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夜の学校
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夜になったら安倍さんが、おむかえに来てくれる約束をしてくれた。
だから夕ごはんを食べおわった後、
「あのね。学校の音楽室に、ネコの声のおばけがでるんだって」
「みゃ~」
わたしは家の2階にある自分の部屋で、ネコポチと遊んでいた。
ネコポチっていうのは、わたしの家のネコ。
とってもかわいい、茶トラの子ネコなんだよ。
「ネコポチと友だちになれるかな?」
「みゃ~」
そのとき、ケータイがなった。
ゾマからだ。
『チャビーちゃん、ごめんね。パパが夜にお出かけしたらダメって……』
「ええー!?」
わたしはビックリした。
「それじゃあ仕方がないよね……」
『ごめんね、チャビーちゃん』
ゾマはしょんぼりした声で言った。
ここだけの話ね、ゾマのパパはマイのことを悪い子だって思ってるの。
男の子みたいな話し方をするからかな?
だからゾマのパパは、きっとゾマがマイとお出かけするのがイヤだったんだ。
もちろん、ふつうなら、そもそも夜に子どもだけでお出かけするのがダメだ。
あぶないもん。
でも、あたしたちの場合はちがうんだ。なぜかっていうとね……
「チカ! お友だちがいらっしゃったわよ!」
「はーい!」
ママがよんだ。
安倍さんがむかえに来てくれたんだ。
「それじゃあゾマ、おばけがいたらケータイで写真をとって、おくるね」
『うん、ありがとう』
「行ってくるね、ネコポチ」
「なぁ~」
ゾマとネコポチにあいさつして、かいだんをかけ下りた。
げんかんの外では、安倍さんが車で待っていた。
安倍さんの家はガードマンの会社だから、安倍さんの家の車は、マンガに出てくるみたいにゴツクて大きくて、ガードマンさんが乗ってるの。
てっぽうでうたれてもへっちゃらなんだって!
こんな車でお出かけするなら、夜のお出かけもあぶなくない。
「チカ、お友だちにめいわくをかけないようにね」
「わかってるよ! ママもネコポチをお願いね」
「むすめをよろしくお願いします」
「かしこまりました。チカさまを、しっかりおあずかりいたします」
安倍さんのしつじさんはとってもれいぎ正しい。
だから、安倍さんのことをアスカさまってよぶ。
それに、わたしのこともチカさまってよんでくれるの。エヘヘ。
「日比野さん、ネコポチちゃんは元気?」
言いながら安倍さんはげんかんをのぞきこむ。
「うん! 今はわたしの部屋で遊んでるよ」
「そう……」
ひょっとしてネコポチと遊びたかったのかな?
それじゃあ今度、安倍さんを遊びにさそわないと!
「よっ、チャビー。ちゃんと起きてられたか?」
車にはマイが乗っていた。
わたしもガードマンさんにドアを開けてもらって、マイのとなりにすわる。
その後に安倍さんもすわる。
安倍さんの車は大きいから、横に3人すわってもラクチンだ。
「あのね、ゾマがこられないって」
「ま、そんなこったろうと思った……」
マイはゾマのおかしが食べられなくて、残念そうに言った。
「しゃーない。どろぼうをぶちのめして、とっとと帰るぞ」
「どろぼうなんていないわよ」
安倍さんがマイをにらむ。
そんなふうにして、車は夜の学校に向かった。
「ボス、みなさん、お待ちしてたっす」
学校の入り口では、ガードマンさんが待っていた。
名前はベティさん。
丸顔でのっぽな、とっても大きな女の人だ。
いつもニコニコ笑っている。
「学校は今夜も平和ですよ」
むしゃむしゃ。
ササミスティックを食べる。
体の大きなベティさんは、マイみたいに食いしんぼうだ。
だから、いつもササミスティックを食べている。
「それにしても、夜のシサツなんて急な話っすね」
シサツっていうのは、会社のえらい人が、みんなが仕事してるか見回ること。
そして安倍さんは、ガードマンの会社の社長の子だ。
だから、ガードマンさんの仕事をシサツしたいって言えば、夜の学校にだって入れる。安倍さんってばスゴイ!
「今日はあたしひとりしかいないんで、ついて行ってあげられないんすよ」
ガードマンさんはいつもは2人で見はりをしている。
ベティさんも、いつもはもうひとりの人といっしょに見はりをしてる。
でも今日は、その人はお休みみたいだ。
「けど、ボスとマイナさまがいれば、たいていのことはなんとかなるっす」
こんなに信用されてるなんて、やっぱり安倍さんはスゴイ!
わたしたちは本当は音楽室のおばけを調べに来たんだ。
だから、そっちのほうがいい。
……けど、
「……ニコッ」
むしゃむしゃ。
ベティさんは、さっきから不自然なタイミングでニコッってしてから、ササミを食べている。
「何やってるんだ? あんたは」
マイが首をかしげた。
「いやですね、生徒さんのお母さんから、あたしがこわがられてるってクレームがあったんすよ」
えー!
ベティさんは体は大きいけど、丸顔でいつもニコニコしてて、面白いこともたくさん言ってくれるのに!
「で、こわく見えないようにしてるっす」
「顔じゃなくて、せが高いからこわいんじゃないのか?」
「じゃ、こうすればいいっすね!」
ベティさんは後ろを向いて、えびぞりになった。
のっぽのベティさんがそんなことをすると、とてもおかしい。
だから、わたしは思わず笑っちゃった。
やっぱりベティさんはこわくなんかない。面白い。でも、
「まじめに仕事をしてください」
安倍さんにおこられちゃった。
でもベティさんは笑顔のままで、
「まじめに見はりしてますので、ボスは校内の見回りをお願いっす」
「はーい」
わたしも元気に返事を返して、わたしたちは校舎に向かった。
そして3人で、夜のろうかを歩く。
真っ暗なろうかを、安倍さんが持ったライトの明かりが、ゆらゆら照らす。
夜の学校はしいんと静まり返っていて、毎日来てるはずなのに、なんだか別の世界に来たみたい。暗がりから何かが飛び出してきそうでちょっとコワイ。
まどの外で何か動いた気がして、思わずマイのうでにしがみついた。
「なんだよチャビー。歩きにくいだろ」
マイはもんくを言ったけど、わたしにあわせてゆっくり歩いてくれた。
見た目はスマートなマイだけど、太くてたくましいうではキン肉でカチカチだ。
「しょうがないわね」
安倍さんも、わたしを守るみたいに反対側を歩いてくれた。
クールでキリッとした安倍さんは、近くにいてくれると、とても安心する。
それに、2人ともすごくやさしい。エヘヘ。でも、
ガタッ!
「ひゃあっ!」
いきなり大きな物音がした!
わたしはマイのうでに思いっきりしがみつく。
でも、マイと安倍さんは、こわがったりせずに、
「音楽室の方からだ。本当にどろぼうなんじゃないのか?」
「だとしたら、ベティとしっかり話をしないと」
「ま、つかまえてみれば、わかるさ」
そんなことを言いながら、マイはわたしを引きはがして安倍さんにおしつける。
そして音楽室の方に走っていった。
「マイ! まって!」
わたしだって、いつまでもこわがってなんていられない!
安倍さんといっしょにマイを追いかける。
音楽室のドアはキチンとしまっている。
まどの中は真っ暗で、何も見えない。
だれもいないんだから、あたりまえだよね。けど、
「おまえたち! かーえーれー!!」
おどろおどろしい声がして、いきなりまどの明かりがついた。
まどには、大きなカイジュウみたいなかげがうつっている!
「ホントにおばけがいた!?」
わたしはビックリして、悲鳴をあげた。
けど、マイはぜんぜんこわがったりしないで、
「おばけの正体をあばいてやる!」
ドアに飛びついた。
さっすがマイ! たよりになる!
でも……、
「……あれ、あかないぞ」
「何やってるのよ」
安倍さんもいっしょにドアを開けようとするけど、ドアは開かない。
まさか、おばけのしわざ!?
でも、マイと安倍さんは、ぜんぜんこわがったりせずに、
「くそったれ! つっかえぼうかなんかで固定してやがる」
マイはドアをガコガコ動かす。
「開けられる場所があるかもしれないわ」
安倍さんはまどをひとつづつ調べ始めた。
2人とも、すごくたよりになる!
わたしもがんばらないと!
そう思ったとたん、
「ちゃんとしまっていないまどが、ひとつあるわ。まどがこわれてて、ちゃんとしまらないのかしら?」
「おっ、ドアがちょっと開いた」
ドアが少し開いて、すきまが空いた。
マイってば、すごい!
「やめろ! おまえたち! かえれー!!」
まどにうつった大きなかげはプルプルふるえながら、大声でさけぶ。
マイと安倍さんがぜんぜんこわがらないから、はんたいビックリしたみたい。
そんなマイと安倍さんは、いっしょにドアを引っぱる。
すきまがどんどん大きくなる。
「チャビーも手伝ってくれ」
「うん!」
わたしもマイと安倍さんといっしょにドアを引っぱる。
「やーめーろー!!」
声があせった感じでさけぶ。
そのとき、
「君たち、なにをやっとるのかね!?」
後ろから、ゾマのパパの声がした。
マイはビックリしてとびあがった。
「チャビーちゃん、マイちゃん、アスカちゃん。こんばんは」
「わーい、ゾマだ! でも、どうして来られたの?」
「パパとママとお話して、パパといっしょなら来てもいいって言ってもらったの」
そっか。ゾマはいっしょうけんめい、パパと話し合ってくれたんだね。
ゾマのパパも、しんぱいだからゾマについてきてくれたんだ。やさしいなー。
でもゾマのパパは、マイを見つけてギロリとにらんだ。
マイは「ひい」って首をすくめた。
ゾマのパパはマイのことを悪い子だって思ってるんだ。
でもゾマはニッコリ笑って、
「お夜食は、お魚のクッキーだよ」
小さなふくろを開けた。
「ネコのおばけちゃんも食べられるように、お塩を使わないで焼いたの」
中にはお魚の形をしたクッキーがいっぱいつまっている。
「わー! お魚の良いにおいがする!」
あんまりにも良いにおいだから、わたしはニッコリ笑う。
マイも安倍さんも、ゾマのパパも笑う。
そのとき、
「にゃ~」
ドアのすきまから子ネコがでてきた。
黒とグレーのしましまの、ちっちゃくてかわいい子ネコだ。
「この子はアメリカンショートヘアね」
頭の良い安倍さんが、メガネの位置をくいって直しながら言った。
そして、
「ああっ!? ルージュ待って!」
ドアの向こうで女の子の声がして、大きなかげはしゅんとうなだれた。
それからドアがガタガタゆれて、
「あ!」
ちいさな女の子が出てきた。
子ネコは女の子のうでの中に飛びこんで、「なぁ~」と鳴いた。
「おばけの正体はあんたたちか」
マイが言った。
ゾマのクッキーのにおいで、おばけが子ネコと女の子になって出てきた!
それに、この子、どこかで見た覚えが……
あっ!
昼間に聞きこみをしたときに、にげていった子だ!
「あなたは、3年生の、いちのせえり子ちゃんね」
メガネをくいってしながら安倍さんが言うと、女の子はこくりとうなずいた。
安倍さん、それ好きなんだね。
でも安倍さんはガードマンの会社の子だ。
だから3年生の子の名前まで知ってるんだ。すごい!
「えり子ちゃん、ネコちゃん、クッキーを食べる?」
ゾマはふくろを差し出す。
すると、えり子ちゃんはクッキーを2まいもらって、1まいを食べた。
もう1まいを子ネコにさしだすと、子ネコはおいしそうにかじる。
「なぁ~」
子ネコはえり子ちゃんを見上げて、うれしそうにないた。
えり子ちゃんと子ネコは仲良しなんだ。
「えり子ちゃん、どうしてこんなことをしたの?」
ゾマはやさしく問いかけた。
「それは……」
えり子ちゃんはポツリ、ポツリと話しはじめた。
えり子ちゃんは学校の帰りに子ネコを見つけたの。
でも、そこは車がたくさん通るから、学校に連れてきて、音楽室でこっそりお世話をしていたの。ルージュっていうのは、えり子ちゃんがつけた子ネコの名前。
ネコポチのときといっしょだ。
わたしは、ふと、思いだす。
ネコポチも、家の近くの人のいないビルで、鳴いているところを見つけて、わたしがお世話をしていたの。
でも、ある日、いつものビルからいなくなって、いろんなところをさがしたの。
まい子ネコのはり紙をたくさん作って、はった。
マイや安倍さんやテックにもさがしてもらた。
そして、やっと見つかったの。
それから、パパとママにお願いして、家の子にしてもらった。
でも、えり子ちゃんの家はパパがいなくてお金もないんだって。
だからネコはかえない。
ネコをかうには、ごはんや、すな場のすなを買わないといけない。
それに、病気になったら病院に連れて行かないといけない。
たくさんお金がかかるの。
だから、えり子ちゃんは給食のパンやおかずを残して取っておいて、夕方にこっそり音楽室に来て、ネコちゃんにあげてたの。
でも、パンくずがこぼれていたり、ネコの鳴き声を聞かれたりした。
だから、おばけがいるってうわさになっちゃった。
そして、わたしたちは3年生の子たちに音楽室のおばけのことをたずねた。
わたしたちが音楽室を調べて、子ネコがいるってバレたら、ルージュが追い出されちゃうかもしれない。えり子ちゃんは、そう思ったんだ。
だから、おばけのふりをして追い返そうとしたの。
学校が終わってからも帰らずに、ずっと音楽室にかくれていたんだって。
外から入ってきたわけじゃないから、ベティさんにも見つからない。
そして、さっきのおばけはテーブルやイスを積み上げて、カーテンをかぶせて作ったの。おばけの声は音楽室の機械で作ったんだって。
はじめて見たときはこわかったけど、あんなのを作っちゃうなんて、すごい!
でも、このままルージュを音楽室でかうわけにはいかない。
先生や、ほかのだれかに見つかったら、ほんとうに追い出されちゃうからだ。
でも、でも、どうしよう?
わたしは考える。
そのとき、
ガラガラガラ!
えり子ちゃんが積み上げていたテーブルやイスが、くずれた。
しかも大きなテーブルが、ドアから飛び出してきた!
「あっ!」
テーブルはえり子ちゃんとゾマめがけて飛んで――
「あぶない!」
マイがえり子ちゃんたちをかばった。
ドスン!
テーブルはマイのせなかにぶつかった。
はねかえって、ズドン! って、ろうかに落ちて、ゴロゴロころがる。
「マイちゃん!」
「マイナ君!?」
「……!?」
ゾマもゾマのパパも、えり子ちゃんも、ビックリしてマイを見た。
「イテテ。あんな大きなテーブルを、どうやって積んだんだ?」
マイは顔をしかめながら笑った。
「マイナ君! わたしといっしょに病院に行きなさい!」
ゾマのパパはあせって言った。
「いや、このくらい平気だよ」
「何をバカなことを言っておるんだ! ケガをしていたら大変だろう!」
わらってヒラヒラ手をふるマイを、ゾマのパパはおこった。
いつもはゾマにすごくやさしいのに、こんなにおこるなんて、ビックリだ。
でも、わたしも同じ気持ちだ。
あんなに大きなつくえがぶつかって、いたくないはずないもん。
ゾマだって泣きそうな顔でマイを見ている。
えり子ちゃんも、しゅんとした顔をしている。
「ここは、わたしたちで何とかします」
安倍さんが、落ちついてそう言ってくれた。
なので、マイとわたしとゾマは、ゾマのパパの車で病院に行った。
ゾマは車に乗っている間、ずっとマイを心配していた。でも、
「かすりキズひとつない! テーブルがぶつかったなんて信じられん!」
マイを見てくれたお医者さんは、ビックリしていた。
「カチカチのキン肉で、テーブルをはね返したんじゃ。なんてきたえぬかれた、鉄のような肉体じゃ! スゴイ! スゴイ!」
「マイちゃん、よかった」
ゾマは安心して、マイにしがみついて泣いた。
ゾマのパパも、ほっとして、お医者さんにお礼を言った。
マイがケガしてなくて、本当に良かった!
「だから平気だって言ったろ?」
マイはくすぐったそうに笑った。
「……むすめをかばってくれて、ありがとう」
ゾマのパパが、小さな声でそう言った。
マイは「そんなの当然だよ」って言って笑った。
ゾマのパパは、マイのことを悪い子だって思ってた。
でもマイは、ゾマを守ってくれた。
これでゾマのパパも、マイのことを見なおしてくれたかな?
そうしていると、ケータイに着信があった。
安倍さんからのメールだ。
安倍さんとベティさんとえり子ちゃんで、がんばって音楽室のつくえを元にもどしたそうだ。よかった。
ゆかやテーブルがちょっと凹んじゃったから、明日、先生にあやまるんだって。
ルージュちゃんは、今夜はベティさんがあずかることになった。
えり子ちゃんは、安倍さんの家の車で家まで送ってもらった。
だから、わたしたちも安心して家に帰った。
だから夕ごはんを食べおわった後、
「あのね。学校の音楽室に、ネコの声のおばけがでるんだって」
「みゃ~」
わたしは家の2階にある自分の部屋で、ネコポチと遊んでいた。
ネコポチっていうのは、わたしの家のネコ。
とってもかわいい、茶トラの子ネコなんだよ。
「ネコポチと友だちになれるかな?」
「みゃ~」
そのとき、ケータイがなった。
ゾマからだ。
『チャビーちゃん、ごめんね。パパが夜にお出かけしたらダメって……』
「ええー!?」
わたしはビックリした。
「それじゃあ仕方がないよね……」
『ごめんね、チャビーちゃん』
ゾマはしょんぼりした声で言った。
ここだけの話ね、ゾマのパパはマイのことを悪い子だって思ってるの。
男の子みたいな話し方をするからかな?
だからゾマのパパは、きっとゾマがマイとお出かけするのがイヤだったんだ。
もちろん、ふつうなら、そもそも夜に子どもだけでお出かけするのがダメだ。
あぶないもん。
でも、あたしたちの場合はちがうんだ。なぜかっていうとね……
「チカ! お友だちがいらっしゃったわよ!」
「はーい!」
ママがよんだ。
安倍さんがむかえに来てくれたんだ。
「それじゃあゾマ、おばけがいたらケータイで写真をとって、おくるね」
『うん、ありがとう』
「行ってくるね、ネコポチ」
「なぁ~」
ゾマとネコポチにあいさつして、かいだんをかけ下りた。
げんかんの外では、安倍さんが車で待っていた。
安倍さんの家はガードマンの会社だから、安倍さんの家の車は、マンガに出てくるみたいにゴツクて大きくて、ガードマンさんが乗ってるの。
てっぽうでうたれてもへっちゃらなんだって!
こんな車でお出かけするなら、夜のお出かけもあぶなくない。
「チカ、お友だちにめいわくをかけないようにね」
「わかってるよ! ママもネコポチをお願いね」
「むすめをよろしくお願いします」
「かしこまりました。チカさまを、しっかりおあずかりいたします」
安倍さんのしつじさんはとってもれいぎ正しい。
だから、安倍さんのことをアスカさまってよぶ。
それに、わたしのこともチカさまってよんでくれるの。エヘヘ。
「日比野さん、ネコポチちゃんは元気?」
言いながら安倍さんはげんかんをのぞきこむ。
「うん! 今はわたしの部屋で遊んでるよ」
「そう……」
ひょっとしてネコポチと遊びたかったのかな?
それじゃあ今度、安倍さんを遊びにさそわないと!
「よっ、チャビー。ちゃんと起きてられたか?」
車にはマイが乗っていた。
わたしもガードマンさんにドアを開けてもらって、マイのとなりにすわる。
その後に安倍さんもすわる。
安倍さんの車は大きいから、横に3人すわってもラクチンだ。
「あのね、ゾマがこられないって」
「ま、そんなこったろうと思った……」
マイはゾマのおかしが食べられなくて、残念そうに言った。
「しゃーない。どろぼうをぶちのめして、とっとと帰るぞ」
「どろぼうなんていないわよ」
安倍さんがマイをにらむ。
そんなふうにして、車は夜の学校に向かった。
「ボス、みなさん、お待ちしてたっす」
学校の入り口では、ガードマンさんが待っていた。
名前はベティさん。
丸顔でのっぽな、とっても大きな女の人だ。
いつもニコニコ笑っている。
「学校は今夜も平和ですよ」
むしゃむしゃ。
ササミスティックを食べる。
体の大きなベティさんは、マイみたいに食いしんぼうだ。
だから、いつもササミスティックを食べている。
「それにしても、夜のシサツなんて急な話っすね」
シサツっていうのは、会社のえらい人が、みんなが仕事してるか見回ること。
そして安倍さんは、ガードマンの会社の社長の子だ。
だから、ガードマンさんの仕事をシサツしたいって言えば、夜の学校にだって入れる。安倍さんってばスゴイ!
「今日はあたしひとりしかいないんで、ついて行ってあげられないんすよ」
ガードマンさんはいつもは2人で見はりをしている。
ベティさんも、いつもはもうひとりの人といっしょに見はりをしてる。
でも今日は、その人はお休みみたいだ。
「けど、ボスとマイナさまがいれば、たいていのことはなんとかなるっす」
こんなに信用されてるなんて、やっぱり安倍さんはスゴイ!
わたしたちは本当は音楽室のおばけを調べに来たんだ。
だから、そっちのほうがいい。
……けど、
「……ニコッ」
むしゃむしゃ。
ベティさんは、さっきから不自然なタイミングでニコッってしてから、ササミを食べている。
「何やってるんだ? あんたは」
マイが首をかしげた。
「いやですね、生徒さんのお母さんから、あたしがこわがられてるってクレームがあったんすよ」
えー!
ベティさんは体は大きいけど、丸顔でいつもニコニコしてて、面白いこともたくさん言ってくれるのに!
「で、こわく見えないようにしてるっす」
「顔じゃなくて、せが高いからこわいんじゃないのか?」
「じゃ、こうすればいいっすね!」
ベティさんは後ろを向いて、えびぞりになった。
のっぽのベティさんがそんなことをすると、とてもおかしい。
だから、わたしは思わず笑っちゃった。
やっぱりベティさんはこわくなんかない。面白い。でも、
「まじめに仕事をしてください」
安倍さんにおこられちゃった。
でもベティさんは笑顔のままで、
「まじめに見はりしてますので、ボスは校内の見回りをお願いっす」
「はーい」
わたしも元気に返事を返して、わたしたちは校舎に向かった。
そして3人で、夜のろうかを歩く。
真っ暗なろうかを、安倍さんが持ったライトの明かりが、ゆらゆら照らす。
夜の学校はしいんと静まり返っていて、毎日来てるはずなのに、なんだか別の世界に来たみたい。暗がりから何かが飛び出してきそうでちょっとコワイ。
まどの外で何か動いた気がして、思わずマイのうでにしがみついた。
「なんだよチャビー。歩きにくいだろ」
マイはもんくを言ったけど、わたしにあわせてゆっくり歩いてくれた。
見た目はスマートなマイだけど、太くてたくましいうではキン肉でカチカチだ。
「しょうがないわね」
安倍さんも、わたしを守るみたいに反対側を歩いてくれた。
クールでキリッとした安倍さんは、近くにいてくれると、とても安心する。
それに、2人ともすごくやさしい。エヘヘ。でも、
ガタッ!
「ひゃあっ!」
いきなり大きな物音がした!
わたしはマイのうでに思いっきりしがみつく。
でも、マイと安倍さんは、こわがったりせずに、
「音楽室の方からだ。本当にどろぼうなんじゃないのか?」
「だとしたら、ベティとしっかり話をしないと」
「ま、つかまえてみれば、わかるさ」
そんなことを言いながら、マイはわたしを引きはがして安倍さんにおしつける。
そして音楽室の方に走っていった。
「マイ! まって!」
わたしだって、いつまでもこわがってなんていられない!
安倍さんといっしょにマイを追いかける。
音楽室のドアはキチンとしまっている。
まどの中は真っ暗で、何も見えない。
だれもいないんだから、あたりまえだよね。けど、
「おまえたち! かーえーれー!!」
おどろおどろしい声がして、いきなりまどの明かりがついた。
まどには、大きなカイジュウみたいなかげがうつっている!
「ホントにおばけがいた!?」
わたしはビックリして、悲鳴をあげた。
けど、マイはぜんぜんこわがったりしないで、
「おばけの正体をあばいてやる!」
ドアに飛びついた。
さっすがマイ! たよりになる!
でも……、
「……あれ、あかないぞ」
「何やってるのよ」
安倍さんもいっしょにドアを開けようとするけど、ドアは開かない。
まさか、おばけのしわざ!?
でも、マイと安倍さんは、ぜんぜんこわがったりせずに、
「くそったれ! つっかえぼうかなんかで固定してやがる」
マイはドアをガコガコ動かす。
「開けられる場所があるかもしれないわ」
安倍さんはまどをひとつづつ調べ始めた。
2人とも、すごくたよりになる!
わたしもがんばらないと!
そう思ったとたん、
「ちゃんとしまっていないまどが、ひとつあるわ。まどがこわれてて、ちゃんとしまらないのかしら?」
「おっ、ドアがちょっと開いた」
ドアが少し開いて、すきまが空いた。
マイってば、すごい!
「やめろ! おまえたち! かえれー!!」
まどにうつった大きなかげはプルプルふるえながら、大声でさけぶ。
マイと安倍さんがぜんぜんこわがらないから、はんたいビックリしたみたい。
そんなマイと安倍さんは、いっしょにドアを引っぱる。
すきまがどんどん大きくなる。
「チャビーも手伝ってくれ」
「うん!」
わたしもマイと安倍さんといっしょにドアを引っぱる。
「やーめーろー!!」
声があせった感じでさけぶ。
そのとき、
「君たち、なにをやっとるのかね!?」
後ろから、ゾマのパパの声がした。
マイはビックリしてとびあがった。
「チャビーちゃん、マイちゃん、アスカちゃん。こんばんは」
「わーい、ゾマだ! でも、どうして来られたの?」
「パパとママとお話して、パパといっしょなら来てもいいって言ってもらったの」
そっか。ゾマはいっしょうけんめい、パパと話し合ってくれたんだね。
ゾマのパパも、しんぱいだからゾマについてきてくれたんだ。やさしいなー。
でもゾマのパパは、マイを見つけてギロリとにらんだ。
マイは「ひい」って首をすくめた。
ゾマのパパはマイのことを悪い子だって思ってるんだ。
でもゾマはニッコリ笑って、
「お夜食は、お魚のクッキーだよ」
小さなふくろを開けた。
「ネコのおばけちゃんも食べられるように、お塩を使わないで焼いたの」
中にはお魚の形をしたクッキーがいっぱいつまっている。
「わー! お魚の良いにおいがする!」
あんまりにも良いにおいだから、わたしはニッコリ笑う。
マイも安倍さんも、ゾマのパパも笑う。
そのとき、
「にゃ~」
ドアのすきまから子ネコがでてきた。
黒とグレーのしましまの、ちっちゃくてかわいい子ネコだ。
「この子はアメリカンショートヘアね」
頭の良い安倍さんが、メガネの位置をくいって直しながら言った。
そして、
「ああっ!? ルージュ待って!」
ドアの向こうで女の子の声がして、大きなかげはしゅんとうなだれた。
それからドアがガタガタゆれて、
「あ!」
ちいさな女の子が出てきた。
子ネコは女の子のうでの中に飛びこんで、「なぁ~」と鳴いた。
「おばけの正体はあんたたちか」
マイが言った。
ゾマのクッキーのにおいで、おばけが子ネコと女の子になって出てきた!
それに、この子、どこかで見た覚えが……
あっ!
昼間に聞きこみをしたときに、にげていった子だ!
「あなたは、3年生の、いちのせえり子ちゃんね」
メガネをくいってしながら安倍さんが言うと、女の子はこくりとうなずいた。
安倍さん、それ好きなんだね。
でも安倍さんはガードマンの会社の子だ。
だから3年生の子の名前まで知ってるんだ。すごい!
「えり子ちゃん、ネコちゃん、クッキーを食べる?」
ゾマはふくろを差し出す。
すると、えり子ちゃんはクッキーを2まいもらって、1まいを食べた。
もう1まいを子ネコにさしだすと、子ネコはおいしそうにかじる。
「なぁ~」
子ネコはえり子ちゃんを見上げて、うれしそうにないた。
えり子ちゃんと子ネコは仲良しなんだ。
「えり子ちゃん、どうしてこんなことをしたの?」
ゾマはやさしく問いかけた。
「それは……」
えり子ちゃんはポツリ、ポツリと話しはじめた。
えり子ちゃんは学校の帰りに子ネコを見つけたの。
でも、そこは車がたくさん通るから、学校に連れてきて、音楽室でこっそりお世話をしていたの。ルージュっていうのは、えり子ちゃんがつけた子ネコの名前。
ネコポチのときといっしょだ。
わたしは、ふと、思いだす。
ネコポチも、家の近くの人のいないビルで、鳴いているところを見つけて、わたしがお世話をしていたの。
でも、ある日、いつものビルからいなくなって、いろんなところをさがしたの。
まい子ネコのはり紙をたくさん作って、はった。
マイや安倍さんやテックにもさがしてもらた。
そして、やっと見つかったの。
それから、パパとママにお願いして、家の子にしてもらった。
でも、えり子ちゃんの家はパパがいなくてお金もないんだって。
だからネコはかえない。
ネコをかうには、ごはんや、すな場のすなを買わないといけない。
それに、病気になったら病院に連れて行かないといけない。
たくさんお金がかかるの。
だから、えり子ちゃんは給食のパンやおかずを残して取っておいて、夕方にこっそり音楽室に来て、ネコちゃんにあげてたの。
でも、パンくずがこぼれていたり、ネコの鳴き声を聞かれたりした。
だから、おばけがいるってうわさになっちゃった。
そして、わたしたちは3年生の子たちに音楽室のおばけのことをたずねた。
わたしたちが音楽室を調べて、子ネコがいるってバレたら、ルージュが追い出されちゃうかもしれない。えり子ちゃんは、そう思ったんだ。
だから、おばけのふりをして追い返そうとしたの。
学校が終わってからも帰らずに、ずっと音楽室にかくれていたんだって。
外から入ってきたわけじゃないから、ベティさんにも見つからない。
そして、さっきのおばけはテーブルやイスを積み上げて、カーテンをかぶせて作ったの。おばけの声は音楽室の機械で作ったんだって。
はじめて見たときはこわかったけど、あんなのを作っちゃうなんて、すごい!
でも、このままルージュを音楽室でかうわけにはいかない。
先生や、ほかのだれかに見つかったら、ほんとうに追い出されちゃうからだ。
でも、でも、どうしよう?
わたしは考える。
そのとき、
ガラガラガラ!
えり子ちゃんが積み上げていたテーブルやイスが、くずれた。
しかも大きなテーブルが、ドアから飛び出してきた!
「あっ!」
テーブルはえり子ちゃんとゾマめがけて飛んで――
「あぶない!」
マイがえり子ちゃんたちをかばった。
ドスン!
テーブルはマイのせなかにぶつかった。
はねかえって、ズドン! って、ろうかに落ちて、ゴロゴロころがる。
「マイちゃん!」
「マイナ君!?」
「……!?」
ゾマもゾマのパパも、えり子ちゃんも、ビックリしてマイを見た。
「イテテ。あんな大きなテーブルを、どうやって積んだんだ?」
マイは顔をしかめながら笑った。
「マイナ君! わたしといっしょに病院に行きなさい!」
ゾマのパパはあせって言った。
「いや、このくらい平気だよ」
「何をバカなことを言っておるんだ! ケガをしていたら大変だろう!」
わらってヒラヒラ手をふるマイを、ゾマのパパはおこった。
いつもはゾマにすごくやさしいのに、こんなにおこるなんて、ビックリだ。
でも、わたしも同じ気持ちだ。
あんなに大きなつくえがぶつかって、いたくないはずないもん。
ゾマだって泣きそうな顔でマイを見ている。
えり子ちゃんも、しゅんとした顔をしている。
「ここは、わたしたちで何とかします」
安倍さんが、落ちついてそう言ってくれた。
なので、マイとわたしとゾマは、ゾマのパパの車で病院に行った。
ゾマは車に乗っている間、ずっとマイを心配していた。でも、
「かすりキズひとつない! テーブルがぶつかったなんて信じられん!」
マイを見てくれたお医者さんは、ビックリしていた。
「カチカチのキン肉で、テーブルをはね返したんじゃ。なんてきたえぬかれた、鉄のような肉体じゃ! スゴイ! スゴイ!」
「マイちゃん、よかった」
ゾマは安心して、マイにしがみついて泣いた。
ゾマのパパも、ほっとして、お医者さんにお礼を言った。
マイがケガしてなくて、本当に良かった!
「だから平気だって言ったろ?」
マイはくすぐったそうに笑った。
「……むすめをかばってくれて、ありがとう」
ゾマのパパが、小さな声でそう言った。
マイは「そんなの当然だよ」って言って笑った。
ゾマのパパは、マイのことを悪い子だって思ってた。
でもマイは、ゾマを守ってくれた。
これでゾマのパパも、マイのことを見なおしてくれたかな?
そうしていると、ケータイに着信があった。
安倍さんからのメールだ。
安倍さんとベティさんとえり子ちゃんで、がんばって音楽室のつくえを元にもどしたそうだ。よかった。
ゆかやテーブルがちょっと凹んじゃったから、明日、先生にあやまるんだって。
ルージュちゃんは、今夜はベティさんがあずかることになった。
えり子ちゃんは、安倍さんの家の車で家まで送ってもらった。
だから、わたしたちも安心して家に帰った。
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