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第21章 狂える土

再戦に備えて1

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 首狩り殺人鬼を調査すべく一行が赴いた埼玉の一角。
 奴らの住処とおぼしき民家を探ろうとしていたところ、当の犯人に襲われた。
 相手は2匹の回術士スーフィー
 ドレスの男と狂った女。
 どちらも手練れだ。
 予想外の強敵に苦戦する舞奈とドルチェ、ザン。
 舞奈が反撃の糸口をつかんだと思った途端、まさかの3匹目が出現。
 外側から結界に穴を開けて3匹で逃げた。
 つまり被害はないが戦果もなし。

 その様に強敵との遭遇戦を辛くも切り抜けた日の翌日。
 昨日と同じように皆で集った禍我愚痴支部の会議室で……

「諜報部による調査では、その後に犯人に動きはないらしい」
「まあ、それは何よりだが」
 集った皆の前で、爽やかな顔でトーマス氏が告げる。

 先日の調査から無事に帰還した一行は、簡単な報告の後に帰宅した。
 なので今日の今まで事件にはノータッチ。
 その間、奴らの動向には先方の諜報部が目を光らせていてくれたらしい。
 至れり尽くせりだ。
 それでも……

「ただ、今後の行動の予測はつかないとの事だ」
「そりゃそうだろうな」
「まあ、それは……」
「そうでやんすね……」
 続く言葉に舞奈は口をへの字に曲げる。
 明日香も、やんすも、他の面子も異口同音に似たような反応を返す。

 舞奈は戦闘の最中に敵の女と少し話した。
 だが、そもそも会話にならなかった。
 奴が完全にイカレていると確認できただけだ。

 他の皆も戦闘の様子や舞奈の話で奴らの人となりを察していた。
 奴らは見た目が異様なだけじゃない。
 頭の中まで完全に狂っている。
 他の人型の怪異のように人間の欲深さや邪悪さを増長させた感じとは違う。
 脳の回路がまともに繋がっておらず、思考の体をなしていない。
 頭のネジが外れた、とかタガが外れた、とかの言い回しは奴らのためにあるのだろうと思えるほどだ。

 なので、もちろん奴らが何を考えているの理解も予想もできるはずがない。
 流石の諜報部も普通の人間なのだから同様だ。

 つまり、奴らが今この時に大人しくしている理由もわからない。
 何時まで大人しくしていてくれるかもわからない。

 しばらくはなりを潜めていてくれるかもしれない。
 あるいは明日にでも新たな犠牲者を出すかもしれない。

 正直なところ、あの時に奴らがあっさり逃げた理由も予測がつかない。
 問われても、頭がおかしいから? としか答えられない。

 わかっているのは、舞奈たちは再び奴らと戦わなければならないという事だけ。
 頭のイカれた腕の立つ複数の怪異の回術士スーフィー
 奴らを形容する要素の何もかもヤバすぎる。
 少なくとも、放っておけば必ず新たな犠牲者が出る。
 その前に奴らを排除しなければならない。
 それも舞奈たちが埼玉の一角に呼ばれた理由のひとつだ。

 だが戦闘では勝てない、相手の思惑もわからない状態でできることもなく……

「……ま、いいや。それよりトーマスさん」
「なんだい?」
「この支部って、体育館とかあるのか?」
「ああ、訓練場があるよ」
「そりゃ重畳」
 舞奈は嘆息しながらも、皆と一緒に困っていたトーマスに尋ねてみる。
 訝しみながら返ってきた答えに口元をゆるめながら席を立ち、

「ちょっと借りるよ。ザン、組手でもしようぜ!」
「?」
 船をこいでいたザンを小突きながら部屋を出る。
 昨日の戦闘で死にかけてた割に呑気だな! とはツッコまない。

「あ、ちょっと! ミーティングの最中に」
「終わったようなもんだろ。他に話す事あるか?」
 明日香の文句にも軽口を返してスルー。
 なので、

「いいっすね! 俺も会議や調査より身体を動かす方が向いてるんだ!」
「まあ確かに出口のない会議を続けるよりは訓練してた方が有意義でゴザルな」
「やんすねー」
 ザンも気にせず舞奈を追いかけてくる。
 ドルチェとやんすも続き、仕方なく皆もなし崩し的に席を立って会議を終える。

 向き不向きはともかく、今の舞奈たちが会議室て頭をひねっていても無駄だ、
 相手は狂った怪異なのだ。
 まともな人間がまともに考えたって有効な対策なんて思いつかないだろう。
 それより今は少しでも鍛えておきたい。

 何より先日の戦闘でのザンは散々だった。
 別に彼、動作のキレが悪い訳じゃないのだ。
 普通の泥人間あたりを一対一で相手取るくらいなら百点満点の動きはしている。
 だが手練れの術者の相手をするには立ち回りが雑過ぎる。
 度を越えた強敵を相手した経験が少ないからだろう。
 だが敵はこちらの未熟を察して手加減なんかしてくれない。
 次に同じ相手と相対しても先日と同じように彼は案山子だし、下手すれば死ぬ。
 だから少しでも戦闘のイロハを叩きこんでおく必要があると思った。

 ……なので舞奈らは、禍我愚痴支部ビルの別の一角にある訓練室にやって来た。

 ちなみに体術や剣技の練習ができる訓練室は【機関】のたいていの支部にある。
 何故なら執行人エージェントの中核を成す異能力者は一般的に体術を異能力で補って戦う。
 異能力は術と違って単一の能力でしかないからだ。

 とはいえ先方の執行人エージェントも別に四六時中訓練をしている訳ではないのだろう。
 なので今は他に利用者もないその片隅で――

「――【狼牙気功ビーストブレード】も使っていいから、全力でかかってこい」
「待ってました! この前のリターンマッチっす!」
 ザンは自身の異能力【狼牙気功ビーストブレード】で高速化しながら舞奈に切りかかる。
 返事と同時に雷光の如く突進。
 数メートルの距離を一気に詰める。
 両手に構えた、普段の自身の得物に似た2本の小さな木刀を連続で振るう。
 並の人型怪異が相手なら反応すらできないスピード。

「おっ! いい気合いだな!」
 対して舞奈もナイフに見立てた同じサイズの木刀を構えて迎え撃つ。

 そして……

「きゅう」
「……こりゃ酷い」
 舞奈はザンを見下ろしながら口をへの字に曲げる。
 けちょんけちょんにのされた青年は精魂を使い果たしてひっくり返っていた。

「舞奈さんが速すぎるんすよ……」
「いや、それはない。おまえが速いからって無茶苦茶に動きすぎなんだ」
 そもそも【狼牙気功ビーストブレード】はあんただろう。
 倒れ伏したままもごもご言い訳するザンに苦笑しながら思った事を言ってみる。

 実は異能力を加味した単純なスピード勝負なら舞奈よりザンの方が速い。
 舞奈は普通の人間だ。
 単純なスピードが魔法のように速い訳じゃない。
 腕力だってそうだ。極限まで鍛えあげた人間程度でしかない。
 少なくとも今までに下した魔獣や歩行屍俑とは比べるまでもない。
 それでも術や異能力の使い手を相手に互角以上の戦いができるのは、舞奈が卓越した直感とそれを生かした先読みを駆使しているからだ。

 ドルチェも太ましい容姿とは裏腹に同じような事をしているのだろう。
 だから身体を強化する類の異能力者ではないのに【狼牙気功ビーストブレード】以上に動ける。
 だが……

「ええっそんなこと言われても……」
 ザンがそれを理解している様子はあまりなかった。
 そんな2人とは別の場所で……

「……明日香ちゃん、意外に強いのね」
魔術師ウィザードはそちらに専念するものだと思ってました」
「本来はそうありたいのですが、状況が許してくれるとは限りませんし」
「なるほど。じゃあ折角だし、師事をお願いしてもいいかしら?」
「わたしもお願いします」
 冴子とフランを相手に明日香が戦闘技術の手ほどきをしていた。

 明日香は民間警備会社PMSC【安倍総合警備保障】の社長令嬢という立場のせいか、舞奈と出会った3年生の頃には戦闘訓練を終えていた。
 正直、刃物があれば普通に大人を倒せる程度には戦える。
 今も術ほどではないが鍛錬は積んでいるようだ。
 だから舞奈の戦いについて来られる部分もあるのだろう。
 そんな戦場での生き残り方を冴子やフランに少しでも伝えてくれるなら重畳だ。

 さらに隣では、やんすが「ひゃ~」とか言いつつドルチェに投げられている。
 訓練は真面目にやれよと思わなくはない。
 だがやんす氏も真面目にはやってるのであろう……。

 そんな様子をトーマスが他人事のように見ている。
 やれやれだ。

 ……と、まあ、そんな感じに、その日は訓練だけして終わった。

 そして翌日。
 普段通りに登校したホームルーム前の教室で……

「……そんな事があったのね」
「ああ。まったく本当にロクでもない話だよ」
「今回ばかりは同じ意見ね」
 テックの机を囲んで三者三様にいたたまれない表情をする。
 まだ時間も早く人気のないのをいいことに、舞奈と明日香はここ数日の件をだらだらとテックに語っていたのだ。
 そうでもしないとやってられないという理由も少しある。

 何故なら、あの3匹とは近いうちに再戦しなければならない。
 奴らが今日明日のうちに新たな騒ぎを起こす様子はないと信じたい。
 それでも何時までも大人しくしている事はないだろう。
 対策を講じるタイミングが早いに越した事はない。

 だが再び敵の居場所を探り、今のあの面子で再戦しても結果は同じだ。
 奴らの言動はともかく力量は本物だ。
 おまけに前回は3匹のうち2匹としか戦っていない。
 対する禍我愚痴支部の協力者チームの練度は正直なところ心ともない。
 皆の名誉のために正確に表現すると、全員が一般的な怪異を相手にするには十分以上の実力者だ。やんす氏もたぶんそうだ。
 だが今回の相手は普通じゃない。
 同じ条件で戦えば次は犠牲者が出るかもしれない。

「応援はいる?」
「いんや。流石に毎回おまえや鷹乃ちゃんにヘルプ頼んだら、あいつらいる意味ないからなあ」
 テックの申し出に手を振って答える。

 何故なら彼女らに援護を頼んだ前回の戦いは、いわば舞奈の独断だ。
 対して今回は正式な任務である。
 仕事をまかされたのは協力者の皆だ。
 仮に力不足がどうにもならず今回も協力してもらう場合でも、【機関】なりが頭を下げて正式に依頼すべきだ。
 その線引きをなあなあにすると、後で痛い目を見ると経験則で知っている。

「それはいいとして、勝算はあるの?」
「いやまあ、そりゃあな……」
 ボソリと言った明日香に苦虫を噛み潰したような表情で答える。

 明日香も別に意地悪で舞奈に責任をおっかぶせようとしてる訳じゃない。
 面子の中で最も舞奈が手練れだからだ。
 もちろん舞奈は子供なのだから、考える事は大人に丸投げしても問題ない。
 だが、その結果、皆が全滅して嫌な思いをするのは舞奈自身だ。
 そんな世の理も舞奈は経験則で知っている……。

 まあ、それを言うならキャリアは明日香も似たようなものだ。
 何か考えてくれても良さそうなものだ。
 だがまあ、考えてはいるのだろう。
 その上で答えがでないから賢しらな顔をして舞奈に当たってくるのだ。
 そう考えれば意地悪で言っているのかもしれない。
 舞奈は軽く虚空を睨み……

「……いっそ、あたしとドルチェだけで相手した方がマシかもしれん」
「敵の術士は3人いるのよ?」
「知ってるよ」
 言った途端、返された明日香の言葉に口をへの字に曲げて答える。
 だが明日香の言葉が正論なのも事実だ。

 敵は3人。否、3匹。

 ザンとドルチェが2人がかりで攻撃を凌いだドレスの男。
 舞奈と互角以上に戦った異常者の女。
 そして戦術結界に穴を開けて2匹を脱出させたママとやら。
 全員が強力な回術士スーフィーだ。

 そして回術士スーフィーは……というか妖術師ソーサラーは近距離打撃に長けたインファイターだ。
 なので最もスタンダードな対応は3匹それぞれにひとりづつ張りついて対処しながら残りの面子でサポートする事。
 可能ならサポートを集中させて敵の数を減らし、二対一の組を作る事。

 だが、今のチームで奴らと一対一で対等に戦えるのは舞奈とドルチェの2人。

 ザンには無理だ。
 先日の戦闘でドルチェにフォローされながら生還できただけでも儲けものだ。

 もちろんフランにも無理だ。
 彼女は敵と同じ回術士スーフィーであるが、そもそも戦闘向きじゃない。
 いうなれば奈良坂が仏術士だからと言って打撃戦力に数えないのと同じだ。

 そういう意味ならナチュラルに戦闘に不参加なトーマス氏ややんすも問題外。

 逆に冴子や明日香を戦闘の主軸にすると、初手で街の一角を焼き払うとかになってしまう。
 ひょっとしたら、そういう殲滅戦も最終的には必要になるのかもしれない。
 だが秘密裏の調査と治安維持をまかされた今の時点でそれは時期早々だろう。
 下手をすればテロリストだ。

 そのように解決策も名案も浮かばず2人が困っていると……

「……ドルチェ、リアルでも強いんだ」
「まあな。ゲームでも強いのか」
 ボソリとテックがひとりごちた。
 煮詰まっていた舞奈は思わず話に乗って問いを返す。
 ドルチェはテックのネットゲームの友人(あるいは知人?)でもあるらしい。

「ええ。武器や防具を強化するナイトガードっていう特殊スキルを持ってて」
「そのまんまだな」
 現実の彼が持つ異能力【装甲硬化ナイトガード】と同じ名前に思わず笑い、

「レアアイテムのハート形のナイフと、リボンをよく使うわね」
「リボン?」
「ほら、新体操とかの……」
「ええ……」
 続く言葉に絵面を想像しかけ、

「ワイヤーとかなら【装甲硬化ナイトガード】で形状を任意に固定できるから」
「ワイヤーか……」
 明日香の言葉に納得する。
 敵のドレス男に匹敵する酷い絵面を、あわてて脳裏から振り払う。

 ドルチェの異能力【装甲硬化ナイトガード】は武具を硬く強くする異能だ。
 一般的には防具の強化に使われるが、ハンドミキサーのような薄い刃物を硬くして曲がらないように使うこともできる。
 舞奈が知る限りスカイフォール騎士団のイワンがそういう使い方をしていた。
 技量はともかくとして。

 同じ要領でリボン……もといワイヤーを硬化させる戦法は名案だと思う。
 自由自在に変形するリーチの長い刃物のようなものか。
 高等魔術【刃鎖ブレード・チェイン】や、ケルト魔術【ガリア人の刃鎖ガリアンズ・チェイン】の同類だ。
 暗器使いの彼の戦い方にもマッチしているのだろう。
 投げていたのが何なのかは知らないが、ハート形のものではなかったし。

「まあ、手札が多いのは頼りになるよ」
 舞奈はテックの、立場が違う同じ仲間の評価を雑に総括しつつ、

「それより問題なのはザンの奴だ」
 言って口をへの字に曲げる。

 ドルチェが見た目によらず超有能なのと真逆。
 無難な容姿の彼は技量は至らないくせに妙なプライドだけはある。
 ある意味で切丸と良いコンビだったのだろう。
 ツレとして付き合う分にはノリも良いし素直で楽しい奴なのだが、戦闘のパートナーとしては不安要素しかない。
 だが彼も舞奈と同じチームの一員だ。

「味方のレベルの底上げなんて、一朝一夕にできるものじゃないと思うけど。こういう場合、敵に合わせた対策をするのがセオリーなんじゃないの?」
「そりゃそうなんだが……」
 対するぐうの音も出ないテックの正論に、

「ゲームと実戦は違うと思うけど、野良で冒険する時は仲間に何かを期待する暇があったら敵に的確に対処した方が結果が出るわ」
「いやまあ、わかってはいるんだが……」
 舞奈は思わず情けない表情で言い淀む。
 隣の明日香も無言で同意する。

「今回は、ちょっと事情がな」
「事情?」
「ああ。動きは読めるが、何を考えてるかがサッパリわからないんだ」
「ドルチェの?」
「いや敵の」
 答えて舞奈は考えこむ。

 ドルチェはゲームでどんなキャラなのだろうか?
 聞いてみたいような。
 聞くのが怖いような。
 現実の彼は、見た目はともかく有能な常識人なのに。

 いや、それはどうでもいい。
 問題は敵だ。
 戦闘の際に舞奈は敵の女と少し話した。
 だが判明したのは奴が完全に狂っていて会話が通じないという事だけ。

 相手を分析して有効な戦術を考えるなんて、雲をつかむような話だ。
 綿密な作戦なんて考えても初手でぶち壊されるのがオチだ。
 実力にものを言わせたアドリブ勝負が唯一の勝算だと舞奈は思う。

 まったく。
 あの手の輩と仕事で相対するとは思っていなかった。
 まるで3人のみゃー子を相手してるみたいだ。
 そう考えて嘆息したところに……

「ごろごろごろ……」
 タイミングよく足元にみゃー子が転がってきた。
 今度は何の遊びだか
 相変わらず意味がわからない。
 だが。いや、なので……

「……ひょっとしたら、おまえならどうすればいいのかわかるか?」
「ごろー?」
「何の鳴き声だそりゃ? ……いや、真面目に聞いてるんだが」
 思わず意味不明を唯一の繋がりにして誠心誠意をこめて尋ねてみる。
 テックが「えっ?」みたいに見てきたのが地味にショックだが気にしない。
 だが途端――

「――おはようマイちゃん、みんな」
「マイおはよー! テックもおはよー! 安倍さんもおはよー!」
「あら、2人ともおはよう」
「おはよう。チャビーは今日も元気ね」
「ちーっす」
 ドアがガラリと開いて、園香とチャビーが登校してきた。

「……マイちゃん、疲れてるの?」
「まあ否定はせんが」
「悩み事があるんだったら相談してね?」
「あ、ああ、また今度たのむよ……」
 気づかうように見やる園香に舞奈が苦笑しながら答えるのと同時に、

「ねえねえ安倍さん!」
「何?」
「昨日の算数でわからないところがあるんだけど」
「いいわよ。……ちょっと席をはずすけど構わないわね?」
 明日香はチャビーに相談されていた。
 というか煮詰まった話題から逃げるようにそそくさと席を立つ。

「いってらっしゃい」
「へいへい。あんまり苛めるなよ」
「何時わたしが苛めたのよ?」
 舞奈の軽口を軽く睨みながら行った先で、

「……何処がわからないの?」
「あのね……」
 そんな会話をしながら2人で席を囲んで座り、

「ここがね……」
 チャビーが席に教科書を広げ、

「……」
「……」
 思いのほか物騒な声や悲鳴が聞こえてこない様子を見やり、

「……なんか、いい感じに教えてるな」
 拍子抜けした感じでひとりごちる。

 ちょっと意外だ。
 以前は教え方がスパルタだと怖がられてた気がするんだが。
 そんな舞奈に、

「チャビーに合わせた教え方を覚えたみたい」
「ほら。チャビーちゃん、よく明日香ちゃんに算数とか教えてもらってるから」
「チャビーに合わせた教え方ねえ……」
 テックと園香からダブルで答えが返ってくる。

 みゃー子は何時の間にか教室の隅に移動して転がっている。
 ボールのつもりだろうか?
 それとも野菜か何かのゼスチャーだろうか?
 やっぱり訳がわからない。

 否、子供向け番組のキャラクターならチャビーに聞けばわかるのか?
 そんな益体もない事を考えながら、何となく教室を眺めて……

(相手に合わせた教え方か……)
 ふと脳裏に、先ほどのテックの言葉が蘇る。

 敵は頭がおかしすぎて効果的な対処は不可能。
 味方は実力に難があってアドリブまかせの力技は危険。
 どちらかの条件を早急に変えなければ再戦などおぼつかない。
 タイムリミットが何時かはわからないが確実に迫っている。
 だから、どちらの条件なら変わるか……否、変わらないのはどちらかかを考え、

「……ありがとう! 安倍さんスゴイ!」
「大した事じゃないわ」
(……ま、試してみるか)
 幼女に持ち上げられてドヤ顔の明日香を見やりつつ、自分ができる事を考えた。
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