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第66歩 コ字の想い出

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 不動産業の女性Kさんに聞いた話

Kさんには弟さんがいて二人共通の想い出があるという。

 それはK姉弟が子供の頃、家は長屋で周囲の家も平屋が主だった。

自宅のすぐ側に商店が数件立ち並びKさんはよく弟さんと遊びに行ったり
お菓子を買いに行ったりして、いつも利用する
『コの字』の形になっている細い裏道を通るのが好きだった。

姉弟で、そこを通る時には、いつも先に弟さんが走って行き
後から姉のKさんが歩いていくのが常だった。

 ある日そこの道を通ると、いくら歩いても外に出られなくなった。

歩いても歩いても出口がない。

周囲には建物の壁があり前方しか見えない。
気が付くと前を走っていた弟の姿もない。

「あれっ、なんで?・・・」

 コの字型の道だから二回ほど角を曲がれば外の道に出られるはずが、
ぐるぐる回るだけで出られない。
歩いても細い道と壁があり焦りが出てきて早足で弟を探しながら何周か回ると急に外の道が見えて出られた。
「あー、よかったー」
とりあえず家に帰ると弟が居る。

「ねぇちゃん、どこにいたの?」
聞けば弟もぐるぐる何周かしたと言う。

 迷っているとき二人とも、ぐるぐる廻っていたはずだが、
その裏道の中で二人が行き合うことはなかった。

出られなくなったのは一回きりではなく何回かあったそうだ。

 大人になり、その話題を時々、弟さんとするが弟さんも
「出られなくなり、ぐるぐる回ったのは不思議に思う」と語り
二人で過去を振り返り何度も考えるが、
その裏道は絶対に『コの字』だったと云う。
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