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2.Ω嫌いのαと、Ωになりたくないβ編
2-3:Ω嫌いのαと、Ωになりたくないβ編3
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俺はその手を振り払うことも出来ず、視線を彷徨わせることしかできない。
だって一緒にいたい気持ちは、俺だって同じなのだから。
――けれどここで折れるわけにもいかず、心にもない言葉を口にするしかない。
「我儘言わないでよ。それとも性欲処理できない俺には、無理強いするの?」
籠理さんが体目的で交流してないことなんて、百も承知だ。
けれどこうでも言わないと、彼が諦めてくれないことも分かっている。
「っそんなこと、「じゃあ大人しく待ってて。ちゃんと戻ってくるからさ」」
言葉を最後まで聞かずに、籠理さんの襟を引っ張って素早く頬に口づける。
すると普段俺からキスなんてしないから、それだけで彼の顔は薄く染まった。
「……なら施設までは、一緒に行かせてください。少しでも一緒にいたいんです」
「それくらいならいいよ、どうせ入り口で止められると思うけど」
なんとか籠理さんが妥協してくれたところで、俺達は喫茶店を後にして歩き出す。
速度はいつもより遅いけど、それを指摘できるほど気持ちに余裕はない。
だから人通りが多い場所に出るまでは、繋いだ手も離さなかった。
病院から紹介されたΩ専門の施設に到着し、籠理さんも名残惜しそうに帰宅する。
しかしその受付で手続きをするが、すんなりと通してはもらえなかった。
「入所拒否って、どういうことですか。こっちは紹介状まであるのに」
「どうしても純粋なΩの対処が優先になってしまうんですよ、申し訳ないのですが」
情報連携がうまくできてないのか、事情持ちでもβの受入は不可だと伝えられる。
けど紹介状まで持っていたから、拒否など想定していない俺は途方に暮れた。
(確かに転換途中だから、純粋なΩより緊急性は低いけどさ)
抑制剤で症状を抑えられている俺は、確かにその辺にいるβとなんら変わらない。
しかし一度発情期が来れば、制御不能のΩと同一の存在になってしまうのに。
(けど無理を言っても、多分通らないだろうな。周りは俺より重症な人だらけだ)
深く精神を病んだのか、真っ青なΩを介助する職員がそこかしこに見受けられる。
時折トラウマを刺激されたのか、病室から耳を劈くような悲鳴まで聞こえてきた。
「空きができましたらご連絡いたしますので、今日はお引き取りください」
「……分かりました、失礼します」
むしろここにいると俺まで気が狂いそうで、今は大人しく引き下がることにした。
けれど行き先がなくなってしまい、街を宛もなく彷徨いながら途方に暮れる。
(仕方ない。Ωを受け入れてるホテルに行くかな、お金的には厳しいけど)
施設もさすがに丸腰で放り出すことはなく、民間の宿泊施設を紹介してくれた。
けれど営利企業の運営だから、料金は信じられないほど高額でもある。
――そして考え事をしている間に、恍惚とするような香りが俺の嗅覚を刺激した。
(うわ、αの匂いがする。……街って、こんなに怖い場所だったんだ)
籠理さんのものとはまた違うが、誘うような匂いがどこかから漂ってくる。
俺は建物の影に身を隠し、襟を引き上げて顔の半分を隠した。
(もう悩んでいられないな、近くのホテルに逃げ込もう)
追い詰められた思考はスマホを起動させ、ブラウザを立ち上げようと指を動かす。
だがその前に大量の着信通知が目に入り、思わず息が止まった。
「……死ぬほど籠理さんから連絡来てる。一時間で入る着信数じゃないでしょ」
施設に入る前にマナーモードにしたから、着信が入るの自体は予想していた。
だが画面が埋まるほどのそれに今は安堵し、折り返しボタンを押下する。
「もしもし籠理さん。今電話しても、……っ」
けれど通話が繋がった瞬間、俺の全身を甘ったるい痺れが支配する。
まるで媚薬でも盛られたかのように、体の奥底が熱を帯び始めた。
(まずい、発情期が来た。体質が半端だから、周期も不安定なんだ)
即座に処方された抑制剤を打つが、それでも体の自由が利かなくなっていく。
感覚ばかりが鋭くなり、見知らぬαの匂いに体が服従してしまう。
『狭間くん? もしもし、今どこにいるんですか!?』
「……そ、と。入所できなくて、そのまま発情期が来た」
籠理さんが慌てた様子で電話越しに叫び、俺も途切れ途切れに現状を報告する。
けれど彼の声すら今は毒のように聴覚を犯し、俺の理性を削り取っていく。
「こわい、たすけて籠理さん。おれ、おそわれるかもしれない」
「場所を教えてください、すぐに行きます!」
籠理さんに助けは求めないと決めていたのに、いざ危機が迫れば縋ってしまう。
矜持など恐怖の前に溶け、俺は発情しきった声で居場所を告げていた。
だって一緒にいたい気持ちは、俺だって同じなのだから。
――けれどここで折れるわけにもいかず、心にもない言葉を口にするしかない。
「我儘言わないでよ。それとも性欲処理できない俺には、無理強いするの?」
籠理さんが体目的で交流してないことなんて、百も承知だ。
けれどこうでも言わないと、彼が諦めてくれないことも分かっている。
「っそんなこと、「じゃあ大人しく待ってて。ちゃんと戻ってくるからさ」」
言葉を最後まで聞かずに、籠理さんの襟を引っ張って素早く頬に口づける。
すると普段俺からキスなんてしないから、それだけで彼の顔は薄く染まった。
「……なら施設までは、一緒に行かせてください。少しでも一緒にいたいんです」
「それくらいならいいよ、どうせ入り口で止められると思うけど」
なんとか籠理さんが妥協してくれたところで、俺達は喫茶店を後にして歩き出す。
速度はいつもより遅いけど、それを指摘できるほど気持ちに余裕はない。
だから人通りが多い場所に出るまでは、繋いだ手も離さなかった。
病院から紹介されたΩ専門の施設に到着し、籠理さんも名残惜しそうに帰宅する。
しかしその受付で手続きをするが、すんなりと通してはもらえなかった。
「入所拒否って、どういうことですか。こっちは紹介状まであるのに」
「どうしても純粋なΩの対処が優先になってしまうんですよ、申し訳ないのですが」
情報連携がうまくできてないのか、事情持ちでもβの受入は不可だと伝えられる。
けど紹介状まで持っていたから、拒否など想定していない俺は途方に暮れた。
(確かに転換途中だから、純粋なΩより緊急性は低いけどさ)
抑制剤で症状を抑えられている俺は、確かにその辺にいるβとなんら変わらない。
しかし一度発情期が来れば、制御不能のΩと同一の存在になってしまうのに。
(けど無理を言っても、多分通らないだろうな。周りは俺より重症な人だらけだ)
深く精神を病んだのか、真っ青なΩを介助する職員がそこかしこに見受けられる。
時折トラウマを刺激されたのか、病室から耳を劈くような悲鳴まで聞こえてきた。
「空きができましたらご連絡いたしますので、今日はお引き取りください」
「……分かりました、失礼します」
むしろここにいると俺まで気が狂いそうで、今は大人しく引き下がることにした。
けれど行き先がなくなってしまい、街を宛もなく彷徨いながら途方に暮れる。
(仕方ない。Ωを受け入れてるホテルに行くかな、お金的には厳しいけど)
施設もさすがに丸腰で放り出すことはなく、民間の宿泊施設を紹介してくれた。
けれど営利企業の運営だから、料金は信じられないほど高額でもある。
――そして考え事をしている間に、恍惚とするような香りが俺の嗅覚を刺激した。
(うわ、αの匂いがする。……街って、こんなに怖い場所だったんだ)
籠理さんのものとはまた違うが、誘うような匂いがどこかから漂ってくる。
俺は建物の影に身を隠し、襟を引き上げて顔の半分を隠した。
(もう悩んでいられないな、近くのホテルに逃げ込もう)
追い詰められた思考はスマホを起動させ、ブラウザを立ち上げようと指を動かす。
だがその前に大量の着信通知が目に入り、思わず息が止まった。
「……死ぬほど籠理さんから連絡来てる。一時間で入る着信数じゃないでしょ」
施設に入る前にマナーモードにしたから、着信が入るの自体は予想していた。
だが画面が埋まるほどのそれに今は安堵し、折り返しボタンを押下する。
「もしもし籠理さん。今電話しても、……っ」
けれど通話が繋がった瞬間、俺の全身を甘ったるい痺れが支配する。
まるで媚薬でも盛られたかのように、体の奥底が熱を帯び始めた。
(まずい、発情期が来た。体質が半端だから、周期も不安定なんだ)
即座に処方された抑制剤を打つが、それでも体の自由が利かなくなっていく。
感覚ばかりが鋭くなり、見知らぬαの匂いに体が服従してしまう。
『狭間くん? もしもし、今どこにいるんですか!?』
「……そ、と。入所できなくて、そのまま発情期が来た」
籠理さんが慌てた様子で電話越しに叫び、俺も途切れ途切れに現状を報告する。
けれど彼の声すら今は毒のように聴覚を犯し、俺の理性を削り取っていく。
「こわい、たすけて籠理さん。おれ、おそわれるかもしれない」
「場所を教えてください、すぐに行きます!」
籠理さんに助けは求めないと決めていたのに、いざ危機が迫れば縋ってしまう。
矜持など恐怖の前に溶け、俺は発情しきった声で居場所を告げていた。
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