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第86歩 観光名所
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そこは有名観光地で、そばに大きな川が流れており
急激に川幅が狭くなる箇所があって川が氾濫する災害も多い場所だ。
その昔、鉄道沿線で土砂崩れが発生し貨物・客車ごと川に転落。
死者が多数に及ぶ傷ましい事故もあった。
肉屋を退職したFさんは27歳のとき東京に半年ほど出稼ぎに出て
戻ってきた。
久しぶりの友人達と再会して束の間、自由な時間を謳歌していた。
ある日、友人たちが集まって
観光に行こうと計画が持ち上がりFさんも誘われ承諾した。
大きめの車に5人乗り込み。
一路、車は走り出した。
Fさんは道すがら遠い昔の、ある事を思い出していた。
Fさんが十八の頃、修行させてもらった寿司屋で、その観光名所の事を色々聞いていたのだ。
その名所には現在、通行止めになっている古いトンネルがあって
昔は、そこを自転車で走っていると荷台を掴まれるとか
荷台に誰かが乗ってくるとか・・・
またトンネル近くの電話ボックスに女の人が立っていると噂があり、
その電話も通話記録が残っているのに代金が未払いのまま通話されており原因不明の故障のためボックスごと撤去されているという。
列車転落事故の現場は川の流れが早く犠牲者捜索のため
何度かダイバーが潜り判明したのだが
川の底に大きな鍾乳洞のような穴が開いており
絶え間なく川の水が渦を巻いて吸い込まれている事が解り
危険すぎて搜索が打ち切りになった。
それから、お寿司屋さんで景気の良い常連さんが
「安かったから」
名所トンネル近くに土地を買って家を建てたが大変なことになったと話した。
その常連さんが購入した土地というのは
昔、川が氾濫した時、傷ましい惨状になった場所だった。
時代はバブル期、家を建て新生活を始めると、すぐに奥さんが怯えて
「家を出ていく」と言い出した。
昼間、家にいると勝手にドアが開いたり
家の中を誰かが歩き回り
居間と言わず台所と言わず物が動き回ると、必死で奥さんは訴えたが
旦那さんは
「気のせいだ」と言って全く信じなかった。
結局、住みだして一週間も経たないうちに奥さんは子供を連れて実家に引っ込んでしまった。
日曜日、昼、旦那さん一人で家にいるとトイレの水が
―― ジャー
勝手に流れた。
それから誰もいない二階で人が歩き回る足音がする。
――ミシ、ミシ、ミシ、ミシ・・・・
『おや、おや』と思っていると
―ガチャン!
台所で何かが落ちる音が聞こえた。
『今度はなんだ』
台所に見に行くと誰もいない、
ついで居間のテレビが勝手に点いたり消えたりして、
すぐに二階から、ざわざわと大勢の話し声が聞こえてきた。
『これはイカン!』
外に飛び出し近所の喫茶店に飛び込んで、
それとなくマスターに聞いてみると
「あー、あなた、あんなところに家建てて大丈夫ですか」
「い、いやそれがー・・・」
「お気の毒に・・」
マスターは当たり障りのない程度に、この周辺の話を聞かせてくれた。
「時々、川が氾濫するんですが、昔、大きな洪水がありましてね・・・・」
結局その常連さんは、すぐ引っ越して
「二束三文で家ごと売りに出しているが問い合わせすら無い」
と寿司を食べながら愚痴っていた。
Fさんは、その観光名所に向かう車の中で
「その家、今もあるのかな」とぼんやり考えていた。
急激に川幅が狭くなる箇所があって川が氾濫する災害も多い場所だ。
その昔、鉄道沿線で土砂崩れが発生し貨物・客車ごと川に転落。
死者が多数に及ぶ傷ましい事故もあった。
肉屋を退職したFさんは27歳のとき東京に半年ほど出稼ぎに出て
戻ってきた。
久しぶりの友人達と再会して束の間、自由な時間を謳歌していた。
ある日、友人たちが集まって
観光に行こうと計画が持ち上がりFさんも誘われ承諾した。
大きめの車に5人乗り込み。
一路、車は走り出した。
Fさんは道すがら遠い昔の、ある事を思い出していた。
Fさんが十八の頃、修行させてもらった寿司屋で、その観光名所の事を色々聞いていたのだ。
その名所には現在、通行止めになっている古いトンネルがあって
昔は、そこを自転車で走っていると荷台を掴まれるとか
荷台に誰かが乗ってくるとか・・・
またトンネル近くの電話ボックスに女の人が立っていると噂があり、
その電話も通話記録が残っているのに代金が未払いのまま通話されており原因不明の故障のためボックスごと撤去されているという。
列車転落事故の現場は川の流れが早く犠牲者捜索のため
何度かダイバーが潜り判明したのだが
川の底に大きな鍾乳洞のような穴が開いており
絶え間なく川の水が渦を巻いて吸い込まれている事が解り
危険すぎて搜索が打ち切りになった。
それから、お寿司屋さんで景気の良い常連さんが
「安かったから」
名所トンネル近くに土地を買って家を建てたが大変なことになったと話した。
その常連さんが購入した土地というのは
昔、川が氾濫した時、傷ましい惨状になった場所だった。
時代はバブル期、家を建て新生活を始めると、すぐに奥さんが怯えて
「家を出ていく」と言い出した。
昼間、家にいると勝手にドアが開いたり
家の中を誰かが歩き回り
居間と言わず台所と言わず物が動き回ると、必死で奥さんは訴えたが
旦那さんは
「気のせいだ」と言って全く信じなかった。
結局、住みだして一週間も経たないうちに奥さんは子供を連れて実家に引っ込んでしまった。
日曜日、昼、旦那さん一人で家にいるとトイレの水が
―― ジャー
勝手に流れた。
それから誰もいない二階で人が歩き回る足音がする。
――ミシ、ミシ、ミシ、ミシ・・・・
『おや、おや』と思っていると
―ガチャン!
台所で何かが落ちる音が聞こえた。
『今度はなんだ』
台所に見に行くと誰もいない、
ついで居間のテレビが勝手に点いたり消えたりして、
すぐに二階から、ざわざわと大勢の話し声が聞こえてきた。
『これはイカン!』
外に飛び出し近所の喫茶店に飛び込んで、
それとなくマスターに聞いてみると
「あー、あなた、あんなところに家建てて大丈夫ですか」
「い、いやそれがー・・・」
「お気の毒に・・」
マスターは当たり障りのない程度に、この周辺の話を聞かせてくれた。
「時々、川が氾濫するんですが、昔、大きな洪水がありましてね・・・・」
結局その常連さんは、すぐ引っ越して
「二束三文で家ごと売りに出しているが問い合わせすら無い」
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Fさんは、その観光名所に向かう車の中で
「その家、今もあるのかな」とぼんやり考えていた。
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