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第17章 GAMING GIRL

回想2

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 舞奈とテックがポスターで和み、早朝ヤニ狩りに遭遇した日の放課後。
 一見してつつがなく帰りのホームルームを終えた小5の教室で、

「安倍さーん! マイー!」
 終礼と同時にチャビーが駆けてきた。

「こんな所で走ると転ぶぞ」
「あのね、これからみんなでイソギンチャクを探しに行くの!」
「……」
 お子様チャビーは元気に無邪気に言い放つ。
 絶句しながら舞奈が見やる、ニッコニコな満面の笑みを浮かべたチャビーの側で、

「今朝、商店街にすっごく大きなイソギンチャクがいたんだって」
「他のクラスの子たちも見たのー」
「お、おう」
 園香と桜が並んで説明してくれた。

(……学校中の噂になってるじゃねぇか)
 舞奈は思わず窓の外、雲ひとつない晴れ渡った青空を睨みつける。
 この静かな義憤とやるせなさが、あの無軌道なKAGEに伝わればいいのに。

「委員長も誘って皆で探しに行くんだけど、マイちゃんたちもどうかな?」
「スマン、今日は野暮用があって……」
「そっか、残念」
 誘ってくれた園香にはスマンが、用があるのは本当だ。
 それでも事情を察して気にせぬ素振で微笑む園香に、

「チャビーたちを頼む。危ないところに行かないように気をつけろよ」
「はぁい」
 舞奈も言って笑顔を返す。

 彼女らは以前、近くの森にツチノコ探しに行って不審者に襲われたことがある。
 その時には幸いにもロッカーにして悪魔術師の萩山光に救われた。
 だがまあ流石に今回は、

「イソギンチャクは商店街にいるから危なくないのー」
「えり子ちゃんも一緒に行くから大丈夫だよ!」
「……えり子は3年生よ」
 能天気なチャビーの言葉に明日香がツッコむ。

 小5の集団に小3がひとり加わったところで不意の危険に対する備えにはならんという明確な事実に気づかない程度には、残念ながらチャビーはまだまだお子様だ。
 だが、えり子は執行人エージェントにして祓魔師エクソシストでもあったりする。
 そちらの事実に、まさか気づいてはいないだろうが……。

 まあ商店街にも脂虫は徘徊している。
 奴ら人に似るが人ではなく、悪臭と犯罪で人を害する害虫はどこにでもいる。
 だが商店街には奴らを狩るべく執行人エージェントや、最近は彼らに協力しているらしいサメやタコやイソギンチャクも徘徊している。森よりは安全だろう。
 そんなことを考えて舞奈が苦笑するうちに――

「――皆さん、お待たせなのです」
「委員長なのー」
「それじゃあ行ってくるね」
「ああ。見つけたら話を聞かせてくれよ」
 委員長が揃った一行は探検に出かけようと教室を出ていく。その間際、

「あ、テックちゃん」
「……本当に探しに行くのね。イソギンチャク」
 帰り支度を済ませたテックに気づいて園香がにこやかに声をかける。
 だがテックは普段と変わらぬ無表情のまま、

「テックちゃんも探しに行くのー」
「いかない。ネットの友達とゲームする約束があるから」
 桜の誘いを無常に突っぱねる。

 一見して無口で無感動に見える彼女だが、地味に意思は強くて流されにくい。
 なので【機関】絡みの厄介事について相談したり、協力を乞うことができる。
 ……まあ、もうひとりの知人のハッカーがみゃー子だからという理由もあるが。
 そんなテックの、

「……あと、多分それ、朝方に大通りの喫茶店の近くにいたわ」
「わわっ、テックちゃん見たんだ」
「いいなー」
「どちらの方向に行ったか覚えていますか?」
「……学校と反対の方向」
「なら役場の方なのです、そっちの方向に行ってみるのです」
「ありがとうテックちゃん」
「イソギンチャクさんに会えたらお話しするね!」
 アドバイスを受けて、一行は意気揚々と教室を出て行く。
 そんな皆を見送りながら、

「……あいつ、まさかあの格好のまま役所に行ったんじゃないだろうな」
「知り合いなの?」
「お前も知ってる奴だぞ」
「そんな知り合い、いないわよ」
「だといいけどな」
 軽口を叩き合いながら、舞奈と明日香も野暮用を片付けるべく下校する。

 そのようにして皆が去って行ったドアを、テックはしばし無言で見やる。
 携帯を取り出し、画面を見やる。

 画面の待ち受け画面は、配布されたばかりの可愛らしい3人の女の子。
 通知欄には、今朝方に撮ったコードの登録が受け付けられた旨が記されている。

 普段は無表情な口元に、珍しく微笑が浮かぶ。
 そして携帯を仕舞い、テックも学校鞄を背負って教室を出る。
 今晩、ネットの仲間とゲームで冒険する約束をしていたのは本当だ。

 あの頃と同じように……

――――――――――――――――――――

 ……そして現実世界とはまったく別に存在するゲームの中のファンタジー世界。
 高度な魔術によって成り立ちながらも市販のバーチャルギアと専用ゲームソフトによって一般人でも普通にアクセスできる、現実と隣り合わせの非日常。

 そんな世界の一角に位置する、鬱蒼とした森を背にした広い平原で、

「やあっ!」
 皮鎧を着こんだ青年が、槍を構えて突撃する。
 相手は青白い肌をして派手なボロ切れをまとった、人間の半分サイズのゴブリンだ。

 青年が突いた槍の穂先がヴァーチャルの風を切る。
 だがゴブリンは槍をひょいと避ける。
 渾身の一撃をかわされた青年はたたらを踏む。
 挙動がほとんど素人だ。

 そんな彼の背に向かって、別のゴブリンがナイフを振り下ろす。
 錆の浮いた凶器が皮鎧の背を捉える。

「うわあっ」
 青年は背から被弾エフェクトを散らしながらよろめく。
 頭上に名前とともに表示されたHPバーが少し減り、

「おおい、しっかりしてくれ」
 野太い男の声と共に怪光線が放たれる。
 光線に射られた青年の身体も同じ色の光に包まれ、減ったHPバーが戻る。
 HPを回復するスキルだ。
 現実世界の術者が使う回復魔法ネクロロジーと違い、ゲームの中の回復スキルは制限も条件もなしに発動と同時に対象の損傷を無にする。

 全快したHPバーのさらに上には『Pierce』の文字。
 ピアースというのがゲームの中のファンタジー世界での彼の名だ。

「すいません! テックさん!」
「礼はいい。今は自分の周りだけ見ててくれ」
 言いつつピアースが振り返って見やる先には髭面の巨漢。
 常識外な長躯のせいで、名前の『T……』はスキンヘッドに埋まって見えない。
 だがピアースをスキルで治療したのは彼だ。

 そんな巨漢が見やる先で、ピアースは2匹のゴブリンの攻撃を辛くも避ける。
 そんな彼の向こう側からもゴブリンの群。

「……後がつかえてるな。あんた、ダークサムライのスキルを持ってたろ?」
「あるけど、こういうイベントであれを使って良いのかな……?」
「リアルマネーで買ったスキルだろうが、チートせずにゲームのルールにのっとって入手したならあんたの力だ」
「そうだよね……。じゃあ!」
 テックの言葉に答えるように、ピアースが握りしめた槍の穂先が黒く輝く。

 ダークサムライ。
 得物を中心に重力場や斥力場を発生させるという設定のスキルだ。
 武器の攻撃力を増したり、盾にして敵の攻撃を防いだりできる。

 そんなスキルを、普段の彼はあまり使いたがらない。
 普通のプレイヤーが使えない重課金者専用のスキルという触れこみのためだ。
 だが状況が状況なせいか、今回だけは出し惜しみしないと決めたらしい。

「……俺も言った手前、本気を出すか。ぷちナグマホン、倒さない程度に攻撃」
 巨漢の命に応じ、側に鎮座していた豆戦車が咆哮をあげる。
 イスラエル製のナグマホン装甲車が可愛らしくアレンジされた、ゲームオリジナルの豆戦車だ。

 ぷちナグマホンは機銃を掃射する。
 ゴブリンどもは怯む。
 被弾エフェクトとともに2匹のゴブリンのHPバーもみるみる減って、

「そこだ!」
 うち1匹をピアースの槍が捉える。
 今度はまともにくらったゴブリンは、槍の穂先に宿るスキルの効果で吹き飛ぶ。
 頭上のHPバーもゼロになる。
 次の瞬間、醜い小鬼の身体は砕け、光の欠片になって飛散する。

 続けざまに、もう1匹。
 先ほど青年を苦戦させた2匹のゴブリンが瞬時に光の結晶体へと変わる。

「支援あざっす!」
「なあに、これからだ。そろそろ後続が射程距離内に入るぞ!」
「はい!」
 礼に笑みを浮かべつつ、テック自身も虚空に情報窓を呼び出す。
 そして鮮やかな操作で得物を取り出し、装備する。

 光とともに、右手に出現したのはアサルトライフルガリルARM
 左手には軽機関銃ネゲヴ

 巨漢は2丁の長物を小脇に抱える。
 無茶な絵面も、巨漢の彼がすると様になる。

 テックはアサルトライフルガリルARM軽機関銃ネゲヴをぶっぱなす。
 ゴブリンどもの頭上に並んだHPバーがまとめて激減する。

 HPが減ったゴブリンを1匹、さらに1匹と、ピアースの黒い槍が刺し貫く。

 ゴブリンどもが砕けた後にはドロップ品がつまった光の結晶体。
 それを青年は回収する。

「アイテムの回収は後だ。すぐに第3波がくるぞ」
「うわあっ!? 本当だ!」
 テックの指摘にピアースは驚き前を見やる。
 目前には第3波のゴブリンどもが迫る。
 今しがた第2波を片付けたばかりの彼は慌てて新手に備える。
 そんな様子を見やってテックは苦笑する。

「まとめてぶっぱなす。倒せそうな奴を片っ端から倒していってくれ。自分のHPも見なくていい。こっちでフォローする」
「了解っす!」
 青年は口元を引き締め槍を構える。

 巨漢は天に得物をかざして新たなスキルを使う。
 怪光線だ。
 新たなスキルの光線に包まれたピアースの身体が、先ほどとは違った光に覆われる。
 次いでHPバーの下にアイコンが表示される。
 バフお……否、バフと呼ばれる一時的な能力上昇スキルだ。
 現実の魔法戦での付与魔法エンチャントメントに相当する。

「あざっす!」
「構わんさ。どんどん片付けていってもらわないと、援護射撃で倒しちまうからな」
 言いつつテックはゴブリンどもめがけ、持てる火力を叩きこむ。

 ゲームの中の銃弾は味方をすり抜ける。
 だからポリゴンで描写された無数の弾丸はゴブリンめがけて雨あられと降り注ぐ。

 被弾エフェクトが乱舞する。
 歪に並んだHPバーがまとめて減少する。

「す……っげえ! 俺も負けてられねぇ! やあっ!」
 ピアースも負けじと手近なゴブリンを槍で突く。
 まともに喰らったゴブリンは吹き飛ぶ。
 残り僅かだったHPが0になり、被弾エフェクトと同じ色の光になって砕ける。

 その跡にあらわれた光の結晶を無視して、ピアースは次なるゴブリンに挑む。
 先ほどまでより動きが素早い。
 彼の身体を覆うバフによって強化されているからだ。

 巨漢は援護射撃でゴブリンどものHPをまとめて減らす。

 青年は1匹づつ着実にゴブリンを倒す。

 倒されたゴブリンは光の結晶へと変わる。

 正直なところピアースの動きは速くなっても隙は多い。
 回避はおぼつかず、スキルで使えるはずの斥力場の盾も使いこなせていない。
 詰めも甘い。
 だからゴブリンのナイフが幾度もかすめ、少しずつHPが減少する。
 それでもテックが回復スキルで放った怪光線に射られた途端に全回復する。

 ゲームの中の戦場は、娯楽のためのファンタジー世界だ。
 物理法則も、魔術や魔法の法則すらプレイヤーたちを楽しませるためにある。

 だから群れ成すゴブリンの群れを、やがて槍の勇者と同伴者は2人で制圧した。
 ゴブリンの群れを蹴散らした跡にダース単位で散乱しているアイテムの結晶を、ピアースは全力で回収する。
 そんな彼を見やりながら、テックは髭面を破顔させる。

 正直、彼の戦闘での立ち回りはいまいちどころか落第点だ。
 リアルでの戦闘のプロの動きを知っているテックにはわかる。

 だが彼は全力だった。
 この瞬間、彼にとってゲームの中のファンタジー世界は現実だ。
 今の彼がゴブリンの討伐という大任を成し遂げた勇者であることに相違はない。

 だがまあ、テックがアイテムに近づこうともしないのには他の理由がある。
 巨漢は虚空に情報窓を呼び出し、

「お、けっこう集まってるじゃないか」
「テックさんのおかげですよ」
「そうかもな、にしても収集イベントのアイテムをこれだけ集める奴は初めて見た」
 言って髭面を破顔させる。

 モンスターがドロップするアイテムを集めた数をプレイヤー間で競い、順位によって様々な豪華な景品がもらえる今回のイベント。
 このイベントが始まってから、ピアースは必死でアイテムを収集していた。

 普段は野良パーティーを募って冒険しているテック。
 だが、ここ数日は彼につきっきりで手伝っていたのだ。

 何故ならピアースは、ゲームを始めた当初からのテックの知人だった。
 それまで類のなかったフルダイブ型のバーチャルRPGということで運営もプレイヤーも不慣れな中、共に試行錯誤し切磋琢磨し合った友人だ。
 そんなテックも今や手練れのサポーターとして名を知られた古参。
 対してピアースはアルバイトが忙しいらしくログイン頻度も減ってエンジョイ勢。

 そんな中、今回のイベントでどうしても優勝したいと連絡を受けたテックは一も二もなく彼をサポートし、信じられない効率でアイテムを収集した。
 かつての黄金コンビの再来である。

 2週間のアイテム収集期間は明日で終わり。
 現在、彼が集めたアイテムの数は全プレイヤー内でぶっちぎりのトップ。
 少しばかり本気を出しすぎたか2位の倍以上の収拾数だ。だが、

「これで今回のイベントの優勝者はあんただな」
「……ああ。いい思い出ができたよ」
「辞めるのか?」
「本当は続けたいんだけどね」
 槍使いにして重力使いの彼は寂しそうに笑う。

 テックも古参だ。引退した知人だってそれなりにいる。
 突然イベントに本気を出した彼にも、正直なところ何かあるとは思っていた。
 その理由を告げられる覚悟もできていた……つもりだった。

「ほら、例の規制の話って知ってるかい?」
「ゲーム規制条例か。……よりによって、あんたの地元か」
「ああ。実は俺も、親にバーチャルギアを処分しろって言われてたんだ。明日、県の人が回収に来るからって」
「わざわざ県の職員が回るのか。ご苦労なこった」
 吐き捨てるように言って、テックは苦々しく口元を歪める。
 リアルの友人がしていた表情が咄嗟に顔に出たのだ。

 リアルの情報を漏らさないために、普段から感情をあらわさないよう心掛けていた。
 だが今は少しばかり事情が違う。
 昼間に友人と苦々しく語り合った忌まわしい規制に、友人が巻きこまれていた。
 その事実がショックを受けた。
 ……否。薄々だが事情を察していたから、あの規制が気に入らなかった。

「それでアイテム探しイベントを、余裕で優勝できるくらい頑張ってたのか」
「ああ。今回の商品のトロフィーってさ、ゲームと連動した記念品がリアルでも送られて来るんだろ? そいつが手元にあれば、少しは頑張れるかなって」
 そう言ってピアースは、少しはにかんだ表情で、

「……頑張る、か」
「ああ! 俺さ、バイトを頑張ってランクを上げて、いつか移動願いを出すんだ」
 ひとりごちるテックに少し興奮した面持ちで答える。
 思っていたのと少し違う展開にテックは首をかしげる。

「……ランク?」
「ああ。守秘義務があるから詳しいことは言えないんだけど、組織に認められて……確かAランク以上になれば、他県の支部への移動願いが出せるんだ。寮も転校も組織が手配してくれるし、引っ越しの費用も全額負担してくれるんだってさ」
「そりゃすごい」
「そうだろ! もし、そうなったらさ、巣黒すぐろ支部を希望しようと思うんだ。あそこは仕事が多くていつも人手不足らしいし、このゲームのメインサーバもある」
「そうか……」
 ピアースが笑顔で語る展望に、テックも少し表情を和らげながら相槌を打つ。
 彼の言葉が本当なら、いつか彼とゲームの中で再開できる。

 だから遺された僅かな時間で、巨漢と青年は思い出話に花を咲かせた。
 そうやって友人との別れを惜しんだ後、

「あっそうだ。今回の御礼しなきゃ。何日も手伝わせちゃったし」
「いや、貸しにしとくよ」
 トレード用の情報窓を呼び出そうとするピアースを制する。
 そして口元に笑みを作り、

「いつか戻ってくるんだろ? その時に……そうだな、新要素の案内料と一緒に貰う」
「ははっ所持金が足りなさそうだな」
「また稼げばいいさ。いつでも手伝ってやる」
「そいつはありがたい。……それじゃあ、また」
「ああ。また会おう」
 軽口を叩いて別れを告げる。
 そして彼がシステムメニューを操作し、皮鎧を着こんだ青年のアバターが消える様子をじっと見ていた。

「……ひとつ取り残してるじゃないか。相変わらず詰めが甘いな」
 苦笑しながら、彼が遺した最後のドロップアイテムを回収する。
 そしてテックもログアウトした。

 ……その後もテックは何度もゲームにログインして、ヴァーチャルなファンタジー世界での冒険を楽しんだ。

 もとよりテックのプレイスタイルは野良がメインだ。
 フレンドリストには引退者も、逆にいつ見てもログイン中な人も沢山いる。

 プチ引退した彼がログインすることはなかった。
 フレンド欄を見るたびに、最終ログインからの経過日数が増えていった。

 リアルでも度々、ゲーム規制条例が話題になった。
 特にネットの各媒体には不満と非難が連日のように書きこまれた。
 それでも皆が多忙な毎日を過ごす中、悪法の話題は次第に忘れ去られていった。

 それでもなお、いつか槍使いの彼が帰ってきたときに話の肴にしようと、テックは期間限定のアイテムは使わなくても集めていた……

――――――――――――――――――――

 ……今晩も普段通りに冒険を終えて、ログアウトして、

「……」
 テックは自室のベッドの上で目を覚ました。
 目元を覆うバーチャルギアを外しながら半身を起こす。
 血色の悪い小5女子の耳元で、すっきりボブカットの髪がゆれる。

 ふと眺めた側の壁には、環境省のポスターが貼ってある。
 以前に発表されたイマちゃん、ミライちゃん、ムカシ叔母さんのキャラクターは順調に衣装のバリエーションが増えている。
 定期的に新しいポスターがネットで公開されるので、印刷して貼っているのだ。

 もちろんポスター掲示と同時に配布されるゲーム内の衣装も集めている。
 いつか彼が帰ってきたときに、話の肴にできたら楽しいと思ったから。

 そんなポスターを眺めつつ。
 ずいぶん前のことになってしまった彼との最後の会話を思い出す。

 当時の彼の話に感じていた違和感の正体に気づいたからだ。

 アルバイトが移動願い?
 しかも寮の手配までしてくれて、諸経費を肩代わり?
 当然ながら社会人の経験などない小5女子のテックだが、その待遇が一般的なバイトの待遇をはるかに超えていることくらいは判断できる。
 その唯一の例外が、

「……【機関】?」
 ひとりごちる。

 彼の話の内容に加え、彼自身の課金スキルであるダークサムライ。
 重課金専用とは銘打たれてはいるが、習得には課金以外にも隠し条件があるらしい。
 その条件を把握している者は古参や解析勢を含めて皆無。
 少なくともテック自身の取得可能スキルリストには存在しない。

 だが同じものが【機関】の執行人エージェントが使う異能力【重力武器ダークサムライ】として実在するらしい。

 それでも、今それを考えても答えは出ないのも事実だ。
 だから、いつか彼と再会できると信じてバーチャルギアをサイドボードに乗せる。
 そしてリモコンで部屋の明かりを消して、本物の眠りについた。
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