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第12歩 引っ張る骨

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 パテシエのS君から聞いた話。

この話はS君が、もうすぐ4歳になるという頃、
本人は何も憶えていないが少し成長してから改めて、
お母さんから聞かされた話だという。

 S君が幼い時おばあさんが亡くなった。

お葬式が無事に済み一段落ついた頃、真夜中にS君が大声を出して泣きながら飛び起きた。
「ギャーッ!!」
お母さんも驚いて起き、どうしたのか尋ねると

「ほねが、あしひっぱるうう!」と言う。

何か怖い夢でも見たのだろうと、その日はなだめて終わった。

 次の日、また夜中に
「ギャー」叫び声を上げS君は飛び起きた。

深夜2時、昨日と同時刻だった。
お母さんは、また、なだめて二日目が終わった。

 三日目の夜中、家族は皆ぐっすり眠っていた。

「ギャアーオーーッ」張り裂けんばかりの叫び声で幼いS君は飛び上がった。

お母さんも、いよいよ、これは只事ではないと思い始め明かりを点けたまま朝を迎えた。

 お母さんは父親に相談したが父もどうしたらいいのか解らず仕事に行ってしまう。

お母さんがS君に何があったか、よく聞くと
足元のふすまから骨の手が伸びてきて足首をつか
グイッと引っ張るのだという。

 四日目の夜中、今度はS君の一歳下の弟さんが「ギャー」と叫び声をあげ飛び起きた。
つられてS君も叫び声を上げ家は大騒ぎになってしまった。

S君はやつれてくるし弟さんも足を引っ張られたと言う。
 
 お母さんは困り果てた。
 
 お母さんは知りうる友人や親類に聞いて回りアドバイスをもらった。

地域に拝み屋さんと呼ばれる【家】があり紹介してもらった。

そして子供たちを見てもらうことになった。

 お母さんはS君と弟を連れわらにもすがる思いで家を訪ねた。
そこは普通の民家で表札はあるが看板などはない家だった。

 家には中年のおばさんが一人いるだけだったが
白装束を身にまとい迎い入れてくれた。

「いらっしゃい・・・・さ、こちらへ・・どうぞ・・」

奥の祭壇がある部屋に通され座っていると、おばさんが言った。
「あなたの家のおばあさんが、あの世に逝きたいが忘れ物があるそうです、黒いくし箪笥たんすの引き出しにあるので、こちらに送ってくれとの事です」

 お母さんは早速、家に帰り箪笥を探してみると黒い櫛が見つかった。

拝み屋さんに言われた通り、その櫛を封筒に入れて海に流すと、
その晩から二度と子供たちが叫び声を上げることは無かった。
 
 数年の後その出来事を聞いても全く憶えていない我が息子二人。

お母さんは、なんだか悔しいような気がして改めて成長したS君に語ったのだという。
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