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第17章 GAMING GIRL
戦闘2 ~銃技&戦闘魔術vs完全体
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爆風と熱光がすべてを焼き払う轟音。
舞奈と明日香が裏に隠れた、強固なはずの背後のビルがビリビリと揺れる。
殴山一子が駆る歩行屍俑を内側から引き裂いた核の光がビルの両サイドを覆う。
「流石にやりすぎなんじゃないのか?」
「だといいんだけど」
舞奈と明日香は身を低くしながら軽口を交わす。
そうするうちに、魔法の戦術核の光が止んだ。
2人は一挙動で立ち上がり、ビルの陰から跳び出す。
数分前は激戦の傷跡こそ残るものの街だった場所。
そこは苛烈な爆光に曝され正真正銘の廃墟と化していた。
半ばクレーター状にえぐられた爆心地に、腐った鋼鉄の巨人はいない。
まあ当然だ。何せ核爆発の爆心地がそいつだったのだ。
だが代わりに……
「……そうでもなかったみたいだな」
光が止んだ跡には別の何かがいた。
釣鐘状の頭をした、銀色に輝く人型の異形。
「どうやら完全体に転化する能力を持っていたみたね」
「らしいな。……ったく、いつもいつもオチはこいつだな」
舞奈は思わず悪態をつく。
滓田妖一の一味や蔓見雷人、KASCの悪党どもは死した後、銀色になって蘇った。
要人の顔と身分を簒奪し、政治を悪用して人間社会に大規模な被害をもたらす類の忌むべき怪異の常套手段なのだろう。
同じように、四国の一角を滅ぼした殴山一子もまた完全体に転化した。しかも、
「今まで見たことない形状ね。気をつけて」
「わかってる。……ったく、今度は体が便所虫ときた!」
舞奈は短機関銃《マイクロガリル》を手にしたまま油断なく身構える。
今度の完全体の頭部も過去の何度かの遭遇ですっかり見慣れた釣鐘頭。
顔も目鼻のない銀色ののっぺらぼうだ。
虫みたいな転化前の顔面よりよっぽどマシに見える。
だが首より下は、今までの完全体みたいな逞しい男の体を模したフォルムではない。
頭部と同じ銀色の、だが歪な装甲に似た何かを身にまとっている。
一見すると甲冑のような、節くれだった甲虫のような、あるいは先ほど倒したばかりの歩行屍俑に似たメカニカルな外観に見える。
両腕は蛇腹状。
足元も昆虫のような6本脚。
奴自身の精神が形になったような、不細工な銀色の便所虫だ。
しかも、おそらく無様な装甲は伊達じゃない。
奴は明日香が本気で放った核爆発の中で生きのびた。
以前に戦った蔓見雷人は完全体に転化すると同時に瞬殺されていたのに。
それでも舞奈は側の明日香を見やって不敵に笑い――
「――跳べ!」
叫びながら横に跳ぶ。
次の瞬間、完全体は砲弾のような勢いで襲いかかってきた。
速い。
硬いボディが風を切り、なびくコートの端をかすめる。
視界の端を駆け抜ける銀色。
敵は地面を滑空できるらしい。
凄いスピードで突進してくる様は、むしろ茶黒いニンジャ虫に似ている。
一挙動で立ち上がり振り向く舞奈の目前で、そんな高速完全体が遠ざかっていく。
急旋回はできないらしい。
完全体は舞奈が見やるはるか先で立ち止まる。方向転換。
再び突進しながら拳を繰り出す。
ずいぶん距離が離れているがと訝しみながらも跳んで射線を避けた舞奈の、
「おおっと!」
ひょいと傾けた小さなツインテールの端を、硬い何かがかすめる。
突き出された完全体の拳が飛んできたのだ。
正確には蛇腹状の腕がのばせるらしい。
「アーガスさんが言ってた奴か」
『ええ。装脚艇の構造を再現した新型……まあ納得はできるわ』
つぶやきに対する答えに口元を歪める。
明日香の声は胸元の通信機から聞こえた。
例によって二段構えの隠形で何処かに隠れているのだろう。
そもそも彼女は最初の突進の直後からいなかった。
おそらく回避しきれず【反応的移動】で転移したか。
明日香のクロークに焼きつけられた防御魔法は、避けることも防ぐこともできない被弾を自動的に短距離転移で回避する。明日香の生命線だ。
だが転移できる数が3回なのは以前と変わらない。
転移のために消費するルーンを大量には持ち運べないからだ。
うち1回は確かに最初に使ったはずだ。
そんな彼女の声に少しばかり――安堵しながら会話の内容に集中する。
意識して、以前に見舞ったアーガス氏から聞いた話を思い出す。
彼らが倒した国際テロリストのテロドスとやらは、宝貝の人型ロボット兵器――歩行屍俑の技術を応用した機械仕掛けの完全体に転化したという。
機械装置を模すことで完全体の魔力を効率よく物理的なパワーに変えるためだ。
陰陽術の式神やカバラのゴーレムに似た思惑か。
なるほど、そう考えれば先ほどの突進も術というより装脚艇の機能に近い。
見やった背中にも推進装置らしき光が見えた。
こちらは以前に戦った機械の騎士レディ・アレクサンドラと同じだ。
今しがたの拳も舞奈のワイヤーショット同様、火薬か魔力で発射しているのだろう。
突進と同じく砲弾くらいの速度があった。
加えて風を切る音と感触から、ピンとのばされた指先は鋭利に尖っている。
生身で喰らえば良くて即死。
人体なんか紙切れみたいに吹き飛ばされる。だから――
「――そういうゲームは嫌いじゃないぜ!」
舞奈は敵に接敵する。
数メートルの距離を一気に詰める程度は造作ない。
少なくとも今の舞奈自身に遠~中距離から完全体を仕留められる手札はない。
だが明日香なら如何様にでもできる。
だから、むしろ彼女が最高のパフォーマンスを発揮するためにも舞奈は敵に張りついて動きを制限するべきだ。
クイーン・ネメシスを相手取るときにもそうしてきた。
ウィアードテールが変じた魔獣と戦うときも。
「少し遊ぼうぜ! 虫ババア!」
槍でも構えて突撃する勢いで懐に跳びこんで短機関銃《マイクロガリル》を掃射。
無数の小口径ライフル弾は、もちろん銀色の虫のような外殻に傷もつけられない。
装甲の隙間らしい個所に滑りこんだ何発かも効いてはいない。だが、
「ヒイッ!」
予想通りに完全体は怯む。
奴に有効打とそうでない攻撃の区別はつかない。
撃たれたという事実でしか判断できない。だから、
「生意気なガキが! ゲームなんかがあるから! 破廉恥なアイドルなんかがいるからおまえのようなクソガキがぁぁぁ!!」
蛇腹の拳を放ちながら、完全体は目鼻のない顔で叫ぶ。
つるりとした銀色ののっぺらぼうが、生前にも増して醜く見える。だから、
「ダウトだ! 先週末まで、あたしはゲームのことなんか知らなかったぞ!」
舞奈も負けじと吠える。
飛んでくる拳をついでに避ける。
そうしながら撃ち尽くした短機関銃《マイクロガリル》の弾倉を流れるような動作で交換し、
「あんたの下らない企みを挫くためにこの街に来て、会った奴らに教わった!」
再び掃射。
小口径ライフル弾は銀色の甲羅に弾かれて落ちる。
自身に銃弾が効かないのに気をよくしたか、敵は次々に拳を繰り出す。
だが舞奈にとってはどうでもいい。
楽しそうにゲームの話題で盛り上がるピアースとバーンの笑顔が脳裏に浮かぶ。
ゲームのことなんか何も知らない舞奈だが、彼らの話を聞くのは嫌いじゃなかった。
だから乾いた笑みを浮かべながら、機械の拳をのらりくらりと左右に避ける。
空気の流れすら読み取る卓越した感覚を持つ舞奈にとっては普通のこと。
だが常人の感覚からは奇跡にしか見えない超機動。
おそらく見たこともない怪異を相手に、Sランクがそれを披露する様子を見やる仲間の表情を無理やりに脳裏から押しやって、
「みんな良い奴だった! すっげぇ良い奴だった! てめぇみたいに口から人間そっくりな言葉を垂れて、人間のフリしてるだけの怪異なんかよりずっとな!!」
声の限りに絶叫する。
対して敵は返事の代わりに距離をとる。
通常の手段では傷すらつかない無敵の身体を持っているのに。
舞奈の身体能力に恐れをなしたか?
あるいは気迫に圧されたか?
どちらにせよ、彼女は敵との直接戦闘などしたことがなかった。
相手が真正面から逆らってくることなどなかった。
今までは。
退いた敵を、舞奈はあえて追わずに一瞬だけ様子をうかがう。
そんな足元に気配。
再び路地に得物が転がる。
今度は巨大なリボルバー付きの連装型グレネードランチャー。
こいつも禍川支部の倉庫にあったのだろうか?
まあクレアの得物に似ているので撃ち方もわかる。
完全体が態勢を立て直す隙に抱え上げる。
構えて撃つ。
だがグレネードが銀色の身体を穿つ直前、敵は足元から爆ぜた。
正確には敵を中心に道路を弾き飛ばしながら派手な土煙があがった。
瓦礫と爆風に阻まれ、グレネードは敵に達することなく空しく爆ぜる。
そして土煙が止んだ後には敵の姿はない。
『気をつけて! 近くの地面から出てくるはずよ!』
「らしいな!」
胸元の通信機からの警告より一瞬早く道路を転がる。
その残像を貫くように、アスファルトを砕きながら完全体が跳び出した。
「【土行・遁甲】って奴か」
一挙動で立ち上がりつつ身構える。
ひとりごちたのは、岩や泥土に姿を変えて移動する妖術の名。
敵はそれを使ってアスファルトの下の地面と同化して舞奈の真下まで移動。
足下から強襲して舞奈を葬ろうとした。
避けられたのは、鋭敏な感覚で地面のかすかな振動を察したからだ。
跳び出した敵が着地する前に、素早くグレネードランチャーを構えて撃つ。
十分に狙ったとはいえない一撃。
それでも肩口を穿って爆発する。
だが爆炎を振り払った銀色のボディには――
「――糞ったれ! こいつでもか!」
胴にも腕にも破損の痕はない。
クリーンヒットどころかダメージすら入っていない。
舌打ちする舞奈の前で、間髪入れずに完全体は再び地面に潜る。
地中からの不意打ちに味を占めたか。
流石の敵も自身と舞奈の技量の差には気づいたのだろう。
できれば撃たれたくないし、舞奈は攻撃をすべて避けて確実に当てる。
だが舞奈も所詮は生身の少女。
得物も常識の範囲内の銃砲。
だから安全圏からヒットアンドアウェイを繰り返せばいつか勝てるとふんだか。
奴にしては考えた。
だが所詮は浅知恵だ。
ふと手にした得物の落書きに気づく。
巨大なレンコン型のシリンダー部分に何か書いてあった。
赤いペンキで雑に『HELLBEAST』と。
雑に施されたペイントにヤンキーみを感じた。
あるいはロックみを。
そういえば双葉あずさが好きだった皆は、ファイブカードも好きだっただろうか?
トルソやバーンは正直、こっちのほうが似合っていると思わなくもない。
そんなことを考えるのは思ったほど嫌じゃなかった。
だから身体にたぎる熱はそのまま、脳と心だけが少しだけ穏やかになる。
そのようにして口元にサメのような笑みを浮かべるうちに、
「さて、グレネードを普通に撃っても効かない相手に取る手は……」
ひとりごちつつ、足元に感じる再度の微震に笑う。
「……っと!」
舞奈は跳ぶ。
一瞬前まで舞奈がいた路地が爆ぜる。
アスファルトの路地を裂いて銀色の甲冑が跳び出る。
舞奈は跳んだ反動のまま一回転。
背後に跳び出た完全体にグレネードランチャーの砲口を定める。
続けざまに発砲。
2発のグレネード発のうち1発が敵のボディをまともに捉える。
だが派手に爆発した銀色のボディは無傷。
もう1発が当たる前に、敵は素早く斜めに移動。
グレネードは距離を取った敵を辛くも外れ、真横の路地に落ちて爆発する。
舞奈は舌打ちする。
「ちょこまかちょこまかと! なんてムカつくクソガキザマスか!」
完全体は喚く。
『最後の1発に付与魔法をかけるわ』
「さんきゅっ!」
胸元の明日香の声に軽く答える。
同時に風と熱。
「……ったく、他人の銃だと思って無茶苦茶しやがって」
ひとりごちつつグレネードランチャーを構える。
MGLの装弾数は6発。
うち4発は先ほどまでの攻防で使った。
「あの小娘みたいに、おまえも死ぬザマス!」
「そいつは無理な相談だな!」
叫びに軽口を返しつつ、蛇腹の腕をのばして飛んでくるパンチを避ける。
小娘って誰だ?
訝しみつつ、気にせず撃つ。
ロケット弾は敵の目前に出現した【土行・岩盾】の岩盾に阻まれて爆ぜる。
完全体は顔のない頭で嘲笑う。
だが同時に完全体の背後からもプラズマの砲弾が直撃。
明日香の【雷弾・弐式】だ。
こちらも銀色の身体を焦がすことすらできない。
だが完全体は怯む。
舞奈はサメのように笑う。
敵は自分の身体で戦ったことなどないのだろう。
今までは自身の地位と、それによって動く人間が彼女の我儘をすべて叶えた。
道術を手に入れたからは、脂虫や屍虫がその代わりだった。
だから奴は他者の意図を、周囲の状況を推し量る技術を持たない。
人の心も、人の知恵もない人の皮をかぶった害虫だ。
だから息子タンとやらの理解を得られなかった。
人の街に躊躇なくWウィルスを撒いた。
今しも完全体の身体でなら余裕で防げるグレネード弾を岩盾で防いだ。
背後からの奇襲を見抜けず、損傷すらないのに怯んだ。
撃たれたから防ぐ。
当たったから怯む。
奴は周囲の状況をなんとなくの気分でしか察していない。
子供が退屈なゲームをだらだら遊ぶように。
だから……自身を傷つけ得る本当の脅威に気づかない。
舞奈は間髪入れずに撃つ。
グレネードランチャーにこめられた最後の1発。
弾倉に付与された魔術は【力弾】。
そして弾頭には【燃弾】。
ただ1発の弾丸を爆炎へと変える、物品にかける攻撃魔法。
明日香自身の攻撃魔法のように激しく燃える炎の球が完全体を襲う。
波状攻撃にリソースを食いつぶされた敵は、新たな攻撃に対処できない。
辛うじて両腕で頭をかばう。
そんな完全体を、憤怒が形になった如く業火の一撃が直撃する。
大爆発。
頭をかばった両腕を吹き飛ばす。
だが次の瞬間――
「――――――――!!」
完全体は耳障りな嘯を吹く。
途端、周囲の崩れかけたビルの陰から数多の人影が跳び出した。
薄汚れた野球のユニフォームに、くわえ煙草。
脂虫どもだ。
幸い銃を持っている個体はない。
だが全員がうめき声をあげ、双眸を見開きながら両手をのばして襲いかかってくる。
正しい意味でのゾンビ映画のゾンビみたいだ。
「この期に及んで目くらましか!?」
叫びつつ、舞奈は目前の脂虫の脇の下をくぐって完全体に駆け寄る。
弾切れしたグレネードランチャーを捨てて左手でナイフを抜く。
行く手をふさぐ何匹かの脇腹を裂き、腕を切り落とす。だが、
「――――――――!!」
完全体が再び嘯を吹くと、周囲にいた数匹の脂虫が分解されて土煙になる。
黒く淀んだ汚い煙は完全体に吸いこまれる。
次の瞬間、引き千切られたはずの奴の両腕は元に戻っていた。
「野郎っ! 再生までしやがるのか」
舌打ちする舞奈の側に気配。
明日香だ。
……どうやら隠れる場所がなくなったらしい。
なにせ脂虫どもは周辺一帯を埋め尽くす勢いだ。
隠形は所詮は隠形だから、隠れる場所が物理的になくなれば出てくるしかない。
それを敵が意図したのかはわからない。
だが思わぬ力技で明日香は安全圏から引きずり出された。
それでも明日香の口元には笑み。
彼女にとって、隠形は数ある戦術のうちのひとつに過ぎない。
「9パラはまだある?」
「ああ。……トルソにもらってなければ危なかったがな」
周囲の脂虫どもめがけ、2人は背中合わせに得物をぶっ放す。
明日香はを短機関銃を。
舞奈は改造拳銃で素早く正確に敵を射抜く。
ひたすら数が多いだけで、何の防護もない脂虫なのが幸いだ。
そう思った瞬間――
「――転移だ! どこでもいい!」
明日香を抱きかかえながら叫ぶ。
次の瞬間、ブラックアウト。
さらに次の瞬間、2人は脂虫どもの真っただ中にいた。
景色も違う。正確には先ほどは位置が少し違う。
短距離転移だ。
急に変わった足場を瞬時に把握し転倒を免れる。
そんな2人から少し離れた場所で爆発。
吹き上がる砂煙と瓦礫の中から完全体が跳び出す。
2人は明日香の転移で足元からの奇襲を逃れたのだ。
「……本当にドッグタグなしで跳べるんだな」
口元に笑みを浮かべつつ、周囲の脂虫の脳天を片っ端から撃ち抜く。
明日香も短機関銃を掃射し、素早く弾倉を交換して、
「まただ!」
舞奈の合図で転移する。
2人が消えた虚空を、地中から跳び出した完全体がドリルのように穿つ。
そして2人は転移先で迫り来る脂虫どもを蹴散らす。
敵は地中を縦横無尽に移動する。
だが舞奈が地中からの奇襲を察知し、明日香の短距離転移で回避する。
それでも明日香が術に集中できない以上、舞奈たちも敵への有効打がない。
一見すると千日手。
だが舞奈たちは一瞬でも、一度でも判断を誤れば後がない。
地中からの鋭い突撃を準備もなく防ぐのも無理だ。
そのような単調だが死と隣り合わせな攻防に口元を歪めながら――
「――来るぞ!」
「転移!」
魔術語と同時に明日香を抱えたまま消える。
そして少し離れたビルの麓に、居合わせた脂虫を吹き飛ばしながら出現する。
間髪入れずに周囲の脂虫を掃討する。
断続的に視界と足元、周囲の感触が遮断。
次の瞬間、まったく別の環境に放り出される。
一瞬でも気を抜けば転倒は必至。
そんな感覚器官への暴力に等しい出鱈目な機動にも慣れてきた。
そもそも連続でない転移なら何度も体験した。
気心の知れた明日香の視線を追って転移先の目星を付けられるのも大きい。
そんな機動をしながら、
「大魔法は何回、使える?」
「あと2回ってところかしら」
「……けっこう減ったな」
「そりゃあね」
舞奈の問いに明日香が答える。
禍川支部から拝借してきたヤンキーたちの首。
リーダーである月輪の意図で、支部を守る礎になろうとした英霊たちの願いの欠片。
戦闘魔術師による大魔法の礎にもなる大頭を、これまでの戦闘でかなり消費した。
もとより使い惜しむ気などなかった。
そんなことをしたら、一命を賭して魔力と化した彼らに失礼だと思った。
だが残り2回の命を――想いを無駄にする気も毛頭ない。
舞奈は彼らがそこにいたことを知っている。
善良で勇敢な彼らが、文字通り一命を賭して何かを守ろうとしたと知っている。
その想いを無駄にしたくない。
それこそが人間である舞奈たちと、怪異である殴山一子の違いだ。
そんな殴山一子が変じた銀色の虫が、ボロボロになった道路に降り立つ。
「アテクシには理由があるザマス! この街から不要なものを排除する理由が!」
「そんなものはねぇよ!」
「あるザマス!」
舞奈の言葉に激怒する。
その仕草が癇癪をおこした子供のようだと思った途端――
「――?」
完全体の甲冑に似た胸が開く。
先ほどのグレネードがあればと少し思いつつ、舞奈は油断なく身構える。
明日香も手出しはしない。
完全体は、そんな2人の目前で胸から何かを取り出す。
円筒形のガラス瓶だ。
中は透明な液体で満たされ……何かやわらかいものが浮かんでいる。
「……試作型のPKドライブ?」
「何だと?」
驚愕を隠し切れない明日香の声と、側で息を飲む感触。
不吉な予感に思わず舞奈は鋭く問う。
「装脚艇の動力源兼制御装置として研究されていた生体……魔道具よ。けど非人道的だっていう理由で研究は完全に破棄されたはず」
「これはアップデートされた息子タンザマス!」
楽しくもない説明を遮るように、耳障りな完全体の哄笑。
「アテクシは夢の啓示の通りに息子タンを作り替えたザマス! アテクシの言うことを何でも聞く、素直で賢い息子タンに!」
「嫌がったりとかしなかったのか?」
「息子タンがアタクシのすることを嫌がるはずなんかないザマス! アテクシのすることは息子タンのためになるザマス! そう! これは息子タンのための戦いザマス!」
「そうかい」
完全体の言葉に、舞奈はおえっと顔をしかめる。
身勝手で品性下劣な、典型的な脂虫の女だ。
人間の顔と身分を真似ているだけの、心のない邪悪な怪異。
この街で舞奈や仲間たちの命運を握っていたのが奴のような下衆な怪異だったと思うだけで、それ以前に市民の上に君臨していたのだと思うだけで吐き気がする。
息子タンも、自身の手下も、市民も、奴にとっては道具かアクセサリに過ぎない。
だから皆、惨たらしく殺された。
こんな害虫みたいな女のために、ピアースやスプラやバーンやトルソ、皆は死んだ。
切丸は人間の尊厳すら壊された上で。
そう思うとやりきれない。それでもなお――
「――ま、ぶちのめしやすくていいけどな」
舞奈は口元にサメのような笑みを浮かべる。
そもそも舞奈と明日香は奴を滅ぼすためにここに来た。
その間際に奴がまっとうな人の親だったと知るよりも、息子も他人も眼中にない自分本位で身勝手な正真正銘の虫けらだと知った方が気分よく消滅させられる。
奴の断末魔を聞きながら、ざまあみろとせせら笑うことができる。
それでこそ怪異だ。
それでこそ自らの意思で人の魂と尊厳を捨て去った喫煙者だ。
……たぶん、楓や小夜子も同じ考えなのだろう。
そう思うと不思議と冷静でいられた。
だが、そんな舞奈の余裕が気に入らないのだろう、
「以前の息子タンはゲームやアニメにうつつを抜かすダメな子供だったザマス! アテクシの言葉を聞こうともしなかったザマス!」
完全体は耳障りな声で叫ぶ。
ガラス瓶は何もしゃべらない。
「あまつさえスカイフォールの! 男に媚びた淫乱女にそそのかされて、ヤンキーなんかになろうとしたザマス!」
「スカイフォールだと?」
「ええ、まあ、スカイフォール王国には術者でもある王女が2人いるけど……」
「そいつがヤンキーと一緒に奴の息子をたぶらかしたってのか? ワイルドだな」
思わぬ単語と、明日香の補足に少し驚く。
たしかスカイフォールというのはバーンが魔剣を買った国だ。
表向きは西欧の小国だが、その実は魔道士の国。
そんな国の王女様が、今回の件に関わっていたなんて初耳だ。
「そいつらの名前はわかるか」
「ええ。第一王女ルーシアと、第二王女のレナ。……そういえば姉のルーシア王女が何年か前から我が国に留学しているって話を聞いたことがあるわ」
「ルーシアちゃんか! 可愛らしい名前じゃないか」
「ルーシア!! あの恥知らずな小娘!」
ビンゴだ。
名前を口にした途端、銀色の虫は激昂する。
今しがたの話は本当のことらしい。
だが、すぐに完全体は哄笑し、
「けど、あの売春婦は死んだザマス! アテクシが部下に命じて真っ先に殺させたザマス! そのためにこの街を支配したザマス!」
目鼻もない顔を邪悪な笑みのように歪める。
そんな醜い虫を尻目に、
「真っ先にって……禍川支部のことか!」
舞奈は思わず声をあげる。
彼女の言葉で気づいた。
四国の一角にWウィルスが散布され、結界に覆われ、混乱するの最中。
禍川支部は屍虫の群れに強襲された。
リーダーの月輪の指揮の元【禍川総会】の異能力者たちが応戦した。
そして……呪術師の少女がひとり逃げのびた。
彼女が危機を知らせてくれたおかげで舞奈たちは禍川支部の危機を知った。
その結果、攻撃部隊が編成され、舞奈たちがやってきた。
つまり、奴の言葉が本当なら、奴は目的を果たしていない。
「けど今の息子タンはアテクシの力になってくれるザマス! 息子タンさえいれば、もう一度、歩行屍俑を作っておまえたちを踏みつぶすことだってできるザマス!」
「……それだけじゃないみたいよ」
完全体の哄笑に続く、明日香の苦々しい声。
舞奈は無言で続きをうながす。
明日香は言葉を続ける。
「あの筒から信じられない量の魔力を感じる。たぶん、県全体を包むWウィルスの結界を制御しているのもあれだと思うわ」
「……なら丁度良いじゃねぇか」
何食わぬ口調で答えながら、舞奈の口元には笑み。
殴山一子は赤い石が見せた夢で、怪異の技術を学んだ。
その力で自分の子供をガラス瓶の中のオブジェに変えた。
ヤンキーたちの首と似たような原理であろう。
完全体の体内に収められたガラス瓶は強大な魔力を保有するらしい。
装脚艇に似た巨大怪異、歩行屍俑の動力源になる。
加えてガラス瓶は、四国の一角を覆う怪異の結界の礎でもある。
つまり奴ごとガラス瓶を破壊すれば、殴山一子と怪異の結界の両方が消える。
「おしゃべりはここまでザマス」
完全体はガラス瓶を収納する。
自身の告白を聞いて動かない舞奈が何らかの衝撃を受けたと思っているらしい。
最後の勝負に出るつもりだろう。
そのまま地中へと消える。
対する舞奈は油断なく身構えたまま、側の明日香に不敵な笑みを向け、
「次で仕掛ける」
「ええ、ひとつ使って拘束。最後のひとつで決めるわ」
「オーケー」
打ち合わせた直後、
「おおっと!」
明日香を抱いて跳ぶ。
2人の残像を裂いて完全体が跳び出す。
「ワンパターンなんだよ!」
「――妨害!」
舞奈の叫びに魔術語が重なる。
明日香がかかげた首が爆ぜ、冷たい光線になって敵を穿つ。
避ける余裕などあるはずもない。
たまらず銀色の身体が氷の茨で縛られる。
大頭によって強化され、大魔法と化した【氷獄】。
例のガラス瓶の魔力に防護でもされているか、茨は胴と釣鐘状の頭部を避ける。
だが四肢は強固に縛められ、凍結した。
硬く素早く舞奈たちを翻弄した完全体を、今や強固な氷の檻が拘束していた。
舞奈と明日香が裏に隠れた、強固なはずの背後のビルがビリビリと揺れる。
殴山一子が駆る歩行屍俑を内側から引き裂いた核の光がビルの両サイドを覆う。
「流石にやりすぎなんじゃないのか?」
「だといいんだけど」
舞奈と明日香は身を低くしながら軽口を交わす。
そうするうちに、魔法の戦術核の光が止んだ。
2人は一挙動で立ち上がり、ビルの陰から跳び出す。
数分前は激戦の傷跡こそ残るものの街だった場所。
そこは苛烈な爆光に曝され正真正銘の廃墟と化していた。
半ばクレーター状にえぐられた爆心地に、腐った鋼鉄の巨人はいない。
まあ当然だ。何せ核爆発の爆心地がそいつだったのだ。
だが代わりに……
「……そうでもなかったみたいだな」
光が止んだ跡には別の何かがいた。
釣鐘状の頭をした、銀色に輝く人型の異形。
「どうやら完全体に転化する能力を持っていたみたね」
「らしいな。……ったく、いつもいつもオチはこいつだな」
舞奈は思わず悪態をつく。
滓田妖一の一味や蔓見雷人、KASCの悪党どもは死した後、銀色になって蘇った。
要人の顔と身分を簒奪し、政治を悪用して人間社会に大規模な被害をもたらす類の忌むべき怪異の常套手段なのだろう。
同じように、四国の一角を滅ぼした殴山一子もまた完全体に転化した。しかも、
「今まで見たことない形状ね。気をつけて」
「わかってる。……ったく、今度は体が便所虫ときた!」
舞奈は短機関銃《マイクロガリル》を手にしたまま油断なく身構える。
今度の完全体の頭部も過去の何度かの遭遇ですっかり見慣れた釣鐘頭。
顔も目鼻のない銀色ののっぺらぼうだ。
虫みたいな転化前の顔面よりよっぽどマシに見える。
だが首より下は、今までの完全体みたいな逞しい男の体を模したフォルムではない。
頭部と同じ銀色の、だが歪な装甲に似た何かを身にまとっている。
一見すると甲冑のような、節くれだった甲虫のような、あるいは先ほど倒したばかりの歩行屍俑に似たメカニカルな外観に見える。
両腕は蛇腹状。
足元も昆虫のような6本脚。
奴自身の精神が形になったような、不細工な銀色の便所虫だ。
しかも、おそらく無様な装甲は伊達じゃない。
奴は明日香が本気で放った核爆発の中で生きのびた。
以前に戦った蔓見雷人は完全体に転化すると同時に瞬殺されていたのに。
それでも舞奈は側の明日香を見やって不敵に笑い――
「――跳べ!」
叫びながら横に跳ぶ。
次の瞬間、完全体は砲弾のような勢いで襲いかかってきた。
速い。
硬いボディが風を切り、なびくコートの端をかすめる。
視界の端を駆け抜ける銀色。
敵は地面を滑空できるらしい。
凄いスピードで突進してくる様は、むしろ茶黒いニンジャ虫に似ている。
一挙動で立ち上がり振り向く舞奈の目前で、そんな高速完全体が遠ざかっていく。
急旋回はできないらしい。
完全体は舞奈が見やるはるか先で立ち止まる。方向転換。
再び突進しながら拳を繰り出す。
ずいぶん距離が離れているがと訝しみながらも跳んで射線を避けた舞奈の、
「おおっと!」
ひょいと傾けた小さなツインテールの端を、硬い何かがかすめる。
突き出された完全体の拳が飛んできたのだ。
正確には蛇腹状の腕がのばせるらしい。
「アーガスさんが言ってた奴か」
『ええ。装脚艇の構造を再現した新型……まあ納得はできるわ』
つぶやきに対する答えに口元を歪める。
明日香の声は胸元の通信機から聞こえた。
例によって二段構えの隠形で何処かに隠れているのだろう。
そもそも彼女は最初の突進の直後からいなかった。
おそらく回避しきれず【反応的移動】で転移したか。
明日香のクロークに焼きつけられた防御魔法は、避けることも防ぐこともできない被弾を自動的に短距離転移で回避する。明日香の生命線だ。
だが転移できる数が3回なのは以前と変わらない。
転移のために消費するルーンを大量には持ち運べないからだ。
うち1回は確かに最初に使ったはずだ。
そんな彼女の声に少しばかり――安堵しながら会話の内容に集中する。
意識して、以前に見舞ったアーガス氏から聞いた話を思い出す。
彼らが倒した国際テロリストのテロドスとやらは、宝貝の人型ロボット兵器――歩行屍俑の技術を応用した機械仕掛けの完全体に転化したという。
機械装置を模すことで完全体の魔力を効率よく物理的なパワーに変えるためだ。
陰陽術の式神やカバラのゴーレムに似た思惑か。
なるほど、そう考えれば先ほどの突進も術というより装脚艇の機能に近い。
見やった背中にも推進装置らしき光が見えた。
こちらは以前に戦った機械の騎士レディ・アレクサンドラと同じだ。
今しがたの拳も舞奈のワイヤーショット同様、火薬か魔力で発射しているのだろう。
突進と同じく砲弾くらいの速度があった。
加えて風を切る音と感触から、ピンとのばされた指先は鋭利に尖っている。
生身で喰らえば良くて即死。
人体なんか紙切れみたいに吹き飛ばされる。だから――
「――そういうゲームは嫌いじゃないぜ!」
舞奈は敵に接敵する。
数メートルの距離を一気に詰める程度は造作ない。
少なくとも今の舞奈自身に遠~中距離から完全体を仕留められる手札はない。
だが明日香なら如何様にでもできる。
だから、むしろ彼女が最高のパフォーマンスを発揮するためにも舞奈は敵に張りついて動きを制限するべきだ。
クイーン・ネメシスを相手取るときにもそうしてきた。
ウィアードテールが変じた魔獣と戦うときも。
「少し遊ぼうぜ! 虫ババア!」
槍でも構えて突撃する勢いで懐に跳びこんで短機関銃《マイクロガリル》を掃射。
無数の小口径ライフル弾は、もちろん銀色の虫のような外殻に傷もつけられない。
装甲の隙間らしい個所に滑りこんだ何発かも効いてはいない。だが、
「ヒイッ!」
予想通りに完全体は怯む。
奴に有効打とそうでない攻撃の区別はつかない。
撃たれたという事実でしか判断できない。だから、
「生意気なガキが! ゲームなんかがあるから! 破廉恥なアイドルなんかがいるからおまえのようなクソガキがぁぁぁ!!」
蛇腹の拳を放ちながら、完全体は目鼻のない顔で叫ぶ。
つるりとした銀色ののっぺらぼうが、生前にも増して醜く見える。だから、
「ダウトだ! 先週末まで、あたしはゲームのことなんか知らなかったぞ!」
舞奈も負けじと吠える。
飛んでくる拳をついでに避ける。
そうしながら撃ち尽くした短機関銃《マイクロガリル》の弾倉を流れるような動作で交換し、
「あんたの下らない企みを挫くためにこの街に来て、会った奴らに教わった!」
再び掃射。
小口径ライフル弾は銀色の甲羅に弾かれて落ちる。
自身に銃弾が効かないのに気をよくしたか、敵は次々に拳を繰り出す。
だが舞奈にとってはどうでもいい。
楽しそうにゲームの話題で盛り上がるピアースとバーンの笑顔が脳裏に浮かぶ。
ゲームのことなんか何も知らない舞奈だが、彼らの話を聞くのは嫌いじゃなかった。
だから乾いた笑みを浮かべながら、機械の拳をのらりくらりと左右に避ける。
空気の流れすら読み取る卓越した感覚を持つ舞奈にとっては普通のこと。
だが常人の感覚からは奇跡にしか見えない超機動。
おそらく見たこともない怪異を相手に、Sランクがそれを披露する様子を見やる仲間の表情を無理やりに脳裏から押しやって、
「みんな良い奴だった! すっげぇ良い奴だった! てめぇみたいに口から人間そっくりな言葉を垂れて、人間のフリしてるだけの怪異なんかよりずっとな!!」
声の限りに絶叫する。
対して敵は返事の代わりに距離をとる。
通常の手段では傷すらつかない無敵の身体を持っているのに。
舞奈の身体能力に恐れをなしたか?
あるいは気迫に圧されたか?
どちらにせよ、彼女は敵との直接戦闘などしたことがなかった。
相手が真正面から逆らってくることなどなかった。
今までは。
退いた敵を、舞奈はあえて追わずに一瞬だけ様子をうかがう。
そんな足元に気配。
再び路地に得物が転がる。
今度は巨大なリボルバー付きの連装型グレネードランチャー。
こいつも禍川支部の倉庫にあったのだろうか?
まあクレアの得物に似ているので撃ち方もわかる。
完全体が態勢を立て直す隙に抱え上げる。
構えて撃つ。
だがグレネードが銀色の身体を穿つ直前、敵は足元から爆ぜた。
正確には敵を中心に道路を弾き飛ばしながら派手な土煙があがった。
瓦礫と爆風に阻まれ、グレネードは敵に達することなく空しく爆ぜる。
そして土煙が止んだ後には敵の姿はない。
『気をつけて! 近くの地面から出てくるはずよ!』
「らしいな!」
胸元の通信機からの警告より一瞬早く道路を転がる。
その残像を貫くように、アスファルトを砕きながら完全体が跳び出した。
「【土行・遁甲】って奴か」
一挙動で立ち上がりつつ身構える。
ひとりごちたのは、岩や泥土に姿を変えて移動する妖術の名。
敵はそれを使ってアスファルトの下の地面と同化して舞奈の真下まで移動。
足下から強襲して舞奈を葬ろうとした。
避けられたのは、鋭敏な感覚で地面のかすかな振動を察したからだ。
跳び出した敵が着地する前に、素早くグレネードランチャーを構えて撃つ。
十分に狙ったとはいえない一撃。
それでも肩口を穿って爆発する。
だが爆炎を振り払った銀色のボディには――
「――糞ったれ! こいつでもか!」
胴にも腕にも破損の痕はない。
クリーンヒットどころかダメージすら入っていない。
舌打ちする舞奈の前で、間髪入れずに完全体は再び地面に潜る。
地中からの不意打ちに味を占めたか。
流石の敵も自身と舞奈の技量の差には気づいたのだろう。
できれば撃たれたくないし、舞奈は攻撃をすべて避けて確実に当てる。
だが舞奈も所詮は生身の少女。
得物も常識の範囲内の銃砲。
だから安全圏からヒットアンドアウェイを繰り返せばいつか勝てるとふんだか。
奴にしては考えた。
だが所詮は浅知恵だ。
ふと手にした得物の落書きに気づく。
巨大なレンコン型のシリンダー部分に何か書いてあった。
赤いペンキで雑に『HELLBEAST』と。
雑に施されたペイントにヤンキーみを感じた。
あるいはロックみを。
そういえば双葉あずさが好きだった皆は、ファイブカードも好きだっただろうか?
トルソやバーンは正直、こっちのほうが似合っていると思わなくもない。
そんなことを考えるのは思ったほど嫌じゃなかった。
だから身体にたぎる熱はそのまま、脳と心だけが少しだけ穏やかになる。
そのようにして口元にサメのような笑みを浮かべるうちに、
「さて、グレネードを普通に撃っても効かない相手に取る手は……」
ひとりごちつつ、足元に感じる再度の微震に笑う。
「……っと!」
舞奈は跳ぶ。
一瞬前まで舞奈がいた路地が爆ぜる。
アスファルトの路地を裂いて銀色の甲冑が跳び出る。
舞奈は跳んだ反動のまま一回転。
背後に跳び出た完全体にグレネードランチャーの砲口を定める。
続けざまに発砲。
2発のグレネード発のうち1発が敵のボディをまともに捉える。
だが派手に爆発した銀色のボディは無傷。
もう1発が当たる前に、敵は素早く斜めに移動。
グレネードは距離を取った敵を辛くも外れ、真横の路地に落ちて爆発する。
舞奈は舌打ちする。
「ちょこまかちょこまかと! なんてムカつくクソガキザマスか!」
完全体は喚く。
『最後の1発に付与魔法をかけるわ』
「さんきゅっ!」
胸元の明日香の声に軽く答える。
同時に風と熱。
「……ったく、他人の銃だと思って無茶苦茶しやがって」
ひとりごちつつグレネードランチャーを構える。
MGLの装弾数は6発。
うち4発は先ほどまでの攻防で使った。
「あの小娘みたいに、おまえも死ぬザマス!」
「そいつは無理な相談だな!」
叫びに軽口を返しつつ、蛇腹の腕をのばして飛んでくるパンチを避ける。
小娘って誰だ?
訝しみつつ、気にせず撃つ。
ロケット弾は敵の目前に出現した【土行・岩盾】の岩盾に阻まれて爆ぜる。
完全体は顔のない頭で嘲笑う。
だが同時に完全体の背後からもプラズマの砲弾が直撃。
明日香の【雷弾・弐式】だ。
こちらも銀色の身体を焦がすことすらできない。
だが完全体は怯む。
舞奈はサメのように笑う。
敵は自分の身体で戦ったことなどないのだろう。
今までは自身の地位と、それによって動く人間が彼女の我儘をすべて叶えた。
道術を手に入れたからは、脂虫や屍虫がその代わりだった。
だから奴は他者の意図を、周囲の状況を推し量る技術を持たない。
人の心も、人の知恵もない人の皮をかぶった害虫だ。
だから息子タンとやらの理解を得られなかった。
人の街に躊躇なくWウィルスを撒いた。
今しも完全体の身体でなら余裕で防げるグレネード弾を岩盾で防いだ。
背後からの奇襲を見抜けず、損傷すらないのに怯んだ。
撃たれたから防ぐ。
当たったから怯む。
奴は周囲の状況をなんとなくの気分でしか察していない。
子供が退屈なゲームをだらだら遊ぶように。
だから……自身を傷つけ得る本当の脅威に気づかない。
舞奈は間髪入れずに撃つ。
グレネードランチャーにこめられた最後の1発。
弾倉に付与された魔術は【力弾】。
そして弾頭には【燃弾】。
ただ1発の弾丸を爆炎へと変える、物品にかける攻撃魔法。
明日香自身の攻撃魔法のように激しく燃える炎の球が完全体を襲う。
波状攻撃にリソースを食いつぶされた敵は、新たな攻撃に対処できない。
辛うじて両腕で頭をかばう。
そんな完全体を、憤怒が形になった如く業火の一撃が直撃する。
大爆発。
頭をかばった両腕を吹き飛ばす。
だが次の瞬間――
「――――――――!!」
完全体は耳障りな嘯を吹く。
途端、周囲の崩れかけたビルの陰から数多の人影が跳び出した。
薄汚れた野球のユニフォームに、くわえ煙草。
脂虫どもだ。
幸い銃を持っている個体はない。
だが全員がうめき声をあげ、双眸を見開きながら両手をのばして襲いかかってくる。
正しい意味でのゾンビ映画のゾンビみたいだ。
「この期に及んで目くらましか!?」
叫びつつ、舞奈は目前の脂虫の脇の下をくぐって完全体に駆け寄る。
弾切れしたグレネードランチャーを捨てて左手でナイフを抜く。
行く手をふさぐ何匹かの脇腹を裂き、腕を切り落とす。だが、
「――――――――!!」
完全体が再び嘯を吹くと、周囲にいた数匹の脂虫が分解されて土煙になる。
黒く淀んだ汚い煙は完全体に吸いこまれる。
次の瞬間、引き千切られたはずの奴の両腕は元に戻っていた。
「野郎っ! 再生までしやがるのか」
舌打ちする舞奈の側に気配。
明日香だ。
……どうやら隠れる場所がなくなったらしい。
なにせ脂虫どもは周辺一帯を埋め尽くす勢いだ。
隠形は所詮は隠形だから、隠れる場所が物理的になくなれば出てくるしかない。
それを敵が意図したのかはわからない。
だが思わぬ力技で明日香は安全圏から引きずり出された。
それでも明日香の口元には笑み。
彼女にとって、隠形は数ある戦術のうちのひとつに過ぎない。
「9パラはまだある?」
「ああ。……トルソにもらってなければ危なかったがな」
周囲の脂虫どもめがけ、2人は背中合わせに得物をぶっ放す。
明日香はを短機関銃を。
舞奈は改造拳銃で素早く正確に敵を射抜く。
ひたすら数が多いだけで、何の防護もない脂虫なのが幸いだ。
そう思った瞬間――
「――転移だ! どこでもいい!」
明日香を抱きかかえながら叫ぶ。
次の瞬間、ブラックアウト。
さらに次の瞬間、2人は脂虫どもの真っただ中にいた。
景色も違う。正確には先ほどは位置が少し違う。
短距離転移だ。
急に変わった足場を瞬時に把握し転倒を免れる。
そんな2人から少し離れた場所で爆発。
吹き上がる砂煙と瓦礫の中から完全体が跳び出す。
2人は明日香の転移で足元からの奇襲を逃れたのだ。
「……本当にドッグタグなしで跳べるんだな」
口元に笑みを浮かべつつ、周囲の脂虫の脳天を片っ端から撃ち抜く。
明日香も短機関銃を掃射し、素早く弾倉を交換して、
「まただ!」
舞奈の合図で転移する。
2人が消えた虚空を、地中から跳び出した完全体がドリルのように穿つ。
そして2人は転移先で迫り来る脂虫どもを蹴散らす。
敵は地中を縦横無尽に移動する。
だが舞奈が地中からの奇襲を察知し、明日香の短距離転移で回避する。
それでも明日香が術に集中できない以上、舞奈たちも敵への有効打がない。
一見すると千日手。
だが舞奈たちは一瞬でも、一度でも判断を誤れば後がない。
地中からの鋭い突撃を準備もなく防ぐのも無理だ。
そのような単調だが死と隣り合わせな攻防に口元を歪めながら――
「――来るぞ!」
「転移!」
魔術語と同時に明日香を抱えたまま消える。
そして少し離れたビルの麓に、居合わせた脂虫を吹き飛ばしながら出現する。
間髪入れずに周囲の脂虫を掃討する。
断続的に視界と足元、周囲の感触が遮断。
次の瞬間、まったく別の環境に放り出される。
一瞬でも気を抜けば転倒は必至。
そんな感覚器官への暴力に等しい出鱈目な機動にも慣れてきた。
そもそも連続でない転移なら何度も体験した。
気心の知れた明日香の視線を追って転移先の目星を付けられるのも大きい。
そんな機動をしながら、
「大魔法は何回、使える?」
「あと2回ってところかしら」
「……けっこう減ったな」
「そりゃあね」
舞奈の問いに明日香が答える。
禍川支部から拝借してきたヤンキーたちの首。
リーダーである月輪の意図で、支部を守る礎になろうとした英霊たちの願いの欠片。
戦闘魔術師による大魔法の礎にもなる大頭を、これまでの戦闘でかなり消費した。
もとより使い惜しむ気などなかった。
そんなことをしたら、一命を賭して魔力と化した彼らに失礼だと思った。
だが残り2回の命を――想いを無駄にする気も毛頭ない。
舞奈は彼らがそこにいたことを知っている。
善良で勇敢な彼らが、文字通り一命を賭して何かを守ろうとしたと知っている。
その想いを無駄にしたくない。
それこそが人間である舞奈たちと、怪異である殴山一子の違いだ。
そんな殴山一子が変じた銀色の虫が、ボロボロになった道路に降り立つ。
「アテクシには理由があるザマス! この街から不要なものを排除する理由が!」
「そんなものはねぇよ!」
「あるザマス!」
舞奈の言葉に激怒する。
その仕草が癇癪をおこした子供のようだと思った途端――
「――?」
完全体の甲冑に似た胸が開く。
先ほどのグレネードがあればと少し思いつつ、舞奈は油断なく身構える。
明日香も手出しはしない。
完全体は、そんな2人の目前で胸から何かを取り出す。
円筒形のガラス瓶だ。
中は透明な液体で満たされ……何かやわらかいものが浮かんでいる。
「……試作型のPKドライブ?」
「何だと?」
驚愕を隠し切れない明日香の声と、側で息を飲む感触。
不吉な予感に思わず舞奈は鋭く問う。
「装脚艇の動力源兼制御装置として研究されていた生体……魔道具よ。けど非人道的だっていう理由で研究は完全に破棄されたはず」
「これはアップデートされた息子タンザマス!」
楽しくもない説明を遮るように、耳障りな完全体の哄笑。
「アテクシは夢の啓示の通りに息子タンを作り替えたザマス! アテクシの言うことを何でも聞く、素直で賢い息子タンに!」
「嫌がったりとかしなかったのか?」
「息子タンがアタクシのすることを嫌がるはずなんかないザマス! アテクシのすることは息子タンのためになるザマス! そう! これは息子タンのための戦いザマス!」
「そうかい」
完全体の言葉に、舞奈はおえっと顔をしかめる。
身勝手で品性下劣な、典型的な脂虫の女だ。
人間の顔と身分を真似ているだけの、心のない邪悪な怪異。
この街で舞奈や仲間たちの命運を握っていたのが奴のような下衆な怪異だったと思うだけで、それ以前に市民の上に君臨していたのだと思うだけで吐き気がする。
息子タンも、自身の手下も、市民も、奴にとっては道具かアクセサリに過ぎない。
だから皆、惨たらしく殺された。
こんな害虫みたいな女のために、ピアースやスプラやバーンやトルソ、皆は死んだ。
切丸は人間の尊厳すら壊された上で。
そう思うとやりきれない。それでもなお――
「――ま、ぶちのめしやすくていいけどな」
舞奈は口元にサメのような笑みを浮かべる。
そもそも舞奈と明日香は奴を滅ぼすためにここに来た。
その間際に奴がまっとうな人の親だったと知るよりも、息子も他人も眼中にない自分本位で身勝手な正真正銘の虫けらだと知った方が気分よく消滅させられる。
奴の断末魔を聞きながら、ざまあみろとせせら笑うことができる。
それでこそ怪異だ。
それでこそ自らの意思で人の魂と尊厳を捨て去った喫煙者だ。
……たぶん、楓や小夜子も同じ考えなのだろう。
そう思うと不思議と冷静でいられた。
だが、そんな舞奈の余裕が気に入らないのだろう、
「以前の息子タンはゲームやアニメにうつつを抜かすダメな子供だったザマス! アテクシの言葉を聞こうともしなかったザマス!」
完全体は耳障りな声で叫ぶ。
ガラス瓶は何もしゃべらない。
「あまつさえスカイフォールの! 男に媚びた淫乱女にそそのかされて、ヤンキーなんかになろうとしたザマス!」
「スカイフォールだと?」
「ええ、まあ、スカイフォール王国には術者でもある王女が2人いるけど……」
「そいつがヤンキーと一緒に奴の息子をたぶらかしたってのか? ワイルドだな」
思わぬ単語と、明日香の補足に少し驚く。
たしかスカイフォールというのはバーンが魔剣を買った国だ。
表向きは西欧の小国だが、その実は魔道士の国。
そんな国の王女様が、今回の件に関わっていたなんて初耳だ。
「そいつらの名前はわかるか」
「ええ。第一王女ルーシアと、第二王女のレナ。……そういえば姉のルーシア王女が何年か前から我が国に留学しているって話を聞いたことがあるわ」
「ルーシアちゃんか! 可愛らしい名前じゃないか」
「ルーシア!! あの恥知らずな小娘!」
ビンゴだ。
名前を口にした途端、銀色の虫は激昂する。
今しがたの話は本当のことらしい。
だが、すぐに完全体は哄笑し、
「けど、あの売春婦は死んだザマス! アテクシが部下に命じて真っ先に殺させたザマス! そのためにこの街を支配したザマス!」
目鼻もない顔を邪悪な笑みのように歪める。
そんな醜い虫を尻目に、
「真っ先にって……禍川支部のことか!」
舞奈は思わず声をあげる。
彼女の言葉で気づいた。
四国の一角にWウィルスが散布され、結界に覆われ、混乱するの最中。
禍川支部は屍虫の群れに強襲された。
リーダーの月輪の指揮の元【禍川総会】の異能力者たちが応戦した。
そして……呪術師の少女がひとり逃げのびた。
彼女が危機を知らせてくれたおかげで舞奈たちは禍川支部の危機を知った。
その結果、攻撃部隊が編成され、舞奈たちがやってきた。
つまり、奴の言葉が本当なら、奴は目的を果たしていない。
「けど今の息子タンはアテクシの力になってくれるザマス! 息子タンさえいれば、もう一度、歩行屍俑を作っておまえたちを踏みつぶすことだってできるザマス!」
「……それだけじゃないみたいよ」
完全体の哄笑に続く、明日香の苦々しい声。
舞奈は無言で続きをうながす。
明日香は言葉を続ける。
「あの筒から信じられない量の魔力を感じる。たぶん、県全体を包むWウィルスの結界を制御しているのもあれだと思うわ」
「……なら丁度良いじゃねぇか」
何食わぬ口調で答えながら、舞奈の口元には笑み。
殴山一子は赤い石が見せた夢で、怪異の技術を学んだ。
その力で自分の子供をガラス瓶の中のオブジェに変えた。
ヤンキーたちの首と似たような原理であろう。
完全体の体内に収められたガラス瓶は強大な魔力を保有するらしい。
装脚艇に似た巨大怪異、歩行屍俑の動力源になる。
加えてガラス瓶は、四国の一角を覆う怪異の結界の礎でもある。
つまり奴ごとガラス瓶を破壊すれば、殴山一子と怪異の結界の両方が消える。
「おしゃべりはここまでザマス」
完全体はガラス瓶を収納する。
自身の告白を聞いて動かない舞奈が何らかの衝撃を受けたと思っているらしい。
最後の勝負に出るつもりだろう。
そのまま地中へと消える。
対する舞奈は油断なく身構えたまま、側の明日香に不敵な笑みを向け、
「次で仕掛ける」
「ええ、ひとつ使って拘束。最後のひとつで決めるわ」
「オーケー」
打ち合わせた直後、
「おおっと!」
明日香を抱いて跳ぶ。
2人の残像を裂いて完全体が跳び出す。
「ワンパターンなんだよ!」
「――妨害!」
舞奈の叫びに魔術語が重なる。
明日香がかかげた首が爆ぜ、冷たい光線になって敵を穿つ。
避ける余裕などあるはずもない。
たまらず銀色の身体が氷の茨で縛られる。
大頭によって強化され、大魔法と化した【氷獄】。
例のガラス瓶の魔力に防護でもされているか、茨は胴と釣鐘状の頭部を避ける。
だが四肢は強固に縛められ、凍結した。
硬く素早く舞奈たちを翻弄した完全体を、今や強固な氷の檻が拘束していた。
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