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広大な大陸の西に位置するシャルノヴァ王国。
目立った戦乱もなく、国内は至って平和だ。今代の国王陛下と妃殿下は特に外交術に長けていて、近隣諸国との関係性も先代先先代の王が統治していた時代と比べるとかなり穏やかで友好的と聞く。
僕の父様が治めるラウラサウフ・ハリスン領も例に洩れず、治安も良ければそこに住む人たちの性質も良い。
なんたってハリスン公爵家の次期当主である兄様とその弟の僕が、護衛もつけずに丸一日街を見て回れるくらいなのだから。
もちろんそのあと邸を抜け出したことがバレてこっぴどく怒られたし、僕たちがいないとわかってから邸周辺が騒然となったらしいけど。
隣り合う領地や、父様とお付き合いのある遠方の地の話を耳にするにつけ、本当にのんびりした空気が流れる時代に生まれてきたんだなって実感する。書物で見た戦乱の歴史とか、想像もつかない夢物語のようにも感じた。
今はどの国も和平協定を結んでいるし、国内にも大した不満は溜まってない。つまり、ある程度無能でもまわりを固める補佐役さえしっかりしていれば難なく一国の王になれるってことで。
本当にご利益があるのかは一旦置くとして、この学園の生徒から『恋人の泉』との名称で呼ばれている噴水脇に寄り添って座っている二人に目をやる。
一人はこの国の王太子である第一王子殿下。で、その方にもたれ掛かるようにして身体を密着させているのは今年になってから編入してきた子爵家の令息。
冷めた目でその二人を眺めている僕の耳にコソコソと何事かを囁き合う大勢の声が聞こえてきていた。
大体が、僕に対する悪口。……のはず。
噂が出回り始めた当時ならともかく、今はもう陰口を言われるのにも慣れすぎてなんとも思わなくなってきた。だって、そもそもが事実無根な噂でしかないから。
いつまでも二人の世界から抜け出せないように見えるこの国の王子とその寵愛を一身に受ける恋人?……になるのか?から視線を外そうとした瞬間。ふと顔を上げた第一王子殿下と目が合った。
険しく眉根を寄せた物言いたげな表情でジッと見つめられ、無視するのもなんなので目礼だけして踵を返す。
邪魔だからさっさとどこかに行け、とでも言いたかったのかもしれない。
邪魔する気もないんですけどね……。
あの方に睨まれるのにも慣れてしまった自分が嫌で小さくため息を吐く。
どうやら僕は、悪役令息というものらしい。
それに気づいたのは、たしか十歳の頃。
兄様と剣術の稽古をしていた時に足を滑らせ、頭を打って昏倒し、三日間眠り続けていた際に見た……夢というにはあまりにもリアルなソレのせいだった。
今まで耳にしたことのないような調べが流れる中、四角い板の中に現れた異国の文字。なぜか読めてしまったことに困惑した。
夢で記憶を辿るように次々と目の前に現れる絵のような場面。
その中に、一度だけ父様に連れられて見学した覚えのあるナーガリヤ王立学園が映し出され、そこに入学してから始まるBLゲーム?なるものを、客席から観る舞台のような感覚で見せられ続けていた。
その時に映し出された主人公は、さっきレオンハルト第一王子殿下と寄り添い座っていた子爵家の令息であるパージュ・カゼッラ。彼が学園に編入してきた時から始まる『なにか』らしかった。
大人しく見てるとどうも、カゼッラ子爵令息を中心に繰り広げられる物語のようで、攻略対象……つまりはカゼッラ子爵令息と恋仲になる可能性のある人物は、すでに攻略済みらしいこの国の王太子でもあるレオンハルト・エネセ・ヴァーンハー第一王子殿下とあと四人。
僕たちと同学年のケルネールス・ベラスコ伯爵令息。将来は騎士団入りが決まっていて、学園内でのレオンハルトさまの護衛であり良き友人。
二人目は、現宰相のご子息であるイヴェリン・セング様。彼は一学年上に在籍していて、レオンハルト様が即位された暁には宰相への就任が決まっている。
三人目は、ジョゼッフォ・マシア・ヴァーンハー様。レオンハルト様の弟君で、この国の第二王子殿下。殿下呼びが気に入らないらしく、彼に会って早々に『殿下はやめろ』って言われた時は驚いた。年は僕たちの二つ下だけど、年上を年上とも思わない態度はさすが王子様だと思う。身分的には僕の方がもちろん下なので、その対応で合ってるんだろう。
ただ、初対面時の可愛い顔からは想像もつかない愛想のなさにびっくりした憶えがある。
そして四人目。驚くべきことに、僕の兄様も攻略対象だった。
僕の兄様、デノラ・ハリスン。ハリスン公爵家の嫡男。僕とは三歳違いで、今は6学年制のこの学園の5学年に籍を置いている。
6学年制と言っても、校舎が中等部と高等部に分かれているため合同授業以外で会うことは滅多にないはずなんだけど……。なにが心配なのか、わりとしょっちゅう僕のクラスに来ては声をかけてくださる。マメな兄様だ。
そして、僕。エーベル・ハリスン。パージュを虐める悪役令息。
強制的に見せられた物語の中で、パージュに嫉妬して嫌がらせのかぎりを尽くし、攻略対象から疎まれ嫌われ、最後に断罪される。
受ける罰はパージュが辿ったルートと呼ばれるものに左右されるらしく、パージュと結ばれるそれぞれの攻略対象者ごとに異なっていた。
内容は、よくて国外追放。悪くて処刑。しかもそのどれもにレオンハルト様との婚約破棄がついてきた。
中でも一番心を抉られたのが、パージュが兄様と恋仲になるルート。
兄様ルートの断罪に関しては、特に記憶があやふやだ。それでも、確かに僕は兄様の手によって殺されていた。
だからこそ、普段優しい兄様が自分を……。って、夢から醒めても絶望感に苛まれてた僕は、まわりが心配して慌てている様子を傍目に泣きじゃくってた。
当時、夢だと思っていてもそのあまりのリアルさにパニックになり、兄様が近づいてくるたびに怖くてしかたなかった。半狂乱になって泣き喚き『僕に酷いことしないでっ!!』って叫んでは家族を、……特に兄様を困らせていた。
理由を知らない兄様は、それでも辛抱強く僕に接し、大丈夫大丈夫と言い聞かせるように宥めてくれた。
それからだ。兄様の過保護に拍車がかかり始めたのは。
なにをするにもそばにいて、手を繋いで、何度も『怖くない?』って顔色を窺うように尋ねてくれて。
そうやって徐々に恐怖心を取り除いてもらった僕は、今じゃ立派なブラコンに成長していた。
正直言って、レオンハルト様よりも兄様の方がずっと好き。
悪夢を見ていた三日間よりも兄様を怖がって泣き叫んでいた期間の方が長かったからか、例のBLゲーム?とかいうヤツの内容はほぼ記憶に残っていなかった。憶えていたのは、それぞれの登場人物と僕が断罪されて婚約破棄されるってことだけ。
でもきっと、あれはただの夢じゃない。将来起こる現実だ。そんな確信に近い予感がしていた。
そのせいか、僕に迷いはなかった。
悪夢の後遺症が薄れて普通の生活を送れるようになった頃、父様に第一王子殿下との婚約をお断りできないかってお願いに行くことにした。
父様は不思議そうな顔をして首を傾げるばかりで。
それはまあ、当然なんだけど。今まで乗り気だった我が子が突然、手のひらを返したようにゴネ出したんだから。
だから表向きは『僕なんかには荷が重い』で通したものの、王室からの返事は毎回同じで僕以上に最適な相手はいない。で、一貫して変わりなかった。
二度ほど断りを入れ、流石にこれ以上は不敬だから。って父様に説得されて仕方なく頷いた時は、逃げきれなかったショックで涙が出てきた。
静かに涙を流す僕の姿に罪悪感を覚えたのか、父様が『幼少期に結ばれた婚約は白紙撤回されることがよくある』って慰めてくれたけど……。
ジタバタする間もなく婚約が正式に結ばれ、そうなると今さら子供がどう足掻こうが覆せるようなものではなく。
そして、白紙撤回されることもなく6年の月日が流れていた。
その婚約者といえば、今。
真昼間、しかも衆人環視の中で堂々と浮気してやがる。
しかも、相手は学年成績万年下位層をウロウロしてる子爵令息。
顔が可愛いのは認める。そりゃもう、一目見た時は妖精かなんかかと思ったもん、僕だって。
小動物のようなクリクリした鳶色の瞳は好奇心を湛えて輝いていたし、眼と同系色のフワフワした癖っ毛を風に躍らせ微笑む様は天使のような愛らしさだった。
小柄な彼の細っこい体付きは思わず守りたくなるような儚さがあったし、目の大きさに反比例して小振りにまとまった小さな顔は、赤く色付いたちょっと尖り気味の唇によって妖艶ささえ醸し出す。一言で表すなら、絶世の美少年ってヤツだと思う。まわりに侍らしている男の数からして、場合によっては『傾国の』がつくかもしれないくらいの。
そしてその人懐っこい性格からか、周囲の人気も高い。ただ、なぜかその性格は僕に対してだけ発揮されないらしい。むしろ、嫌われてるのが手に取るようにわかる。
それはそうだ、今パージュがくっついて人目も憚らずイチャイチャしまくっている第一王子の婚約者が僕なわけで。
存在自体が鬱陶しくも思えるんだろう。それはいい。別に、そこは好きにしてくれていいからとしか思えないので、本当にどうでもいい。だけど、これだけはどうしても譲歩できないってのがあるわけで。
本当に容姿は文句なしなんだけどね。王太子妃となるには身分だけじゃなく頭も足りなかった。なにより、不足しまくっている知力を補おうとする気配すらない。
レオンハルト様には再三忠告しているものの、僕の話なんか最初から聞く気もないのか『パージュの良さは純粋さなんだ』とか、うっとりしたツラで寝ぼけたこと言い出す始末で。
……まあ、そんなこんなで。多少おバカな王と王妃でも、今の状態ならば国が滅びるなんてことは滅多に起きないだろう。と、そのあとは僕も諦めて静観を決め込んでる。困ったことがあったとしても、側近のうちの誰かがきっとなんとかしてくれるだろうし。
なんて。パージュと同じく僕を嫌ってるらしい、レオンハルト様の周囲を固める側近候補の令息たちの顔を思い浮かべ、そっちに丸投げする気満々のまま、とりあえずは空腹を満たすため食堂に向かった。
目立った戦乱もなく、国内は至って平和だ。今代の国王陛下と妃殿下は特に外交術に長けていて、近隣諸国との関係性も先代先先代の王が統治していた時代と比べるとかなり穏やかで友好的と聞く。
僕の父様が治めるラウラサウフ・ハリスン領も例に洩れず、治安も良ければそこに住む人たちの性質も良い。
なんたってハリスン公爵家の次期当主である兄様とその弟の僕が、護衛もつけずに丸一日街を見て回れるくらいなのだから。
もちろんそのあと邸を抜け出したことがバレてこっぴどく怒られたし、僕たちがいないとわかってから邸周辺が騒然となったらしいけど。
隣り合う領地や、父様とお付き合いのある遠方の地の話を耳にするにつけ、本当にのんびりした空気が流れる時代に生まれてきたんだなって実感する。書物で見た戦乱の歴史とか、想像もつかない夢物語のようにも感じた。
今はどの国も和平協定を結んでいるし、国内にも大した不満は溜まってない。つまり、ある程度無能でもまわりを固める補佐役さえしっかりしていれば難なく一国の王になれるってことで。
本当にご利益があるのかは一旦置くとして、この学園の生徒から『恋人の泉』との名称で呼ばれている噴水脇に寄り添って座っている二人に目をやる。
一人はこの国の王太子である第一王子殿下。で、その方にもたれ掛かるようにして身体を密着させているのは今年になってから編入してきた子爵家の令息。
冷めた目でその二人を眺めている僕の耳にコソコソと何事かを囁き合う大勢の声が聞こえてきていた。
大体が、僕に対する悪口。……のはず。
噂が出回り始めた当時ならともかく、今はもう陰口を言われるのにも慣れすぎてなんとも思わなくなってきた。だって、そもそもが事実無根な噂でしかないから。
いつまでも二人の世界から抜け出せないように見えるこの国の王子とその寵愛を一身に受ける恋人?……になるのか?から視線を外そうとした瞬間。ふと顔を上げた第一王子殿下と目が合った。
険しく眉根を寄せた物言いたげな表情でジッと見つめられ、無視するのもなんなので目礼だけして踵を返す。
邪魔だからさっさとどこかに行け、とでも言いたかったのかもしれない。
邪魔する気もないんですけどね……。
あの方に睨まれるのにも慣れてしまった自分が嫌で小さくため息を吐く。
どうやら僕は、悪役令息というものらしい。
それに気づいたのは、たしか十歳の頃。
兄様と剣術の稽古をしていた時に足を滑らせ、頭を打って昏倒し、三日間眠り続けていた際に見た……夢というにはあまりにもリアルなソレのせいだった。
今まで耳にしたことのないような調べが流れる中、四角い板の中に現れた異国の文字。なぜか読めてしまったことに困惑した。
夢で記憶を辿るように次々と目の前に現れる絵のような場面。
その中に、一度だけ父様に連れられて見学した覚えのあるナーガリヤ王立学園が映し出され、そこに入学してから始まるBLゲーム?なるものを、客席から観る舞台のような感覚で見せられ続けていた。
その時に映し出された主人公は、さっきレオンハルト第一王子殿下と寄り添い座っていた子爵家の令息であるパージュ・カゼッラ。彼が学園に編入してきた時から始まる『なにか』らしかった。
大人しく見てるとどうも、カゼッラ子爵令息を中心に繰り広げられる物語のようで、攻略対象……つまりはカゼッラ子爵令息と恋仲になる可能性のある人物は、すでに攻略済みらしいこの国の王太子でもあるレオンハルト・エネセ・ヴァーンハー第一王子殿下とあと四人。
僕たちと同学年のケルネールス・ベラスコ伯爵令息。将来は騎士団入りが決まっていて、学園内でのレオンハルトさまの護衛であり良き友人。
二人目は、現宰相のご子息であるイヴェリン・セング様。彼は一学年上に在籍していて、レオンハルト様が即位された暁には宰相への就任が決まっている。
三人目は、ジョゼッフォ・マシア・ヴァーンハー様。レオンハルト様の弟君で、この国の第二王子殿下。殿下呼びが気に入らないらしく、彼に会って早々に『殿下はやめろ』って言われた時は驚いた。年は僕たちの二つ下だけど、年上を年上とも思わない態度はさすが王子様だと思う。身分的には僕の方がもちろん下なので、その対応で合ってるんだろう。
ただ、初対面時の可愛い顔からは想像もつかない愛想のなさにびっくりした憶えがある。
そして四人目。驚くべきことに、僕の兄様も攻略対象だった。
僕の兄様、デノラ・ハリスン。ハリスン公爵家の嫡男。僕とは三歳違いで、今は6学年制のこの学園の5学年に籍を置いている。
6学年制と言っても、校舎が中等部と高等部に分かれているため合同授業以外で会うことは滅多にないはずなんだけど……。なにが心配なのか、わりとしょっちゅう僕のクラスに来ては声をかけてくださる。マメな兄様だ。
そして、僕。エーベル・ハリスン。パージュを虐める悪役令息。
強制的に見せられた物語の中で、パージュに嫉妬して嫌がらせのかぎりを尽くし、攻略対象から疎まれ嫌われ、最後に断罪される。
受ける罰はパージュが辿ったルートと呼ばれるものに左右されるらしく、パージュと結ばれるそれぞれの攻略対象者ごとに異なっていた。
内容は、よくて国外追放。悪くて処刑。しかもそのどれもにレオンハルト様との婚約破棄がついてきた。
中でも一番心を抉られたのが、パージュが兄様と恋仲になるルート。
兄様ルートの断罪に関しては、特に記憶があやふやだ。それでも、確かに僕は兄様の手によって殺されていた。
だからこそ、普段優しい兄様が自分を……。って、夢から醒めても絶望感に苛まれてた僕は、まわりが心配して慌てている様子を傍目に泣きじゃくってた。
当時、夢だと思っていてもそのあまりのリアルさにパニックになり、兄様が近づいてくるたびに怖くてしかたなかった。半狂乱になって泣き喚き『僕に酷いことしないでっ!!』って叫んでは家族を、……特に兄様を困らせていた。
理由を知らない兄様は、それでも辛抱強く僕に接し、大丈夫大丈夫と言い聞かせるように宥めてくれた。
それからだ。兄様の過保護に拍車がかかり始めたのは。
なにをするにもそばにいて、手を繋いで、何度も『怖くない?』って顔色を窺うように尋ねてくれて。
そうやって徐々に恐怖心を取り除いてもらった僕は、今じゃ立派なブラコンに成長していた。
正直言って、レオンハルト様よりも兄様の方がずっと好き。
悪夢を見ていた三日間よりも兄様を怖がって泣き叫んでいた期間の方が長かったからか、例のBLゲーム?とかいうヤツの内容はほぼ記憶に残っていなかった。憶えていたのは、それぞれの登場人物と僕が断罪されて婚約破棄されるってことだけ。
でもきっと、あれはただの夢じゃない。将来起こる現実だ。そんな確信に近い予感がしていた。
そのせいか、僕に迷いはなかった。
悪夢の後遺症が薄れて普通の生活を送れるようになった頃、父様に第一王子殿下との婚約をお断りできないかってお願いに行くことにした。
父様は不思議そうな顔をして首を傾げるばかりで。
それはまあ、当然なんだけど。今まで乗り気だった我が子が突然、手のひらを返したようにゴネ出したんだから。
だから表向きは『僕なんかには荷が重い』で通したものの、王室からの返事は毎回同じで僕以上に最適な相手はいない。で、一貫して変わりなかった。
二度ほど断りを入れ、流石にこれ以上は不敬だから。って父様に説得されて仕方なく頷いた時は、逃げきれなかったショックで涙が出てきた。
静かに涙を流す僕の姿に罪悪感を覚えたのか、父様が『幼少期に結ばれた婚約は白紙撤回されることがよくある』って慰めてくれたけど……。
ジタバタする間もなく婚約が正式に結ばれ、そうなると今さら子供がどう足掻こうが覆せるようなものではなく。
そして、白紙撤回されることもなく6年の月日が流れていた。
その婚約者といえば、今。
真昼間、しかも衆人環視の中で堂々と浮気してやがる。
しかも、相手は学年成績万年下位層をウロウロしてる子爵令息。
顔が可愛いのは認める。そりゃもう、一目見た時は妖精かなんかかと思ったもん、僕だって。
小動物のようなクリクリした鳶色の瞳は好奇心を湛えて輝いていたし、眼と同系色のフワフワした癖っ毛を風に躍らせ微笑む様は天使のような愛らしさだった。
小柄な彼の細っこい体付きは思わず守りたくなるような儚さがあったし、目の大きさに反比例して小振りにまとまった小さな顔は、赤く色付いたちょっと尖り気味の唇によって妖艶ささえ醸し出す。一言で表すなら、絶世の美少年ってヤツだと思う。まわりに侍らしている男の数からして、場合によっては『傾国の』がつくかもしれないくらいの。
そしてその人懐っこい性格からか、周囲の人気も高い。ただ、なぜかその性格は僕に対してだけ発揮されないらしい。むしろ、嫌われてるのが手に取るようにわかる。
それはそうだ、今パージュがくっついて人目も憚らずイチャイチャしまくっている第一王子の婚約者が僕なわけで。
存在自体が鬱陶しくも思えるんだろう。それはいい。別に、そこは好きにしてくれていいからとしか思えないので、本当にどうでもいい。だけど、これだけはどうしても譲歩できないってのがあるわけで。
本当に容姿は文句なしなんだけどね。王太子妃となるには身分だけじゃなく頭も足りなかった。なにより、不足しまくっている知力を補おうとする気配すらない。
レオンハルト様には再三忠告しているものの、僕の話なんか最初から聞く気もないのか『パージュの良さは純粋さなんだ』とか、うっとりしたツラで寝ぼけたこと言い出す始末で。
……まあ、そんなこんなで。多少おバカな王と王妃でも、今の状態ならば国が滅びるなんてことは滅多に起きないだろう。と、そのあとは僕も諦めて静観を決め込んでる。困ったことがあったとしても、側近のうちの誰かがきっとなんとかしてくれるだろうし。
なんて。パージュと同じく僕を嫌ってるらしい、レオンハルト様の周囲を固める側近候補の令息たちの顔を思い浮かべ、そっちに丸投げする気満々のまま、とりあえずは空腹を満たすため食堂に向かった。
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