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第88歩 押さないで

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 Fさんが28歳の時、人の紹介で
「人手が欲しいので働かないか」と縁あって塗装会社に就職した。

それを期に通勤に便利で安いアパートに引っ越した。
そのアパートはFさんの幼馴染の実家が所有するアパートだった。

 ただ、一つ困ったことがあった。
 
 アパートの駐車場に車を入れようとバックすると
いつも甲冑姿かっちゅうすがた
『七人の武者』が現れ車を取り囲む
そのうちの二人が車の後部を押して駐車させまいとする。

 その駐車場の大家さんの娘がFさんと幼馴染で知った仲というのもあり
毎度、大家さんの家に行って娘さんに車を駐車してもらっていた。

「すいませーん、やっぱり車、とめれないわ・・・」

「あ、ハイハイ」

Fさんだと押されるが娘さんは押されることもなく、
すんなり駐車できた。

だがアスファルトにはタイヤのスリップした後があり、
ゴムの臭いもする。
 
「いやーあれ見せたいよ本当に・・・二人だけ押してくるんだけど、
すごい力だからギアバックに入れてアクセルふかしたって動かないんだからホント・・・」

 大家さんの娘さんが車を駐車場に入れると武者たちの姿はなくなるが
言い知れぬにらみ付けられているような威圧感を
Fさんは、いつも感じていた。
 
 話を聞いていて私は、なぜ武者が現れるのか疑問に思い
「土地のせいなのか何なのか」食い下がって聞いてみると説明してくれた。

 ここからは話半分で読んでいただいて構わない。

大家さんの娘さんはFさんと旧知の仲として、おつき合いしていたので
Fさんもある日、疑問に思い七人の武者について
娘さんに聞いたのだそうだ。
娘さんが言うには前世とやらで彼女は四国のお姫様だった。

現れる武者たちは前世からの警護係なのだと云い、そしてFさんは前世で敵対していた人間だったという。
それで武者たちはFさんを敵とみなし邪魔するらしい。

「それじゃあ、ひょっとしてFさんも前世とやらでは四国の人間だったって事ですか」私が聞くと

「そうらしい」という。

「でも、娘さんにそう言われる前から武者いたからね四国の話聞く前にもう車、押されてたから・・・・・」

前世と四国の話が本当かどうか解らないが
「毎度、車を押されて駐車できなかったのは事実です」と云う。
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