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第44歩 来客中に

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 現在、私の育ったまわしい家は取り壊して、もう存在しない。

その家は学のない母親が思いつきで無頓着に増改築を繰り返した無駄の多い不自然な造りの家だった。

 総二階で家の左右には非常階段のように外階段が設置されていた。

一階に私の部屋があった。
二階はといえば直線の廊下と突き当たりにトイレがあり
同じ部屋が四つならんでいたが住人は無く
空の部屋があるだけだった。

風水では悪い造りの見本のような間取りだった。

 ある日、夜9時頃、私の部屋に友人が遊びに来て談笑していると
離れた表の通りから私の部屋まで聞こえてくるはずは無いのだが
ハッキリと外に車の止まる音がして

―キーッ・・・バタン!

ドアが閉じ車のエンジン音が遠ざかった。

続いて
―ガン、ガン、ガン、ガン・・・と我が家の鉄製外階段を誰かが上る音が聞こえ

―ガラガラッ、引き戸を開けて重く乱暴な足音が入ってきた。

―ドスン、ドスン、ドスン、ドスン・・・・二階の廊下を進み

一階にある私の部屋の上あたりで音が止んだ。

母親にしては変だなと思っていると母が青い顔で私の部屋に来た。

「今、誰か二階に入ってきたから見に行ってちょうだい」と言う。

私は遊びに来ていた友人に
「ちょっと見てくる」と言い残して内階段から二階に上がって行った。
 
 二階の電気は点いておらず暗いままだった。

―ガラガラと音を立てていたはずの引き戸には内側から
ガッチリ鍵が掛かったままだ。

この時、私は上がってきたのは人間じゃないなと思った。

「誰だ!」大声を出したが暗い廊下があるだけで反応がない。
廊下の電気を点け各部屋を確認したが誰もいなかった。

 戻って
「誰も居ないし二階の玄関には鍵が掛かったままだ」と伝えると

「えーっ」私の顔を見たまま、母は言葉が無くなった。

待たせていた友人の所へ戻り、誰もいなかったと伝え
「お前も聞いたよな」と聞くと

「聞いたよ、聞いたかっていうより、これでもかって云うような足音だったぞ」
血の気が引いている。

「俺、帰るわ」
 友人は、そそくさと帰ってしまった。

 せっかく遊びに来た友人を帰してしまった怪異と造りがおかしい家を作った母親に私は腹が立った。

これを書きながら思い出した。
たしかこの頃、この話を聞くと同じ経験をする、つまり
幽霊が部屋に現れるという怪談を聞いた数日後だった。

それにしても、わざわざ車に乗ってやって来るなんて
今でも他では聞いたこともない。

あれは何だったのか・・・
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