銃弾と攻撃魔法・無頼の少女

立川ありす

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第21章 狂える土

共同戦線2

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 少しばかりキナ臭い催しのあった土曜の夕方。
 埼玉の一角で――

「――さっすが機動隊。さっきの今で鎮圧完了だぜ」
「見事な手際でゴザルなあ」
「それでも戦場跡みたいな有様でやんすねー」
「まあ、それは仕方がないですよ」
 暴動の熱もすっかり冷めた大通りを歩きながら舞奈は苦笑する。
 ドルチェややんすやフラン、他の皆も異口同音に同意する。

 先ほど通った時にはあれほど無茶苦茶に暴れまわっていた狂える土どもは、舞奈たちが支部に行っている間に警官たちが連れて行ってくれたらしい。
 ボロボロになった大通りには、警戒しつつも市民が普通に歩いている。
 戦場跡みたいとは言うものの、舞奈が見慣れた弾痕や大規模破壊の痕、物騒な染みなんかはないので人さえ戻ってしまえば平和な土曜の午後の街だ。
 他の狂える土どももいなくなったので、むしろ普段より穏やかまである。

 そんな大通りを、一行は自警団の事務所に向かって歩いていた。
 先方から通報があったからだ。
 なんでも、ここ数日の狂える土どもに不穏な動きがあったらしい。
 それも違法薬物の密売が関わった。
 先ほどの暴動を目の当たりにした後では放っておけない情報だ。

「……確か事務所はこっちでやんすね?」
「この前来た時はそうだったな」
 一行は大通りを少し外れ、他の場所に比べて小奇麗な通りを歩く。
 感覚が鋭いだけでなく修羅場慣れした舞奈は、一度歩いた道を忘れない。

 ちなみに自警団の事務所のあるビルは移民が少ない地区にある。
 まあ、無難な場所をアジトにしたなと舞奈は思う。
 近隣の異能力者が集った組織とは言うものの、彼らは移民の違法行為を通報する組織であって、市民の盾になって最前線で怪異と戦う集団じゃない。

 そんな彼らの事務所には、フランが今回のアポをとっておいてくれたらしい。
 なので舞奈たちは行って話をすれば良い。
 流石は大人の組織同士のつき合いだ。
 そんな事を考えながら見えてきた事務所のビルを眺めつつ……

「……ひょっとして、【偏光隠蔽ニンジャステルス】で脅かそうとしてたか?」
 舞奈は立ち止まり、側の虚空に向かって声をかける。

「どうしたんすか? 舞奈さん」
「虫でもいたでやんすか?」
 ザンが、やんすが訝しむ。
 ちょっと頭がアレな子を見る目つきなのが地味にムカつく。
 だが舞奈が口をへの字に曲げて、軽く2人を睨んだ途端――

「――いやあバレてしまいましたね」
「うわっ!」
 変哲のない電柱の側の虚空に、滲み出るように何かがあらわれた。
 人だ。しかも微妙に締まりのない体形の。

「流石はさいもんさんだ」
 人の好さそうな照れ笑いを浮かべながら頭をポリポリとかく。
 よれよれになった背広みたいな適当な服を着た、特徴のないおっちゃんだ。
 地元の諜報部に少し雰囲気が似ているか。
 割とシュールな状況ではある。

 ザンとやんすは目を丸くして仰天していた。
 少し気がせいたが、やんすはあんたも【偏光隠蔽ニンジャステルス】だろうと少し思う。

 一緒にフランもビックリしている。
 こちらは、どちらかと言うと(そんな非常識な事をして遊ぶ大人がいるなんて思いませんでした)みたいな顔をしている。
 具体的には以前に舞奈がお尻を触った時と同じ表情だ。
 多人数で事務所に出向く前にアポをとれる常識的な大人は、子供みたいに振る舞う大人に対して割と辛辣だ。
 そんな皆の様子を一瞥して苦笑しながら、

「気配でバレバレなんだ。長生きしたけりゃ、そいつを過信しない方がいい」
「肝に銘じます」
 舞奈はいい気分で指南などしてみる。
 自分より何回りか年下なはずの子供の言葉に、おっちゃんは殊勝にうなずく。
 自警団の面々にとって、舞奈は子供ではなく戦闘のプロだ。

 ……それでも彼らには、見た目とは真逆な真実を理解できる知恵がある。

 なので舞奈も少しばかり仏心を出して、

「あと相手が術者の場合は魔力感知してくるから、普通に隠れるよりバレるぞ」
「えっ? そうなの?」
 続けて言ってみる。
 これには彼もビックリ仰天。

 言ってみた理由は側の冴子だ。
 おそらく舞奈と同じくらいのタイミングで気づいていた。
 だが魔力の量から危険はないと察して様子見してたか、TPOをわきまえたか。
 別に戦闘中でも調査中でもない時に魔力感知を使う癖は、埼玉で仕事をするようになってからついたものらしい。

 もちろん明日香もだ。
 先ほどから一見すると何もない空間を、猫みたいに見ていたのだ。
 だが、こちらも自分から口出しする気はなかったようだ。
 そんな明日香は、

「術者……いわゆる魔法使いは、かいつまんで説明すると多種の異能力を技術によって使いこなす技術者です」
「ひぇ!? そんな人がいるのかい!?」
「はい。味方にも、敵にも。その中でも魔力を察知する魔力感知、ないし魔法感知と呼ばれる探知魔法ディビネーションは基本的な技術です。そもそも魔力というのは――」
 良い気分で術について講釈をたれ始める。

 明日香は知識を溜めこむのと同じくらい、他人に知識を披露するのが好きだ。
 そして異能や術について話していい関係者は、最初から術について知識を持っている事が多い。
 なので一から説明できるのが楽しいのだ。
 そういう所は地味に子供っぽいと思うのだが、今は特にツッコまない。

 何故なら目の前で子供の話を真剣に聞いているおっちゃんは、監視と通報だけとはいえ積極的に怪異と関わろうとしている。
 社会の裏側に隠された闇の存在と。
 その先で術者と――敵の回術士スーフィーと相対するだろう事は想像に難くない。
 そうなった場合に、せめて身構えて生きのびる、あるいは逃げのびる事ができる程度の知識は持っていてほしかった。

 要はザンと同じだ。
 彼らは気の良い男たちだ。
 弱いから、無知だからというつまらない理由で死んでほしくない。

 そんな舞奈の内心など構わず、彼は明日香の言葉を拝聴する。
 単純に自警団に術者がいないから初めて聞いた話なのかもしれない。
 大能力者ほどではないが術者もレアな存在だ。
 なのでメモなど取ったりして、明日香を増長させている。

 ついでにザンやドルチェにとっても初耳な話があったらしい。
 知識マウントの流れ弾を喰らった様子を見やり、ますます明日香が増長する。
 そんな一行の目前で――

「――ひゃっ!? つめたっ!」
 不意におっちゃんが跳び上がった。
 慌てて足元をキョロキョロ見まわす。
 明日香も、舞奈たちも何事かと困惑していると……

「……まだまだ修行がたらぬなー」
「あっ小先生。悪戯やめてくださいよもー」
 事務所ビルの入り口から銀髪の幼女が出てきた。
 メリルだ。

「楽しそうだな……」
 舞奈はやれやれと苦笑する。

 ただの無軌道なだけの銀髪幼女に見えて、彼女は強力な超能力者サイキックだ。
 強力な超能力サイオンで冷気を操り、巨大な氷のヴィランことイエティに変身できる。
 そんな十八番でもある【冷却能力クリオキネシス】で何かしたのだろう。

 授業を邪魔された明日香が不機嫌そうな顔をする。
 だが今日の訪問の理由はそれじゃない。
 なので、ひょいとメリルを担ぎ上げながら……

「おー」
「……ちーっす。邪魔するぜ」
 我が物顔で入館する。
 おっちゃんや他の面子も続く。

「さいもんさん、皆さん、いらっしゃい」
「ささ、こちらへ」
 エントランスにいた別のおっちゃんに案内されるまま一行は奥へ進む。

 自警団のおっちゃん達が舞奈をさいもんさんと呼ぶのは、用心棒をしているキャロルの影響だろう。
 外国人の例に漏れず、舞奈をサィモン・マイナーなんて呼ぶからだ。
 たしか聖書の登場人物に同じ名前の奴がいるのだったか。
 そこら辺の事情を、おっちゃん達は何処まで察しているのやら。

「さいもんさんだ。いらっしゃいませ」
「皆さんも、お待ちしてました」
 応接室にも数人のおっちゃんが詰めていた。
 大きな開放的な窓が印象的な趣味の良い応接間は、普段はおっちゃん達の憩いの場なのだろう。
 うながされるまま腰かけたソファの前のテーブルに、

「どうぞ」
「あっ、すいません」
 さらに別のおっちゃんがお茶を出してくれる。
 普段は支部で同じ事をしているフランが恐縮する。

 この組織がおっちゃんばかりなのには理由がある。
 異能力者だけで構成された組織だからだ。
 おそらく雑事をこなすために人を雇うとかもしていないのだろう。
 趣味のサークルのノリだ。

 そして界隈の常識でもあるが、異能力は若い男にしか発現しない。
 しかも異能力は放っておくと年を経るにつれ衰える。
 実は、おっちゃんの異能力者ばかり集まった集団というのは割と珍しい。
 だから【機関】にスカウトされずに市井の組織でいられるという事情もある。

 それにも増して例外的なのは件の2人の預言者のような大能力者だ。
 大能力者は女性にも発現する。
 だが術者以上に希少なので、自警団にも彼女らしかいない。

 つまり組織のメンバーになる素養がある人がおっちゃんしかいない。

 なので何と言うか……組織全体に色気が足りていない。
 事務所そのものが小太りなおっちゃんがひしめく異様な空間になっている。
 おっちゃんパラダイスだ。
 そんな中、

「話は聞かせてもらったでゴザル。奴らに不穏な動きがあったらしいでゴザルな」
「そうなんですよ」
 特に頓着のないドルチェが話を進める。
 いちおう、この面子のリーダーが彼だという体裁だからだ。
 それにも増して、でっぷり太った彼は早くもおっちゃん達に馴染んでいた。

「その薬物中毒者を診たっていう医者はいるのか?」
 舞奈も問いかけた途端――

「――わたしです」
「うおっ」
 隣で関係ない歓談をしていた集団から、ひとりのおっちゃんが名乗り出た。
 舞奈は地味にビックリする。
 そこにいたとは思わなかったからだ。
 というか、今回の通報の主役がそんなところで油を売ってるとは思わなかった。

 そんな彼も特徴のないおっちゃんだ。
 あえて言うなら頭頂が少し寂しいくらいか。
 おそらくおっちゃんとして……もとい医者として長いキャリアを持つのだろう。
 そんな彼は、

「これを見てください」
 言いつつ封筒から何枚かの写真を取り出し、側のテーブルに並べる。

 資料があるなら、もう少し積極的に話してくれと少し思った。
 だが、それを今ここで言っても余計に話の腰を折るだけだ。
 なので一行と一緒に舞奈もそれを覗きこむ。

 黒地に白い骸骨がぼんやり映っている。
 レントゲンだ。
 いちおう患者の個人情報だし、職業倫理としての守秘義務はあるはずだ。
 だが今の状況では背に腹は代えられないといったところか。
 おっちゃんは骸骨みたいな写真の一部を指差し、

「頭蓋の内部、おそらく脳の一部が陥没しています」
「なるほど、これははっきり映ってますね」
「ちょっと不思議な状態ね。事故じゃなくて薬物中毒なのよね?」
「はい。最初は腫瘍を疑ったのですが……」
 説明する。
 明日香がしたり顔で答える。
 冴子も写真を見やりながら訝しむ。

 なるほど。
 そちらの方面は門外漢な舞奈にもわかる。
 学校の生物室に飾ってあるような脳の一部が、不自然に凹んでいる。
 並べられた写真のすべてが同じだ。

「脳みそが凹んでるって事か」
「まあ、そういう事ですね」
 如何にも小学生な舞奈の反応に、医者のおっちゃんは微笑ましそうに答える。

 だが舞奈は別の事を考えていた。
 例のチップの事だ。
 つまり蜘蛛のブラボーちゃんを魔獣にした例のチップ。
 そしてKoboldのイレブンナイツを強化していた怪異のチップの事だ。

 以前にニュットが言っていた。
 Koboldの騎士たち全員の脳の一部には意味ありげな空間があった。
 例えるならウアブによる回復魔法ネクロロジーを中断したような感じらしい。
 その正体は、埋めこみ型の魔道具アーティファクトないし宝貝パオペエ

 ウアブ魔術が内包する【高度な生命操作】技術による回復魔法ネクロロジーは、魔力を循環させることで長期間の自動的な存続が可能な式神や魔神の創造技術の応用だ。
 そいつで人工の臓器を創ってあてがう事により対象の傷を塞ぎ命を繋ぐ。
 それを半永久化した代物が魔道具アーティファクトだ。
 中でも怪異が用いるものは宝貝パオペエと呼ばれる。
 それらに共通する特性が、破壊されると跡形もなく消えるという事実。

 それと同じものが、今回はドラッグとして怪異どもの間に広まっている?
 そう考えて……

「……そういやあチップって、どうやって体内に入れるんだろうな?」
「さあ……?」
 ふと気づいて、ひとりごちるように問いかける。
 だが隣の明日香も首をかしげるばかり。
 特に気にしていなかったようだ。かく言う舞奈も同じだが。

「何の話でやんすか?」
「いや、ちょっと以前に似たような症状を見かけてな」
 目ざとく首を突っこんできたやんすを雑にあしらい……

「……そう言えばキャロルの奴は今日も昼寝か?」
「いえ、霧島姉妹の護衛をしとりまして」
 問いかけに返ってきた答えに、

「霧島?」
「預言者の彼女たちの事よ。……ですよね?」
 首をかしげた途端に明日香がツッコんでくる。
 言われてみれば、その前にニュースで見た彼女らの親父さんの姓と同じだ。

 3匹の狂った怪異に惨殺された、ひとりの男。
 その娘を誘拐した怪異どもを首尾よく倒し、彼女らを救出したのが舞奈たちと姉妹の最初の出会いだ。

「うん。霧島鈴音ちゃんと静音ちゃん。本来なら僕たちの誰かが護衛すべきなんだろうけど、女の子だしねー」
「そっかー」
 露骨に残念そうな顔をしてみせる。

 巨乳の姉妹に会い損ねたのが何となく損した気分だ。
 まあ彼女らの名前と、事務所との関係も良好らしい事がわかっただけで良しとするしかない。それはともかく……

「……にしても、あいつ。肝心な時にいやがらねぇ」
 口をへの字に曲げる。
 あいつというのはキャロルの事だ。
 顔を出さないなと思って尋ねた途端にこれだ。
 まったく。

 そのドラッグとやらの正体がチップなら、最も有意義な話が聞けるのはキャロルからだと思っていたのに。
 そもそも最初にチップの話をしたのは彼女なのだ。
 そんな事を考えながら内心で苦笑していると……

「……なあ、その薬物中毒者とやらが誰だかはわかってるんだろう?」
 暇を持て余したようにザンが発言した。
 写真を囲んで皆で話しているのに飽きたらしい。
 まったく。

「ええ、まあ。患者のデータはあるし、地元警察に問い合わせれば逮捕された移民の情報もわかるとは思うけど……」
「じゃあさ! この前みたいに殴りこんで一網打尽にしちまおうぜ!」
「えぇ……」
 そのままザンは適当な事を口走る。
 いきなりな発言に冴子が困る。
 そりゃそうだろう。
 傍で聞いていた舞奈も(えぇ……)としかコメントのしようがない。

「おお! お若いの! 頼もしいな!」
「当然だぜ! 何たって俺たちは戦闘のプロだからな!」
 他のおっちゃん達が無責任に持ち上げる。
 ザンは増長して調子の良い事を言って……

「……うわあっ!? 冷たっ!」
 メリルに悪戯されて跳び上がる。
 舞奈はやれやれと肩をすくめる。

「ハハッ! 修業が足らんぞ、戦闘のプロさんよ!」
「そりゃないっすよ舞奈さん~~」
「まてー」
 笑う舞奈の目前で、ザンはメリルに追われて部屋中を逃げ回る。

 どうやらメリルは手元に作った冷気を指弾にしてぶつけているらしい。
 妖術師ソーサラーの一派である超能力者サイキックの手元から離れて飛ぶ冷気の弾丸は、多少の誘導はできるようだが命中した時には冷たいくらいの威力らしい。
 単にそうなるように加減しているだけなのかもしれないが。

 それを舞奈は、今のザンには丁度いい遊びだと思った。
 あの程度をどうにかできなければ、異能力を持つ人型怪異の集団に殴りこむなんて夢のまた夢だ。
 そう考えて少し笑い――

「――おおっと、こりゃ確かに冷たい」
 後ろ向きに手をかざしてニヤリと笑う。
 背後から放たれた冷気の弾丸を受け止めたのだ。

 手元を見やる。
 冷気と言うより小さな氷の弾丸か。
 イエティに変身する時に使う技術の応用かもしれない。

「むむっやるな」
「流石っす」
「流石はさいもんさん!」
 メリルやザン、おっちゃんたちが尊敬の眼差しで見やる。

 どうやらザンを追いかけながら不意をついたつもりらしい。
 だが、その程度を察知する程度は造作ない。
 っていうか、いつかやると思ってたし。

「ひゃっ!?」
「よし。こっちには当たる」
「メリルちゃん酷いっすよ~!」
 メリルとザンは楽しそうに追いかけっこを再開する。
 そんな様子を見やりつつ……

「……でもまあ、何匹か捕まえて【機関】で調べられたら便利だよなあ」
「まあ、それができれば確かに都合はいいけど……」
 ふと思いついた舞奈の言葉に冴子がうなずいて、

「それ、さっきの話とどう違うのよ?」
「捕まえるっていう具体的な目標があるだろう?」
「それなら丁度いい話がありますよ」
「えっ?」
 ケチつけてきた明日香を睨んだ途端、さらに別のおっちゃんが名乗り出た。
 冴子が思わず驚いてみせる。対して、

「いえね、実は……」
 おっちゃんは語り始める。

 話によると、彼の身近に不審なトラックが定期的にあらわれるらしい。
 そのトラックは見るたびにナンバープレートが異なっている。
 運転手も変わるが、どいつも例の移民なのだそうな。
 積荷には常に封がされており、何が運ばれているのかは不明。
 何度か怪しい匂いが漂ってきた事もあるという。

 不審に感じた彼が、ふとトラックを注視していた事があったらしい。
 それに気づいた運転手は、少し焦った様子ですぐさまトラックを発車させた。

 しかも彼は、後にそのトラックが例のコミュニティセンターに荷物を下ろしているのを目撃した。
 そいつが薬物の密輸と関わっているのではないかと疑っているのだ。
 話を聞いた舞奈も同じ見解だ。

「そのトラックがあらわれるタイミングはわかるでゴザルか?」
「過去に見かけた日時をまとめてあるので、見る人が見れば割り出せるかもしれないですね」
「マメだなあ」
 尋ねたドルチェに対する答えに舞奈は少しだけ考え、

「じゃあさ、そいつが出そうな時分を調べて、みんなで見に行こうぜ」
 言って再びニヤリと笑う。

 事務所で資料を見ながら話しているだけでは何も解決しないのは事実だ。
 必要な情報は手に入ったのだから、次は行動するフェイズだ。
 地元警察だって奴らを何十匹も逮捕しているのだし、【機関】で調査のサンプルとして数匹いただいてもバチは当たらないだろう。

 そしてザンはともかく舞奈は疑う余地もなく戦闘のプロだ。
 大通りで見た暴徒程度の相手を捕えるのは造作ない。

 今回の事件を解決する糸口が早くも見えてきた?
 そう舞奈は思った。
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