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最終章 大団円へ

第15話 長屋の落日

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 現場の作業は急ピッチで進んでいた。

テントの屋根素材、強度の心配もあって鉄製の単管を地面に何本も刺して、ぐるりと囲み支えにして直接地面に置く形でプールが作られていきました。

 消火栓から長くホースが繋がれ水を入れてアレックスと謙の祈りが捧げられ天御中主神様の力により水道水が聖水に変えられていく・・・
「父と子の精霊・・・」

さて
 榊原の10人、正確に言えば5人と5守護霊だ。
長屋に着くと、やけに静かだった。

目隠しをしたままの、なみ彦こと城一郎から指示が出る。
「おい一軒一軒、人がいないか確認して居たら向こうの食堂プレハブに避難させるんだ」
「はい!」久々の出番で刀鍛冶衆の4人には気合が入っていた。

刀鍛冶衆4人の名は練彗れんすい叩彗たたすい八鬼彗やきすい研彗けんすいという。

彼らは刀鍛冶ではあるものの、いずれも修練を積んだ4人で
榊村の武闘派と呼ばれる4人でもあった。

 現在、榊原一族の守護霊として活躍している赤鬼たち4人は、元は城一郎が祟の現場で出会った百年かけて祟神たたりがみと化した人間の霊だった。

 榊原一族は神道のみならず僧籍を持つものも多く世界各国の宗教に関しても独特の理解・解釈を持つ一族だった。

 それには一族に伝わる秘伝の書「亜呍あうん」に、すべての理由が書かれており門外不出の教典であったが書かれていることは人類の誕生に関わることと地球と太陽系について詳しく書かれており、この教典が存在すること自体、部外者に知られることすらなかった。
 
 なぜなら、それは一族の者達さえ知っていれば良いことで
広く世間に知らせるなど無駄な事に思えるほど世界人類は腐っていた。

 、岐阜県、山中の国道工事現場で事故が頻発し始め、調査をしてみると山岸を削り出し道路を拡張する際にいわれも解らない地蔵尊を邪魔にならない場所にずらしてから、
不注意で工事車両に轢かれる作業員が出たりブルトーザーが突然動かなくなったり、
ユンボのキャタピラが外れてしまったり高熱を出して寝込む者も現れ、いよいよ何かとなった。

 国土交通省保安部・特務課に連絡が入り榊原城一郎が現地を調べた結果、
戦国時代に落ち延びた侍二人が助けを求め村にやってきたが
寝込みを襲われ無残な死に方をしており、村で二人による祟が起こったため地蔵尊を祭り、祠を建て村で神として祀ったものであるらしい事が解った。

 工事現場から離れたところに人工のものらしい、ため池があって、そこの隅にポツリと朽ち果てた祠があった。

大昔に大飢饉があり作物の豊作を願い、そして干ばつにも耐え池が崩れぬように人柱として生贄になった10代の女の子が二人も居たようで成仏できず彷徨う合計4人が暗闇の中で悶々としていた。

 池の祠の下からは女性の遺骸が2体、地蔵尊が、あった場所には掘ってみると男性の遺骸が2体出てきた。
 
 この時、大学を卒業したての保安部・新人として城一郎と供養祭の手配をしたのが現在の特務課本部長、菅原和茂その人だった。

 榊原一族、城一郎には超能力があり霊魂と会話をすることなど造作もないことだった。

「おまえ達、聞く耳はあるか?無いなら消滅だ。
成仏とも言うが輪廻りんねの道はないし懺悔も無い。
文字通りお前たち4人は消滅する、上を見てみろ神様の光が見えるだろう・・・」

 上空には神様の証である光の玉が浮かんでいる。

「なぜだ?無関係の人間にまでだからだ。
お前達、鬼のままで良いのか?その怨み辛み苦しみを仏様に聞いてもらい、なぜ自分が存在するのか、その魂の意義を知ることもなく消滅して良いのか?
信用していた村人達への怨み憎しみは良く理解できる。
俺と、俺もできる限り寄り添って、その苦しみに向き合おうじゃないか俺は敵じゃない、お前たちが、心待ちにしていた神の使いだ」

 4人は成仏、輪廻転生を願い修行を積み「善鬼ぜんき」に生まれ変わって榊原一族のアイドル守護霊となった。
赤鬼、青鬼、瀬津、艶。

そして現在

なみ彦こと、城一郎が云う。
「あのな、相手は、あのアパート中心に人々の命を奪ってきた悪魔の下僕たちだ油断は出来ない、作戦はシンプルだ。

 長屋の住人は悪魔に憑依されているようだ。
お前たち4人は体当たりを食らわし悪魔を住人の体から追い出して入れ替わりに住人にお前たちが憑依するんだ、
そして現場のプレハブまで走って逃げて、
ここの住人の肉体を置いたら、また戻って来い。

 その間に私と鍊彗たちでした悪魔を柴切しばぎり退治してくれる、わかったか?」

皆が頷き鍊彗が答えた。
「なるほど、わかりました・・・あれっ?城一郎様、あれは・・・・・」

刀鍛冶、鍊彗が指差す方を見てみると日本刀を片手に持った住人たちが長屋の玄関から、ぞろぞろと出てきた。

『ゆらりゆらり』と意識がなさげに歩き近づいてくる住人たち。

「ありゃ、これは・・・おい、みんな刀を置いて黙座しろっ!」

「えっ?」

「作戦は無しだ面倒は、お掛けしたくなかったが、あの様子では間に合わない。
神様にお願いする今すぐ黙座してくれ何があっても良いというまで目を開けるな守護霊のお前達もだぞ目がつぶれるからな」

「はいっ」

守護霊4人と刀鍛冶4人は、その場に、あぐら座りをして目を閉じた。

じわりじわりと悪魔に憑依された住人たちが鬼の形相で、こちらに向かってくる。

「イザ、ヤア」
城一郎は両手の指を組み合わせさかき流・神様召喚の呪文を唱え始めた。
『かみさま、いつもありがとうございます』

「へいぺいれい ふないなほい さーたるまん ぎーたるまん とうじんだんだんね わくぐーあくらーせつ りゅーごーしょーきーとう あっきゃーのんっ!かむい おーぺれ!」

頭上の空から
「カーン!」と鐘の音が聞こえたかと思うと
大きな金色の光の玉が北東から物凄いスピードで飛来してきた。

目を瞑ることを忘れた瀬津と艶が見上げると金色の光は予想外の宝船で七福神様達が乗っていた。
「城一郎よ、瀬津、艶、赤者あかじゃ青者あおじゃなぜ、わしらを呼ばん」
「はっ寿老人様それは・・・」城一郎が返答に困っていると
「みずくさいのぉーなあ弁天よ」
「榊原は代々遠慮しくさる無作法者ばかりじゃ、命を落としても、まだ遠慮しとる、このたわけっ!」
福禄寿様が割って入った。
「まぁよい、そう攻めるでない・・・とは言え、ないがしろにされるような憶えもないぞ榊原、たまには遠慮のう頼れや」
「ありがたき幸せ・・・」
布袋様が言う
「しばらく暴れとらんのでな、やらせてもらうぞ」
船からぴょんと長屋の屋根に飛び移ると布袋様は力任せにトタン屋根をバリバリと剥がし離れた野原に投げ飛ばした。

長屋の内部が丸見えになり、おかしな悪魔崇拝の置物や小ぶりの掛け軸が各部屋の、其処かしこに見受けられ
良くない「もの」や「瘴気」が溢れていた。
すると
「そうれっ!」
毘沙門天様も飛び降りるが早いかムチで悪霊付きの住人を次々と叩きのめし気絶させだした。
―バシッ バシッ!バシッ!
大黒天様と恵比寿様は船の上で何やら術をかける相談を始めた。
「面倒なことせず下僕の悪魔だけ消滅させよう、おーい弁天よ」
「なんだい?」
「こっち来て力貸せや柴光しばびかりで片付けようぞ」
弁財天様はジャランと琵琶をひと振り鳴らすと身をしならせ

「あいよ」とニッコリ笑った。

柴光で強烈に輝く金色の宝船は長屋の頭上で止まると、
ゆっくりと降りてきて夕方で薄暗くなってきていた長屋エリアを朝陽のように照らした。

 それを見た悪魔に憑依された住人たちは皆、各々悲鳴を上げて刀を落とし目を抑えて地面に倒れ、苦しそうに悶え苦しみ動かなくなると、住人の背中や口から黒い霧が出てきては蒸気が消えるように見えなくなった。

「うぎゃぁーーーーっ!」
「うううっうわぁーっあああ・・・」

霊感の無い者には光の玉に見えている神様達は目玉をギョロリとして周囲を見回すと、そのまま船に乗り込みアパートの現場上空に移動して浮かんだまま動かず留まった。

住人たちは命に別状無かったが目を火傷して手の骨は全員骨折しており、不思議な事に地面に落ちた古い刀は、すべて真ん中からボッキリと折れていた。
我に返った城一郎が言う
「よし、みんな目を開けて良いぞ住人たちの手当てが必要だな、よしバスを使おう・・・お前達、怪我人に手を貸してやってくれ・・・」

 刀鍛冶衆は立ち上がると自分の刀を帯に収め周囲に倒れている住人たちの救助に応った。

城一郎はヘッドセットの無線スイッチを入れると菅原に怪我人を長屋から運び出しプレハブで手当するよう要請した。
あちこちから救急車のサイレンが無数に響きだした。

 その頃、アパートの現場では臨時の聖水プールが出来上がっていた。

場内アナウンスが入る。
「こちらは保安部です。プール作成、大変ご苦労様でした。大変申し訳ありませんが作業員の方々警察官の方々消防士の方々は係員を除き、すべて非常線の外まで速やかに避難願います。

 一般住民の怪我人が多数出ました、菅原組は至急プレハブ横のバスに怪我人の収容をお願いいたします。

 これより魂散華の儀、続いて解体の儀・抜刀演舞へと祭りは進行致します。
撮影、録音はドローン監視の他に警視庁の公安部による厳しい取り締まり対象となりますので警察官や消防士の方々、一般の作業員の方たちは隣近所で、お互い注意し合っての御協力を重ねて御願い申し上げます。

 なお私たち国土交通省・保安部は公安官立会いのもと逮捕権の執行、及び武器の所持、使用を許可されております。予め御了承ください」

静華が声を掛けた、二度目の魂散華になる。
「和華、お願いします、一人でも多く、お連れしてください」
「はい、お姉様」

神座には柱が立てられ、しめ縄が張ってある。
その先では政一郎が守護の護摩焚を相変わらず続けていたが少し疲労の表情があったため、一時休憩となった。

丁度その頃、武藤刑事の携帯が鳴った、まだ入院中の刑事、鈴木からだった。

「あっ、今大丈夫でしょうか」
「ああ、どうした」
「はい、あの小辻さんの事なんですが・・・・」
「うん・・・」

「彼女に今日アパートが解体されると話したら是非、見学したいと言うのですがダメでしょうか」

「なんでだ小辻は、どんな状態なんだ?」

「体は問題ないみたいです、ただ精神的にやられてまして彼女、先日、辞表提出したんです」

「はぁー?聞いてないな・・・」

「はい、それが茂木副署長のところで辞表、留まってまして
俺、何にもしてあげれないし、そしたら解体を見たいって、
これって何か彼女が立ち直るキッカケにならないものかと思いまして・・・」

「うーん・・・解った、小辻は今、病院なんだな?」
「はい」

「俺と小林が迎えに行くよ離れた場所からしか見れないが色々見られるから今からでも遅くない、すぐに急行するから外出の支度して外に出て待つように小辻に言ってくれ」

「マジっすか、あーありがとうございます、すぐ外出の準備して外で待つように伝えますね、ありがとうございます」

「お前の為じゃねぇよ、お前は安静にしてなきゃダメだからな」
「はい・・・」

「そっか辞表出してたんだな・・・パトカーで行くからな、じゃ」

逢魔ヶ刻の街を1台のパトカーが猛スピードで病院に向かった。

『小辻ごめんな・・・全部、俺の責任だ・・・』

激しくサイレンを鳴らし武藤の運転するパトカーの助手席で長い付き合いの小林刑事は彼が静かに泣いているのを初めて見た。
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