百物語 箱館「怪談」散歩(一話完結・短編集)

尾駮アスマ(オブチアスマ おぶちあすま)

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第30歩 拾います

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 O先生は20代の頃、肉体労働者で終戦直後という事もあり
楽しみといえば映画を見に行く事だった。

 ある土曜日、家で晩飯を済ませて梅ぼし入りのおにぎりを自分で作って映画館へと向かった。

『ようし思いっきり見てやるぞう』

 当時の映画館はオールナイトもあり今のように入れ替えは無く
一度入館すると何度でも同じ映画を繰り返し鑑賞することが
可能だった。
しかもリバイバル上映なら入場料も安く三本立て上映だったりした。

入場時は満席立ち見でも映画が終わると一旦、人が引くので
次は座席に座ってゆっくり鑑賞することができた。
小休憩時に上着と、おにぎりを席に置いてトイレを済ませ
売店でサイダーを買って席に戻る。

先生の至福の時だ。

映画を見ていると急に
『あっ俺、お金拾うぞ』と強く思った。

理由などない、頭の中にぐるぐると、お金を拾うという思いが回って離れない。

すると気持ちが落ち着かなくなり映画に集中できなくなってきた。
『この感覚は、なんだ?』

 そして予定より早く映画館を出てしまった。
『映画もっと見たかったなぁ、もったいないなぁ・・・』

家までは歩いて三十分はかかる、おにぎりに、かぶりつきながら考えていた。

『我ながら馬鹿だなぁ・・・』

歩きながらも、どんどん金を拾う気持ちが強くなる。

 金を拾うのが、わかる。
 
 なじみの町内に入った頃には真夜中になっていた。

道には10メートル置きに木製の電柱が立っていて傘のついた裸電球の街灯が灯っている。

電球の下はスポットライトのように地面を照らしている。
歩き進むと
「ん?」
前方の電柱の下に何かある。

歩き進み近づいてみると1センチ以上はある札束が置いてある。

『ぎょっ!』

しゃがみ込んで見ると風で、お札が飛ばないようにか、お札の上に小銭が十センチ程の高さで綺麗に積んである。

周囲を見回したが通りには誰の姿もない。
 
 予感が的中した。
 
『どうぞ拾って帰ってください』と言わんばかりに置いてある。
恐る恐る手に取り、しげしげ見たが本物の金だった。


「先生、結局ネコババしたんでしょ」教室の誰かが言うと
―ワッと皆が笑う。

「馬鹿言うんじゃないよ、ちゃんと警察にだな・・・」
とそこまで言うと先生はニンマリと笑った。

「人生の中で、あれ程不思議な事は無いな」と私たち生徒に語った。
 
話は突拍子もない内容なのにクラスのみんなは誰もその話が嘘だとは思わなかった。
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