銃弾と攻撃魔法・無頼の少女

立川ありす

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第21章 狂える土

子供たちの企み

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「……なんだと?」
 思わず舞奈は口元を歪める。
 視線の先にはテックが見ていたタブレットの画面。
 正確にはニュースサイトの記事の見出し。

 式神による偵察が狂える土の襲撃によって失敗した日の翌朝。
 普段通りに登校してきた舞奈に、テックが厄介な事実を告げた。
 朝のニュースの内容だ。

 舞奈はうながされるままニュースの記事を読み進める。

 埼玉の一角の例の地域で子供が殺害された。
 昨晩の話だ。
 数名の外国人に鉄パイプで滅多打ちにされたとある。
 殺害されたのは6歳の男児。
 画面の端の小さな写真に写っているのは幼い顔立ちをした可愛らしい男の子だ。

「楓さんたちが知ったらカンカンになるだろうな」
 何食わぬ口調で軽口を叩く。

 桂木楓と桂木紅葉は、脂虫と呼ばれる人型怪異に最愛の弟を奪われた。
 楓が脂虫を好んで殺すようになった理由は復讐心だ。
 同じように小夜子も幼馴染を失い、復讐を果たして今に至る。

 そんな想像の中の楓や小夜子と同じ視線を、舞奈もタブレットの画面に向ける。
 今度は記事の別の端に小さく並んだ実行犯の顔写真。
 喫煙者の特徴でもある嘲るような不愉快な形をした口元を凝視する。

 トルコ国籍の外国人グループと銘打たれた男たちの顔に見覚えがあった。
 アングルは違うが見間違えるはずもない。
 御丁寧に人数まで一致する。
 昨日、モニターの中で式神を襲撃した狂える土どもだ。

 舞奈は口元を憎々しげに歪める。

 事件の凶器と記事にある鉄パイプ。
 それは先日の狂える土どもが持っていた得物と同じものなのだろうか?
 式神のカメラ越しに見た限り、鉄パイプにそれらしい汚れはなかった。
 つまりニュースの事件は式神への襲撃の後に起きたという事になる。
 襲撃した式神に勝利する事で命を繋いだ怪異どもが、十中八九その足で。

 何より不愉快なのは、記事には奴らが不起訴になる可能性が高いとある事だ。
 犯人の「殺意は無かった」というふざけた証言によって。
 つまり集団で子供を殺害した人型怪異どもが、人間社会で野放しなのだ。
 仮に奴らが怪異じゃない人間の移民だったとしても異常な処遇だ。
 これが許されるなら彼の地は実質的な無法地帯だ。
 なるほど人型の怪異が官憲や司法にまで入りこんでいるという話は本当らしい。

 舞奈は再び、画面の中の小さな子供の写真を見やる。
 無邪気な子供の笑顔が、会った事もない桂木瑞葉君とだぶる。
 あるいは日比野陽介と、四国での一件で束の間の仲間だったピアースと、切丸と、あるいは子供ですらないスプラと、バーンと、トルソと。

 気に入らない。
 何もかもが気に入らない。

「――2人ともおはよう。って、いきなり睨んできて何よ」
「別に、おまえにガンつけた訳じゃないよ」
 登校してきた明日香が戸惑う。
 舞奈は面白くもなさそうに口答えしながら目をそらし、

「……ああ、例の記事ね」
 タブレットを覗きこんだ明日香が納得する。
 けれど明日香にとっても納得する以外にできることはなく――

「――安倍さんおはよう! マイにテックもおはよう!」
「あら、おはよう日比野さん、真神さんも」
「みんなおはよう」
 続けて教室に入ってきたチャビーと園香を出迎える。

「なに見てたの?」
「……ネットニュース。動物園のカピバラが赤ちゃんを産んだんだって」
「わっ可愛いー!」
 チャビーに覗きこまれたテックが神業のピンチ操作で画面を切り替え、ふさふさで可愛らしいげっ歯類の写真を表示させる。
 無邪気なチャビーはカピバラの赤ちゃんを見やって大喜びする。

「……テレビのニュースでは大きく報道されてないのよ」
「なるほど」
 首を傾げる舞奈に明日香が耳打ちする。

 チャビーはこれでも、1年前に理不尽な理由で兄を失っている。
 だから今朝のニュースを見て落ちこんでいると思ったのだ。
 だが杞憂だったようだ。
 そういう意味では情報操作されているのも良し悪しだ。なので、

「工藤さん、わたしにも見せて」
「うん」
「ねえ、ねえ、この写真がすっごく可愛いよ!」
「あら本当」
 ほのぼのした動物園のニュースに花を咲かせ始めた3人を尻目に、

「そういやあ、赤ちゃんっていえばさ……」
「もうっ、マイちゃんったら」
 舞奈も素知らぬ調子で言いながら、頬を赤らめる園香を連れてその場を離れた。

 舞奈たちは平和な世界の裏側で起きている惨たらしい現実を知っている。
 だが、この場で舞奈に出来る事がないのも事実だ。
 今はせめて身近な人々が悲しい思いをしないよう平和な日常を過ごすしかない。

 なので、それ以外のトラブルも悶着もなく放課後。
 舞奈と明日香は普段通りに県の支部から埼玉へ転移する。
 そこで待ち合わせた他の皆と禍我愚痴支部へ赴く。

 そして打ちっ放しコンクリートが厳つい会議室の一角で……

「……例の殺害事件の犯人は昨日のグループと見て間違いないようです」
「だろうな」
 フランの報告に、舞奈は口元を歪めて虚空を睨む。

 会議机を囲んだ他の面々も表情は同じだ。
 明日香は口には出さないまでも露骨に不愉快そうにしている。
 当のフランはもちろんの事、ドルチェややんす氏、ザンまでもがいたたまれない悲痛な表情をしている。
 あえて言うなら普段からにこやかなトーマス氏だけが変わらないように見える。

 何故なら昨日の戦闘に立ち会って、今朝のニュースを見たら誰でも気づく。
 報告は裏付けに過ぎない。
 子供を殺したのが、昨日の戦闘で逃した狂える土どもである事は明白な事実だ。

「あの戦闘で、もう少し上手に立ち回る必要があったわね」
 冴子は沈痛な面持ちでこぼす。
 誰よりも責任を感じているのだろう。

 こちらも無理もない。
 少し酷な言い方をすると、先日に狂える土どもを殲滅していれば、奴らが子供を殺せなかったのは事実だ。
 死者は生者を物理的に傷つけることはできない。
 だから舞奈たち【機関】関係者は生きている人間を守るために怪異を狩る。
 その責務を昨日は果たせなかった。

 加えて四国の一件で、彼女も他人の不甲斐なさに憤っていたのかもしれない。
 そう舞奈は思う。
 あの作戦で、彼女はスプラを失った。
 その喪失感と憤りを、生存者に向けてはならないと断ずるのは気の毒だと思う。
 ザンが特別に身勝手だった訳じゃない。
 八つ当たりではあるのだが、他にどうしようもない心の動きでもあると思う。
 かつては三剣悟だって萌木美佳を失った理由を【機関】の不甲斐なさに求めた。
 口に出さないだけでも冴子は大人だ。

 だが、そんな彼女自身の戦闘での失態の後に、見知らぬ誰かが死んだ。
 だから自分が許せないのだろう。
 そんな彼女を……

「……グレイシャルさんのせいじゃないっすよ」
「けど、わたしは……」
 意外にもザンが慰める。
 グレイシャルとは冴子の【機関】でのコードネームだ。

 いつか追悼パーティーの会場で舞奈と大立ち回りを繰り広げたザン。
 彼は友人だった切丸を失った憤りを、ドルチェや舞奈にぶつけた。
 その後にいろいろあってわだかまりもなくなり、今に至る。

 そんな彼の言葉だからこそ、気持ちも素直に伝わるのだろうか。
 正直なところ言葉足らずにもほどがある。
 流石に小学生の舞奈でももう少し上手い事が言えるだろうと思う。
 それでも、冴子は否定しつつも表情は少しだけやわらかくなっていた。
 頭ではなく心で気持ちを切り替える事ができた。
 そんな様子を見やりながら、

「そもそも敵による被害の理由を、威力偵察で敵を殲滅できなかった事実に求めるのは間違いですし」
 明日香が正論を口走る。

 それが同じ作戦で冴子と轡を並べた明日香が平然としている理由だ。
 明日香も内心では憤っているのだろうが、気落ちはしていない。
 民間警備会社PMSC【安倍総合警備保障】の社長令嬢として表の世界の荒事にも造詣の深い明日香は、そうやって割り切っているのだ。

 そもそも狂える土は市内に5万匹ほどいると聞く。
 そのうち数匹を首尾よく片づけたところで翌朝に犯行は起きて、ニュースの顔写真だけが違っていた公算の方が大きいだろう。

「我々は文字通り何もしてないでやんすからね」
「そうでゴザルなあ」
 やんすとドルチェが茶々を入れ、

「だが気に食わんのは確かだな。奴らに一泡吹かせる手はないのか?」
「さすが舞奈さん! そうこなくっちゃ!」
 思わず言った舞奈に、ザンが何故か勝ち誇ったようにいきり立ち、

「すまない。今すぐには無理だよ」
「なんでだよ?」
「人員の安全を考えると、今すぐ打って出るのはあまりにも無謀すぎる。耐えがたい気持ちはわかるが今は堪えて欲しい」
 あくまで食い下がるザンに、トーマス氏はにこやかな笑顔のまま返す。

 組織として、その動き方は正しいのだろう。
 舞奈だって明日香だって、過去に人死には何度も見ている。
 今さら見知らぬ子供ひとりの命が何物にも替え難いなどとナイーブな事を言うつもりはない。
 子供の仇討ちのために、奴らに対抗できる人員を危険に晒す事はできない。
 その事実は理解している。だから――

「――ま、そりゃそうだわな。自重するよ」
「まあ、舞奈さんがそう言うなら……」
 何食わぬ表情で彼の言葉に従ってみせる。
 なのでザンも矛を引いて、表面上の悶着は収まる。
 何となく不安そうだったフランややんす氏が安堵する。

 そんな様子を見やりながら、けど舞奈は腹の中で、ひとつ決意を固めていた。

 だから他支部の皆と別れた後。
 地元に転移し、県の支部から巣黒へ続く大通りを歩きながら……

「……なあ明日香」
「何よ?」
「あたしの他に何人かいたら、奴らに勝てると思うか?」
「他人に意見を求めるなんて弱気じゃない」
「そんなんじゃないよ」
 ボソリとこぼした言葉に、明日香は冷やかすような声色で答える。
 いつもの明日香だ。
 舞奈がどれほど熱くなった時も、彼女はいつも冷静だ。
 そんな明日香は、

「別に協力するのは構わないけど」
 冷ややかに答える。
 おおかた朝のニュースの件で反応を見て、支部で皆の話も聞いて、舞奈が何を考えるか予想していたのだろう。だが、

「そうして欲しいのは山々だが、おまえには頼みたい事がある」
「何よ?」
「他の面子を誤魔化しておいて欲しいんだ」
「まさか、ひとりでやる気?」
「別に命令違反してる訳じゃないだろう?」
 何食わぬ口調で答えた次の台詞には流石に驚く。
 だが舞奈は素知らぬ調子で言葉を続ける。

「あの街の何かを探るために少しアドリブを利かせるだけだよ。子供の遠足じゃないんだ。引率の先生の指示以外の事だってするさ」
「それで先方が納得すればいいけど」
「だから結果を出すのさ」
 言いつつ笑う。

 今回の仕事を始めて短い間で、わかった事がある。
 トーマス氏はマニュアルに従って動きすぎるきらいがある。
 そのせいで敵を効果的に叩くことができない。
 正直、禍我愚痴支部が応援を呼ばざるを得なくなった理由の一因にはなっている気がした。
 悪く言えば平和ボケだ。

 それでも、のんびり調査をやっているだけなら問題はない。
 他支部では何処もあんな感じなのだろう。

 だが今回の仕事では、手をこまねいていると犠牲者が出る事がわかった。
 そもそも、そういう状況だから舞奈が呼ばれたのだろうし。
 だから、こちらで主導権を握らないと話が先に進まない。
 そうしているうちに犠牲だけが増えていく。
 次の犠牲が無関係な他人だとは限らない。

 それでも明日香に話して、否定されたら考えなおそうと思っていた。
 明日香は冷静で慎重だが臆病ではない。
 むしろ計算ずくで勝ちを確信すれば舞奈以上の無茶もする。
 そんな彼女がノーと言うなら、それは度が過ぎた無謀だろうと。
 だが、そんな明日香も――

「それにザンの奴が絶対に付いて来たいって言うぞ。でもあいつじゃ駄目だ」
「彼が経験不足なのは事実だけど――」
「――たぶん狙撃手スナイパーがいる。昨日おまえらの式神を殺ったのもそいつだ」
 続く舞奈の言葉に驚く。

「確かなの?」
「いくら油断してたからって、おまえの式神を知覚すらさせず破壊できる手札が他にあるか? 昨日、鷹乃ちゃんの式神も狙撃で墜とされたって言ってたろ?」
 訝しむ明日香に静かに語る。
 反論がないので、否定する材料はないと舞奈も再確認する。

 これが舞奈が組織人としても危ない橋を渡ろうとしている2つ目の理由だ。

 式神が倒されたのだから、当然ながら敵には式神を破壊できる何者かがいる。
 それは少しばかり異能力が使えるだけの狂える土じゃない。
 モニターの外にいた何者かだ。
 一連の戦闘を見て、最初はベリアルが言っていた敵の回術士スーフィーを疑った。
 だが、そうすると熟練の魔術師ウィザード2人が揃って不意をつかれた理由がない。
 回術士スーフィー妖術師ソーサラーの一流派だ。
 己が身に蓄えた魔力を術と成す。
 つまり魔法感知に強く反応するはずだ。
 施術以前に近づかれただけで察知できる。
 だから最も可能性が高いのは、遠距離からの非魔法の攻撃。
 つまり狙撃だ。

 鷹乃の式神を撃墜したそれを、当人は大口径ライフル弾7.62×51ミリ弾だろうと言っていた。
 だが距離で威力が減じた超大口径ライフル弾12.7ミリ弾の可能性も視野に入れるべきだ。
 つまり対物ライフルによる狙撃だ。
 あるいは破魔弾アンチマジックシェル――魔法や異能力を破るための特殊弾をも警戒すべきか。
 それなら冴子の【身固・改みがため・かい】が破られた理由にもなる。
 遠距離への維持のせいで威力が弱まっていたにせよ仮にも神術の防御魔法アブジュレーションだ。
 生半可な手段で破られる訳がない。

 そもそも、以前の調査で飛んでいた式神が墜とされているのだ。
 そのくらいは最初から警戒すべきだった。

 だが他の面子は、その事実に今日になっても気づく事はなかった。
 やはり踏んできた場数が違うのだ。

 舞奈ひとりなら対処できる。
 明日香も自分の身くらいは守れる。
 だが他の面子を守り切れる保証はない。
 四国の一件で、ピアースを狙撃から守れなかったように。

「……鷹乃さん、そんな事は報告書に書いてなかったのに」
「その時は確証が持てなかったんだろ? けど今は違う」
 舞奈はニヤリと笑う。

 他の面子は刀剣や、それらに宿る異能力の距離に慣れ過ぎている。
 平和な世界を守るための戦いに慣れている。
 それは、どうしようもない危険を排除するやり方とは少し違う。
 彼らじゃ敵の狙撃に対応できない。

 だから舞奈と明日香で敵の狙撃手を潰す。
 そうすれば他の面子も少しは安全に他の怪異を相手に出来る。

 けど、それを子供が大人に言っても埒が明かない。
 最悪の場合は余計に彼らを死地に近づける。

 だから2人だけでやる。
 その考え方が間違っているとは思わない。
 それは明日香も同じだとわかった。だから、

「まったく。無茶だってわかってて無茶するんだから世話ないわ」
「おまえに言われる筋合いはないけどな」
 軽口のように言い合って、互いに笑った。

 そして翌朝。
 ホームルーム前の教室で……

「……危険じゃないの?」
 テックに話してみた答えがこれだ。

「危ない橋なんて、今までだって何度だって渡ったよ」
「感覚がマヒしてるんじゃなくて?」
「かもしれないな」
 続く言葉にも静かに答える。
 無表情な、そして明日香と同じくらい冷静な彼女の言葉を噛みしめる。
 それでも決意は変わらないから何食わぬ口調で言葉を返すことができた。
 そうしてから――

「――けど気に入らないんだよ」
 言いつつ舞奈は虚空を睨む。

 それで思惑は伝わると思った。
 四国の一件で、テックもネットゲームの友人を失っている。
 舞奈たちが守れなかったピアースだ。
 だから舞奈たちは事件の元凶でもある殴山一子を討った。

 だからだろうか?
 あるいは、それ以外にも理由があるのだろうか?

「……わかったわ。協力はする」
 テックはそれだけ言って、それ以上は何も言わなかった。

 そして、さらに昼休憩。
 舞奈はひとり6年生の教室を訪れていた。

「あっ志門舞奈でやんす!」
「おまえ! オレ様たちと勝負に来たのか!? リターンマッチだな!」
「いや、そっちからすればそうかもしれんが」
 いきなり絡んできた大将たちに苦笑し、

「な……なんでやんすか……?」
「いや、あんたに似てる奴がいたなって思って……」
 何となく取り巻きのひとりを見やる。

「こっこいつ! やんすを襲うつもりだな!」
「そんなんじゃねぇよ! あたしを何だと思ってるんだ」
「おまえら! やんすを守れ!」
「おまえらな……」
 他の取り巻きにやんすを囲ませながらじりじり後退する。
 まあ事情はどうであれ、そうやって仲間をかばう姿が何となく微笑ましくて、

「……勝負の件だが、また次の機会に頼むよ。あんたの都合がいい時でいいぜ」
「おっおう! いつでも相手になってやるぞ!」
 何食わぬ表情で笑いかける。
 対して大将も口元をゆるめながら、取り巻きたちを連れて去って行った。

「まったく……」
 苦笑する。

 だが元気な大将たちを見やって、何となく最後の踏ん切りがついた。
 もし、あの頭が悪くてノリだけで生きてるような6年生どものうち誰かと二度と会えなくなると言われたら、舞奈は全力でそれを阻止するだろう。
 昨日の狂える土どもがしたことは、そういう事だ。
 だから舞奈は懐から外部メモリを差し出し……

「……? 何じゃこれは?」
「例のゲームの超絶プレイ動画だとさ。うちのテックから預かった」
「ほう」
 近くで他人事みたいに見ていた鷹乃の机に置いてみせる。

 テックの事は彼女も知っている。
 以前にテックが情報をリークした事があるらしいのだ。
 そして先日もゲーム勝負で大将をコテンパンにのした事も伝わっている。

「上手く撮れたつってたし、大将に見せたら喜んでくれるんじゃないのか?」
「自分で渡せば良かったではないか」
「そりゃそうなんだが……あんたの被保護者じゃないのか?」
「誰がじゃ」
 軽口に鷹乃は眉をつり上げ、

「それより襲わんでやってくれんかの。そなたが両刀使いとは知らなんだ」
「鷹乃ちゃんも、あたしを何だと思ってるんだ……?」
 返しに舞奈も口をへの字に曲げてみせ……

「……で、何用じゃ?」
「ちょっと頼みたい事があるんだ」
「そうじゃろうな」
 鷹乃はボソリと尋ねた。
 そういう事を察せられる程度には互いを知っているつもりだ。
 何故なら舞奈も鷹乃と幾度か轡を並べて戦った事がある。

 なので舞奈も何食わぬ表情のまま、自分たちがしようとしている事を話す。
 曰く、狙撃手を含む狂える土のグループを、舞奈たちだけで壊滅させる。
 他の【機関】のメンバーには話さずに。

「無茶をしよる。安倍明日香は承諾しておるのか?」
「ああ」
「なら協力もやぶさかではない。別に【機関】に過ぎたる忠義を示す義理もないしのう。わらわの今の雇い主は【安倍総合警備保障】じゃからして」
「恩に着るぜ」
 鷹乃は思ったよりすんなり承諾してくれた。

 鷹乃は明日香本人と折り合いが悪い……というかライバル視している。
 明日香が正論づくめで生意気だからだ。
 だが、こういった状況での明日香の判断は信頼しているらしい。
 これでも鷹乃が組織人だからか。
 あるいは本当の意味で明日香をライバルと見なしているのか。

 だから舞奈も言葉を続け、鷹乃に特に隠すところなく計画を話す。
 学校で【機関】絡みの内緒話をする事は問題ない。
 現実離れした2人の会話は、傍目にはゲームかアニメの話題に聞こえる。
 そうなるよう【協会S∴O∴M∴S∴】が暗躍しているらしい。
 用いられる用語を意図的にフィクション用のタームとして広めているのだ。
 なので鷹乃は舞奈の計画を一通り聞いた後に……

「……なるほどな。そなたにしては良い考えじゃ」
 ふむとうなずく。

 舞奈だって何も考えずに独断専行しようとしている訳じゃない。
 可能な限りの情報を吟味して作戦を練った。
 他の面子にはできない事を自分たちだけで成し遂げるつもりなのだから当然だ。
 計画は確実に成功させなければならない。
 そのために鷹乃の協力が必要なので、こうして頼みにやってきた。

 もうひとつの理由は計画を鷹乃にも聞いてもらいたかったからだ。
 舞奈も自分が理詰めで完璧な襲撃計画を立てられるなどと思っていない。
 だから明日香にも相談した。
 それでも計画に穴があれば鷹乃に見つけてもらおうと思った。
 そんな舞奈の、一見すると何食わぬ表情を見やり……

「……にしても、損な性分をしとるのお」
「身の丈にあった生き方をしてるだけだよ」
 鷹乃は苦笑する。
 舞奈も何食わぬ表情で答える。
 文句のつけ所はそこだけらしい。
 だが、それは何をしようが修正できない部分だ。だから、

「よかろう。じゃが1週間……いや、3日待って欲しい」
「そりゃ構わんが」
「わらわも、ちと試してみたい事を思い出しての」
 そう言って鷹乃はニヤリと笑う。
 舞奈は訝しみながらも承諾し――

「――鷹乃ちゃーん! ただいまー!」
「おっ! 舞奈ちゃんだ! いらっしゃーい!」
 給食当番の食器の返却から帰って来たのだろう、やってきた梓と美穂の、

「ヒュー! 2人が返ってくるのを待ってたんだ!」
「きゃっ!」
「ええい志門舞奈! 梓と美穂を襲うでないっっ!」
 上級生らしいふくよかな胸に、舞奈は相好を崩しながらダイブした。
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