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第79歩 Tちゃん

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 2020年6月、Fさんは遠方のため、しばらくご無沙汰な
男友達でTちゃんと呼んでいた友人のアパートを訪ねてみた。

アパートは、そのままだったが友人の居ると思った部屋には表札がなく
郵便受けやドアの隙間にガムテープが貼られており、どう見ても
人が住んでいるようには思えない。

 FさんはTちゃんの実家に電話して聞くと
「居ないよ」という、よくよく聞くと2017年1月に亡くなったのだと聞かされた。

「え?いつですって」

Fさんが確認すると、おかしな疑問が沸いてきた。

さかのぼって2019年・18年は、確かに会っていない。
毎年6月頃は仕事に少し空きができて余裕があるのだが19年18年は色々と忙しく最後にTちゃんに会ったのは
『2017年6月』だった。

しかしTちゃんは2017年1月に亡くなったと云う。

Fさんは最後にTちゃんに会った時、実は何だか様子がおかしいなと、
ずっと思っていた。

 2017年6月、午後二時頃
FさんはTちゃんのアパートを訪れた。

ドアをノックすると中からTちゃんが顔をだした。

「おう、元気だった?」
Tちゃんは下をむいて返事をしない。

Fさんは元気のないTちゃんを見て、また鬱病でも再発したかなと
心配になった。

「めしでも、おごるからさ天気いいし、どっか行こうよ」

だがTちゃんは下をむいて首を左右に振り【行かない】と返事をした。
ふと足元の玄関に靴がない。
部屋の奥に目をやると部屋が真っ暗で何も見えない。

普通どんなに暗くたって奥の家具や襖などが見えるはずだが
空間そのものが真っ黒で闇の中にTちゃんが立っているように見えた。

Fさんが将棋をしようかとか食べたいものはないかと質問しても
首を振るだけで何も言わない。

Fさんは、ご飯など、おごるつもりでいたので、お金を少し置いていこうとも思ったが
Tちゃんは、とにかく
『うん』と言わない。
そして真っ暗な闇に引っ込んでしまい出てこなかった。

「おーい・・・じゃあ、また来るね」と言い残し帰路についたのだが
一体どうすれば、あそこまで部屋を暗くできるのかと変に思っていたのだ。
 
 話を聞いた私とFさんで勘違いじゃないかと、あれこれ話したが
間違いないのだという。
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