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第4章 守る力・守り抜く覚悟
戦闘3-2 ~銃技&戦闘魔術vs道術
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舞奈は瞬く間に怪異の群を蹴散らした。
そして彼らを操っていた2匹の道士に狙いを定める。
一方、明日香は渡り廊下の反対側で泥人間の群と相対していた。
軍用拳銃に持ち替えたクレアの側に並ぶ。
彼女らを取り囲む大群に、クレアひとりで太刀打ちするのは無理だからだ。
明日香は拳銃をホルスターに収め、再び【工廠】を行使する。
小振りな錫杖を取り出す。そして、
「ハヌッセン・文観」
偉人の名を唱える。
すると錫杖の柄がひとりでにのびて、彼女の背丈ほどの長さになる。
先端には髑髏。
髑髏を囲う輪形に通された16個の遊環が、シャランと鳴る。
戦闘魔術師が用いる聖なる杖、双徳神杖である。
戦闘魔術は、大戦中に枢軸国軍が開発した特殊な流派だ。
仏術とルーン魔術を融合させた人造の魔術は、3種類に大別される。
作りだした魔力を物品に焼きつける【物品と機械装置の操作と魔力付与】。
魔力で空間と因果律を歪めることによる【式神の召喚】。
そして、魔力を熱や電気に転化する【エネルギーの生成】。
そんな魔術を修めた明日香は、本来は仏術の仏である大自在天の咒を紡ぐ。
クレアたちに襲いかかろうとしていた泥人間に双徳神杖の先端を向ける。
そして「放射」と唱える。
すると双徳神杖の先端から、氷塊の混じった吹雪が吹き出した。
人工の吹雪を放つ【冷気放射】の魔術。
恐るべき冷気の奔流は泥人間の足元を凍りつかせ、動きを止める。
身動きのとれぬまま凍てつく冷風に晒され、やがて全身が凍りつく。
そんな犠牲者たちを、吹雪に混じった氷塊が次々に砕く。
泥人間たちは、明日香に近づくこともできずに全滅した。
一方、渡り廊下の反対側で、新たな手下をたちまち失った2匹の道士が焦る。
2匹は舞奈との直接対決を避け、左右に走る。
左の1匹が符の束を、右の1匹が1枚の符を取り出す。
口訣を唱えて同時に放る。
符の束は大量の鉄針になって飛来する。即ち【金行・多鉄矢】。
1枚の符は燃え盛る火球と化して舞奈を襲う。即ち【火行・炸球】。
だが舞奈はニヤリと笑う。
渡り廊下のフェンス越しに、明日香が(魔道)と念じる。
消去の魔術【対抗魔術・弐式】が、鉄針の群のうちいくつかを消し去る。
真横から飛来する火球を、舞奈は身体を少し傾けて避ける。
まるで見えていたかのように。
側を通り過ぎた火球は地面に着弾し、爆発する。
そして舞奈はジャケットをひるがえし、残る鉄針を叩き落す。
「さっすが【機関】御用達の新素材! 最高だ」
ジャケットの背に描かれた朝日旗を見やって笑う。
だが同じものを見やった泥人間の道士は、怒りに叫んだ。
極東の島国に伝わる魔除けの文様は、ある種の怪異の精神をかき乱す。
怒り狂った2匹の道士は符を取り出し、剣に変える。
符を金属製品に変える【金行・作鉄】。
炎に変えて操る【火行・作炎】。
そして鉄色に輝く剣を、ゆらめく炎の剣を構えて走る。
銃を持った相手に、剣の間合いに跳びこめば勝てるとふんだか。
左右から同時に襲いかかる斬撃を、舞奈は弾かれたように避ける。
口元には余裕の笑み。
舞奈に剣は効かない。
将来の勘の良さが、ピクシオンとして、仕事人として積み重ねた経験が、空気の流れすら感じ取る鋭敏な感覚が、周囲で人体が動く様を余さず教えてくれるから。
怒りにまかせた渾身の斬撃を避けられ、道士は思わずバランスを崩す。
その頭に、舞奈は流れるような動作で銃口を向ける。
撃つ。
素早く別の道士を撃つ。
だが2匹の道士は素早く術で身を守り、飛び退って距離をとる。
目前にあらわれて弾丸を防いだ鉄塊は【金行・鉄盾】。
もう片方の身体を覆う炎は【火行・防衣】。
慣れた術者は異能力と同レベルの簡単な術であれば瞬時に発動させられる。
味方であっても、敵であっても。
舞奈は舌打ちしつつ拳銃から弾倉を抜き、素早く交換する。
新たな弾倉にこめられたのは、本来は式神に対抗するための特殊炸裂弾。
この特殊弾なら防御魔法を撃ち抜くことも可能だ。
舞奈は再び拳銃を構え――
――飛び退る。
その残像を、鋭い何かが斬り裂いた。
それは流れる水で形作られた巨大な刃だった。
符を刃に変える【水行・刀刃】の妖術。
目標を切断し損ねた水の刃が、符に戻って溶けて消える。
無論、左右の道士ではない。
奴らに攻撃魔法を使う余裕などなかった。
代わりに舞奈の背後、校舎の2階の窓から新たな道士があらわれた。
絨毯みたいな柄の赤いスーツを着こみ、頬骨がエラのように張った女だ。
その顔が怒りで溶け落ち、泥人間の本性をあらわにする。
舞奈が避けたのは、不意にあらわれた新手からの奇襲だった。
ちょうど先の戦闘でベティが倒されたのと同じ状況である。
魔道士の戦闘は、銃撃戦に似た一撃必殺の戦いだ。
どんなに優位に立っていても、油断ひとつで死ぬ。
だから舞奈は油断をしない。
かつて感が良いだけの幼子でありながらピクシオンの超常の戦闘の渦中にあった舞奈は、敵の信じられないような攻撃で何度も死にかけ、そして生き延びた。
美佳や一樹がもっと信じられない手段で敵を殺すところも何度か見た。
舞奈は転移も、隠形も、もっと不可解で恐るべき奇襲の存在も知っている。
そんな理解すらできない何者かが自分を殺そうとしている状況を、そういうものだと割り切って凌ぐやり方が身体に染みついている。
3年前は、ずっとそうだった。
だから舞奈は戦闘の間、恐れもしないが、油断もしない。
常に自然体でいる。
恐れおののき弱者に墜ちることも、逆に強者の座に胡坐をかくことも、かつての幸せな時間を否定することになるから。
その感覚が、舞奈を3年前とは違う最強へと変えていることに気づきながら。
「結界の中に小部屋が作られてて、伏兵が隠れていたみたいね」
明日香が分析する。
「らしいな」
何食わぬ顔で、舞奈は笑う。
「それにしても、あれを避けたんすか? 舞奈様にゃあかなわないっす」
「……昔にやりあった敵に、こういう小狡い手ばっかり使う奴がいたんだ」
舞奈の脳裏に浮かぶは、エンペラーの幹部が多用した赤いレリーフの結界の事。
結界の特性を利用した策略の事。
それらをチームワークで打破したピクシオンの事。
舞奈の心は無意識に過去へと向かう。だが、
「けどもう隠れてる奴はいないはずだ。小夜子さんが木行の奴を、奈良坂さんが土行の奴を殺ったから、水レンジャイのこいつで五行の術者が全員出てきた」
そんな想いを誤魔化すようにニヤリと笑う。
卑怯な策略で舞奈を追い詰めた敵を、倒したのはかつての仲間だった。
だが美佳も一樹もいない今、舞奈が頼れるのは現在の仲間だ。
それに舞奈自身も同じ罠に自力で対処できるようになっていた。
3年の歳月が、舞奈を最強のSランクに変えたから。
だから舞奈は口元の笑みを楽しげに歪め、明日香を見やる。
「防御魔法を一気にぶち抜く! 頼むぞ明日香!」
「オーケー!」
舞奈の声に明日香が答える。いつものように。
同時に新たな道士は窓から跳び出し、校舎を垂直に駆け降りる。
気功で身体を強化しているのだろう。
だが舞奈は気にせず道士を撃つ。
道士は【水行・防衣】の妖術を使って水の衣をまとい、跳躍して避ける。
だが舞奈の銃弾からは逃れられない。
3発の特殊炸裂弾が、どてっ腹の同じ場所に命中する。
特殊な炸薬が3回爆ぜ、最後の1発が水衣を貫く。
だが本体にダメージはない。
道士は舞奈の目前に降り立つ。
それでも舞奈は笑う。
なぜなら同時に明日香が帝釈天の咒を唱え終えた。
そして舞奈が横に跳ぶのと同時に「魔弾」と締める。
かざした掌から稲妻が放たれる。
明日香が扱う稲妻の術の中では初歩的な、だが強力な【雷弾・弐式】。
稲妻は女の格好をした泥人間を飲みこみ、勢い余って背後の壁を焦がす。
赤いスーツを着こんだ水行の道士は、放電する光の中に消えた。
舞奈の最強は、自分一人の力で得られたものではない。
敵を阻む無敵の盾となり、後を守る仲間の力を最大限に引き出せる。
だからこそのSランクだ。
だから舞奈は躊躇もなく仲間の力を借りて敵を討つ。
残る道士は2匹。
拳銃の銃口が2匹を捉え、防御魔法に守られた足を特殊炸裂弾で穿つ。
炸薬が爆ぜ、道士の足が止まった。
「明日香、今だ!」
叫びつつ、舞奈は全力で退避する。
明日香は三度【工廠】を行使し、ベルトで繋がれたドッグタグを取り出す。
そして魔力と斥力を司る荼枳尼天の真言を唱える。
タグに焼きつけられた魔力が活性化し、刻まれたルーン文字が一斉に輝く。
次いで帝釈天の咒を紡ぐ。
タグをベルトごと頭上めがけて放り投げる。
そして、魔術語の一句。
数十個のタグが光り輝く紫電と化し、2匹の道士めがけて放たれる。
耳をつんざく轟音と、目もくらむ閃光。
弧を引く幾筋もの電光が雨のように降りそそいで地面を焼く。
敵陣に無数の雷弾を浴びせる【雷嵐】の魔術。
2匹の道士は符を取り出し、鉄の盾と炎の衣で明日香の魔術を防ごうとする。
だが叶わず、ふりそそぐ電光の雨は2匹を飲みこむ。
2匹の道士が光の中に消えるかと思われた、その時、
「なんだと!?」
鉄塊を構えた道士が、炎の道士の背後に回りこんだ。
そして自身の盾と炎の衣の2段重ねの防御魔法で、明日香の術を防ぎ切る。
仲間を盾にしたのだ。
「野郎! 仲間を!?」
舞奈は怒りに駆られたまま拳銃を構える。
だが次の瞬間、パリンというガラスが割れるような音がした。
学校の中庭に展開されていた結界が、解除されたのだ。
そして彼らを操っていた2匹の道士に狙いを定める。
一方、明日香は渡り廊下の反対側で泥人間の群と相対していた。
軍用拳銃に持ち替えたクレアの側に並ぶ。
彼女らを取り囲む大群に、クレアひとりで太刀打ちするのは無理だからだ。
明日香は拳銃をホルスターに収め、再び【工廠】を行使する。
小振りな錫杖を取り出す。そして、
「ハヌッセン・文観」
偉人の名を唱える。
すると錫杖の柄がひとりでにのびて、彼女の背丈ほどの長さになる。
先端には髑髏。
髑髏を囲う輪形に通された16個の遊環が、シャランと鳴る。
戦闘魔術師が用いる聖なる杖、双徳神杖である。
戦闘魔術は、大戦中に枢軸国軍が開発した特殊な流派だ。
仏術とルーン魔術を融合させた人造の魔術は、3種類に大別される。
作りだした魔力を物品に焼きつける【物品と機械装置の操作と魔力付与】。
魔力で空間と因果律を歪めることによる【式神の召喚】。
そして、魔力を熱や電気に転化する【エネルギーの生成】。
そんな魔術を修めた明日香は、本来は仏術の仏である大自在天の咒を紡ぐ。
クレアたちに襲いかかろうとしていた泥人間に双徳神杖の先端を向ける。
そして「放射」と唱える。
すると双徳神杖の先端から、氷塊の混じった吹雪が吹き出した。
人工の吹雪を放つ【冷気放射】の魔術。
恐るべき冷気の奔流は泥人間の足元を凍りつかせ、動きを止める。
身動きのとれぬまま凍てつく冷風に晒され、やがて全身が凍りつく。
そんな犠牲者たちを、吹雪に混じった氷塊が次々に砕く。
泥人間たちは、明日香に近づくこともできずに全滅した。
一方、渡り廊下の反対側で、新たな手下をたちまち失った2匹の道士が焦る。
2匹は舞奈との直接対決を避け、左右に走る。
左の1匹が符の束を、右の1匹が1枚の符を取り出す。
口訣を唱えて同時に放る。
符の束は大量の鉄針になって飛来する。即ち【金行・多鉄矢】。
1枚の符は燃え盛る火球と化して舞奈を襲う。即ち【火行・炸球】。
だが舞奈はニヤリと笑う。
渡り廊下のフェンス越しに、明日香が(魔道)と念じる。
消去の魔術【対抗魔術・弐式】が、鉄針の群のうちいくつかを消し去る。
真横から飛来する火球を、舞奈は身体を少し傾けて避ける。
まるで見えていたかのように。
側を通り過ぎた火球は地面に着弾し、爆発する。
そして舞奈はジャケットをひるがえし、残る鉄針を叩き落す。
「さっすが【機関】御用達の新素材! 最高だ」
ジャケットの背に描かれた朝日旗を見やって笑う。
だが同じものを見やった泥人間の道士は、怒りに叫んだ。
極東の島国に伝わる魔除けの文様は、ある種の怪異の精神をかき乱す。
怒り狂った2匹の道士は符を取り出し、剣に変える。
符を金属製品に変える【金行・作鉄】。
炎に変えて操る【火行・作炎】。
そして鉄色に輝く剣を、ゆらめく炎の剣を構えて走る。
銃を持った相手に、剣の間合いに跳びこめば勝てるとふんだか。
左右から同時に襲いかかる斬撃を、舞奈は弾かれたように避ける。
口元には余裕の笑み。
舞奈に剣は効かない。
将来の勘の良さが、ピクシオンとして、仕事人として積み重ねた経験が、空気の流れすら感じ取る鋭敏な感覚が、周囲で人体が動く様を余さず教えてくれるから。
怒りにまかせた渾身の斬撃を避けられ、道士は思わずバランスを崩す。
その頭に、舞奈は流れるような動作で銃口を向ける。
撃つ。
素早く別の道士を撃つ。
だが2匹の道士は素早く術で身を守り、飛び退って距離をとる。
目前にあらわれて弾丸を防いだ鉄塊は【金行・鉄盾】。
もう片方の身体を覆う炎は【火行・防衣】。
慣れた術者は異能力と同レベルの簡単な術であれば瞬時に発動させられる。
味方であっても、敵であっても。
舞奈は舌打ちしつつ拳銃から弾倉を抜き、素早く交換する。
新たな弾倉にこめられたのは、本来は式神に対抗するための特殊炸裂弾。
この特殊弾なら防御魔法を撃ち抜くことも可能だ。
舞奈は再び拳銃を構え――
――飛び退る。
その残像を、鋭い何かが斬り裂いた。
それは流れる水で形作られた巨大な刃だった。
符を刃に変える【水行・刀刃】の妖術。
目標を切断し損ねた水の刃が、符に戻って溶けて消える。
無論、左右の道士ではない。
奴らに攻撃魔法を使う余裕などなかった。
代わりに舞奈の背後、校舎の2階の窓から新たな道士があらわれた。
絨毯みたいな柄の赤いスーツを着こみ、頬骨がエラのように張った女だ。
その顔が怒りで溶け落ち、泥人間の本性をあらわにする。
舞奈が避けたのは、不意にあらわれた新手からの奇襲だった。
ちょうど先の戦闘でベティが倒されたのと同じ状況である。
魔道士の戦闘は、銃撃戦に似た一撃必殺の戦いだ。
どんなに優位に立っていても、油断ひとつで死ぬ。
だから舞奈は油断をしない。
かつて感が良いだけの幼子でありながらピクシオンの超常の戦闘の渦中にあった舞奈は、敵の信じられないような攻撃で何度も死にかけ、そして生き延びた。
美佳や一樹がもっと信じられない手段で敵を殺すところも何度か見た。
舞奈は転移も、隠形も、もっと不可解で恐るべき奇襲の存在も知っている。
そんな理解すらできない何者かが自分を殺そうとしている状況を、そういうものだと割り切って凌ぐやり方が身体に染みついている。
3年前は、ずっとそうだった。
だから舞奈は戦闘の間、恐れもしないが、油断もしない。
常に自然体でいる。
恐れおののき弱者に墜ちることも、逆に強者の座に胡坐をかくことも、かつての幸せな時間を否定することになるから。
その感覚が、舞奈を3年前とは違う最強へと変えていることに気づきながら。
「結界の中に小部屋が作られてて、伏兵が隠れていたみたいね」
明日香が分析する。
「らしいな」
何食わぬ顔で、舞奈は笑う。
「それにしても、あれを避けたんすか? 舞奈様にゃあかなわないっす」
「……昔にやりあった敵に、こういう小狡い手ばっかり使う奴がいたんだ」
舞奈の脳裏に浮かぶは、エンペラーの幹部が多用した赤いレリーフの結界の事。
結界の特性を利用した策略の事。
それらをチームワークで打破したピクシオンの事。
舞奈の心は無意識に過去へと向かう。だが、
「けどもう隠れてる奴はいないはずだ。小夜子さんが木行の奴を、奈良坂さんが土行の奴を殺ったから、水レンジャイのこいつで五行の術者が全員出てきた」
そんな想いを誤魔化すようにニヤリと笑う。
卑怯な策略で舞奈を追い詰めた敵を、倒したのはかつての仲間だった。
だが美佳も一樹もいない今、舞奈が頼れるのは現在の仲間だ。
それに舞奈自身も同じ罠に自力で対処できるようになっていた。
3年の歳月が、舞奈を最強のSランクに変えたから。
だから舞奈は口元の笑みを楽しげに歪め、明日香を見やる。
「防御魔法を一気にぶち抜く! 頼むぞ明日香!」
「オーケー!」
舞奈の声に明日香が答える。いつものように。
同時に新たな道士は窓から跳び出し、校舎を垂直に駆け降りる。
気功で身体を強化しているのだろう。
だが舞奈は気にせず道士を撃つ。
道士は【水行・防衣】の妖術を使って水の衣をまとい、跳躍して避ける。
だが舞奈の銃弾からは逃れられない。
3発の特殊炸裂弾が、どてっ腹の同じ場所に命中する。
特殊な炸薬が3回爆ぜ、最後の1発が水衣を貫く。
だが本体にダメージはない。
道士は舞奈の目前に降り立つ。
それでも舞奈は笑う。
なぜなら同時に明日香が帝釈天の咒を唱え終えた。
そして舞奈が横に跳ぶのと同時に「魔弾」と締める。
かざした掌から稲妻が放たれる。
明日香が扱う稲妻の術の中では初歩的な、だが強力な【雷弾・弐式】。
稲妻は女の格好をした泥人間を飲みこみ、勢い余って背後の壁を焦がす。
赤いスーツを着こんだ水行の道士は、放電する光の中に消えた。
舞奈の最強は、自分一人の力で得られたものではない。
敵を阻む無敵の盾となり、後を守る仲間の力を最大限に引き出せる。
だからこそのSランクだ。
だから舞奈は躊躇もなく仲間の力を借りて敵を討つ。
残る道士は2匹。
拳銃の銃口が2匹を捉え、防御魔法に守られた足を特殊炸裂弾で穿つ。
炸薬が爆ぜ、道士の足が止まった。
「明日香、今だ!」
叫びつつ、舞奈は全力で退避する。
明日香は三度【工廠】を行使し、ベルトで繋がれたドッグタグを取り出す。
そして魔力と斥力を司る荼枳尼天の真言を唱える。
タグに焼きつけられた魔力が活性化し、刻まれたルーン文字が一斉に輝く。
次いで帝釈天の咒を紡ぐ。
タグをベルトごと頭上めがけて放り投げる。
そして、魔術語の一句。
数十個のタグが光り輝く紫電と化し、2匹の道士めがけて放たれる。
耳をつんざく轟音と、目もくらむ閃光。
弧を引く幾筋もの電光が雨のように降りそそいで地面を焼く。
敵陣に無数の雷弾を浴びせる【雷嵐】の魔術。
2匹の道士は符を取り出し、鉄の盾と炎の衣で明日香の魔術を防ごうとする。
だが叶わず、ふりそそぐ電光の雨は2匹を飲みこむ。
2匹の道士が光の中に消えるかと思われた、その時、
「なんだと!?」
鉄塊を構えた道士が、炎の道士の背後に回りこんだ。
そして自身の盾と炎の衣の2段重ねの防御魔法で、明日香の術を防ぎ切る。
仲間を盾にしたのだ。
「野郎! 仲間を!?」
舞奈は怒りに駆られたまま拳銃を構える。
だが次の瞬間、パリンというガラスが割れるような音がした。
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