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第4話 パートのえっちゃん

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 喫茶・十字街の二代目マスター、蝶名健一ちょうなけんいち
今日も元気に働いていた。

 だが、事件以来、健一の目つきは変わっていた。

壁のショットガンとグロックは知らぬ間に元の位置に戻っており
健一は警察に連行されることもなく、いつもと変わらぬ状態に戻った。

 UFO事件のあった後、三日間、店を休んだだけで
今は通常営業しており相変わらず南警察署の警官が入れ替わり昼ご飯を食べに来ていた。

健一は店に出入りする警察官のおかげで物騒な状況なのに随分と安心感を手に入れていた。

 函館南警察署に食堂は無く代わりに署の食堂として指定されているのが、ここ十字街で、あとは近所のそば屋やラーメン屋、デリバリー弁当など食事は自由だ。

 ところが最近、南警察のお抱え医師が署員の栄養面でクレームを入れてきて
健康管理の観点から、グルタミン酸Na禁止、亜硝酸Na禁止になり、グルテン見直し、そばや低糖質・低コレステロールの献立に変更が必要だということになったが
血液検査の結果が芳しくない者のみに細かい指導が行われるということで決着がつき二代目マスター健一は少し気持ちが軽くなっていた。
「ヘルシーメニュー追加だな・・・・」

 日曜日・月曜日と毎週二日、喫茶店は定休日だが南警察の北条署長が
「土曜日の夜は大事な話があるから予定は完全に空けて次の日も約束などを入れないように」と健一は命令されていた。

『オーバーだけど、一体何の話があるのかな?』
 
喫茶・十字街にはパートさんが3名いる。

 土曜日、夕方5時には店を閉め、パートのえっちゃんと洗い物と床清掃、ごみ出しをして、夜7時前には、エプロン姿のまま健一は、ようやく缶ビールを口にしていた。

 先代の頃より一番永く勤めている、えっちゃんは、とにかく働き者で朝は健一より先に出勤して仕込みを開始、ほかに2名いるのパートさんの指導もこなしてくれて実働8時間。

見た目は40代に見えるのだが実際は50をとうに超えているらしい、あらゆる面で健一のかゆい所に手が届き助かっていて、
その分、月給も25万払ったが
「こんなに要りません」半分金を突き返してきて
「では車は店で買うから自由に乗ってください」というも納得してもらえず
「先代マスターにも恩が、ありますから・・・」

一点張りの大和撫子やまとなでしこで、
先日など仕事中に、えっちゃんのお尻や胸をぼんやり見つめていた健一は
「こらっ」と、えっちゃんに軽くゲンコツをもらったりと不思議な魅力のある姉さんだった。

まったく・・・・恋人もいない健一は欲求不満もピークらしい。

 だがパートの悦子えつこには、大きな声では言えない過去があった。
 
 20年程前の事、きたいち興信所・厳道げんどうの前に刺客がやってきた。

厳道にしてみれば、もう幾人の人間をあやめたか、数え切れなくなっており、いい加減、自分に対して恨みを持つ者が何人いるのか想像もつかなくなっていた頃。

 きたいち興信所・東京出張所で確認事項をクリアしてビル街の裏通りをJRの駅に向かって歩いていた時、背中から銃声が聞こえ厳道は2発くらった。
―ビシッ、ビシッ
振り返ると、夕陽を背にして銃を構える女が1人立っている。
―ダダッ
サイボーグ化されている両足で素早く走り寄ると、更に2発撃ってきたが、厳道は怯まず相手の両手首を掴むとギュッと締め上げ、女の顔を見た、彼女の顔は涙でグシャグシャに濡れていた。
「あっ、いっ」
腕の痛さに悲鳴ともつかぬ声をあげると、彼女はあっさりと銃を地面に落とした。

「どこかで会ったか?」厳道が問うと同時に、ぐったりと彼女は座り込んでしまった。

 その日の丁度一年前、厳道は、ある不良グループに襲われ、正当防衛で若者を3名殺害し、5人ほど病院送りにしていた。

その不良グループは、もっと大きな組織の使い捨て鉄砲玉で上の人間に「厳道を殺れ」と命令されただけの当たり屋みたいな者たちだったが、その死んだ若者の一人が、今回襲ってきた女の一人息子だった。

 えっちゃんは若気の至りで15歳で出産し、親に勘当され、悪い友人に誘われるまま夜の世界に入り、新宿で、なんでもやって子供を育てた。

 自分の子供は惨めにしたくない一身だった。

やがて、銀座でも少しは知られたママにまで上り詰めた頃
潤沢なお小遣いを持った高校生の息子は目の届かない隙に悪い仲間に入り、成り行きで殺されてしまった。

厳道に・・・

 銀座のママは息子が死んで、行方をくらました。
警察の死体安置所で冷たくなった息子と対面して
怒りと悲しみで気が変になり、人脈の伝手つてで拳銃を手にいれ
息子を殺した犯人を一年がかりで見つけ出した。

「この女は、死のうとしておる・・・」

 処分に困った厳道は、北条一行ほうじょうかずゆきに相談し、彼女の身柄を預けた。

最初は話し合いにもならなかったが、北条の独断で一緒にタイムマシンに乗り、過去に彼女を連れて行き、今は亡き過去の息子を見学させ、嫁にも協力してもらい
「イタコ伺い」を行った。
彼女の息子の霊を呼び出し話をさせた。

 北条にはアガルタのテクノロジーで既に、霊体を目視し会話のできる霊視ゴーグルがあって、超能力など開花していなくとも、自分の周辺にいる霊体は確認できたし、妖怪、妖精とよばれる物の姿や神のエネルギーフィールドも目視できる代物だった。

 現れた死んだ息子は反省しきりで
「今に、また生まれ変わるので心配しないでください」
精神のおかしくなってしまった母親に最後の言葉と育ててもらった御礼を宣べると、あの世に逝ってしまった・・・

 しばらく彼女は息子の供養を続け、そのまま東北の小さな寺で過ごしていたが
元・僧の厳道と時間をかけ話し合い、和解した後、厳道も供養に同行して歩くうち、
悦子は、きたいち興信所の事を知り、悦子は諸悪の根源である組織壊滅の為、興信所の所員となって格闘技・銃器・サバイバルの訓練を受け暗殺者に生まれ変わって過ごしてきた。
 
 そうして函館の喫茶十字街・初代マスター安次郎の失踪に備え
早くからパートのおばちゃんとして潜入していた。

健一は知らないが、それが、パート従業員・えっちゃんの正体だった。

 道理で、厳道や戒道、力道が喫茶店に来ると、いつも愛想よく、お酌などして世間話が長かった。
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