JOLENEジョリーン・鬼屋は人を許さない 『こわい』です。気を緩めると巻き込まれます。

尾駮アスマ(オブチアスマ おぶちあすま)

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第5章 ダークシンジケート

第5話 激震、カオス・カオス・カオス

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 裏で捜査が進んでいることも知らずに呑気な私は事務所で考え事などしておりました。

 例の奥さんは尾行されているのも知らずに私のところへ何やら相談がしたいと夜七時に私の事務所に来る約束をしていました。

刻一刻と約束の時間が近づくにつれ私の胸の中に漠然とした不安感、『ざわざわ・・・』と胸騒ぎが始まりました。

本当に急に気持ちが落ち着かなくなってきました。
と、ほぼ同じく非通知の電話がかかってきました。

「あっ」
これは・・・まだ、お会いしたこともない祭師・静華さんです。

「はい、もし・・・」

「クソッコラぁあああああっー!腹立つうぅううーっ野郎ただじゃ置かねぇからなぁーっ!ダァゴこらぁあああーっ!」

『う、うわぁー、なになに?何?・・・』
静華さんは、いきなり何か、ものすごく怒っていました。

もうギャグマンガです。

「え?も、もしもしぃ?」

「マルダァー聞いてぇー昨日ようやくめんどくせぇの終わったのよぉー」甘い声で言います。

『はぁ・・・そうなんだ、声はカワイイのに相変わらず口悪いなぁー、あっ聞かれたかな・・・』

「はぁ・・お疲れ様です。どこにいたんですか?」

「口が悪くてスイマセェーン、島根、なぁーんか国の一大事とかで大騒ぎしてさぁー車で移動したり船乗ったりしてトラブルは有るしでさぁーようやく終わって今朝方帰ってきてサウナはいってエステやってさぁー」

「はぁ、じゃ今、島根にいらっしゃるんですか」

「なにが、よタメグチでいいのよマルダわぁー」

下アゴ突き出して変な顔で話しているんだと思います。
多分Sですね、この人。

「あのー酔っ払ってます?静華さん・・・」

「なによぉ悪い?違うのよ、エステ終わってサウナで汗かいた分、寿司食ってよぉー生ビール、ガンガンってハハハッァー!!」

大変な仕事だったのかストレス半端じゃ無いみたいです、ハイ。

「はい、じゃ今、島根なんですね」

「違う!東京○○○ホテル、あたし年間VIPなんでぇーへへぇー」

「あ、東京ですか」

VIPが、どんだけスゴイのか貧乏人の私には、わかりません。

「いい気持ちで寝てたらさぁー生意気に金縛り仕掛けてきやがって、それが結構強くてさぁー
ま、でも私のチカラで蹴散らしてやったわよ、フンッ!」

「はい」

「あの鬼屋の連中よ襲いかかって来たの」

「オニヤの連中?」

「鈍いわねぇあのアパートの連中よ、くっそ生意気な、準備出来次第、気合入れてそっち行くかんねぇ、マルダも気合入れてよぉへこんでないで、しっかりね」

「はい、あの今朝の事件、知ってますか」

「知ってます、私呼んだのマルダじゃん、
それでさぁ、あの奥さんとんだ女狐だから気をつけてね
多分あんたを殺りに来るわよ!
今夜、自力で回避してね、やれることは、やるから・・・」

「はぁ・・・」

「わかってんのぉー?気をつけろって言ってんのよっ!
あの革ジャン着てね、あれ刃物に対応する帷子カタビラ仕込んであるから、い?わかった?」

「はい、わかりました」心配かけてスイマセン。

「それと警察、あの武藤って刑事、
このあと連絡くるわよ、それじゃ風呂入ってビール飲んで寝るわぁー
もうだめだ眠い・・・プツ・ツーツーツー」

「あ、もしもし・・・」切れた。

警告が来たってことは、これ、マジでやばいんだな多分・・・
そのせいか胸騒ぎ・・・

―ピピピピ

武藤さんから電話です。

「おい、あのなぁ今、色々調べてるんだけど例の銀行員の奥さん怪しいからな気をつけろ」

さっきの警告が頭に響きます

「えっ、奥さん・・・今これから俺の事務所に来ますけど」
「だれが?」
「いやその奥さんが」
「ふーん、そうか何しに来るんだ」
「はい、なんか知りませんけど相談があるとか」

「お前なんか、また巻き込まれそうだな・・・そうかわかった、うちの刑事、鈴木、そっち向かうと思うから追っ付け俺も向かうよ」

『なんかもう既に巻き込まれてるクサイですけど・・・』

「どうしたんですか?」
「ああ、話すと長いから、そういうことなら任意で引っ張るか・・・おい式」
「はい」
「お前は何にも知らないふりして相手してろ、いいな」
「はい、わかりました」
「なんかあればショートメールするからな携帯バイブにしてろ」
「了解しました」

いいっ!!、とりあえず革ジャン着てよう。

その頃、刑事さん達は動いていました。

「はい武藤」

「お疲れ様です、奥さん、式さんの事務所前に到着しました」

「解ってる、あのな鈴木、俺、今、署長の許可もらって任意で奥さん引っ張るから
抵抗したら公務執行妨害でも構わん身柄押さえろ、そっちすぐ行くから勝手に動くな、
俺が行く前に奥さんが動いたら引き続き尾行だ、いいな」

「はい、了解しました。じゃお待ちしてます」

 その時、静華さんはホテルのベットで眠りながら体は置いたまま
アストラルになって私の事務所に結界を張り悪魔おに達を見張っていたそうです。

アストラル状態というのは霊体という意味で、たまに聞く幽体離脱現象です。

鬼屋からやって来たであろうは、この時、既に平屋一戸建ての私の事務所を複数で、取り囲んでいたのだそうです。

霊体の静華さんが念により出現させた柴刀しばがたなをゆっくり抜き構え、鬼達に言いました。

「お前達の相手は私だ、観念しろ」

「んー?なんだぁお前は、祓い屋か?お前のようなシスターもどきに何ができる、ふん、生意気な人間め、お前こそ我らを、なめるな」
ひとり、また一人と黒い影の悪魔が無数に集まってきた。

静華は式・探偵事務所前で黒い悪魔たちに囲まれながら神様を招く祝詞を口にしたが前日の疲れと汚れた飲食の影響で様子がおかしい・・・
「父上・・・」
静華は毘沙門天様と父、城一郎に助けを求めたがテレパシーの返事が無かった。
霊刀を構えながら少し後悔していた。
『うーやっぱ寿司とビールが悪かったのかな、いつもの感じじゃねぇぞ・・・こんなに大勢いやがったか・・・来たな女狐!』
静華は刀を持つ手を胸に当て心の中で祈った。
『こいつらが中に入ればマルダの命はない・・・かみさま』

悪魔や悪霊、魔物に至るまで事務所の外に集結し、建物の周りをぐるぐると廻りだした。

肉体を東京のホテルに置いてる静華は、父上や神様との会話が成立しないため三重県にいる姪っ子の祭師・榊原和華にテレパシーを送ってみた。

和華は小学生ではあるが、強烈なサイキッカーで静華と一人前にタッグを組んでいる。
『和華、わたしよ、聞こえたら返事ちょうだい、和華、わか・・・』
『あっ、お姉さま、どうしたの?』
『和華、私、昨日の疲れのせいか、うまく父上と連絡が取れないの、じいじ呼び出して私に連絡くれるように言ってくれないかな』
『うん、お姉様が呼んでるって言えばいいのね』
『そうよ、じゃ、お願いね』
『はーい』


 その頃、約束のOL奥さんが事務所に入って来ました。

「こんばんわ」

今朝の警察沙汰で、さぞ、お疲れかと思いましたが見違えました。

彼女は胸の空いたセクシーな服装に派手なネックレス、スカートも短い、
いつの間にか黒かったはずの髪の毛の色が綺麗に茶色になっていて、
まるでホステスさんのように着飾っておりました。

お化粧も目尻に黒い書き込みがあり、まつげも長く真っ赤な口紅・・・
今朝、旦那さんが、あんな事になって入院してるのに・・・

 真向かいのソファーに座った奥さんは出した飲み物も飲まず、いきなり話を始めました。

私の悪い癖といいますか目のやり場に困りました。
寄せて上げているのか胸の谷間が眩しく、
それに加え、わざとなのかスカートの中が思い切り丸見えで、なんかドキドキしてきました。

「奥さん、すいません、ちょっと足閉じてもらうか、このフリース膝にかけてもらって良いですか」

「あら、見かけによらずウブなんですね、私、よろしくってよ好きなだけ見ていただいて、もっと広げましょうか?」

奥さんは・・・いえ彼女は、ふわりと足を広げると・・・

私は強めに言いました。
「奥さん、冗談はやめてください、そんな事なら帰っていただけますか」

「あははは、冗談ですよ助けてくださった御礼に、ちょっとサービスしただけです」

「もうやめて頂けますか、相談が無いなら帰ってくださいっ!」

「いやーはははっイケメンさんに大事な相談が、あるんです。
怒っちゃイヤあーたん・てい・さんっウフ(´∀`*)」
全然、足を閉じてはくれません。

奥さんは顔の表情も態度も不自然で支離滅裂っぽくなってきました。完全におかしい、別人のようです。

「実は家の井戸の事なんですが」

『あぁ井戸の事、忘れてた』
「はい」

「予算がないので家を建てた業者に賠償してもらおうかと考えまして私の父に相談しました。
私の父は今でこそ年金暮らしですが
前は建築関係の会社をしていたので色々と調べてもらったのです。

家を建てた会社はもう既に倒産していました。
その会社は、なんでも古いしきたりや風習などを一切無視するような工事をたくさんしてきたのだそうです。

井戸を床下に隠すなんて、お手の物らしく基礎石に墓石を使って建てたプレハブなんかもあったそうです。
それで調べが進むうちに父は昔の建築関係の友人から聞いたらしいのですが、あのアパートも同じ建築会社が建てていた事がわかったんです」

「ん?どういうことですか」

「はい、私の家と、うちの銀行が管理している、あの呪いのアパート、同じ建築会社が建てていたんです」

「はぁー・・・それわぁー・・・」
『なんという偶然・・・いや、偶然じゃないだろソレ・・・』

すると急に事務所の蛍光灯照明が明滅しだしました。

―チカ・チカ・パッ・パッ・・・

『ん?なんだ?一箇所だけじゃなく全部が点滅するなんて・・・』

それに構わず奥さんが話を続けます。
「それで私たちは自分たちを踏みつけるように、あのアパートを建てた会社を破滅に導き、
会社の社長も私たちが呪い殺しました、良い話でしょう?式さん」

「はっ?呪い殺した?いったい何を言っているんですか?」

彼女は座ったまま背筋を伸ばして私に言いました。
そして顔がまるで油絵で描いたような
無表情の人形みたいに見えました。

「私たちわあーそばにいる物すべてぅおー呪うことにぃーめざめたあー」

チカチカと照明が明滅しています、奥さんは持ってきたトートバックに手を入れました。

バックに何が入っているのでしょうか、
刃物か?まさか拳銃なんて・・・

奥さんの目は釣り上がり、にっこり笑った口元が明滅する光のせいか耳まで口が裂けているように錯覚を起こして見え始めました。

私は戦慄を憶え心拍数があがり照明の明滅する中、恐怖で金縛りにでもあったかのように動けません。

『えええ?なんだ?動けない・・・目が離せないっ!』

バクバクと大きな口が上下に動いて奥さんが話しかけてきました。

「わたしたちのぉー たあましぃーわぁーーー じごぉくにぃー
たのしみぃー うばうのやめぇろー
おもーしろいでぅえーしょうょおおー
わたくしわぁーきょうう みんなのぉーだいひょうううとしてぅえー
あなたをぉーころしにぃーきたのだぁーあああああー」

目をひんいてきました彼女は化け物か?
口の中が真っ赤になっています。

―チカ・チカ・パッ・パッ・・・

『うっわ!、怖ぇよぉー、メッチャこわいんですけどぉー』
以前、照明は明滅しています。

―チカ・チカ・パッ・パッ・・・

『逃げなきゃ・・・あれぇ?・・・どうした駄目だ、体が・・・動かない』

体に力がはいりません頭では逃げようと考えているのですが
神経が無いかのように手足になんの反応もありません。

彼女は、ゆっくりとバックから手を引っ張り出してきました。

「あーなたぁーぅわぁーー しにぃーたいんでぅぇーしょぉうううー」

目玉がまん丸になって・・・耳まで裂けた口が大きく開きました。

―チカ・チカ・パッ・パッ・・・

「フフッ」
誰もいないはずの私の背後で、いつか聞いた男の笑い声が聞こえました。

叫ぼうと思いましたが
『ああぁっ!こ、声がっ・・・でない!・・・まずい・・・ヤバイッ!!!!!!』

私の呼吸が荒くなって、手足がしびれ、体が動きません。
もう夢なら覚めてくれと心の中で叫びました。

『たすけて静華さんっ!』

その頃、外で待機していた刑事、小辻さんと鈴木さんが事務所の異変に気がつきました。

「あれ?鈴木さん、変ですよアレ」外からでも光の明滅が確認できたそうです。

「んぁ?なんだあれ、ちょっと行ってみよう」

「はい」

車から降りて事務所に走り寄り二人でドアをノックしましたが返事がありません。
相変わらず事務所の照明は点いたり消えたりしています。

そして窓や壁も時折、バンバンと音を立てていました。

それは悪魔たちとアストラル体の静華さんが刀を振り事務所の外で戦っている音でした。
「ウガァーーーッ!!」
『フォンフォン、シュッ!フォンッ!』
「かかってこいっ!コラぁあああああっ!!」
静華は、たった一人で大勢の悪魔に挑んでいた。
『斬っても斬っても湧いてきやがる・・・』

助けはなくとも静華はやるしかないと心に決めていた。
なぜなら子供の頃から大好きだった神様、アラハバキ様の光を見たかったから・・・

静華の刀が激しく周囲を舞い、悪魔たちを斬っていく。
「イーヤッ!オンッ!!アビラッ!イーヤッ!ハァッ!」
『フォンッ!シュッシュッ!フォンフォンフォンフォン』

「ウギャーッアアアー」
悪魔たちが斬られるとジュウジュウと音を立て煙となり周囲に焦げ臭さを残して消えていった。

 自分の刀で斬られ叫び声を上げる魔物たちが哀れで、そして遠い地で独り刀を振っている自分。
なぜか静華の目からは涙が流れてきていた。
「なんだ、泣いているか、あははは、どうしたアストラルシスター」
悪魔の一人が笑っていたので静華は思いっ切り刀を振った。

「しゃらくせぇええええーっアビラッ!」『フォンブンッシュンッ!』
「あっ・・・ギャァアアアアーーーッ」『ブシュウッ・・ジュウー・・』

静華の抜刀演舞は居合の要素も含め真似のできる者はおらず
スピードにかけては速すぎて太刀筋すら見えない。

 いつ抜いたか、いつ斬ったか・・・

目の前まで来ているのに
刑事二人は風を感じるくらいで静華の激しい攻防は見えていない。

 それでも刑事二人を守護したのは静華だった。
「エイッヤアッ」
「ギャアーッ、ウゴッフウ・・・グゥウウウーー」

小辻刑事が鈴木刑事に尋ねた
「何か焦げ臭くないですか?」
「うん、臭い、よし入るぞ」
「ハイ」

私が動けなくなって恐怖におののいていた時、刑事の二人が事務所に入ってきました。

―バンッ!とドアが勢いよく開きました。

すると照明は唐突に明滅をやめて正常に戻りました。

鈴木さんが先頭で入ってきました。
「こんばんは式さん、今、電気おかしくなかったですか?」

「あぁ、良いところに来てくれた」 
『こ、声が出た、良かったー・・・』

金縛りで茫然としていた私は動けるようになって席を立ち奥さんから距離を取りました。

女刑事、小辻さんは奥さんの正面に回り込みました。

 奥さんは座ったまま顔が作り物のように表情が固くなって目に心がありません。

小辻さんが奥さんに話しかけました。

「奥さん、急ですが今一度、色々と事情を伺いたいので署に、ご同行いただけないでしょうか」

「嫌です疲れてますので」

『えっ?どうなってんの奥さんに何か容疑でもかかってのかな』

「それでは大変恐縮ですが持ち物検査させていただいて、よろしいでしょうか」

「嫌です何ですか?私が何をしたっていうんですか」

奥さんが小辻刑事を、ものすごい形相で睨みつけます。

鈴木さんは奥さんの後ろで黙って話を聞いており
私は落ち着くために奥の洗面台の所で電子タバコを吸っていました。

まずい空気を察し確認はしてませんでしたが奥さんは凶器を隠し持っている危険がありました。

「刑事さん、あんまりそばに寄っちゃだめだ奥さんは凶器を持っているかもしれませんよ」

「えっ!」

小辻さんは一瞬、下がりました。

奥さんは大声で狂ったように笑い出しました。
「はははーあーっ!ははははははは」

危険を察知した私はスグに紐で壁にぶら下がっている
自分の木刀を持ちながら奥さんに寄って歩いていきました。

 その時、ガタガタと鉄製のロッカーが音を立てて振動をはじめ
窓ガラスもガリゴリと鳴り始めました。

そして事務所内に、忌まわしい、お経と呪文の声が
大きく響き渡り出しました。

【あーざー・・・じい・・ぜくしゃく・・たぁらぁー・・・】
【イーア サダル イーア マクダ イアッ!イアッ!・・・】

二人の若き刑事さんは驚いてキョロキョロしていました。
「なにっ?!」
「なんだこれはっ!」

―ドンッ!と音がしてデスクのパソコンが破裂したように煙を上げ出しました。

『え?』皆が一瞬そっちに気を取られた時!

【あーざー・・・じい・・ぜくしゃく・・たぁらぁーー・・・】
【イーア サダル イーア マクダ イア!イア!・・・】

「ギイッーーヤアアアーーッ!うあっーーーーっ!」と奥さんが叫び声をあげながら立ち上がったかと思うと
バックから大型の包丁を取り出し小辻さんに斬りかかっていきました。

「あっ」

驚いた小辻さんは下がってかかとでつまづき転びそうになったところを切りかかられ
咄嗟に出した右手のひらをザックリと切られました。

「ああっ!」
鮮血が飛び散り下手すると手首の内側もいかれてる可能性がありました。

血の勢いがすごかったからです。

「ああぁーっ」小辻さんが腕を押さえて尻もちをつきました。

そして大きな包丁を持った奥さんは、なおも小辻さんに襲いかかろうとしました。

「小辻ぃー逃げろぉーっ!」鈴木さんが奥さんに飛びかかりました。

【あーざー・・・じい・・ぜくしゃく・・たぁらぁーー・・・】
【イーア サダル イーア マクダ イア!イア!・・・】

その時、しきは急に現場の音が何も聞こえなくなり、
みんなの動きがスローモーションになりました。

鈴木さんに羽交い締めにされている奥さんは持ってきた包丁を上下左右に振り回し、めちゃくちゃに暴れ近づく事も危険でした。
「うっ!ぎゃああああああーっぎゃぁああああーーーーっ!」

奥さんは小辻さんに覆いかかろうとするのをやめません。
「ぎゃぁーーーーっ!ぎゃぎゃぎゃあーーーーーっ!」

狂った奥さんは、ものすごい形相で叫びながら包丁を持った腕を激しく振り回し
女とは思えないすごい力で暴れて肘鉄ひじてつを鈴木さんに食らわしたり
無理やり腕をまげ、すごい速さで、
あっという間に後ろにいる鈴木さんの顔、腕、脇腹、太もも、股間、頭、首とめちゃくちゃに包丁で切りつけザクザクと刺しました。

「ああっ!あう、あう、ああっ!・・・」
痛さで鈴木さんの口から声が出ています。

傷口から出血が始まり、あっという間に鈴木さんの衣服は全身
真っ赤に血で染まりました。

鈴木さんは暴れる奥さんから小辻さんを守ろうと、ただ奥さんを羽交い締めにして刺されるままになっていました。

「スズキぃーっ!!!」
しきは急いで木刀を振り下ろしました。

血を見たせいでしょう

私は擬似性の貧血でめまいがしながらも走って行き奥さんの包丁を持つ腕、背中や顔面を木刀で殴打しました。
ガツンッ!バンッ!ガツンッ!

すべてが、ゆっくりとしたスローモーションに見えました。

涙が出ました・・・私は・・・奥さんを木刀で殴打しました・・・・
凶器を持つ手を・・・顔面・・・腕・・・肩・・・背中・・・
めちゃくちゃに・・・

「やめろーおっーーっ!!」

奥さんは凶器の包丁を床に落とし気を失い、鈴木刑事は出血性ショック状態か失神して倒れました。

小辻さんは動くことができず目からは涙が流れ必死に自分で出血を抑えています。

「ひっくっ!あっうっうぅぅ・・・」

私は、すぐに救急車を呼びました。
会話はスピーカーにしたまま住所を告げました。

会話しながらヨロヨロと机の上にあった布製のガムテープを持つと小辻さんの手首をぐるぐる巻きにし
さらに手のひらなどもぐるぐる巻きにして止血をしました。

小辻さんは、うめき声を少しあげましたが意識が朦朧としています。

「うぅ・・・」

次に鈴木さんの首や腕、太ももを必死にガムテープで巻きました。
でも・・・出血で、うまくガムテープがくっつきません・・・
彼は苦しそうに倒れたまま気絶していました。

血が・・・どんどん流れて・・・床に、みるみる広がっていきます。

『あぁ・・・神様っ!』
「スズキぃーっ!」

私はガクガクと震える膝でまた暴れだすかも知れない倒れた奥さんの背中を抑えつけながら
震える手で、まだ繋がっているスマホを持ち叫びました。

「出血が、ひどい人が二人います包丁で滅多刺しされてます急いでください早くっ!!」

「はい、すぐに救急車が向かいます。なるべく傷口を塞いで押さえ止血願います」

 床一面が血の海になった頃、遅くなった武藤さんが事務所に入ってきました。

「な、なんじゃぁー!こりゃぁーーーーーあっーああああー!」

私は・・・
鈴木さんの傷口を手で押さえながら涙がこらえきれず・・・・
武藤さんの顔を見ながら自分の膝下でうめいている奥さんに手錠をはめるように頼みました・・・

「手錠をしてください・・・おく・・・奥さんが・・・あばれました・・・・」

武藤さんが何か叫びながら鈴木さんを介抱しています・・・・

私は小辻さんの腕を、またテープで巻いたりしながら武藤さんに言いました。

「武藤さん・・・救急車すぐに来ますから・・・」

あの・・・Nさんの悪夢がよみがえります。

違うのは場所が私の事務所で床一面に血の海がありました。

『また、こんな事に・・・静華さん、ひどいよ守ってくれるんじゃなかったの?
なんでぇ・・・ウッ・・なんでまたこんなひどいことになるんだよ・・・・』

「なんでだよぉおおおーーーーっ!」

私の顔面は涙で、ぐちゃぐちゃでした。

生まれて初めて
人前で大声を上げ泣き崩れました。

「ああっ!げふっ!あ、あ、あ、うあああああーっあっあっー!
うあーーん、ああーーーっうあっあっあっ・・・うわあーーあっあ、あ、あっ・・・」

気分が悪くなり血の海になった床にヘタリ込むと何も聞こえなくなっていた音が聞こえ始めました。

遠くに救急車のサイレン・・・パトカーのサイレンが聞こえて・・・

続々と・・・集まって・・・来ました・・・・
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