百物語 箱館「怪談」散歩(一話完結・短編集)

尾駮アスマ(オブチアスマ おぶちあすま)

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第85歩 かなちゃん

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 肩を脱臼してしまい入院していたFさんにとって
特に忘れられない出来事があった。

 Fさんが26歳の時だ。

病棟は全然違うのだが同じ病院に、いつも車椅子でいてFさんが
『かなちゃん』と呼ぶ女性が入院していた。

 いつの間にか廊下や休憩室などで見かけると
Fさんと、かなちゃんは、よく世間話をするようになった。

 絵心のあるFさんは、かなちゃんに風景画やアニメキャラクターなどを書いたりして、よくおしゃべりしていた。
かなちゃんは、まだ22歳だった。

間もなく、かなちゃんは持病が悪化し大手術を受けて、おそらく
一生、車椅子かもしれなかった。
Fさんは、かなちゃんに会いたくて病室に行ってみたが面会謝絶だった。

 偶然だったが、かなちゃんの、お父さんは、かつてFさんが修行していた、お寿司屋さんの常連様でFさんのことを、お父さんは憶えていた。

かなちゃんの、お父さんと話していると面会謝絶だが
「少し様子を見て来る」と言って、かなちゃんの病室のドアが開かれ
Fさんは遠慮がちに少し覗いてみたが意識は無いようだった。

「せっかく、うちの娘に良くしてもらっていたのに、ごめんな」
お父さんは辛そうだった。

 Fさんは、こんな時、いったい、何て言えばいいのか解らない
自分も悲しく思えた。
 
 その夜かなちゃんは危篤になった。

 そしてFさんは夢を見た。
 
かなちゃんが白い綺麗なドレスを着て
「ねえFさん、私、足が付いたんだよ、ほら、もう全然歩けるんだから」
嬉しそうにFさんの前でくるりと一周してみせた。

Fさんはというと夢の中で、車椅子に座っていた。

場所は病院の廊下、窓は閉まっているのに窓から雪が入ってきた。

「かなちゃんっ!」

脱臼していて片腕しか使えないFさんは自分の座っている車椅子を動かして、かなちゃんのそばに行こうとした。

かなちゃんはニコニコして、こっちを見ているが
窓から雪がどんどん入ってきて積もっていく。

「かなちゃんっ!」
必死に車椅子を進めようとしたが雪のところでタイヤが滑ってしまい
前に進まない。
前を見ると、かなちゃんがニコニコ手を振って遠ざかっていく。

「ちくしょう、何なんだ、この車椅子、雪で進まないようっ!」

閉まったままの窓から大量の雪が入ってきて、かなちゃんの姿が見えなくなってきた。

「かなちゃんっ!!」

気が付くとFさんはベッドの上で叫び声をあげて飛び起きた。

 その後もFさんの入院生活が続き、やがて退院したあと
かなちゃんの墓前に、お花や、お線香を供えることも考えたが

現実を認めたくないのか数十年たった今も、
そのままになってしまっている。
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