銃弾と攻撃魔法・無頼の少女

立川ありす

文字の大きさ
上 下
9 / 548
第1章 廃墟の街の【掃除屋】

調査

しおりを挟む
 そして翌日。
 端末の載った机がずらりと並んだ情報処理室に、キーボードを叩く音が響く。

 舞奈たちが通う蔵乃巣くらのす学園は、近年でも珍しい公立の小中高一貫校だ。
 情報処理室は高等部の校舎に入っている。
 だが学園の生徒であれば自由に出入りすることができる。
 そして今の時間は、舞奈たちは放課後だが高等部は授業中だ。
 部屋には舞奈と友人たちの他には誰もいない。

「何か分かったか? テック」
 舞奈は明日香といっしょに端末の画面を覗きこむ。
 端末に向かっているのは、血色の悪い、シャープなボブカットの少女だ。

 工藤照。通称テック。
 スミレ色のサロペットをクールに着こなした彼女は、舞奈のクラスメートだ。
 メカの天才で、腕の良いハッカーでもある。
 彼女は必要とあらば国家機密であろうが企業の裏帳簿であろうが探り出し、厳重なセキュリティで完璧に守られているはずのそれを画面に表示させてみせる。

 今回は、泥人間の潜伏場所を特定するべく彼女の手を借りたのだ。だが、

「それらしい情報は見つからないわ」
 テックは普段通りに無表情に、無常な調査結果を告げた。
 廃墟同然の新開発区には生きている監視カメラなど数えるほどしかない。
 加えて住人がいないから、目撃証言がネットに流れることもない。

「新開発区のどこかにいるのは間違いないんだが」
 舞奈は腕組みしながらひとりごちる。
 現に舞奈は先日、泥人間と戦ったのだ。
 そして倒した怪異の残骸の中に鏡などなかった。
 どこか別の場所に本隊がいるはずだ。

「いっそ【機関】の通信記録を調べて、討伐指示を確かめたほうが早い気がする」
 顔を上げて、お手上げな顔をしたテックが言った。だが、

執行人エージェントのハイエナするのは嫌だなあ」
 舞奈は顔をしかる。
「それに、奴らと組んで泥人間を片づけたって、取得品とか言って鏡を持ってかれるのがオチだ。それじゃ意味ないだろ?」
「じゃ、どうするの?」
「どうするって言われても……って、だいだい、今そんな話してないだろ?」
 やはり、しらみつぶししかないのか……。
 早くも挫折しそうになった舞奈は、ふと思い出し、

「なぁ、テック。『3つの円環の集いし場所』ってのに心当たりがあるか?」
 老婆の戯言を口走ってみた。

「なによそれ?」
 明日香が口をはさんでくる。

「昨日、ちょっと占ってもらってな」
「その占術はあてになるの?」
「なんだよ、他人の占いは信用できないか?」
「あなたが知ってる占術士ディビナーとやらの探知魔法ディビネーションが、信頼できるかって話よ。占うだけなら誰にでもできるけど、当たる占いができる人なんて一握りよ」
「じゃ、どうするんだよ?」
 舞奈は面倒くさそうに明日香を睨む。

「だいたい、おまえが昨日一日がかりでやってた占術の結果はどうだったんだ?」
「今、そんな話はしてないでしょ?」
「いや、しろよ」
「……それ」
 2人が言い合っていると、ふとテックが反応した。

「知ってるのか!?」
「オリンピック?」
「いや、ありゃ環が7つだ」
「い、つ、つ、よ」
 明日香は肩をすくめる。

 調査はいきなり行き詰まった。
 というより最初から進展せずにだれた。その時、

「どーろにーんげんのー、どーろぼーさーん♪」
 背後で聞こえた素っ頓狂な歌声に、思わず振り向く。
 フリルひらひらのエプロンドレスで着飾った少女がこちらを見ていた。

「どーこにいますか、どろぼーさーん♪ どーろぼーさーんかーら三種の神器をとーりもーどせー♪」
「……なんだみゃー子か。おどかすなよ」
 舞奈はやれやれと苦笑する。

 小室美亜。通称、みゃー子。
 彼女もいちおうクラスメートで、テックに劣らぬスーパーハッカーだ。
 だが意思の疎通が困難なので、こういった状況で彼女に頼ることはない。

「つーるぎーに、かーがみに、まーがだーまにー♪ テーレビーに、くーるまーに、せーんたっきー♪」
「剣なんかいらないよ。ほしいのは鏡だ」
 ふしぎ少女のペースに巻きこまれ、舞奈は無意味に疲労する。

「あとヘンなもの混ぜんな。6つになっただろ」
 面倒くさそうに目をそらし、再び画面を覗きこむ。だが、

「きーけん、きーたなーい、こーうしゅーうにゅー!!」
 みゃー子は歌いながら走り寄り、テックの背中に跳びかかった。
「みゃー子、何を――」
 バランスを崩したテックが手をついたのはキーボードの上だ。
 デタラメにキーを押された端末の画面が、ものすごい勢いで情報窓を表示する。

「あ、バカ! 邪魔すんな」
 みゃー子を部屋から放り出そうと、首根っこをひっつかむ。だが、
「ちょっと待って」
 明日香の制止に振り返る。
 視線を追って再び画面を見やる。

 無秩序に表示された情報窓のいちばん上に、3つの円が映し出されていた。

「……これ、航空写真」
 テックがひとりごちるように言いつつ、キーボードを叩いて情報窓を広げる。
 そこに映っていたのは、3つ並んだ円形の建物が崩れ去った跡のようだ。

「場所は分かるか?」
出巣黒須ですくろす市、下辺那しもへな町。出巣黒須市立下辺那公園予定地」
 素早く告げられたテックの答えを聞いて、ニヤリと口元に笑みをうかべる。
 どんな仕事でも、目的が明確になると俄然やる気が出るものだ。
 危険だが高収入な仕事ならなおのこと。だが、

「急いだ方がいいわよ。執行人エージェントに泥人間の討伐任務がくだったみたい」
 別の窓にあらわれたアラートを見やりながら、テックが告げた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

魔法少女になれたなら【完結済み】

M・A・J・O
ファンタジー
【第5回カクヨムWeb小説コンテスト、中間選考突破!】 【第2回ファミ通文庫大賞、中間選考突破!】 【第9回ネット小説大賞、一次選考突破!】 とある普通の女子小学生――“椎名結衣”はある日一冊の本と出会う。 そこから少女の生活は一変する。 なんとその本は魔法のステッキで? 魔法のステッキにより、強引に魔法少女にされてしまった結衣。 異能力の戦いに戸惑いながらも、何とか着実に勝利を重ねて行く。 これは人間の願いの物語。 愉快痛快なステッキに振り回される憐れな少女の“願い”やいかに―― 謎に包まれた魔法少女劇が今――始まる。 ・表紙絵はTwitterのフォロワー様より。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

処理中です...