13 / 23
第一章
12 色のついた目標
しおりを挟む
「師匠お伝えしたいことがあります」
そう告げると師匠は首を傾げ僕を見た。
「なんだ?」
「申し訳ございませんでした」
僕が師匠に向かい深く頭を下げた。謝罪というものは少し緊張する。でもこの謝罪は受け入れてくれという思いでなく、僕の甘い考えを正したくての謝罪だ。
「……え」
「僕はこれまで本気で鍛錬しました。ですが、本気の重さが足りませんでした。師匠の言う通り僕には目標がありません。なので今ここに決意を固めます」
「…………うん」
決意とは……意思をはっきり定めること。
気合いを入れる。そして決意を守り抜くことを誓う為に、僕は精一杯息を吸って、でかい声をだす準備をした。
「僕の家族、師匠、そしてこれからできる仲間たち、僕と関わった大切な人たち全員を守る為に、僕は――強くなります!」
……「強くなります!」が予想以上に響いて、僕は顔を赤らめた。
前世からずっと不透明だった僕の生きるための目標は、師匠と出会い――初めて色が付いた。大切なものは自分で守れるようになりたい。
(そしてこの体は僕だけのものではない『本当のエーデル』のためにも、僕自身を守ると約束する)
「ですので、これからもよろしくお願いしましゅ!」
(また大事なところで噛んだ)
「プハッ」
師匠は笑った。
――師匠の笑った顔は初めて見た。それにやっぱり違和感の正体が……いや、正しくは確信が持てた。
「し、師匠?」
「あーあ、本当面白いね君。やっぱり来てよかった。会えて良かったよエーデル」
「僕も良かったです……あの、一つ聞いてもいいですか?」
「ん?なんだ?」
「何故、男性のフリをしているんですか?」
師匠はハッとした顔をし、驚いているのかと思いきや少し悩む素振りをし目を細めて僕を見た。
――聞いてはいけなかっただろうか?
昔から気になると確認しないと気が済まない性だった。それが悪い結果をもたらす事もあった。またやってしまったのか……
「たまげたな。自分から打ち明けることはあるが、気づかれるのは初めてだよ。別に隠している訳ではない、ただ昔嫌なことがあってね、男のフリをしている方が楽なんだ」
「……それは剣術と何か関係が?」
あまり深くは聞かない方がいい気がした。何故かと言うと師匠が悲しそうな顔をしたからだ。
「意外と鋭いな、大ありだよ。でもわかるだろ?私は背も高く、声も低い、顔つきも男らしいからバレることはなかったんだけどな――いつわかった?」
「初めて会った時です。僕は昔嫌な思い出があって、人間観察するようになって、恥ずかしながらそれが特技というか……師匠に見た時表情の作り方や所作に違和感を少し覚えました。それともしかしたら僕らとは違う高貴なお方なのかなって。声の出し方や、ものを持つ時の手つきが丁寧だったので……ですが、確信したのは先程師匠が笑った時……可愛かった……ので……」
彼女は更に驚いた顔をした。
(言ってしまった! つい流れで! 男のフリしている人に可愛いなんて失礼だったか……)
「ハハハッ。可愛いなんて初めて言われたよ」
「嘘だ! 師匠は可愛いです……というか綺麗です……」
僕の顔は今どうなっているだろう。頬を赤らめて採れたての林檎のようになっているのではないだろうか……
師匠の頬も少し赤い……なんなんだこの空気は……
「……ありがとう」
「……いえ」
お互いに目を合わせられない……時間だけが流れていく。
(本当になんなんだこの空気!)
「まあ、とにかく。エーデルに目標ができて良かったよ。それに何か重たいものを抱えているのかもしれないが、お前はこの世界の不純物なんかじゃない、悪魔でもない。自信を持っていい」
安堵した。
誰でもいいからこの言葉を言って欲しかったんだ。僕はここにいてもいい、ここで必要だと。異世界に来て家族はできたけど心の奥底は孤独だ。
僕は不純物ではないと誰かが言ってくれるのを待っていたのかもしれない。
「お前は間違いなく私達の英雄になるだろう」
今日の鍛錬はこれで終わりだ。
明日からも私と木刀を交えるだろう。
「はい、師匠」
「アレクでいい」
「でも……わかりました。アレクは何歳ですか?」
「十五だが」
「え!? 十五!? 僕と二歳しか変わらないじゃないですか。何でそんなに強いんですか? というか僕より強いですよね? てことはこの国は強い人が沢山いるってことですか? 僕の父さんが弱すぎたんですかね?」
確かにアレクは強かった。僕の八十パーセントの神力を余裕で受け止めていた。
転生者……ではないだろう。どこか周りと違う空気や余裕がある人だとは思ってはいたが……
「そう言ってやるな。私やお前みたいに強い人は稀だ。たまたま私達が出会っただけで、普通ならそんなに多くの神力は貰えない」
「なるほど……じゃあ僕はやっぱり人より強いんですね。気をつけないと」
「そうだな。でもお前全力で掛かって来なかっただろう?明日は全力で来い」
「わかりました! アレクなら安心して戦えます! それにアレクが言う通りトレーニングしてたおかげで、立ち回りもできました。教えてくれてありがとうございます」
いつかアレクより強くなって、アレクのことも守れるようになろう。僕に剣術を教えてくれた、僕に欲しい言葉をくれた、僕が英雄になると言ってくれた、この優しい彼女を守れるように。
――実践という鍛錬を始めてから二週間が経過した。
僕とアレクは今日も木刀を交えている。
木刀同士ぶつかる音は段々と心地のいいものに感じてきた。
そしてこの剣の交じり合いは、心を通わせるということがわかった。僕達は互いのことをよく話すようになった。恥ずかしいので口には出さないが、この関係は友達なのだろう。
僕にとって初めての友達――アレク・ブルータルだ。
今日も庭でカッカッとと言う音が響く。空は相変わらずの快晴で、蒸し暑い日が続いていた。汗で木刀を握る手が滑る。
突然アレクが手を止めた。
――休憩かな?
「エーデル。お前友達はいるか?」
……え?
突然どうした?何故そんなに心が痛む質問をするんだ?
「いや……アレクだけ……」
照れながら言う――多分顔は林檎ように赤いだろう。
そしてアレクも林檎のような顔をして僕から目を逸らした。これは照れているのだろう。
この空気を映像化するならば僕達の周りにポワポワしている花が舞っているだろう。
「ゴホンッ、エ、エーデル。明日街に行くぞ」
…………街?
そう告げると師匠は首を傾げ僕を見た。
「なんだ?」
「申し訳ございませんでした」
僕が師匠に向かい深く頭を下げた。謝罪というものは少し緊張する。でもこの謝罪は受け入れてくれという思いでなく、僕の甘い考えを正したくての謝罪だ。
「……え」
「僕はこれまで本気で鍛錬しました。ですが、本気の重さが足りませんでした。師匠の言う通り僕には目標がありません。なので今ここに決意を固めます」
「…………うん」
決意とは……意思をはっきり定めること。
気合いを入れる。そして決意を守り抜くことを誓う為に、僕は精一杯息を吸って、でかい声をだす準備をした。
「僕の家族、師匠、そしてこれからできる仲間たち、僕と関わった大切な人たち全員を守る為に、僕は――強くなります!」
……「強くなります!」が予想以上に響いて、僕は顔を赤らめた。
前世からずっと不透明だった僕の生きるための目標は、師匠と出会い――初めて色が付いた。大切なものは自分で守れるようになりたい。
(そしてこの体は僕だけのものではない『本当のエーデル』のためにも、僕自身を守ると約束する)
「ですので、これからもよろしくお願いしましゅ!」
(また大事なところで噛んだ)
「プハッ」
師匠は笑った。
――師匠の笑った顔は初めて見た。それにやっぱり違和感の正体が……いや、正しくは確信が持てた。
「し、師匠?」
「あーあ、本当面白いね君。やっぱり来てよかった。会えて良かったよエーデル」
「僕も良かったです……あの、一つ聞いてもいいですか?」
「ん?なんだ?」
「何故、男性のフリをしているんですか?」
師匠はハッとした顔をし、驚いているのかと思いきや少し悩む素振りをし目を細めて僕を見た。
――聞いてはいけなかっただろうか?
昔から気になると確認しないと気が済まない性だった。それが悪い結果をもたらす事もあった。またやってしまったのか……
「たまげたな。自分から打ち明けることはあるが、気づかれるのは初めてだよ。別に隠している訳ではない、ただ昔嫌なことがあってね、男のフリをしている方が楽なんだ」
「……それは剣術と何か関係が?」
あまり深くは聞かない方がいい気がした。何故かと言うと師匠が悲しそうな顔をしたからだ。
「意外と鋭いな、大ありだよ。でもわかるだろ?私は背も高く、声も低い、顔つきも男らしいからバレることはなかったんだけどな――いつわかった?」
「初めて会った時です。僕は昔嫌な思い出があって、人間観察するようになって、恥ずかしながらそれが特技というか……師匠に見た時表情の作り方や所作に違和感を少し覚えました。それともしかしたら僕らとは違う高貴なお方なのかなって。声の出し方や、ものを持つ時の手つきが丁寧だったので……ですが、確信したのは先程師匠が笑った時……可愛かった……ので……」
彼女は更に驚いた顔をした。
(言ってしまった! つい流れで! 男のフリしている人に可愛いなんて失礼だったか……)
「ハハハッ。可愛いなんて初めて言われたよ」
「嘘だ! 師匠は可愛いです……というか綺麗です……」
僕の顔は今どうなっているだろう。頬を赤らめて採れたての林檎のようになっているのではないだろうか……
師匠の頬も少し赤い……なんなんだこの空気は……
「……ありがとう」
「……いえ」
お互いに目を合わせられない……時間だけが流れていく。
(本当になんなんだこの空気!)
「まあ、とにかく。エーデルに目標ができて良かったよ。それに何か重たいものを抱えているのかもしれないが、お前はこの世界の不純物なんかじゃない、悪魔でもない。自信を持っていい」
安堵した。
誰でもいいからこの言葉を言って欲しかったんだ。僕はここにいてもいい、ここで必要だと。異世界に来て家族はできたけど心の奥底は孤独だ。
僕は不純物ではないと誰かが言ってくれるのを待っていたのかもしれない。
「お前は間違いなく私達の英雄になるだろう」
今日の鍛錬はこれで終わりだ。
明日からも私と木刀を交えるだろう。
「はい、師匠」
「アレクでいい」
「でも……わかりました。アレクは何歳ですか?」
「十五だが」
「え!? 十五!? 僕と二歳しか変わらないじゃないですか。何でそんなに強いんですか? というか僕より強いですよね? てことはこの国は強い人が沢山いるってことですか? 僕の父さんが弱すぎたんですかね?」
確かにアレクは強かった。僕の八十パーセントの神力を余裕で受け止めていた。
転生者……ではないだろう。どこか周りと違う空気や余裕がある人だとは思ってはいたが……
「そう言ってやるな。私やお前みたいに強い人は稀だ。たまたま私達が出会っただけで、普通ならそんなに多くの神力は貰えない」
「なるほど……じゃあ僕はやっぱり人より強いんですね。気をつけないと」
「そうだな。でもお前全力で掛かって来なかっただろう?明日は全力で来い」
「わかりました! アレクなら安心して戦えます! それにアレクが言う通りトレーニングしてたおかげで、立ち回りもできました。教えてくれてありがとうございます」
いつかアレクより強くなって、アレクのことも守れるようになろう。僕に剣術を教えてくれた、僕に欲しい言葉をくれた、僕が英雄になると言ってくれた、この優しい彼女を守れるように。
――実践という鍛錬を始めてから二週間が経過した。
僕とアレクは今日も木刀を交えている。
木刀同士ぶつかる音は段々と心地のいいものに感じてきた。
そしてこの剣の交じり合いは、心を通わせるということがわかった。僕達は互いのことをよく話すようになった。恥ずかしいので口には出さないが、この関係は友達なのだろう。
僕にとって初めての友達――アレク・ブルータルだ。
今日も庭でカッカッとと言う音が響く。空は相変わらずの快晴で、蒸し暑い日が続いていた。汗で木刀を握る手が滑る。
突然アレクが手を止めた。
――休憩かな?
「エーデル。お前友達はいるか?」
……え?
突然どうした?何故そんなに心が痛む質問をするんだ?
「いや……アレクだけ……」
照れながら言う――多分顔は林檎ように赤いだろう。
そしてアレクも林檎のような顔をして僕から目を逸らした。これは照れているのだろう。
この空気を映像化するならば僕達の周りにポワポワしている花が舞っているだろう。
「ゴホンッ、エ、エーデル。明日街に行くぞ」
…………街?
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
神様のお楽しみ!
薫
ファンタジー
気がつくと星が輝く宇宙空間にいた。目の前には頭くらいの大きさだろうか、綺麗な星が一つ。
「君は神様の仲間入りをした。だから、この星を君に任せる」
これは、新米神様に転生した少年が創造した世界で神様として見守り、下界に降りて少年として冒険したりする物語。
第一章 神編は、三十三話あります!
第二章 婚約破棄編は、二十話しかありません!(6/18(土)投稿)
第三章 転生編は、三十三話です!(6/28(火)投稿)
第四章 水の楽園編(8/1(月)投稿)
全六章にしようと思っているので、まだまだ先は長いです!
更新は、夜の六時過ぎを目安にしています!
第一章の冒険者活動、学園、飲食店の詳細を書いてないのは、単純に書き忘れと文章力のなさです。書き終えて「あっ」ってなりました。第二章の話数が少ないのも大体同じ理由です。
今書いている第四章は、なるべく細かく書いているつもりです。
ストック切れでしばらくの間、お休みします。第五章が書き終え次第投稿を再開します。
よろしくお願いしますm(_ _)m
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる