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第4章 守る力・守り抜く覚悟
戦闘1 ~古神術vs道術
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「え? これって……」
「……戦術結界」
園香とサチは、戦術結界に閉じこめられていた。
園香は先日の襲撃に続き、2回目だ。
だがこの世界は、魔法戦は初めてではないサチにとってすら異様な結界だった。
校舎が、地面が、渡り廊下の屋根やフェンスが、武者や戦士の栄光を描いた真紅のレリーフと化していた。
レンガ造りのプランターは、無数の槍や剣が並べられた槍ぶすまと化した。
そして異界と化した中庭に、いくつもの人影があらわれる。
以前に園香と奈良坂を襲ったという集団と同じ構成だ。
野球のコスチュームを着こんで金属バットを手にした、くわえ煙草の脂虫。
野太刀を構えた、ただれた顔の泥人間。
そして、スーツを着こんだ泥人間の道士。
魔力から生まれた泥人間は整形によって人間に成りすます。
特に狡猾な個体は人里に潜み、時に政治すら利用して人間社会に闇をもたらす。
内なる魔力を操る術を身に着けた泥人間の道士が、妖術によって市議会議員の地位を簒奪することも、ありえない話ではない。
「園香ちゃん、わたしから離れないで」
サチは園香を背にかばう。
自身の手首に巻かれた小さな注連縄に意識を集中する。
そして三貴子を敬い奉ずる祝詞を念ずる。
即ち天照大神、月読命、須佐之男命の3柱。
天地に宿る魔力を八百万の神々と奉ずる古神術士が扱う術は3種類。
魔力を媒介して火水風地を操る【エレメントの変成】。
魂と肉体の因果をずらすことによる【霊媒と心霊治療】。
そして神術士が最も得意とする、霊媒を応用した【防護と浄化】。
尊き神名により、森羅万象に潜む魔力が収束する。
それは霊媒と同じ理論で時空と因果をずらし、術者を守る不可視の壁となる。
即ち【護身神法】。
高度すぎて、本来ならば万物の理を解き明かした魔術師にしか構成することのできない特殊な次元断層。それを呪術師の祈りのみによって再現した奇跡。
透明で光や音は通すが他の何物にも屈せず、それでいて内部の大気は魔法的に循環していて術者と同胞は守られる、無敵の障壁。
次いでサチは胸元に提げた八坂の勾玉に手をやり、短い祝詞を紡ぐ。
勾玉は光を発し、【四大・須佐之男・究竟】の術によってサチの身体が強化される。
奇しくも奈良坂がとったのと同じ戦術である。
最初に防御魔法と付与魔法で身を固めるのは、戦闘に不慣れな術者がやむを得ず交戦する際の共有メソッドである。
脂虫が、泥人間がサチの結界を取り囲む。
草野球の最中に徴用でもされたのだろう、くわえ煙草で野球のユニフォームを着こんだ泥人間が、結界を金属バットで殴りつける。
凄まじい打撃。
普通の脂虫の力ではない。
人から変化した脂虫は、人と同等の身体能力しか持たないはずだ。
野球選手の扮装をした彼らは、ヤニで衰えた心身を補うべく違法薬物で身体を強化しているのだろう。そんな剛力で、力まかせに殴る。
その背後で、屈強な泥人間が雄叫びをあげる。
その身体が気功のオーラに包まれ、肥大した筋肉で膨れあがる。
気功で身体を強化する【虎爪気功】の異能力。
臭い脂虫の野球選手が、薬物で強化された筋力で殴る。
異能力で強化された泥人間が、超常の筋力でサチの結界を打ち据える。
だが、そのすべてが虚空に阻まれ、押し止められる。
怪異どもは、森羅万象を力の源とする強固な障壁を貫けない。
呪術によって形作られた次元断層を、腕力で押し破るのは不可能からだ。
だがヤニで歪んだ醜い顔の脂虫が、鉄の凶器を打ちつける。
顔面が溶けかけた泥人間が、叫び声をあげながら虚空を殴る。
光と音を通す結界のせいで、サチは、その背後に庇われた園香は、群れなす怪異に襲われる暴力の光景にたじろぐ。
「……だいじょうぶよ、園香ちゃん。目を閉じてて」
そう告げて、サチは懐から小杖を取り出す。
小さな白木の杖の先端で、紙垂がなびく。
祓串である。
祓魔師が用いるロザリオと同等の、呪術を強化する聖なる道具だ。
サチは怪異どもの中心に祓串を向け、新たな祝詞を唱える。
奉ずる神は建御雷之男神。
次の瞬間、轟音とともに落雷して怪異どもを打ち据える。
天空から雷を落とす【鳴神法】。
だが、怪異どもは立ち上がって再び襲いかかる。
低級の怪異ならば一撃で打ち倒すはずの雷撃を受けてすら。
サチは歯噛みする。
実のところ、脂虫を殺すことに抵抗があった。
古神術においては死は穢れで、身近で起こってはならないことだ。
加えてサチは実戦経験に乏しく、人の形をした何かを壊すことには躊躇する。
たとえ相手が死んでも問題のない害虫であったとしても。
だから無意識に攻撃魔法の威力を抑制し、弱めてしまう。
園香を背に庇っているにもかかわらず。
それに古神術士に限らず呪術師は森羅万象に潜む魔力を操ることで術と成す。
敵の戦術結界により力の源と断絶された状態では、術の威力は著しく低下する。
実のところ障壁の強度も普段と比べると心ともない。
それでも怪異を阻むことができるのには理由がある。
ひとつは、九杖の家の者であるサチが魔力を操る技量に長けていること、
もうひとつは、術の媒体である注連縄が魔力を蓄えていること。
だが、それも無限にはもたない。
サチが怯んだ隙に、道士は口訣を唱えて符を投げる。
符は巨大な鉄の刃と化す。
即ち【金行・鉄刃】。
赤いレリーフの結界の中で、ギロチンのような鋭利な刃が血の色に光る。
そしてサチの結界を打ち据えるべく、風切り音をたてて飛来する。
だがサチは素早く祝詞を紡ぐ。
巨大な刃は一瞬だけ輝くと、光の粉になって消える。
神術士が防御魔法とともに得意とする【祓】。
魔法消去の術である。
攻防の合間に、サチは安堵の吐息を漏らす。
群れなす怪異は【護身神法】によって阻まれている。
道士の攻撃魔法は【祓】で対応できる。
術を維持している限りサチと園香は安全だ。そのはずだ。
だからサチは次なる一手を模索する。
戦術結界は、空間を周囲から『切り離す』ことで隔離する強力な魔法だ。
隔離された空間に出入りするには術者を倒して結界を解除するか、強い魔力で結界を破壊するか、高度な魔法で結界に穴を開けるしかない。
身体に魔力を蓄える妖術師や、魔力を生みだす魔術師による援護が必要だった。
小夜子をまいて単独行動した自身の無思慮を悔いた。
そして園香に申し訳ないと思った。
結界によって魔力の源と遮断された状態で、魔法戦に不慣れなサチが攻撃魔法によって道士を討つのは困難であろう。
結界を破壊するほど強力な術の行使も不可能だ。
ならば、結界から逃れるためには穴を開けるしかない。
道術による戦術結界【大尸来臨郷】の正体は脂虫だ。
得意とする【怪異の使役】によって脂虫を結界型の怪異へと変化させるのだ。
つまり、サチと園香は怪異の内側に取りこまれているということになる。
なんともおぞましい状況だ。
対してサチは【岩戸開法】で対処すべきだと判断した。
次元断層を障壁と成す【護身神法】、結界にする【天岩戸法】と対と成す術だ。
霊媒の技術を応用して因果律を部分的に正常化し、結界に穴を開ける。
そんな高度な術を用いるべく、踊り舞う天宇受売命のイメージを脳裏に描く。
その時、怪異たちが障壁を殴るのをやめた。
泥人間が後ろに下がり、脂虫たちの半数ほどがバットを捨てて結界に密着する。
叫ぶでもなく、殴るでもなく、ただへばりつく。
謎の挙動に、サチは戸惑う。
ヤニで歪んだ脂虫の顔が、恐怖に歪む。
サチは、園香は怯む。
そして次の瞬間、脂虫たちが一斉に爆発した。
即ち【三尸爆炸】。
脂虫を爆破させる妖術である。
祓魔師が使う【屍鬼の処刑】とほぼ同等の術だ。
つまり、連続爆破によって廃ビルを倒壊させるほどの破壊力がある。
結界や式神にも有効な魔力による攻撃である。
贄を用いるために威力の高いこれらの術は、【機関】の作戦においても戦術結界に穴を開ける用途で多用される。
そして、たしかに次元断層による障壁は無限の強度を誇る。
だが障壁の礎となっている注連縄にこめられた魔力は有限だ。
結界に閉ざされているから周囲の魔力を借りることもできない。
だから結界にすら損害を与え得る爆発の連鎖に、サチの障壁が砕けた。
反動で注連縄が千切れ飛ぶ。
サチは弾き飛ばされる。
脂虫の背後で控えていた泥人間が、生き残った脂虫が動く。
そしてサチと園香を遠巻きに囲む。
サチはふらつきながらも上体を起こし、園香を庇う。
だが、その背後から4匹の泥人間が忍び寄る。
2匹が衝撃で抵抗すらできないサチの両腕を拘束する。
残る2匹は怯える園香を拘束した。
道士はゆっくりと2人に歩み寄る。
そして園香を見やる。
以前に同じように襲われた園香が、恐怖に顔を引きつらせる。
だが道士は園香から目をそらし、サチを見やる。
もがくサチに歩み寄り、口訣を唱える。
犠牲者の衣服を剥ぎ取る【金剋木・禁衣】の妖術。
ネクタイがひとりでに千切れ、セーラー服が引き裂かれる。
サチは悲鳴をあげ、抵抗する。
だが屈強な泥人間の手はゆるまない。
スーツを着こんだ泥人間は不気味に笑う。
怪異の本性をあらわす前の整形した人間の顔もさぞいやらしい下種顔だったであろうが、ただれた皮膚を張りつかせた泥人間の顔はその数倍、おぞましい。
そんな醜悪な男が、サチのブラジャーを引き千切る。
か弱い抵抗をものともせず、その下に提げられていた勾玉を奪う。
園香は気を失って倒れていた。
さらに2人を遠巻きに囲む泥人間の群が、溶けた顔に嗜虐の笑みを浮かべる。
その側で、生き残った脂虫も品のない笑みを浮かべる。
術に強制されたものではない、生来の卑しさをあらわす笑みだ。
屈強な泥人間と下卑た脂虫たちは、サチと園香に襲いかかろうと身構える。
その時、
「そこまでです!」
声とともに、サチを拘束していた泥人間の頭が破裂した。
「……戦術結界」
園香とサチは、戦術結界に閉じこめられていた。
園香は先日の襲撃に続き、2回目だ。
だがこの世界は、魔法戦は初めてではないサチにとってすら異様な結界だった。
校舎が、地面が、渡り廊下の屋根やフェンスが、武者や戦士の栄光を描いた真紅のレリーフと化していた。
レンガ造りのプランターは、無数の槍や剣が並べられた槍ぶすまと化した。
そして異界と化した中庭に、いくつもの人影があらわれる。
以前に園香と奈良坂を襲ったという集団と同じ構成だ。
野球のコスチュームを着こんで金属バットを手にした、くわえ煙草の脂虫。
野太刀を構えた、ただれた顔の泥人間。
そして、スーツを着こんだ泥人間の道士。
魔力から生まれた泥人間は整形によって人間に成りすます。
特に狡猾な個体は人里に潜み、時に政治すら利用して人間社会に闇をもたらす。
内なる魔力を操る術を身に着けた泥人間の道士が、妖術によって市議会議員の地位を簒奪することも、ありえない話ではない。
「園香ちゃん、わたしから離れないで」
サチは園香を背にかばう。
自身の手首に巻かれた小さな注連縄に意識を集中する。
そして三貴子を敬い奉ずる祝詞を念ずる。
即ち天照大神、月読命、須佐之男命の3柱。
天地に宿る魔力を八百万の神々と奉ずる古神術士が扱う術は3種類。
魔力を媒介して火水風地を操る【エレメントの変成】。
魂と肉体の因果をずらすことによる【霊媒と心霊治療】。
そして神術士が最も得意とする、霊媒を応用した【防護と浄化】。
尊き神名により、森羅万象に潜む魔力が収束する。
それは霊媒と同じ理論で時空と因果をずらし、術者を守る不可視の壁となる。
即ち【護身神法】。
高度すぎて、本来ならば万物の理を解き明かした魔術師にしか構成することのできない特殊な次元断層。それを呪術師の祈りのみによって再現した奇跡。
透明で光や音は通すが他の何物にも屈せず、それでいて内部の大気は魔法的に循環していて術者と同胞は守られる、無敵の障壁。
次いでサチは胸元に提げた八坂の勾玉に手をやり、短い祝詞を紡ぐ。
勾玉は光を発し、【四大・須佐之男・究竟】の術によってサチの身体が強化される。
奇しくも奈良坂がとったのと同じ戦術である。
最初に防御魔法と付与魔法で身を固めるのは、戦闘に不慣れな術者がやむを得ず交戦する際の共有メソッドである。
脂虫が、泥人間がサチの結界を取り囲む。
草野球の最中に徴用でもされたのだろう、くわえ煙草で野球のユニフォームを着こんだ泥人間が、結界を金属バットで殴りつける。
凄まじい打撃。
普通の脂虫の力ではない。
人から変化した脂虫は、人と同等の身体能力しか持たないはずだ。
野球選手の扮装をした彼らは、ヤニで衰えた心身を補うべく違法薬物で身体を強化しているのだろう。そんな剛力で、力まかせに殴る。
その背後で、屈強な泥人間が雄叫びをあげる。
その身体が気功のオーラに包まれ、肥大した筋肉で膨れあがる。
気功で身体を強化する【虎爪気功】の異能力。
臭い脂虫の野球選手が、薬物で強化された筋力で殴る。
異能力で強化された泥人間が、超常の筋力でサチの結界を打ち据える。
だが、そのすべてが虚空に阻まれ、押し止められる。
怪異どもは、森羅万象を力の源とする強固な障壁を貫けない。
呪術によって形作られた次元断層を、腕力で押し破るのは不可能からだ。
だがヤニで歪んだ醜い顔の脂虫が、鉄の凶器を打ちつける。
顔面が溶けかけた泥人間が、叫び声をあげながら虚空を殴る。
光と音を通す結界のせいで、サチは、その背後に庇われた園香は、群れなす怪異に襲われる暴力の光景にたじろぐ。
「……だいじょうぶよ、園香ちゃん。目を閉じてて」
そう告げて、サチは懐から小杖を取り出す。
小さな白木の杖の先端で、紙垂がなびく。
祓串である。
祓魔師が用いるロザリオと同等の、呪術を強化する聖なる道具だ。
サチは怪異どもの中心に祓串を向け、新たな祝詞を唱える。
奉ずる神は建御雷之男神。
次の瞬間、轟音とともに落雷して怪異どもを打ち据える。
天空から雷を落とす【鳴神法】。
だが、怪異どもは立ち上がって再び襲いかかる。
低級の怪異ならば一撃で打ち倒すはずの雷撃を受けてすら。
サチは歯噛みする。
実のところ、脂虫を殺すことに抵抗があった。
古神術においては死は穢れで、身近で起こってはならないことだ。
加えてサチは実戦経験に乏しく、人の形をした何かを壊すことには躊躇する。
たとえ相手が死んでも問題のない害虫であったとしても。
だから無意識に攻撃魔法の威力を抑制し、弱めてしまう。
園香を背に庇っているにもかかわらず。
それに古神術士に限らず呪術師は森羅万象に潜む魔力を操ることで術と成す。
敵の戦術結界により力の源と断絶された状態では、術の威力は著しく低下する。
実のところ障壁の強度も普段と比べると心ともない。
それでも怪異を阻むことができるのには理由がある。
ひとつは、九杖の家の者であるサチが魔力を操る技量に長けていること、
もうひとつは、術の媒体である注連縄が魔力を蓄えていること。
だが、それも無限にはもたない。
サチが怯んだ隙に、道士は口訣を唱えて符を投げる。
符は巨大な鉄の刃と化す。
即ち【金行・鉄刃】。
赤いレリーフの結界の中で、ギロチンのような鋭利な刃が血の色に光る。
そしてサチの結界を打ち据えるべく、風切り音をたてて飛来する。
だがサチは素早く祝詞を紡ぐ。
巨大な刃は一瞬だけ輝くと、光の粉になって消える。
神術士が防御魔法とともに得意とする【祓】。
魔法消去の術である。
攻防の合間に、サチは安堵の吐息を漏らす。
群れなす怪異は【護身神法】によって阻まれている。
道士の攻撃魔法は【祓】で対応できる。
術を維持している限りサチと園香は安全だ。そのはずだ。
だからサチは次なる一手を模索する。
戦術結界は、空間を周囲から『切り離す』ことで隔離する強力な魔法だ。
隔離された空間に出入りするには術者を倒して結界を解除するか、強い魔力で結界を破壊するか、高度な魔法で結界に穴を開けるしかない。
身体に魔力を蓄える妖術師や、魔力を生みだす魔術師による援護が必要だった。
小夜子をまいて単独行動した自身の無思慮を悔いた。
そして園香に申し訳ないと思った。
結界によって魔力の源と遮断された状態で、魔法戦に不慣れなサチが攻撃魔法によって道士を討つのは困難であろう。
結界を破壊するほど強力な術の行使も不可能だ。
ならば、結界から逃れるためには穴を開けるしかない。
道術による戦術結界【大尸来臨郷】の正体は脂虫だ。
得意とする【怪異の使役】によって脂虫を結界型の怪異へと変化させるのだ。
つまり、サチと園香は怪異の内側に取りこまれているということになる。
なんともおぞましい状況だ。
対してサチは【岩戸開法】で対処すべきだと判断した。
次元断層を障壁と成す【護身神法】、結界にする【天岩戸法】と対と成す術だ。
霊媒の技術を応用して因果律を部分的に正常化し、結界に穴を開ける。
そんな高度な術を用いるべく、踊り舞う天宇受売命のイメージを脳裏に描く。
その時、怪異たちが障壁を殴るのをやめた。
泥人間が後ろに下がり、脂虫たちの半数ほどがバットを捨てて結界に密着する。
叫ぶでもなく、殴るでもなく、ただへばりつく。
謎の挙動に、サチは戸惑う。
ヤニで歪んだ脂虫の顔が、恐怖に歪む。
サチは、園香は怯む。
そして次の瞬間、脂虫たちが一斉に爆発した。
即ち【三尸爆炸】。
脂虫を爆破させる妖術である。
祓魔師が使う【屍鬼の処刑】とほぼ同等の術だ。
つまり、連続爆破によって廃ビルを倒壊させるほどの破壊力がある。
結界や式神にも有効な魔力による攻撃である。
贄を用いるために威力の高いこれらの術は、【機関】の作戦においても戦術結界に穴を開ける用途で多用される。
そして、たしかに次元断層による障壁は無限の強度を誇る。
だが障壁の礎となっている注連縄にこめられた魔力は有限だ。
結界に閉ざされているから周囲の魔力を借りることもできない。
だから結界にすら損害を与え得る爆発の連鎖に、サチの障壁が砕けた。
反動で注連縄が千切れ飛ぶ。
サチは弾き飛ばされる。
脂虫の背後で控えていた泥人間が、生き残った脂虫が動く。
そしてサチと園香を遠巻きに囲む。
サチはふらつきながらも上体を起こし、園香を庇う。
だが、その背後から4匹の泥人間が忍び寄る。
2匹が衝撃で抵抗すらできないサチの両腕を拘束する。
残る2匹は怯える園香を拘束した。
道士はゆっくりと2人に歩み寄る。
そして園香を見やる。
以前に同じように襲われた園香が、恐怖に顔を引きつらせる。
だが道士は園香から目をそらし、サチを見やる。
もがくサチに歩み寄り、口訣を唱える。
犠牲者の衣服を剥ぎ取る【金剋木・禁衣】の妖術。
ネクタイがひとりでに千切れ、セーラー服が引き裂かれる。
サチは悲鳴をあげ、抵抗する。
だが屈強な泥人間の手はゆるまない。
スーツを着こんだ泥人間は不気味に笑う。
怪異の本性をあらわす前の整形した人間の顔もさぞいやらしい下種顔だったであろうが、ただれた皮膚を張りつかせた泥人間の顔はその数倍、おぞましい。
そんな醜悪な男が、サチのブラジャーを引き千切る。
か弱い抵抗をものともせず、その下に提げられていた勾玉を奪う。
園香は気を失って倒れていた。
さらに2人を遠巻きに囲む泥人間の群が、溶けた顔に嗜虐の笑みを浮かべる。
その側で、生き残った脂虫も品のない笑みを浮かべる。
術に強制されたものではない、生来の卑しさをあらわす笑みだ。
屈強な泥人間と下卑た脂虫たちは、サチと園香に襲いかかろうと身構える。
その時、
「そこまでです!」
声とともに、サチを拘束していた泥人間の頭が破裂した。
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