銃弾と攻撃魔法・無頼の少女

立川ありす

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第11章 HAPPY HAPPY FAIRY DAY

戦闘3-1 ~銃技&戦闘魔術&高等魔術vs方天画戟

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「みんな! わたしのライブを見にきてくれて、ありがとう!」
 煌びやかなステージで、双葉あずさがニッコリ笑う。
 スポットライトが、妖精のドレスのような衣装をまとったあずさを艶やかに照らす。

 観客席から歓声があふれる。

 あずさの周囲で、揃いのファンシーな衣装を着こんだ猫やウサギが踊る。
 さながら子供向け番組が画面から跳び出してきたように。
 あるいは術者が天使や式神を操るように。

 ステージに仕掛けられたプロジェクターにCGを投影して生身の役者とアニメーションを共演させる、プロジェクションマッピングという技術だ。

 それを舞奈は、魔力を使わない魔法のようだと思った。
 舞奈と明日香の席は、今回も最前列の右端と左端だ。

「今日は『双葉あずさ』の誕生日。そして実は、わたしの大事な人の誕生日なんです」
 妖精のようなあずさの言葉に、会場にどよめきが走った。

「アイドルになりたかったわたしをずっと応援して、今でも支えてくれる大事な人」
 夢見るように、あずさは――梓は語る。
 そして、すわ恋人でもいるのかと不安がる大友たちをよそに、

「……大好きなパパです!」」
 高らかに宣言した。

 その言葉に会場は沸き上がった。
 中学生の(本当は小学生だが)アイドルが、大切な人はパパだと言う。
 大友たちはそれを、彼女の処女性を担保するものだと判断した。

 早くも始まる「あずさ!」コールに、前列の子供たちもつられて叫ぶ。
 アイドルのライブに連れてきてもらえる家の子は、パパが大好きだと言うあずさに親近感を持つのだろう。

「だから今日は、わたしを応援してくれる皆さんと、そしてパパのために歌います」
 あずさは笑う。
 観客たちも一緒に笑う。
 あずさと動物たちの織りなすファンタジーな舞台に、観客までもが一体化した夢のような空間。だが、

「1曲目は『HAPPY HAPPY FAIRY DAY』――」
「そんなノ! 俺は認めないゾ!!」
 イントロが流れ始めた途端、空気からにじみ出るように襲撃者が出現した。
 場所はステージの真正面。

 突然の乱入に、観客たちは騒然とする。
 乱入者は手にした槍で警備員を蹴散らし、ステージによじ登る。

「姿を隠してやがった!?」
「透明化の効果を持った別の宝貝パオペエを使ってたみたいね」
 舞奈と明日香も席も立ち、観客たちを背にして走る。

 乱入者は1匹。
 以前に倒したはずの豚男だ。

 脂虫――美しいものを憎み、世界をヤニと悪意で満たそうとする喫煙者。
 歪んだ劣情を利用され、悪の組織の尖兵になり下がった下種。
 あらゆる意味で生きる価値のない虫ケラが、警戒の目をかいくぐってあずさの前にあらわれた。

 豚が出現したと同時に、ヤニの悪臭が周囲に満ちる。
 別の宝貝パオペエとやらには臭いや気配を消す効果もあるのだろう。

 そんな豚が手にした槍の先で、頭蓋骨と毛で装飾された穂先が不気味に光る。
 こちらはもう馴染みの再生能力を持つ宝貝パオペエ、方天画戟だ。

 舞奈は一挙動で、明日香は微弱な斥力場を操作してステージに跳び上がる。

 舞奈は左手を構え、手袋に仕込まれたワイヤーショットを放つ。
 小口径弾22LRの軽い銃声。
 撃ち出されたフック付きワイヤーが、狙い違わず豚男の足に巻き付いて転倒させる。

 鮮烈なスタントに観客たちは湧き上がる。
 ショーの前座だと思ってくれたようだ。
 舞奈が口元に笑みを浮かべた瞬間、世界が変容した。

 足元の床が砂漠へと変化する。
 転倒した豚の顔面が砂に埋まる。
 舞奈も砂に足をとられかけ、咄嗟にバランスをとる。

 その目前で、あずさの立つステージが砂丘と化す。
 視界の端では観客席が砂嵐にまぎれて影と化す。
 天井は焼けつく太陽を頂く青空へと変わる。

 ウアブ魔術による戦術結界【楽園の欠片の創造メスィ・セシェシェト・アアル・アト】だ。

「わわっ!? えっ? ここ、外?」
 あずさは突然に差し込む陽光に目を細め、驚く。

『観客たちの感情の高まりを魔力に変えて結界を維持していますが、わたしの技量では時間が限られています。お気をつけて』
 舞奈の耳元に声が聞こえる。

 同時に一陣の風が吹き、足元の感覚が床を踏むそれに変わる。
 こちらはウアブ呪術の【爆地走ウレレト・ター】。
 大地との親和性を高める呪術だと聞いている。
 それにより地面をより素早く、砂地や沼でも普段通りの移動が可能となる。

「紅葉さんも、サンキュ!」
 舞奈は笑う。

 謙遜の言葉とは裏腹に、ウアブ魔術師として研鑽を積んだ楓は結界と同調していた。
 しかも紅葉と協力し、呪術による環境への介入までできるらしい。

 だが時間に限りがあるのは本当だろう。
 舞奈は素早く状況を把握する。

 結界はステージを覆う半円形のドーム状。
 直径はステージの横幅程度。
 おそらく客席を巻きこまないための配慮だろう。

 ライブステージとしては破格の広さだが、戦場としてはかなり狭い。
 走り回るまでもなく端から端まで銃弾が届く。

 あずさは結界の――砂漠のステージの中心にいる。
 舞奈と明日香、豚男は結界の端からあずさを目指す形となる。そして――

「――!?」
 あずさの前に立ったマイクが、あずさを守るように蠢いた。
 即ち【鉄の防護アイアン・ガード】。
 高等魔術師チャムエルが得手とする金属操作だ。

 あずさの側にチャムエルがあらわれる。
 テレポートの魔術【小転移ブリンク】で距離を詰めたのだろう。
 幸いにも【機械の装甲ギアーズ・アーマー】の魔術で創られた鉄の装甲を身にまとっている。

 明日香も魔術語ガルドルを唱え、2人の隣に転移する。
 跡には焼け焦げた4枚のドッグタグが落ちる。
 即ち【戦術的移動タクティッシュ・ベヴェーグング】。
 緊急回避用の【反応的移動レアクティブ・ベヴェーグング】とリソースを共有するため滅多に使わない術だ。
 だが、こちらの魔術も短距離のテレポートを可能とする。

 魔道士メイジたちは裏技を使ってゴールのあずさにたどり着き、守る側にまわる。

「協力に感謝します」
「わたしにも彼女を守る理由があるのですよ」
 あずさを挟んだ明日香の言葉に、チャムエルは当然のように答える。

「そりゃそうか。あんたは【協会S∴O∴M∴S∴】の魔道士メイジで、あずさはアーティストだもんな」
「まあ……、そんなところですね」
 舞奈の言葉に、チャムエルは是とも否とも見える笑みを浮かべてみせる。そして、

「プロジェクターの故障を現場の裁量で誤魔化しています」
「あ、はい……」
「貴女の身の安全は我々が保証します。ご安心ください」
 怯えるあずさを落ち着かせようと、明日香は表向きの事情を説明する。
 だが、あずさは周囲の状況に困惑するばかりだ。

 プロジェクションマッピング用のプロジェクターの故障。
 襲撃者との攻防を誤魔化すために、あらかじめ取り決めてあった言い訳だ。
 結界の外にはアナウンスもされている。

 だが、あずさはステージ上での襲撃に続いて天変地異を目の当たりにしたのだ。
 混乱して怯えるのも当然だ。
 そんな彼女に、明日香の言葉は届いていない。

 一方、転倒していた豚男は四苦八苦しながらも起き上がっていた。
 あずさまでもう少しの距離。
 だが砂と守護者、足首のワイヤーに阻まれあずさを害することはできない。

 そんな状況で、豚男は方天画戟を左手で横に構える。
 訝しむ一同の前で、右手で服の中から何かを取り出し、

「……!?」
 素早く抜いた舞奈が撃つ。
 大口径弾45ACPは豚男の二の腕をかすめる。

 それでも豚はあずさを撃つ。
 だが技術もないのに片手撃ちで、加えて撃たれた直後の狙いは甘い。
 小口径弾7.62ミリTTは呪術で動くマイクに阻まれ砂に飲まれる。

「えっ!? 何……今の……?」
 銃声に、あずさは怯える。

 豚が手にしていたのは、警察から横流しされた密造拳銃54式手槍だ。

 舞奈はワイヤーを引いて豚男を再び転がそうとする。
 だが豚は槍を器用に操りワイヤーを切断する。

「糞ったれ!」
 舞奈もレバーを引いてワイヤーを切り離しつつ、拳銃ジェリコ941を構えて走る。
 紅葉の【爆地走ウレレト・ター】によって、砂の上をすべるように進む。

「歌ってください」
 天変地異に続いた銃撃に怯むあずさに、今度はチャムエルが語りかける。

「貴女の声は、貴女の歌は、間違いなく観客に伝わっています」
 確信を持った声で、伝える。

 その言葉を裏付けるように、あずさの周囲で水しぶきが踊る。
 紅葉の【水の言葉メデト・ネン・ジェト】が、言葉通りあずさの歌を結界の外に届けようとしている。
 そして同じ術は、ライブを中断された観客のどよめきをあずさに伝える。

『そう、貴女の声は、言葉は、人々を勇気づける力になります』
 結界を通した楓の声。
 自身も芸術を成すアーティストが、さらなる美を見せてくれと渇望する。

 しばしの沈黙の後、あずさは静かにうなずく。
 その表情には決意が浮かぶ。
 わけがわからないなりに、彼女も覚悟を決めたのだろう。
 あずさを突き動かしたのは自身の身の安全ではなく、観客の声だ。だから、

――退屈な日常も、ファンタジーと隣あわせ♪

 静かに歌い始める。
 ただそれだけで、荒涼とした砂漠の戦場に生気がみなぎる。

――うつむいた視線上げたら、魔法の世界は、そこにあるよ♪

 歌にあわせて水しぶきが跳ねる。
 オアシスのような呪術の水が、あずさの歌を結界の外に届ける。
 そして歌で元気づけられた観客たちの感情が、楓の魔術に力を与える。

――すり減ったクレヨンを杖にして、流れる雲をお供にして、冒険に出かけよう♪
――苦しいことも、大変なことも、いっぱいあるけれど♪
――くじけないでね、おそれないでね、前を向いて進もう♪

『申し訳ありません、舞奈さん。結界の中に招かれざる客が紛れこんだようです』
「数はわかるか?」
 再び聞こえた楓の声に、問いかける。

『交戦中の1匹以外に、5匹います』
 その返答に、舞奈の口元に笑みが浮かぶ。

 横流しされた銃と同じ数だ。
 ここで奴ら全員を仕留めれば、銃撃の心配はなくなる。

「どっちから来る?」
『ステージの両サイドからです』
「明日香! チャムエル! 梓さんを頼む!」
 叫びつつ拳銃ジェリコ941を構える。

「オーケー」
 あずさたち3人の周囲に、4枚の氷の盾が展開される。
 明日香の【氷盾アイゼス・シュルツェン】だ。

 次いであずさの前に、放電する盾があらわれる。

 周囲が砂塵に覆われ、皆の視界を阻む。

 同時に銃声。3発。
 氷盾が不自然に機動し、雷盾の端がきしむ。

 楓は結界内に砂ぼこりを舞わせて敵の射線を阻んだのだ。
 そして狙いの甘い1発はあらぬ方向に飛んだ。
 残る2発のうち1発を【氷盾アイゼス・シュルツェン】が防いだ。
 防ぎきれない最後の1発は、あずさを目標に展開した【雷盾ブリッツ・シュルツェン】が弾いた。

 次いで4発。

 舞奈を狙った2発のうち、1発は砂塵に消える。
 もう1発は偶然にも小さなツインテールの端をかすめる。
 だが舞奈は笑う。
 拳銃ジェリコ941の銃口からは硝煙。

 ステージの右サイド。
 砂塵にヤニ色の飛沫を散らしながら、豚のように醜く肥えた男の影が2つ踊る。
 舞奈の2発は豚男の急所を捉えていた。

 砂ぼこりによる視界の悪さは向こうもこちらも同じ。
 だが場慣れし、優れた感覚を持った舞奈は銃声の角度と距離から敵の位置を割り出して正確無比に射貫くことが可能だ。

――勇者様なんていなくったって平気♪
――夢を広げたキャンパスに、魔法の杖をひとふりすれば♪
――どんな願いだって、叶うから♪

 あずさは砂ぼこりのベール越しに敵と舞奈の攻防を見やりながら、その向こうにいるはずの観客たちを見つめながら、歌い続ける。

 彼女はもう怯まない。
 歌う。
 観客たちに、大好きな人たちに歌を届けるために。

 そんなあずさたちの周囲に、

守護エイワズ
 魔術語ガルドルとともに、放電するドームが形成される。
 明日香が行使した【雷壁ヴァント・デス・ブリッツ】の魔術だ。

 明日香は続けて大自在天シヴァの咒を紡ぐ。
 ハニエルも呪文を唱える。

 そして明日香は再び「守護エイワズ」と締める。
 するとドームを囲むように、霜をまとった氷の壁があらわれる。
 こちらは【氷壁・弐式アイゼスヴァント・ツヴァイ】の魔術。
 分厚い魔術の氷壁は、砂漠の陽光にも屈せずクリスタルのように輝く。

 そんな氷壁のさらに外側に、歪な鋼鉄の壁がそそり立つ。
 チャムエルの【機甲の防壁ギアーズ・ウォール】だ。
 機械の壁の端々が、外敵を威嚇するように蠢く。

 3種の防御魔法アブジュレーションによる、鉄壁の防御陣地である。

 同時に砂塵が晴れ、頭上に陽光が戻ってくる。
 もう砂塵の目くらましは必要ない。

 そしてステージの左サイドに陣取った、残りの敵の姿があらわになる。

「おい! 同じ豚が4匹いるぞ」
 振り返った舞奈は口元を歪める。

 まったく同じニート面をした豚男が、目の前に4匹いた。
 1匹は槍を、残りの3匹は左手に槍、右手に密造拳銃54式手槍を構えている。
 最初の1匹に、あずさを撃った3匹が合流したのだろう。

 肉人壺が復活させるのだから、豚男がまたあらわれるのはわかる。

 横流しされた密造拳銃54式手槍は6丁だから、使い手も6人いると予測はしていた。

 だが、同じ豚男が6匹は予想外だ。

「肉人壺が量産した粗悪なコピーでしょう」
「……んなことまでできるのかよ」
 チャムエルの言葉に舌打ちする。

 粗悪な豚男どもが手にした槍も、すべて頭蓋骨と毛で装飾されている。

 そう気づいた瞬間、横に跳ぶ。
 その残像を銃弾が射貫く。

 舞奈の背後に2匹いた。

 両方とも左手には槍。
 額からは触角。
 そして右手には硝煙立ちのぼる密造拳銃54式手槍

 粗悪な豚男のすべてが、方天画戟を持っていたのだ。
 再生の能力を持つ宝貝パオペエ
 だから先程の2匹が再生し、背後から撃ってきた。

 舞奈はそのまま砂の上を転がる。
 その残像めがけ、残る3匹が加わった5匹が撃ちまくる。

 銃声! 銃声! 銃声!

「……!? 野郎!」
 醜く肥えた豚どもは口元に嗜虐的な笑みを浮かべ、少女めがけて引き金を引く。
 予測射撃など思いつきもしないのが幸運か。

 だが豚どもの表情が苦痛に歪む。
 舞奈が正確無比な反撃により、6丁の密造拳銃54式手槍を握った手ごと撃ち抜いたのだ。

 だが豚男の手は不気味な音を立てて塞がり、額からは触角が生える。

「糞ったれ! んな宝貝パオペエを、ほいほい量産しやがって」
 一挙動で立ち上がりながら愚痴る。
 要は以前に倒した再生する豚が、6匹になったということだ。

 前に4匹、後に2匹。
 6匹すべてが舞奈を目標に定めたのは幸いだ。
 だが方天画戟に魅入られた者の恐るべき耐久力は以前に知った。
 それを6匹片づけるのは相当な労力だ。

 4匹が叫びながら、並んで手にした槍で突く。
 ずさんな槍ぶすまを、舞奈は難なくしゃがんで避ける。
 密造拳銃54式手槍を失ったものの、奴らには再生手段を兼ねた方天画戟がある。

 その目前に、ギラリと光る刃が幾つも飛来する。
 即ち【鋼鉄の片刃メタル・シャード】。
 金属の一部を刃にして放つ、チャムエルの攻撃魔法エヴォケーションだ。
 誘導でもできるのか、鋭い刃はあやまたず豚どもの喉笛をかき切る。

「粗悪なコピーの肉体は、宝貝パオペエとの適正も低く耐久度と再生能力は劣ります。力技でどうにかなるはずですよ」
「だといいがね」
 立ち上がりつつ、チャムエルの言葉に適当に返す。

 同時に背後で銃を構えた2匹を雷撃がのみこむ。
 こちらは明日香の【雷弾・弐式ブリッツシュラーク・ツヴァイ】。

 だが次の瞬間、首は繋がり、稲妻に焼かれた皮膚は癒える。
 そして触角がのびる。

「丈夫なんじゃないか」
 悪態をつきつつ振り返る。

 2匹が手にし方天画戟を蹴り上げる。
 正確には手を蹴った。
 槍は使い手を操り本体への攻撃をかばわせるが、槍を持った手への打撃は無視だ。

 そして勢いのまま軸足を入れ替えてハイキック。
 撃鉄のような腹への蹴りが、1匹の身体をくの字に折り曲げる。
 だらしなく半開きになった口に、拳銃ジェリコ941の銃口をねじ入れる。

 豚の瞳が恐怖に見開かれる。
 舞奈は笑う。

 撃つ。全弾。
 豚面が汚い色の飛沫になって飛び散る。

 だが、それすら、じゅるりと不気味に蠢きながら元通りに再生する。
 その上の額から生えた触角がのびる。

「……こいつも駄目か」
「特定の部位を破壊しても再生してしまいます。一撃で身体をバラバラにしなければ」
「この前みたいに綱引きするのか? けどあずさは……!?」
 明日香とチャムエルが本気で攻撃に回れば、1匹ずつ豚を屠ることは可能だろう。
 だが彼女らは、あずさを守る役目がある。

――危険なモンスターだって、楽しいイベントに早変わり♪
――ウサギとおしゃべり♪
――子猫とお昼寝♪

 それでも、あずさは歌う。

 この美しい歌声を守らなければならない。
 そう改めて思う。
 だが手段は?

「この前のナイフ、今、持ってる?」
 ふと明日香が問いかけた。

「何するつもりだ?」
「あれに爆炎の魔術をかけて突き刺せば、体内で爆発させられるわ」
「そりゃ、えげつないナイスアイデアだが、ナイフは1本しかないぞ?」
 舞奈は5匹が繰り出す突きを避けつつ答えながら、

「いや待て」
 ニヤリと笑う。

「その術、こっちの銃にかけてくれ!」
 拳銃ジェリコ941を仕舞い、代わりに予備の改造拳銃ジェリコ941改を取り出す。

 普段の得物と変わらない見た目だが、握るとほんの少しだけ重い。
 スミスが設えてくれた、舞奈の新たな力だ。

「銃に!? けどこの前のは緊急時で――」
「――心配ない。こいつは壊れん!」
 一瞬だけ驚く明日香だが、不敵な舞奈の笑みを信じたようだ。
 集中して真言を念ずる。そして、

「兵站《フェオ》!」
 魔術語ガルドルに応じるように、改造拳銃ジェリコ941改に熱が宿る。

――小鳥に乗って空のお散歩♪

 のらりくらりと避ける舞奈に業を煮やしたか、豚男の1匹が渾身の突きを放つ。
 その隙を逃さず、舞奈は改造拳銃ジェリコ941改を斉射する。

 まるで大口径強化弾45スーパーを撃ったような重い反動リコイル
 装填されているのは通常の大口径弾45ACPのはずなのに。

――ここは素敵な、冒険の世界♪

 歌声に、連なる銃声が重なる。
 至近距離から放たれた6発の弾丸は、狙い違わず6匹の腹に埋まる。

 そして次の瞬間、6匹は同時に爆発した。

 即ち【燃弾ブレンネン・ムニツィオン】。
 武器に炎を宿し、命中とともに爆発させる魔術。

 砂漠に響く爆音、そして閃光。

 豚男の、赤子がそのまま大人になったように表情の乏しい下種な顔が宙を舞う。
 ぽってりと不健康に肥えた四肢がばらばらに飛び散る。
 そして泥になって溶けた。

 だが、

「……!?」
 そのうちの1匹だけは、不気味な音を立てながら再生のプロセスを開始した。
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