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第3章 SACRIFICE ~蛮勇の代償
幼馴染と小学生とドキドキお泊まり会1
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「それじゃ、今夜」
「うん、陽介君も少しでも休んでおいてね」
俺は小夜子と別れ、今夜0時に開始される作戦のことで頭をいっぱいにしながら家の玄関を開けた。だが、
「陽介さん、おかえりなさい。おじゃましてます」
奥から園香ちゃんがあらわれた。
「園香ちゃん、い、いらっしゃい。でも、なんで俺の家で……?」
小5とは思えないナイスバディの彼女がエプロン姿で不意にあらわれ、しとやかに挨拶されると、なんというか動揺する。そうこうしていると、
「あのね! 今日ね! 学校のみんなが晩御飯食べに来ることになったの!」
奥から千佳もやってきた。
「マイに、ゾマに、安倍さんも来てくれるの! いいでしょ?」
「いいでしょって、今さらダメだなんて言えないだろ?」
俺は、しょうがないなと千佳の頭をなでる。
正直なところ、作戦決行を控えた今は少しでも休養をとるべきだろう。
だが妹の屈託ない笑顔を見て嫌とは言えない。
「マイと安倍さんが食材を持ってきてくれて、ゾマが料理を手伝ってくれてたの!」
「手伝うっていうか、園香ちゃんが作ってくれてるんじゃないのか?」
「お兄ちゃんったら、ヘンなところで鋭いんだから」
そう言って千佳は拗ねてみせる。
俺は思わず苦笑する。
「っていうか、お前の役割分担はなんなんだ?」
「そ、それはね……」
つっこむと千佳は焦る。
そんな妹の頭をなでつつ、
「園香ちゃん、迷惑かけちゃってゴメンね。俺も手伝うよ」
「そんな、ありがとうございます」
「お兄ちゃん、マイだけじゃなくてゾマにまで手を出そうとしてる!?」
「してないってば! っていうか舞奈のことだって誤解だって言ってるだろ」
俺は苦笑しつつ、はしゃぐ千佳と困る園香ちゃんを連れて台所に向かう。
その時、ドアがガチャリと開いて、
「チャビー、ジュース買ってきたぞー」
「日比野さん、これで全部なんでしょうね? さすがに3度目は勘弁してほしいわ」
両手にコンビニの袋を提げた舞奈と明日香が入ってきた。
さらにドアが開いた。
その響きがあまりに不吉だったから、俺は思わずつばを飲みこむ。
「陽介君、千佳ちゃんから家の電話に留守電が入ってて――」
ドアの外には小夜子がいた。
小夜子は俺の両隣に並んだ千佳と園香ちゃんを見やる。
次いで靴を脱ぎかけの舞奈と明日香を見やる。そして、
「陽介君、小学生に囲まれて嬉しそうだね」
凄い目で俺を睨んだ。
そんな些細なトラブルがあったりもしたが、食事会の準備は滞りなく進んだ。
俺はキッチンのテーブルの中央に、カレーの鍋を乗せる。
千佳の大好物の甘口カレーが香る。
市販の子供用カレーにハチミツを足した甘口カレーだ。
実は卵料理と並ぶ俺の得意料理だったりする。
千佳と自分のために上達した料理だから、俺の得意料理はみんな千佳の大好物だ。
その側で、小夜子が取り皿とフォークとスプーンを並べる。
小学生たちは園香の指導の元、ダイニングでわいわいとサラダの野菜を切っている。
だから、ここにいるのは小夜子と俺だけだ。
「陽介君、あのツインテールの子って、陽介君の家に泊まってる子だよね?」
……小夜子、まだ俺と舞奈の仲を誤解しているのか?
そう思って俺は焦る。だが、
「すごい筋肉だよね。あんなの初めて見た」
そっちが気になったのか。
「最近の小学生って、体鍛えるの流行ってるのかな?」
「いや、そんな流行はないと思うけど……」
しどろもどろに答える。
小夜子に舞奈のことを話そうか、少し迷った。
けど執行人として深まった2人の関係を、もう少しこのままにしておきたかった。
だから、舞奈が仕事人だということを小夜子には話さなかった。
その選択が本当に良かったのかと考えていると、
「お隣のお姉ーちゃん、チャビーから聞いたよ」
当の舞奈がやって来た。
「ええっと、聞いたって何を?」
俺は動揺する。だが、
「胸が小さいことを気にしてるってことさ。でも、あたしはお姉ちゃんの胸、良い形だと思うよ。兄ちゃんもそう思うだろ?」
俺は目を泳がせる。
なんて返答に困る質問をするんだろう。
だがすぐに、舞奈が千佳と同じ小学4年生だということを思いだした。
それなのにひとり暮らしの彼女は、年上の女性に甘えたいのかもしれない。
子供の言うことだし、と小夜子を見やり――
――俺は目を見開いた。
小夜子に後から抱きついた舞奈が、その小ぶりな胸を揉んでいたからだ。
「ひゃっ!?」
小夜子が放り出した皿を、あわててキャッチする。
あられもない小夜子の声に思わず俺まで赤面する。
「あのね、舞奈……。そういうことしたらダメだよ」
しどろもどろに舞奈をたしなめつつ、小夜子を見やる。
まっ赤になった小夜子の顔を直視できずに視線をおろす。
そこには先ほど揉まれたばかりの胸があった。
言われてみると、見事なお椀型に膨らみかけた小夜子の胸は、小ぶりながらも良い形だと思う。そんなことを考えていると、
「陽介君のエッチ!」
小夜子が真っ赤になって言った。
理不尽だと思った。
……そんなトラブルもあったものの、
「「「「「「いただきます」」」」」」
夕食の時間には、テーブルに皆で作ったご馳走が並んだ。
タコさんウィンナーを乗せた甘口カレー。
クリームスープで煮こんだロールキャベツ。
ささみのサラダ。
皆で作った料理を囲むのは、俺と両隣に座った小夜子と千佳。
向かいには舞奈と明日香と園香。
2人で使うには大きすぎるテーブルも、こうなってしまうと手狭に感じる。
俺はなんだか嬉しくなって笑う。
俺と、隣に座る小夜子は異能の力で裏の世界を守る【機関】の執行人で。
向かいの席に座る舞奈と明日香は腕利きの仕事人で。
考えてみたらすごいことなんだと思う。
けど、そんなことは思わず忘れてしまうほど、小夜子は普通の女の子で、千佳と友人たちは小学生だった。
「ロールキャベツをお上品に切り分けるのは不用心だったな、ひときれいただき!」
明日香の皿に、舞奈がフォークを走らせる。
だが、フォークはカキンと受け止められる。
ロールキャベツに夢中になっていたはずの明日香が、自分のナイフで舞奈のフォークを防いだのだ。
「油断したのはどっちかしら?。奇襲にしては見え見えだし、強襲にしてはのろまね」
そのままギリギリとつばぜり合いをはじめる。
「舞奈も、明日香も落ち着いて……」
「その隙に、マイのカレーのタコさんウィンナーをいただきー」
「あっ、千佳!? そんなことしちゃダメだろう」
「マイちゃんも、チャビーちゃんも、おかわりが欲しかったらまだあるよ」
小学生が好き放題に振舞う中、同い年のはずの園香ちゃんが母親みたくなっていた。
外し忘れたのであろうエプロン姿があまりにも似合っていてドギマギしていると、
「……陽介君、今度は園香ちゃんのことじーっと見てるね」
小夜子がすごい負のオーラがこもった視線でジトッと睨んでいた。
「小夜子、これは、その、違うんだ……」
俺はあわてて目を泳がせて、
「そうだ。小夜子、口開けてみて」
「……?」
不審げに開けた可憐な唇に、フォークで刺したサラダのささみを押しつける。
小夜子は思わずささみをほおばり、頬を赤らめながらもぐもぐと咀嚼する。
「お兄ちゃん、小夜子さんと恋人ごっこだ」
「そ、そんな、千佳ちゃんったら……」
照れたついでに機嫌も直った小夜子の様子に、俺は胸をなでおろす。だが、
「じゃあ、わたしはお兄ちゃんにタコさんウィンナー」
「……え?」
千佳が真似してフォークの先にウィンナーをのせて食べさせてきた。さらに、
「それならカレーも食べてください。せっかく手伝ってくださったんですから」
「あはは、兄ちゃんロバみたいだな。あたしのささみも食えよ」
遊びのつもりか園香ちゃんと舞奈もスプーンとフォークを押しつけてきた。
「わたしは貴女たちが彼に炭水化物と肉だけを食べさせようとする無神経さが気に入らないのだけど。陽介さん、サラダのニンジンスティックも食べるべきです」
明日香も几帳面なツボに入ってしまったらしい。
「園香ちゃん、舞奈、明日香、気持ちは嬉しいんだけど……」
しどろもどろに言いつつも、横から凄まじい負のオーラを感じる。
だが怖ろしくて小夜子の顔が見られなかった。
そんな張りつめた空気を、
「あのね、わたし、お兄ちゃんのカレーライス大好き!」
千佳の無邪気な笑みが浄化した。
「わたしね、大きくなったら、たくさん、たくさんカレーを作ってね、プールいっぱいに作って、みんなで食べたら楽しいよねって思う!」
「どんだけ食う気だよ。っていうか、腹に入りきらないだろ」
舞奈がつっこむ。けど、
「じゃあね、じゃあね……カレーのプールで泳ぐとか!?」
千佳はそう言って、楽しげに笑った。
「千佳ちゃん……?」
「チャビーちゃん……?」
小夜子と園香ちゃんは顔を見合わせる。
「何を言っているの日比野さん!? 正気!?」
明日香は理解できないといった表情で目を見開く。
……魔法使いなのに夢がないなあ
「わたしと、お兄ちゃんと、小夜子さんと、マイとゾマと安倍さんもいっしょにね、みんなで泳ぐの。クラスのみんなとウサギさんもいっしょだよ!」
「ウサギが黄色くなるぞ……」
再び舞奈がつっこむ。
小夜子とクラスメートたちはしばし見つめあい、そして爆笑した。
「そういえば日比野さん、明日はウサギ小屋の当番よ。わたしと真神さんと貴女で」
明日香が思い出したように言った。
「おまえ、スケジュール表みたいだな」
舞奈が茶々を入れる。
俺たちの学校の初等部の敷地には、大きなウサギ小屋がある。
ウサギ小屋の掃除や餌やりは、4年生と5年生が持ち回りですることになっている。
俺と小夜子も初等部のときに何度かやったっけ。懐かしいなあ。
あの頃のことをいろいろ思い出して、小夜子を見やって微笑む。
小夜子も同じことを考えていたのだろう、控えめながら笑みを返してくれた。
「でも、千佳もその調子なら大丈夫そうだよね。行っておいでよ」
「わーい、ウサギさんと何して遊ぼうかなー」
「ちゃんと掃除もするんだぞ。明日香、園香ちゃん、千佳をお願いするね」
俺の言葉に、2人はにこやかにうなずく。
「はやく明日にならないかな!」
そう言って千佳が笑う。
千佳を囲んでみんなが笑う。
そうやって我が家の……プラス少女たちの夕食会は、面白おかしく過ぎていった。
「うん、陽介君も少しでも休んでおいてね」
俺は小夜子と別れ、今夜0時に開始される作戦のことで頭をいっぱいにしながら家の玄関を開けた。だが、
「陽介さん、おかえりなさい。おじゃましてます」
奥から園香ちゃんがあらわれた。
「園香ちゃん、い、いらっしゃい。でも、なんで俺の家で……?」
小5とは思えないナイスバディの彼女がエプロン姿で不意にあらわれ、しとやかに挨拶されると、なんというか動揺する。そうこうしていると、
「あのね! 今日ね! 学校のみんなが晩御飯食べに来ることになったの!」
奥から千佳もやってきた。
「マイに、ゾマに、安倍さんも来てくれるの! いいでしょ?」
「いいでしょって、今さらダメだなんて言えないだろ?」
俺は、しょうがないなと千佳の頭をなでる。
正直なところ、作戦決行を控えた今は少しでも休養をとるべきだろう。
だが妹の屈託ない笑顔を見て嫌とは言えない。
「マイと安倍さんが食材を持ってきてくれて、ゾマが料理を手伝ってくれてたの!」
「手伝うっていうか、園香ちゃんが作ってくれてるんじゃないのか?」
「お兄ちゃんったら、ヘンなところで鋭いんだから」
そう言って千佳は拗ねてみせる。
俺は思わず苦笑する。
「っていうか、お前の役割分担はなんなんだ?」
「そ、それはね……」
つっこむと千佳は焦る。
そんな妹の頭をなでつつ、
「園香ちゃん、迷惑かけちゃってゴメンね。俺も手伝うよ」
「そんな、ありがとうございます」
「お兄ちゃん、マイだけじゃなくてゾマにまで手を出そうとしてる!?」
「してないってば! っていうか舞奈のことだって誤解だって言ってるだろ」
俺は苦笑しつつ、はしゃぐ千佳と困る園香ちゃんを連れて台所に向かう。
その時、ドアがガチャリと開いて、
「チャビー、ジュース買ってきたぞー」
「日比野さん、これで全部なんでしょうね? さすがに3度目は勘弁してほしいわ」
両手にコンビニの袋を提げた舞奈と明日香が入ってきた。
さらにドアが開いた。
その響きがあまりに不吉だったから、俺は思わずつばを飲みこむ。
「陽介君、千佳ちゃんから家の電話に留守電が入ってて――」
ドアの外には小夜子がいた。
小夜子は俺の両隣に並んだ千佳と園香ちゃんを見やる。
次いで靴を脱ぎかけの舞奈と明日香を見やる。そして、
「陽介君、小学生に囲まれて嬉しそうだね」
凄い目で俺を睨んだ。
そんな些細なトラブルがあったりもしたが、食事会の準備は滞りなく進んだ。
俺はキッチンのテーブルの中央に、カレーの鍋を乗せる。
千佳の大好物の甘口カレーが香る。
市販の子供用カレーにハチミツを足した甘口カレーだ。
実は卵料理と並ぶ俺の得意料理だったりする。
千佳と自分のために上達した料理だから、俺の得意料理はみんな千佳の大好物だ。
その側で、小夜子が取り皿とフォークとスプーンを並べる。
小学生たちは園香の指導の元、ダイニングでわいわいとサラダの野菜を切っている。
だから、ここにいるのは小夜子と俺だけだ。
「陽介君、あのツインテールの子って、陽介君の家に泊まってる子だよね?」
……小夜子、まだ俺と舞奈の仲を誤解しているのか?
そう思って俺は焦る。だが、
「すごい筋肉だよね。あんなの初めて見た」
そっちが気になったのか。
「最近の小学生って、体鍛えるの流行ってるのかな?」
「いや、そんな流行はないと思うけど……」
しどろもどろに答える。
小夜子に舞奈のことを話そうか、少し迷った。
けど執行人として深まった2人の関係を、もう少しこのままにしておきたかった。
だから、舞奈が仕事人だということを小夜子には話さなかった。
その選択が本当に良かったのかと考えていると、
「お隣のお姉ーちゃん、チャビーから聞いたよ」
当の舞奈がやって来た。
「ええっと、聞いたって何を?」
俺は動揺する。だが、
「胸が小さいことを気にしてるってことさ。でも、あたしはお姉ちゃんの胸、良い形だと思うよ。兄ちゃんもそう思うだろ?」
俺は目を泳がせる。
なんて返答に困る質問をするんだろう。
だがすぐに、舞奈が千佳と同じ小学4年生だということを思いだした。
それなのにひとり暮らしの彼女は、年上の女性に甘えたいのかもしれない。
子供の言うことだし、と小夜子を見やり――
――俺は目を見開いた。
小夜子に後から抱きついた舞奈が、その小ぶりな胸を揉んでいたからだ。
「ひゃっ!?」
小夜子が放り出した皿を、あわててキャッチする。
あられもない小夜子の声に思わず俺まで赤面する。
「あのね、舞奈……。そういうことしたらダメだよ」
しどろもどろに舞奈をたしなめつつ、小夜子を見やる。
まっ赤になった小夜子の顔を直視できずに視線をおろす。
そこには先ほど揉まれたばかりの胸があった。
言われてみると、見事なお椀型に膨らみかけた小夜子の胸は、小ぶりながらも良い形だと思う。そんなことを考えていると、
「陽介君のエッチ!」
小夜子が真っ赤になって言った。
理不尽だと思った。
……そんなトラブルもあったものの、
「「「「「「いただきます」」」」」」
夕食の時間には、テーブルに皆で作ったご馳走が並んだ。
タコさんウィンナーを乗せた甘口カレー。
クリームスープで煮こんだロールキャベツ。
ささみのサラダ。
皆で作った料理を囲むのは、俺と両隣に座った小夜子と千佳。
向かいには舞奈と明日香と園香。
2人で使うには大きすぎるテーブルも、こうなってしまうと手狭に感じる。
俺はなんだか嬉しくなって笑う。
俺と、隣に座る小夜子は異能の力で裏の世界を守る【機関】の執行人で。
向かいの席に座る舞奈と明日香は腕利きの仕事人で。
考えてみたらすごいことなんだと思う。
けど、そんなことは思わず忘れてしまうほど、小夜子は普通の女の子で、千佳と友人たちは小学生だった。
「ロールキャベツをお上品に切り分けるのは不用心だったな、ひときれいただき!」
明日香の皿に、舞奈がフォークを走らせる。
だが、フォークはカキンと受け止められる。
ロールキャベツに夢中になっていたはずの明日香が、自分のナイフで舞奈のフォークを防いだのだ。
「油断したのはどっちかしら?。奇襲にしては見え見えだし、強襲にしてはのろまね」
そのままギリギリとつばぜり合いをはじめる。
「舞奈も、明日香も落ち着いて……」
「その隙に、マイのカレーのタコさんウィンナーをいただきー」
「あっ、千佳!? そんなことしちゃダメだろう」
「マイちゃんも、チャビーちゃんも、おかわりが欲しかったらまだあるよ」
小学生が好き放題に振舞う中、同い年のはずの園香ちゃんが母親みたくなっていた。
外し忘れたのであろうエプロン姿があまりにも似合っていてドギマギしていると、
「……陽介君、今度は園香ちゃんのことじーっと見てるね」
小夜子がすごい負のオーラがこもった視線でジトッと睨んでいた。
「小夜子、これは、その、違うんだ……」
俺はあわてて目を泳がせて、
「そうだ。小夜子、口開けてみて」
「……?」
不審げに開けた可憐な唇に、フォークで刺したサラダのささみを押しつける。
小夜子は思わずささみをほおばり、頬を赤らめながらもぐもぐと咀嚼する。
「お兄ちゃん、小夜子さんと恋人ごっこだ」
「そ、そんな、千佳ちゃんったら……」
照れたついでに機嫌も直った小夜子の様子に、俺は胸をなでおろす。だが、
「じゃあ、わたしはお兄ちゃんにタコさんウィンナー」
「……え?」
千佳が真似してフォークの先にウィンナーをのせて食べさせてきた。さらに、
「それならカレーも食べてください。せっかく手伝ってくださったんですから」
「あはは、兄ちゃんロバみたいだな。あたしのささみも食えよ」
遊びのつもりか園香ちゃんと舞奈もスプーンとフォークを押しつけてきた。
「わたしは貴女たちが彼に炭水化物と肉だけを食べさせようとする無神経さが気に入らないのだけど。陽介さん、サラダのニンジンスティックも食べるべきです」
明日香も几帳面なツボに入ってしまったらしい。
「園香ちゃん、舞奈、明日香、気持ちは嬉しいんだけど……」
しどろもどろに言いつつも、横から凄まじい負のオーラを感じる。
だが怖ろしくて小夜子の顔が見られなかった。
そんな張りつめた空気を、
「あのね、わたし、お兄ちゃんのカレーライス大好き!」
千佳の無邪気な笑みが浄化した。
「わたしね、大きくなったら、たくさん、たくさんカレーを作ってね、プールいっぱいに作って、みんなで食べたら楽しいよねって思う!」
「どんだけ食う気だよ。っていうか、腹に入りきらないだろ」
舞奈がつっこむ。けど、
「じゃあね、じゃあね……カレーのプールで泳ぐとか!?」
千佳はそう言って、楽しげに笑った。
「千佳ちゃん……?」
「チャビーちゃん……?」
小夜子と園香ちゃんは顔を見合わせる。
「何を言っているの日比野さん!? 正気!?」
明日香は理解できないといった表情で目を見開く。
……魔法使いなのに夢がないなあ
「わたしと、お兄ちゃんと、小夜子さんと、マイとゾマと安倍さんもいっしょにね、みんなで泳ぐの。クラスのみんなとウサギさんもいっしょだよ!」
「ウサギが黄色くなるぞ……」
再び舞奈がつっこむ。
小夜子とクラスメートたちはしばし見つめあい、そして爆笑した。
「そういえば日比野さん、明日はウサギ小屋の当番よ。わたしと真神さんと貴女で」
明日香が思い出したように言った。
「おまえ、スケジュール表みたいだな」
舞奈が茶々を入れる。
俺たちの学校の初等部の敷地には、大きなウサギ小屋がある。
ウサギ小屋の掃除や餌やりは、4年生と5年生が持ち回りですることになっている。
俺と小夜子も初等部のときに何度かやったっけ。懐かしいなあ。
あの頃のことをいろいろ思い出して、小夜子を見やって微笑む。
小夜子も同じことを考えていたのだろう、控えめながら笑みを返してくれた。
「でも、千佳もその調子なら大丈夫そうだよね。行っておいでよ」
「わーい、ウサギさんと何して遊ぼうかなー」
「ちゃんと掃除もするんだぞ。明日香、園香ちゃん、千佳をお願いするね」
俺の言葉に、2人はにこやかにうなずく。
「はやく明日にならないかな!」
そう言って千佳が笑う。
千佳を囲んでみんなが笑う。
そうやって我が家の……プラス少女たちの夕食会は、面白おかしく過ぎていった。
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