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第12章 GOOD BY FRIENDS

おかげさま

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 2組の小学生が、それぞれの危機を辛くも切り抜けた翌日。
 ホームルーム前の教室で、

「昨日、チャビーたちを襲ったっていう脂虫だけど、警察には届けられてないみたい」
 タブレット端末を片手にテックが言った。

 向こうの犯人の情報を得るべく地元警察にハッキングを仕掛けてくれていたのだ。
 だが警察は犯人から有用な情報を聞き出してはいなかった。
 というより……

「……いなかったことになってない? その脂虫」
 テックのタブレットを勝手に横から操作しながら明日香が顔をしかめる。
 舞奈もそれを覗きこむ。
 言葉通り、2匹の脂虫が子供を襲った事件そのものがなかったことになっていた。

「ったく。あいつら脂虫がらみの事件になると、てんで役に立たないなあ」
 言って思わず舌打ちする。
 あずさの一件では拳銃の横流しをして、今回はこのざまである。だが、

「まあ、いいさ」
 舞奈は口元に不敵な笑みを浮かべ、

「なんてったって、こっちは有力な情報源があるんだ」
「何よそれ?」
「放課後にそっちを当たってみる。おまえも手伝え」
 自信たっぷりに言い切った。
 そんな舞奈を、明日香は怪訝そうに見やっていた。

 そして放課後。

「あら~、舞奈ちゃん、明日香ちゃん、いらっしゃぁ~い」
 化粧と愛嬌でいろいろ隠した受付嬢が愛想をふりまく。

「こんちは。お姉ちゃんはいつも別嬪だなあ」
 嬢の豊満な胸と谷間を、舞奈は鼻をのばしながら凝視する。

「ったく。……こんにちは」
 明日香は舞奈に冷たい視線を向けつつ、嬢に上品に挨拶する。

 舞奈は明日香を連れて【機関】支部を訪れた。
 有力な情報源とは、以前に駅前で会ったロッカーのことだ。

 ロックンロールの音色とともに自分たちを襲った天使(?)たち。
 ロックの定番曲だという『DEMON∵LOAD』。
 次いであらわれた人間サイズの大型天使。

 ほぼ同じ時分に、同じようにギターを弾きつつ桜たちを救ったという何者か。
 正確には舞奈たちへの襲撃より少し前。
 その何者かが語ったという『アークデーモン』という言葉。

 それらに繋がりがある明確な証拠は、もちろんない。
 だが無関係であると断言するのも早計な気がした。
 それを判断する知識が、舞奈たちには欠けているのだ。

 そして舞奈は無知だが馬鹿ではない。
 困ったときは信頼できる識者の言葉を聞くべきだと、経験から知っている。

 だから以前に会ったロッカーに、今回の件について話を聞こうと思ったのだ。
 彼も祓魔師エクソシストと似た結界を操り、パンクな衣装に身を包んでギターを弾いた。
 だから今回の事件について何か知っていると決めつけるのもまた早計だが、話を聞くくらいしてもバチは当たらないだろう。

「フィクサーはいるかい?」
 いつもと同じ調子で受付嬢に尋ねてみる。

 舞奈は彼と駅前で会った以外に面識はない。
 なので支部を統括するフィクサーに話を通してもらおうと思ったのだ。
 ついでに進捗の報告にもなる。

「ん~今日は特に予定はないから、執務室にいるんじゃないかなぁ~?」
「さんきゅ」
 いつもとだいたい同じ返答に、舞奈もだいたい同じ生返事を返した後、

「そういや、支部にアモリ派の術者がいるはずなんだが、知ってるかい?」
 ふと思って嬢にも尋ねてみた。

 その台詞に嬢は驚く。
 彼女も彼を知ってるのだろうか?

 ……まあ考えてみれば当然だ。
 支部に用がある人間は必ず受付を通る。
 新入りとはいえ彼女が知らないわけがないだろう。
 それならフィクサーを通す必要はなかったかもしれない。だが、

「ひょろっと背の高いロッカー風の兄ちゃんなんだが」
「……?」
 続く言葉に嬢は思わずといった様子で首をかしげ、

「ロッカー……? ん~~、いないかな~~」
 可愛らしくしなを作りながら答えた。

 あれ?
 普段は普通の服を着てるのだろうか?

 理由はどうあれ彼女は知らないと言っているのだから、知らないのだろう。
 ここで勘ぐっても仕方がない。だから、

「……知らないか。手間かけてスマン」
 何食わぬ顔で言って、カウンターを後にする。

「失礼します」
 明日香も続く。
 その際に「何言ってるのよ?」みたいな冷たい視線を向けてきたのが癪だった。

「おっ、舞奈ちゃん、明日香ちゃん、こんにちは」
「どうも、こんにちは」
「おっちゃん、こんちはー」
 頭頂の禿げあがった警備員に挨拶しつつ、慣れた廊下を進む。

「あ、そうだ。先々週の日曜日……いやなんでもない」
 あえて彼にアリバイは尋ねない。
 先日の戦闘で、犯人は腕の立つ術者だと判明したからだ。

 なので先をぐべく2階へと続く階段をのぼろうとすると、

「あ、舞奈ちゃんに明日香ちゃん」
 踊り場に諜報部の執行人エージェントたちがたむろっていた。
 それぞれ違って不細工な学ラン姿の少年たちが、思い思いの格好で転がっている。

 舞奈はふと、以前にここを通ろうとして【雷徒人愚】に絡まれたことを思い出した。
 彼らと舞奈は折り合いが悪かったし、彼らにはそうする理由があった。

 だが彼らはもういない。
 代わりに踊り場を占領しているのは、今では気心の知れた少年たちだ。
 その事実を再確認して一瞬だけ唇を苦笑の形に歪め、

「どいてくれよ。通れないだろ?」
 めんどうくさそうな声色を作って言ってみる。
 だが気のいい少年たちは【雷徒人愚】と違い、

「ああっごめんごめん」
「今、場所を開けるよ」
 がやがやと2人が通るスペースを開ける。
 何人かはごろごろ転がりながら。
 それを見やって舞奈は苦笑し、

「……ひょっとしてトマトマンか?」
 彼らへの認識をみゃー子と同じレベルまで引き下げながら、問いかける。
 すると立っていた少年がニヤリと笑う。

「ざんね~ん。キャベツだよ」
「どう違うんだよ」
「トマトマンは、こう!」
「いやだから、同じだろ……」
 隣の少年と同じ感じに丸まる様を見やり、舞奈はやれやれと肩をすくめる。

 高校生の彼らが、踊り場の隅に集団で丸まっている。
 それは異様な光景だった。

「もういいや。……っていうか、何やってるんだ?」
「舞奈ちゃん、双葉あずさがエンディングテーマを歌ってる子供向け番組って見たことあるかい? 僕らはこれから、その物まねをしてSNSにアップする写真を撮るんだ」
「お、おう? そいつはよかった……」
 それの何が楽しいんだ?
 困惑する舞奈を他所に、別の少年が携帯を構えて写真を撮る。

 だが、ふと、以前にあずさを襲って舞奈たちに倒された脂虫の豚男がSNSにも動物虐待や迷惑行為の写真をアップしていたことを思い出した。
 対して彼らは、珍妙だが楽しげなパフォーマンスで他者を楽しませようとしている。
 ひょっとしてチャビーあたりが見かけたら面白がるかもしれない。
 そんな微笑ましい情景も、また紛れもない現実だ。

 そう思って笑う舞奈と明日香、少年たちの側に、

「ちょっと待つのだよ」
 ニュットがぬっと、あらわれた。

「うわっ! なんだあんた、いきなり」
「あ、技術担当官マイスター。すいませんすぐ移動します」
「いや、そのままで結構。別にオタ芸するのは問題ないのだ。だがな……」
 ニュットは糸目をさらに細め、

「いちおうここは超法規機関の施設内なのだ。たとえボロいだけの壁とはいえ写真に写りこむことは許されないのだよ」
 言って少年に左の掌を向ける。

 正確には、対象は少年が構えた携帯。
 さらに正確には、向けたのは左手にはめた手袋の掌に描かれたルーン文字。
 そしてニュットが「知神アンサズ」と一語の魔術語ガルドルを唱えた途端、

「ああっ!?」
 少年は携帯を見ながら仰天した。

「携帯の写真アプリが勝手に起動して……」
「データを……削除している!?」
 画面を覗きこんだ別の少年たちが呆然とつぶやく。

「ルーン魔術が誇る【物品と機械装置の操作と魔力付与】の技術は、こういう使い方もできるのだよ」
「うぬぬ流石は技術担当官マイスター……」
 データを消されたのに何故か楽しそうに少年たちは携帯を囲み、

「表の保健所の敷地内なら問題ないから、先方にちゃんと話を通してから撮るのだよ」
「「「はーい」」」
 がやがやと階段を下りて行った。
 仕草のひとつひとつが楽しげで、悩みがなさそうで良いなあと舞奈は少し思った。

「ところで舞奈ちん、明日香ちん、調査の方は順調かね?」
 問いつつニュットは普段と変わらぬ糸目を向ける。
 なので舞奈も自分たちがここに来た理由を思い出し、

「そのことで確認に来たんだ。この支部に、ロッカーの祓魔師エクソシストがいるだろ?」
 尋ねてみた。

 だがニュットは怪訝そうに糸目を歪め、

「ロッカー……? ロックを歌う方のロッカーなのだよな? 物入れでなく」
「そんな奴いたら聞くまでもなくわかるだろう……わからんか」
 軽口を叩きながら舞奈も困る。

 更衣室のロッカーに紛れて立つ術者の絵面が脳裏に浮かぶ。
 そんな舞奈を、明日香がジト目で見やってくる。
 舞奈は明日香の冷たい視線を居心地悪く受け止める。

 この支部にロッカーがいる。
 彼が犯人の情報を知っているに違いない。

 そう強固に主張して来たのだ。
 なので、そいつがいないとなると立つ瀬がない。
 だが無常にも、

「金髪でひょろっとした、上半身裸のコート男なんだが……」
「いや、そもそも巣黒すぐろ支部に男の術者はいないのだよ」
 ニュットは追い打ちをかけるように言った。
 だが、それでもここで引き下がっては沽券に係わる。主に明日香に対して。だから、

「1年前、仮面をつけた黒ずくめの男がいたはずだぞ」
 おぼろげな記憶を引っ張り出しながら言い返す。

 たしか1年前、巣黒支部の執行部には4人のAランクがいたはずだ。
 日比野洋介の仇を討つべく、舞奈たちは滓田妖一の排除を引き受け支部を訪れた。
 そんな2人を、小夜子を除く3人が出迎えた。

 屈強な仏術士、グルゴーガン。
 半裸のロシア美女、プロートニク。
 こちらの2人は一連の事件が片付いた後、他県の支部へ転属した。
 それ以降に舞奈は会ってないが、先日のチャビー救出作戦に協力してくれたらしい。

 そして、もうひとり。
 黒ずくめの、たしかフェンリルとかいう男。
 銀色の髪をなびかせ、顔の左半分を赤い仮面で隠していた。
 どちらも珍しいので記憶に残っている。

 彼について、特にその後の話は聞いていない。だが、

「今は……いないのだよ」
 ニュットは普通に答えた。
 その表情は、あくまで普段と変わらない。それでも、

「……そっか」
 舞奈はそれ以上、何も言わなかった。

 ニュットも舞奈も、髪を失ったことはない。

 だが、こういう仕事をする中で、多くの仲間を失ってきた。
 大事な誰かを失った者もたくさん見てきた。

 なまじ生来の身体能力に優れる若い男性は、そんなものでは太刀打ちできない銃弾と魔法の戦場へ自信満々に突撃し、あっけなく命を散らす。
 陽介や【雷徒人愚】の不良どものように。

 あるいは力を手に入れ欲望を抑えられず、舞奈たちの敵になって散る。
 三剣悟のように。
 あるいは滓田妖一とその一味も、その同類なのだろう。だから、

「スマン、邪魔したな」
 舞奈はニュットに背を向ける。だが、

「……エリコちんたちのこと、ありがとうなのだ」
「それを言うなら相手が違うぞ」
 ぼそりと言ったニュットを振り返る。

 技術担当官マイスターの表情は、先ほどと変わらぬ糸目のままだ。
 またいきなり別の話を持ち出してきたなあと舞奈は思わず訝しむ。それに、

「あたしは何も……できなかった」
 ぼそりと返し、口元を歪める。

 チャビーや桜たちが襲われたとき、舞奈はずっと遠くにいた。
 彼女らを救ったのは、正体不明のロッカーだ。
 そのくらいは報告を受けた彼女も知っているはずだ。それでも、

「心眼ちんが言ったのだ。皆の無事に、舞奈ちんたちが間接的に関与しておるとな」
「ソォナムちゃんが? ……ひょっとして預言か?」
「というより……思うに『おかげさま』って意味ではないのだかね。エリコちんやリコちんが対処に必要なだけの技量を持っていたのは、舞奈ちんたちの影響なのだよ」
「おかげさま、ねぇ……」
 ニュットの言葉に、舞奈は思わず考える。

 リコが舞奈の技量に憧れて、いろいろしていることには感づいていた。
 明日香に対するえり子の態度も、それに通じるところがあると思っている。

 けどそれを舞奈たちのおかげとだ言うのは、発想が飛躍しすぎだと正直、思う。
 それを言うなら、舞奈が最強なのは美佳や一樹が鍛えてくれたおかげだ。

 そう考えて、ふと思う。

 舞奈が皆を守れるのは美佳のおかげ。あるいは一樹のおかげ。
 誰かのために戦う気持ちを教えてくれた陽介のおかげ。
 失う痛みを教えてくれた悟のおかげ。
 チャビーを救出できたのも、桂木姉妹を仲間にすることができたのも、皆のおかげ。

 それは別におかしな考えではないと思うし、気持ちのいい考え方でもある。

 舞奈が失った、たくさんの友人たち。
 彼ら彼女らは無になったのではなく、因果の糸で未来へと続いている。
 そう思えることは救いになる気がした。

 あるいはチベットの聖者であるソォナムは、そう伝えようとしたのだろうか?
 その真意はわからない。だから、

「……んなことで礼言ってたら、きりがないだろ」
 口元の笑みを隠すのも忘れて軽口を叩き、今度こそニュットに背を向ける。そして、

「フィクサーに用があったのでは?」
「いんや、用は済んだ」
 それ以上、何か言うこともなく支部を後にした。

 結局、自信満々に訪れた支部での情報はゼロ。

 だが意外にも、明日香は文句のひとつも言ってこなかった。
 真面目な顔こそしているが、明日香も内心では笑っている。
 そんなことがわかるのは、誰のおかげなのだろうか?

 帰り際に挨拶した受付嬢も、来たときと変わらず可愛らしく笑っていた。

 ……そして2人が去った後の受付けで、

「【掃除屋】がわたしを探していると聞いたのだが」
 奥からやって来たフィクサーが受付嬢に問いかけた。
 事務作業が今しがた終わったところなのだ。

「舞奈ちゃんたちなら、さっき帰ったわよぉ~」
「……そうか」
 その返答に、ふむとフィクサーは外を見やる。

 何の用事だったのだろうか?
 そんな彼女のサングラスで隠された表情を読んだように、

祓魔師エクソシストを探してたみたい。何か聞きたいことでもあったのかしらぁ~?」
 受付嬢が小首をかしげながら言った。
 化粧と愛嬌でいろいろ隠し、指先を唇に当ててそうする仕草はなかなか可愛らしい。
 だが嬢とは旧知で実年齢も知っているフィクサーは平然と、

「……名乗り出てやればよかったじゃないか」
 言いつつ抜く手も見せず、嬢の胸の谷間から何かを引き出した。
 小さなロザリオだ。

「も~ぉ、フィクサーったら」
 嬢はフィクサーの手からロザリオを取り返し、

「そういうところ、舞奈ちゃんに似てるわよぉ~?」
「な……!? 待ちたまえ! その言葉には訂正を要求する!」
 柄にもなく狼狽するフィクサーを見やって笑った。

 そして、その翌日の放課後。
 商店街の一角にあるケーキショップ『シロネン』で、

「――実際、【屍鬼の処刑エグゼキュシオン・デ・モール・ヴィヴァン】程度なら人に見られても問題ないわ」
「そんなものなの?」
「ええ、実際のところ一般の人に信じてもらう方が難しいもの。それから……」
 語りつつ、明日香はフルーツケーキを上品に口へと運ぶ。
 テーブルの向かいに座ったえり子を見やる。

 BGMは双葉あずさの『HAPPY HAPPY FAIRY DAY』。
 ポップな内装に合わせたのだろう。

 明日香はえり子を連れて『シロネン』を訪れていた。
 緊急時、かつ人前での術の使用規範について彼女に相談を受けたからだ。

「そんなに警戒しなくても、貴女のぶんも支払いはするわよ」
 言ってやれやれと苦笑する。

 商店街で一番人気のケーキ屋は、贈答用ケーキの高価さでも有名だ。
 だが店内のメニューは比較的廉価で、学校帰りに気軽に寄れる。
 女学生がたむろすることによるイメージアップを狙うためだ。

 それでも伊或いある町暮らしの小学生が緊張するのは仕方ない。
 えり子にとっては、そもそもケーキ自体が普通には食べられない高級品だ。

「あと、持ち帰り用のも幾つか奢るわ」
「本当?」
「ええ」
「……金持ち」
 ボソリと言ったえり子に、明日香は「何よそれ」と口をとがらせつつ、

「代わりに、わたしも貴女に聞きたいことがあるの」
 言った言葉に、えり子はうなずく。

 先日に彼女たちが林で遭遇したという2匹の脂虫についての情報。
 それが、えり子を店に誘った、もうひとつの目的だ。

 明日香はロッカーより、彼らが犯人への手がかりだろうと考えていた。
 脂虫を贄にできる術者は、脂虫を操ることもできるからだ。

 そんな明日香の表情に利害の一致を確信したか、えり子もケーキに手をつける。

 小3にしては渋い趣味の抹茶ケーキ。
 メニューの中から彼女が凝視していたそれを、明日香が注文したのだ。

 実のところ、えり子に食べなれないケーキのより好みなどない。
 以前に母親がおいしそうだと言っていたのを覚えていただけだ。

 だが数刻後、えり子は贈答用に抹茶ケーキを2つ所望し、明日香は彼女が抹茶大好き星人だと誤認識することになる。

 同じ頃、所変わって学校。
 高等部の校舎の片隅にある情報処理室。

 端末の載った机がずらりと並んだその部屋の、さらに片隅の端末を操作するテック。
 その隣には舞奈。

 明日香が聞きこみをしている間、舞奈もまたテックと共に調査を続けていた。

 今は初等部は放課後だが高等部は授業中という微妙な時間だ。
 だから部屋にいるのは舞奈とテックの2人だけ。
 スーパーハッカーが軽やかにキーボードをたたく音だけが、広い室内にこだまする。
 そんな微妙な時間がしばし流れた後、

「舞奈たちが探してる人かは知らないけど、怪しいハゲを見つけたわ」
 言いつつテックは端末から顔を上げる。

「おっ! 流石はテック様! やっぱり頼りになるのはおまえだけだ」
 舞奈の軽口を他所に、テックは再びキーボードを操作する。
 すると画面に新たな情報窓があらわれる。

 そこにあらわれたものを見やり、

「……」
 舞奈は思わず沈黙した。
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