降りそそぐ。

 舞奈はスロットルを力の限りに引きしぼる。
 無限軌道キャタピラを壊す勢いで加速した3号機の、背後が凍てつく氷原へと変わる。

『下がっていろ小娘ぇ! いぃぃぃやぁ、降りてくるなぁぁぁ!』
 ゴーントマンが叫ぶ。
 仲間割れか?

『至高たる偉大なる魔帝マザーから賜った復刻機リバイバルにこれ以上! 傷をつけるなぁぁぁ!!』
『あんたが不甲斐ないから手を貸してるだけよ!』
「小娘? ……女の子!?」
 幼い少女の声色に、背部モニターを見やる。

 その中で【猫】は3号機に向かって腕を突き出した。
 掌の肉球に似たハッチが開き、金属片が飛び出す。
 伸縮可能な爪を持った【猫】の手が金属片をつかむと、刻まれたルーン文字が輝く。

「やっぱり魔術師ウィザードか」
 文字が何を意味するかは知らない。
 21年前、それを見抜くのは黒髪の友人の役割だった。

――魔術師ウィザードは魔力を作り出すことで魔術を使うわ。手札の多さが特徴よ
――でも、切れる手札は持っているものだけ
――使える術の中からいちばん有効な術を使うの。銃や弾丸を使い分けるのと同じにね

『ちょこまか動き回るネズミには……イサ!!』
 叫びとともに金属片が放たれ、弾ける。

 3号機は横に跳ぶ。
 次の瞬間、先ほどまでカリバーンが立っていた地面に氷の棘が生える。
 棘は虚しく虚空をつかみ、氷の花と化す。
 予測どおり。

「ピアースを捕まえた術か」
 舞奈は口元に笑みを浮かべる。

「相手を拘束する術はそれだけか? あんたが本気であたしを捕まえる気なら、あたしが知らない術を使うべきだった。あたしの知ってる魔術師ウィザードだったらそうした」
 軽口を叩きつつ、空中で姿勢を制御して【猫】に向き直りながら着地する。
 3号機は無限軌道キャタピラを唸らせながら、アサルトライフル低反動カノン砲を構えて突撃する。

――魔術師ウィザードの魔術は、妖術師ソーサラーの妖術より選択肢は多いけど、即応性には劣るわ
――急には使えないの。だから、しっかりフォローしなさいね

 彼女の術は、舞奈が知る黒髪の彼女が使っていた魔術と比べて発動の隙が少ない。
 真言を唱えている様子がないからだろうか?
 それでも反撃の魔術を使う暇を与えず、照準をあわせる。

 だが【猫】の頭の側面の目に似た球体が輝く。
 次の瞬間、2つの目から2条の光線が放たれカリバーンを襲う。

 舞奈はとっさに操縦桿をひねり、3号機は横に跳ぶ。
 それでも1条が車体を貫く。
 コックピットの中でひょいと傾けた頭の横を、モニターを貫通したビームが走る。

「……加粒子砲グラムってやつか。こりゃひどい」
 風穴の空いたコックピットの中で、思わず目を剥く。
 今まで乗っていたのは飴細工の棺桶かと思えるほどの惨状だ。
 それでも装甲を貫通してビームが減衰していただけマシだ。
 でなければ近くにいただけで蒸発していた。

 次いで訪れた微かな痒みに、舞奈は眉をひそめる。

 フィードバックによる同調の度合いには相性がある。
 舞奈の同調率はどの機体とも最悪だ。
 おかげで副作用もほとんどなく痒い程度。

 代わりに挙動の微調整はほとんど手動だ。
 実は今まで、せわしなくレバーやボタンを動かしながら制御していたのだ。
 その手管はボーマンに教わった。
 装脚艇ランドポッドを開発した技術者だけが知っている、鋼鉄を技量でねじ伏せる術を、舞奈は銃技の極意を会得せしめたのと同じ卓越した戦闘センスによって習得した。

 そういえば足も痒い。
 思った瞬間、機体がガクリと傾いた。

「何……!?」
 鈍感な舞奈の代わりに、モニター表示が脚部の異常を告げる。
 舞奈が乗りこむ前の戦闘で片足を破損していたことを思い出した。
 先ほどの跳躍で完全にイカれたのだろう。

――ちょっとは人の話聞きなさいよ。そんな無茶ばっかりしてると、そのうち……

 足の止まったたカリバーンの両腕を、背後に忍び寄った釈尊がつかむ。

『つぅぅぅかまえたぞ! 小娘えぇぇぇ!』
「大声で叫ばなくてもわかるよ」
 舞奈の口元に皮肉な笑みが浮かぶ。
 今さらながら仕事人トラブルシューター時代の輝かしい戦歴は、生真面目な相棒と2人で築きあげてきたことを思い出した。舞奈1人の実力ではない。

――もしあたしがヘマしたら。おまえはああやって泣いてくれるか?

 1年前に見たレインの泣き顔が脳裏をよぎった。
 泣かせたはずのない明日香と、そして園香の。

 21年前に置き去りにしてきた彼女たちは今ごろどうしているのだろうかと思った。
 大人になった彼女たちに会いたかった。

 だが、そんなものは叶わぬ夢だと苦笑を浮かべる。
 舞奈はコックピットハッチに手をのばす。
 だが間近に迫った魔術師ウィザードと背後の妖術師ソーサラーは、パイロットの脱出を許さないだろう。

「……すまないピアース、アジトを頼む」
 通信機に向かって、ひとりごちるようにつぶやく。

 次の瞬間、耳をつんざく轟音とともに世界がゆれた。

――――――――――――――――――――

 予告

 奪われた者の慰めは奪うことだとうそぶくように。
 舞奈の前にあらわれたのは玉座に刺さった伝説の刃。
 あるいは天上の技術で鋳抜かれた鋼鉄の獣。

 次回『スクワール』

 窮鼠は猫を噛むと言う。
 ならば栗鼠なら?
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