不倫相手は妻の弟

すりこぎ

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寝室

正常位③

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 時計の秒針を刻む音が深夜の静寂を際立たせていた。
 目を瞑った小百合は穏やかな顔つきで寝息を立てている。時折むにゃむにゃと唇を動かし、不明瞭な言葉を発した。

 修一は安堵の深い息を吐く。緊張で強張った肩から一気に力が抜けた。今度こそ万事休すかと思われたが、最悪の事態は免れたようだ。
 しかし清らかな小百合の寝顔を見ていれば、今更ながら良心の呵責を覚えた。せめて彼女の平穏な眠りを脅かすことのないよう改めて気を張り直す。犯した罪は消せないが、秘密を貫き通せば彼女の心は守られる。
 修一は小百合の様子を用心深く窺いながら、じりじりと腰を引いて千紘との結合を解いていく。

「――ぅわっ!?」

 いきなり腰を引き寄せられ、不意をつかれた修一の口から頓狂な声が飛び出した。
 胴に巻き付く千紘の足によって、抜けかけたペニスは再び内奥に連れ戻されてしまう。温かくぬめった肉壁が決して逃さないとばかりに修一をきつく抱擁する。
 
「うっ……!」
「抜いちゃだめ」
「ちぃちゃん……!」

 千紘は両足に一層力を込めて修一の腰をぎゅうっと挟み込み、尚も自分の方へ引き寄せた。ぬちゃ、ずりゅりゅりゅ……ぐちゅん――ぷっくりとした会陰に恥骨が密着し、修一の形を覚え込んだ蜜壺が根元まで深々と肉棒を咥え込む。

「も、もう、やめよ……ちぃちゃんも疲れてるでしょ。ごめんね、無理させちゃって」
「全然疲れてない。まだまだ余裕だよ」
「でも……」
「修ちゃん、イってないじゃん。こんなカチカチのままで、やめられるの?」
「お、俺のことは気にしないでいいよ。さすがに今日はやり過ぎだって。小百合も起きちゃうかもしれないし、もう、このへんで……」
「なんでそんなこと言うの?」

 珍しく語気を強める千紘に修一はたじろいだ。感情的な視線に射抜かれ、胸がズキンと動悸を打つ。

「俺の中、よくない? やっぱり……おねえちゃんの方がいいの?」
「え……?」

 千紘の瞳にみるみる涙の膜が張った。快楽で流れるものとは違う種類の涙だった。潤んだ眼差しで修一をひしと見つめ、懸命に腰を使って咥えたペニスを悦ばせようとする。ぬめる内壁で擦り立て、括約筋で絞り上げて再び熱を引き出そうと躍起になった。

「……んっ、あっ、ぁっ……ほらぁ、きもちぃでしょ……? おねえちゃんより、いいでしょ……? ねえ、はっきり言ってよ……おねえちゃんより、俺の方がいいって……」
「あっ、ちょっと……急に、どうしたの……?」

 切迫した声音で小百合を引き合いに出され、修一は当惑に身を固くする。
 千紘の動きは幾らも経たないうちに震えを帯びて弱々しくなっていき、辛うじて修一の体にしがみつくだけになった。

「……やっぱり、おねえちゃんがいいんだ? 結婚するくらい、好きなんだもんね……愛し合ってるんだもんね……?」

 千紘の顔がぐにゃりと歪む。次の瞬間には声をあげて泣き出してしまいそうな危うさを孕んでいた。

「皆から祝福されて、おんなじ指輪つけて、一緒に暮らして、幸せそうに笑い合って、ここでセックスして……この先ふたりは一生夫婦で、俺は義理の弟として付き合っていかなくちゃならないなんて……考えるだけで、吐き気がする……辛くて、苦しくて、胸が張り裂けそうになる……こんなの、残酷すぎるよ……相手が全然知らない人だったら、諦められたかもしれないのに……なんで? なんでおねえちゃんなの? 俺じゃないの? 俺じゃだめ? 俺が、男だから……?」

 堰を切ったように溢れ出す激しい恋慕に、修一は息を呑む。
 いつも飄々と修一を振り回す千紘の、切羽詰まったその表情。触れれば火傷してしまいそうなほどの焼け付く嫉妬心。全身から訴えかけてくる、修一が好きで好きでたまらないという感情が激流のごとく心に流れ込んでくる。

 交錯する思いが胸を圧迫し、修一はうまく言葉を紡ぐことができなかった。何か言わなくてはと焦りばかりが募り、頭に浮かんだ言葉をどれだけこねくり回しても相応しいと思うものが見つからない。
 考えが纏まらぬまま震える息を吸い込んだ。

「……男とか女とか、そういうのは関係ないよ」
「なら、どうして……?」
「……小百合よりも先に、ちぃちゃんと再会していたら……きっと……」

 すがるような千紘の眼に胸が締め付けられる。星を浮かべたような水晶体の揺らぎに魅入られ、息苦しさすら覚えた。愛しさがこんこんと溢れ、目の前の存在をぎゅっと抱きしめたいと思う。

 修一は千紘の体に覆いかぶさり、その頭を抱き込んでぴったりと肌を重ね合わせた。触れ合った箇所から相手のぬくもりと鼓動が伝わり、幸福感がじんわりと全身に沁み渡っていく。
 渦巻く思考が収束していき、おのずと沸き出すこの気持ちが己の本心なのだと気が付いた。

 密着が深まったことでペニスの挿入も深度を増した。亀頭の先が最奥の性感帯を撫で、千紘の体が歓喜に打ち震える。
 修一は朱く染まったその耳元に唇を寄せ、囁いた。

「……ちぃちゃんの方が好きだよ」
「……本当に?」
「そうじゃなかったら、こんなことしない」
「信じて、いいの……?」
「うん……ちぃちゃんが一番だよ……」

 瞬きをした千紘の目から涙の粒が零れ落ちる。修一の背中を抱く手に力が込められ、二つが一つになるように、二人の体は隙間なく絡まり合った。

 切なく疼く情動のままに、愛を深め合う。
 修一が腰を送り出すのに合わせ、しがみつく千紘の手足にも力が込められた。ぴったり息の合った共同作業でピストンの圧と勢いは倍増し、互いの快楽をより鮮明に引き出させる。
 体の芯まで痺れるような喜悦が二人の熱を更に高めていく。

「あぁっ、んっ、ぁっ、ぅん、うっ、ンン……ッ♡」
「はっ、はっ、くっ、ふっ、はぁっ、はぁ……っ」

 ぐぢゅっ、ばちゅっ、ぢゅぶっ、ぐぷっ、どちゅ、ごぽっ、ぬぷっ――激しく擦れあう接合部から潤沢な汁音と肌のぶつかり合う衝突音が鳴り響き、室内はむせ返るほどに濃い淫臭が立ち込めていた。
 ギシギシギシギシとベッドが喧しく軋みをあげ、壊れんばかりに振動する。何も知らず、すやすや眠りについている小百合にまで揺れが伝わっていく。
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