百物語 箱館「怪談」散歩(一話完結・短編集)

尾駮アスマ(オブチアスマ おぶちあすま)

文字の大きさ
上 下
10 / 101

第9歩 あんぱんの神様

しおりを挟む
 70年代後期から80年代にかけて、つっぱりブームがあり
街にヤンキーと呼ばれる若者がたくさんいた。

それでも道を踏み外すのは一部の人間だけで、つっぱりもファッションの一部だったように思う。

次の話は社会の倫理からは外れている話だが遠い昔の出来事なので大目に見て欲しい・・・

 Mさんは高校生の頃バリバリのヤンキーだった。
中型のバイクを乗り廻し仲間からも一目置かれる存在だった。

 ある日、相棒と待ち合わせをしていた。

住宅街の外れに当時でも珍しい廃墟の馬小屋があって、そこで悪い遊びをしようと企んでいた。
バイクの荷台に
―ドカン!と、お馴染みの?シンナー一斗缶を載せて馬小屋に到着した。

時刻は、もうすぐ夕方6時になろうとしていた。

一斗缶を小屋に持込み相棒の来るのを待ったが遅れているようだった。

まだ外は、うっすらと明るい。

 馬小屋には中二階があり、そこに干し草も敷いてあったりしたが長い間、馬は居ない廃墟小屋だった。

 電気はなくガラスの無い窓が有るだけの状態だった。

Mさんはハシゴを登って二階に陣取り干し草のうえに寝そべった。
「あーあ、しょっとぉ・・・」
連日の暴走、夜ふかしで急に眠気が襲ってきてウトウトしていると
 
―ドンッ!! 床が鳴った。
 
驚いて飛び起きると目の前に大きな人が立っていた。

その人は

天井まで、くっつきそうな程大きく一瞬、自分を襲いに来た敵かと思い薄暗い小屋の中で目を凝らしてよく見た。

『んっ、なんだ・・・誰だ・・・魔暴路死まぼろしの奴らか?・・・』
 
 その大きな人は上半身裸で肌の色が茶色く筋肉が隆々と盛り上がっておりニッカボッカの様なズボンを履いていた。

自分も立ち上がろうとしたが座ったまま動けない・・・。

『ううん、何かヤバイぞ』心の中で思っていると男はこちらに近づいてきた。

―ドスン、ドスン、ドスン――

足音を鳴らし大男が目の前まで来たときMさんは愕然がくぜんとした。
   
上から自分を見下ろすその人は肩までは人間だが頭部がだった。

ギョッとしたMさんは動くことができない。

大きな馬頭の男は丸い目玉を
「ギョロリ」こちらに向け無言で立っている。

そのうえキツイ獣臭けものしゅうが鼻につき背中と手のひらがジーンとしびれてきた。

「うえっ、すげぇ臭い・・・」

 その時、小屋の外から相棒のバイク音が聞こえてきて小屋の前で止まった。

―ボォウン、ボォン・・・・・

エンジン音が止まると
Mさんを見下ろしていた馬頭の大男はMさんを見つめたまま

「ニヤリ」白い歯をむき出して笑うときびすを返しから
―ひょい、と飛び出した。

大男は隣家のトタン屋根に飛び移り

―ドカンッ、ドカンッ―大きな音を立てながら屋根をぴょんぴょん飛び跳ね、ずっと遠くに行ってしまった・・・

 二階から下を見ると今、到着した相棒が上を見ながら唖然とした顔で

「今のなによ?」相棒が聞いてきた。

「お前も見たか?」聞き返すと

「隣の屋根って音したから、そっち見たら、ぴょんぴょん跳ねてったぞっ!」

自分も相棒もシラフであり幻覚では無かったことが解った。

その日はひどく疲労感があり、そのまま解散した。

 後日、Mさんは、極道の先輩のところに遊びに行った時に
先日、馬頭の大男に遭遇し驚いたと話をした。

すると先輩は口を開いた。
「それは、あんぱんの神様といって、この世界じゃ、そこそこ知られているものだ、お前このままだと死ぬぞ、もう悪い遊びやめろ」

だしぬけに説教くらったMさんは
「わがったよ、じゃあ、もう此処にも来ねぇからな」ふてくされると

「来なくていい、ヤンキーは卒業して、まともになれ」先輩はMさんをなだめた。

Mさんは馬小屋で遭った怪異だけに馬のお化けかと思っていたのだが
先輩は神様だという。

 それきり、ヤンキーを卒業した。

「ニヤっと、あれが笑った時、白い歯が見えたんだけど、あごの歯の奥に下から上に向かって生えた長い牙が左右に1本ずつあったんだよね」とMさんは付け加えた。

 地獄の従者に牛頭・馬頭がいるのを皆さんはご存知だろうか?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バベル病院の怪

中岡 始
ホラー
地方都市の市街地に、70年前に建設された円柱形の奇妙な廃病院がある。かつては最先端のモダンなデザインとして話題になったが、今では心霊スポットとして知られ、地元の若者が肝試しに訪れる場所となっていた。 大学生の 森川悠斗 は都市伝説をテーマにした卒業研究のため、この病院の調査を始める。そして、彼はX(旧Twitter)アカウント @babel_report を開設し、廃病院での探索をリアルタイムで投稿しながらフォロワーと情報を共有していった。 最初は何の変哲もない探索だったが、次第に不審な現象が彼の投稿に現れ始める。「背景に知らない人が写っている」「投稿の時間が巻き戻っている」「彼が知らないはずの情報を、誰かが先に投稿している」。フォロワーたちは不安を募らせるが、悠斗本人は気づかない。 そして、ある日を境に @babel_report の投稿が途絶える。 その後、彼のフォロワーの元に、不気味なメッセージが届き始める—— 「次は、君の番だよ」

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

怪異語り 〜世にも奇妙で怖い話〜

ズマ@怪異語り
ホラー
五分で読める、1話完結のホラー短編・怪談集! 信じようと信じまいと、誰かがどこかで体験した怪異。

たまご

蒼河颯人
ホラー
──ひっそりと静かに眺め続けているものとは?── 雨の日も風の日も晴れの日も どんな日でも 眺め続けているモノがいる あなたのお家の中にもいるかもしれませんね 表紙画像はかんたん表紙メーカー(https://sscard.monokakitools.net/covermaker.html) で作成しました。

処理中です...