百物語 箱館「怪談」散歩(一話完結・短編集)

尾駮アスマ(オブチアスマ おぶちあすま)

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第93歩 沼

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 Fさんが小学四年生の時、親友のH君やクラスメイト数人で
近所の沼にフナ釣りに行くのが流行った。

その沼は笹薮に囲まれている直径三十メートル程の沼で
小川から水が流れ込んでいて溢れないように水は下流の小川に流れ、
その先に、もう一つ沼がある造りになっていて
下の沼の水は農業用水にも使用されることがあった。

 ある土曜日FさんはH君やほかのクラスメイトと午後から上の沼に
釣りに行く約束をしていて釣り道具を持って出かけた。

 沼に到着すると周囲に数台のパトカーと救急車が一台見え、
ざわざわと近所のやじ馬も集まっていた。

「うわ、なに?」

待ち合わせしていた友人のH君がいたので一体何の騒ぎか聞いてみたが
H君の表情は暗く何も言わない。

やがて、ほかの友達も集まって来た時H君は
「帰る」と言って帰宅してしまった。

「けいさつ、どうしたの?」

Fさんは周囲の大人に何があったのか聞いてみたが邪険に扱われ
誰も何も教えてくれなかった。

やがてパトカーも救急車もいなくなって、みんなで釣りを始めた。

 ふと見やると、いつも腰掛ける更地の部分に誰が置いたか
線香とロウソクが立ててあった。

沼を挟んだ向かい側にはお地蔵さんの安置された小さなほこらもあったので、お地蔵さんの何かじゃないかと友人たちと話した。

 当時みんなにはキャッチ&リリースという概念はなくバケツにフナが放り込まれていった。

釣りの成績は上々で普段より、たくさん釣れた。

時刻が夕方近くなると門限のあった3人の仲間が帰ってしまった。

Fさんは帰ったところで家には誰もいない。

釣りを続け付き合いの良い友人と二人で沼を見ていると
『錦鯉』が悠然と沼の反対側に泳いで行くのを発見した。

「鯉だっ!」

Fさんは夢中になった。

友人に
「引っ掛けてもいいから鯉を釣ってやろう」言うが早いか慌てて道具を持って沼の反対側へ走って移動した。

時折、濁った沼の水に

『ゆらり』

錦鯉の泳いでいるのが見える。

なんども竿を振って何とかならないかと夢中になって
『ハッ』気が付くと辺りは、すっかり暗くなっていた。

友人が
「そろそろ帰ろうよ」と言う。
Fさんは
「帰りたかったら帰ったら」突っ張った事を言っていると
真向かいに置かれていたロウソクに『ふわっ』と火が灯った。

続いて線香にも火が点き小さな赤い火が見えて線香の匂いが漂ってきた。

「おい、誰もいないのに向かいのロウソク火ついてるぞ」

ついで目前の水面がボコボコと音を立てて泡立ってきた。
何かと思い見ると、どんどんボコボコが激しくなり

――ザアーーー

噴水のように水柱が立った高さは大人の人ほどもあった。
隣にいる友人が声を上げた

「うわぁーばあさんだ!」
 
だがFさんにはボコボコと噴水のように立つ水柱しか見えない。

「おい見えないのか、びしょぬれのばあさんだよーっ!」友人は腰を抜かしている。

やがて水柱を包むようにモクモクと煙が集まってきて柱になり
なんと電信柱ほどの高さまでになると

――ぐおぉーーー
こちらに向かって倒れてきた。

「うわあー」Fさんは怖くて声を上げたが足が動かない。

煙の柱がFさん目掛けてたおれ

―バサリ・・・
煙が沼の表面を覆い尽くした。

―サーッ

Fさんは煙に覆われている沼の真ん中あたりに咄嗟とっさに拾った石を投げ込んだ。

―ジャボン
すると煙が見る見る引いていき向かい側で灯っていたロウソクの火が消えるのが見えた。

「おい!大丈夫か起きろ!」へたり込む友人を助け起こし
釣り道具とバケツ一杯のフナを持ってガクガクした足で逃げ出した。

 その時釣ったフナは近所のおじさんに全部あげた。
 
 月曜日、学校に行くと最初に帰ってしまったH君に土曜日の怖い出来事を話した、すると事実が判明した。
 
 土曜日の午後、誰よりも先に到着したH君は沼に到着すると沼に浮かぶ人を発見し、あわてて近くの商店に駆け込んだ。
「たいへんです、たいへんです!!」
話を聞いた商店主が警察に通報し騒ぎになった。

亡くなっていたのは近隣に住む、おばあさんだった。

 本当は一言、H君がFさんら仲間に事実を告げてさえいれば
誰も好き好んで事故のあった沼で釣りなどしなかった。

「なんだよそれ、早く言えやぁー!」

Fさんは大きな声を出した。
H君は余程気味の悪い光景を見てしまったらしく
ショックで話がうまく出来なかったのだと弁解した。

「絶交だ!おまえなんか!」

 Fさんは、あの時おばあさんに、
もう少しで連れて行かれるところだったのではないかと思っている。
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