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第四章 なすりつけ
六
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蔵之介は精一杯身だしなみを整えて、対面の場に臨んだ。質流れ寸前だった礼装を取り戻すには費用が必要だったが、文句を並べている場合ではなかった。
広間に通されてからずっと、蔵之介は背筋を伸ばして待っていた。
傍らの一之新もまったく動かない。
半刻ほど経ってから、薄い緑の小袖に灰色の袴といういでたちの武家が姿を見せた。痩身で、無駄な肉はいっさいついていない。
年の頃は五十ぐらいであろうか。
動きはすばやく、無言で上座に腰を下ろす姿には迫力を感じる。
「待たせたな。私が細野主水助だ。話をしたいというのは、おぬしらか」
「はっ。手前は帳面方の戸田一之新。横に控えますは、小普請の辻蔵之介でございます」
一之新が話を切り出すと、主水助は顔をしかめた。
「おぬしか。うちの年貢について文句を言ってきたのは。面倒なことをしてくれた」
「役目でございますから。出入りがあわなければ、問いただすのは当然のこと」
「だが、結局、そちらの誤りであった。五年にわたって帳面をつけ間違えていたのであろう。ならば、とやかく言う必要はあるまい」
蔵之介は、一之新を伴って、細野家の屋敷に乗り込んでいた。すべてを明らかにするには、当主と会って話をすべきと考えてのことだ。
当初、細野主水助は、申し入れを断っていたが、今日になって会うこと言い出した。どうやら裏工作がうまくいったらしい。
「さようですが、ご迷惑をかけた以上は、ぜひ会って話をしたいと思いまして」
「では、話を聞こう。いや、その前に」
主水助の瞳は蔵之介に向いた。
「なぜ、無役の旗本がそこにいる。年貢の話に口をはさんでくるのはおかしいであろう」
「さようで」
応じたのは蔵之介だった。
「本来ならばお二人で話をしていただくところですが、今回は無理を言って連れてきていただきました。大岡様から聞いていませんでしたか」
「大書状はいただいた。だが、おぬしのことは書いていなかった」
「では、何かの手違いでしょう」
蔵之介は言い切った。
書状に名がないのは当然で、彼が一之新の供をすると決めたのは昨日のことだ。知られると何かと面倒になると思ってのことで、誰にも話はしなかった。
今回、主水助と対面できるように手筈を整えてくれたのは、若年寄の大岡主膳忠固だった。彼が一之新と蔵之介と会って話を聞き、主水助を口説き落としてくれた。
普段なら、無役の小普請が若年寄に口を利いてもらうことなどありえない。そもそも面談すらできないだろう。
思いもしなかった人のつながりが幕閣の大物を動かし、事件を解決するきっかけを作ってくれた。
「実のところ、手前は戸田様から頼まれて、年貢の件を調べておりました。蔵米の数があわないのはおかしく、どこかで間違いが出ているのであろうと。それを明らかにするために、いろいろと手を尽くして調べたところ、思わぬ答えにたどり着きました」
「帳面の誤りではあろう。それはさっきも言った」
「いえ、それは、主水様と顔をあわせるための方便でございます。年貢は間違いなく足りていませんでした。正しく言わせていただければ、一部が横流しされて、下り米問屋の大和屋に流れておりました」
「いい加減なことを申すな。蔵米をごまかすなど、あってはならぬことだ」
「まったくもって、そのとおりで。ですが、主水様はやっておられた。確かめただけでも五年。おそらくはもっと前から」
「何を馬鹿な。証しはあるのか」
「いいえ。年貢の徴収がおかしいところまでは突きとめましたが、その先はさっぱりで。どうやって大和屋に横流ししているのかもつかめぬままでした」
「そんなことであろう。ありもしないものを探し出すことはできまい」
主水助は強ばった顔で二人を見やった。
「去れ。もう、これ以上、話すことはない」
「もう少しお付き合いを」
蔵之介は強引に先をつづける。
「それであきらめるのも口惜しいので、我らはもう少し調べを進めることにしました。どれぐらいごまかしたかはわからずとも、贅をこらして遊んでいるならば、それが浮いた蔵米を金に代えた結果。そのように思ったのです」
蔵之介が横目で見ると、一之新が静かに語りはじめた。
「すると妙な金の流れがあることがわかりました。細野家は京の朝廷へ物を贈っているようですな。相手は公家、地下人、さらには正体をつかむことができぬ方々。この五年は欠かさず大和屋を通じて必ず付け届けをしているようで。額もかなりの大きくなっているようで」
主水助は表情を変えなかった。黙って彼らを見ている。
「それにあわせて、京からも人が来ていますな」
蔵之介は先をつづける。その声は厳しくなっていた。
「かなりの数で、奉公人のみならず、家臣にも迎えております。今日、我らを出迎えてくれた方も、京の生まれのようで。実に、丁寧な挨拶をしていただき、感服しいたしました」
「何が言いたい」
「細野家は、京と深い結びつきがある。密かに金や物を贈り、向こうからの人を受けいれている。使いもしょっちゅう送っているようですな。時節の挨拶にしては多すぎるぐらいに」
驚くべきことに、細野家は密かに京の勢力と関係を築いていた。それも、おそろしいほどに深く。
彼らは、さながら京の出先であるかのように、江戸の情勢を調べ、事細かに京へ知らせていた。お上や諸大名の動きはもちろん、大店や職人の商いの様子、さらには町のちょっとした噂まで、そこには含まれていた。
細野家は異様なふるまいをしており、それが事件と深くかかわっていた。
主水助は、正面から蔵之介を見据えていた。その眼光はおそろしく鋭い。
「なぜ、そのようなことを言う。その話、どこて聞いた」
「我らが調べた結果でございます。誰かに教えてもらったわけではありません」
蔵之介は嘘をついた。
京との関係を知るきっかけとなったのは、桐文堂からの手紙だった。
一之新と話しあっている最中に届いたあの手紙には、細野家と京との関係が細かく記されており、うかつに踏みこむと危険であるとの警告があった。隠密まがいの人物が送り込まれているとの記述もあり、両者の結びつきが途方もなく深いことも示されていた。
桐文堂がなぜこれほどの情報を知り得たのか。
蔵之介は疑問を持ち、宗左衛門と会うことを望んだが、尋ねた日は出かけていて会うことはできなかった。翌日、改めて赴こうとしたところで、大岡からの使者が来て、翌日、大岡と会って事の次第を知ることができた。
「細野様、お上が何も気づいていないとお思いか」
蔵之介は語気を強めた。
「朝廷との関係が変わってきている今、その動きには神経を尖らせています。江戸で、京の忍びが動いていることも早々につかんでおります。細野様は、お上に躍らされていたのでございますよ」
この十年で、幕府と朝廷の関係は大きく変化していた。
これまでになく、朝廷は権威の回復を前面に押し出し、幕府に強気な態度で臨んでいた。
光格天皇は朝廷の権威を強化するための施策を矢継ぎ早に出し、四〇〇年近く途絶えていた新嘗祭の復活にもこぎ着けた。さらに、天皇号をおよそ九〇〇年ぶりに使ったことで、天皇の権威を強く打ち出す姿勢も見せた。
異国船の襲来にも神経を尖らせており、何かと幕府に意見を求めることも目立つ。
そこに、この細野家の動きである。間違いなく、時流の変化が背後にはある。
蔵之介は口の中が乾くのを感じた。
先だって偽版元の三郎も言っていた。いつまでも、同じままではいない。時は流れており、太平の世もいずれは揺らぐ。その時には今までできなかったこともできるようになっており、その時を楽しみにしていると。
それは、はるか彼方のことのように思っていたが、違うのではないか。
すでに時の流れは大きく動いており、自分が気づかないところで物事は変わってきているのではないか。
京がおとなしくしていると思ったのは幻想であり、はるかな昔からつづく血の勢力を侮ってはならないのではないか。
「ねらいは何ですか。金ですか」
「馬鹿なことを。そんなつまらぬもので、我らは動かぬ」
主水助が太い言葉で応じた。
「京のお上は、古の時より日の本を統べる尊きお方。天子の輝きがあってこそ、我らは生きていける。敬い、尽くすのは当然のこと」
「細野家は旗本でございましょう。忠義の相手を間違えていませんか」
「そも徳川家は、天子様より征夷大将軍に任じられているからこそ、天下に号令を出すことが許される。天子様が認めなければ、単なる武家でしかない。どちらが尊いかははっきりしている」
主水助の口調にためらいはなかった。本気で天皇を尊んでいる。
蔵之介の背筋が冷たいものが流れる。
天下の旗本が幕府をここまで下に見るとは。
信じられない。
そこまで朝廷に入れ込んでいるのか。それとも他にわけがあるのか。
「お上が嗅ぎ回っていることは承知していた。だから静かにしているつもりだったが、おぬしたちが出てきて、それもできなくなった。年貢のごまかしを探られるのはうまくない。すべてが露見する前に、おぬしたちを始末するつもりで動いたのだが、どうやら焦ったようだな」
「襲ってきたのは、あなたの家臣か」
「違う。我らがあの方々を使うことなど許されぬ。ただお願いしただけだ」
「では、あれが京の隠密か。口封じのために仕掛けてきたわけか」
「……」
「だんまりが通用するとお思いか」
「……始末し損ねたところで、すべては終わった。我らのは打つ手を誤った」
「ならば、罪を認めて、すべてを白状するか」
「何を言うか。我らは何も悪いことはしておらぬ。ただ、事の次第を知られぬようにするのみ」
主水助は脇差を手に取った。
「されど、その前におぬしらの命いただく」
主水助はぱっと立ちあがり、脇差を抜いて、蔵之介に飛びかかってきた。
すさまじい速さであり、彼が剣技に長けていることがわかる。
蔵之介は、帯の隙間から寸鉄を取りだすと、上からの一撃を食い止めた。その勢いで胸をついて、主水助を押し返す。
蔵之介はその腕をつかんで取り押さえようとしたが、それよりも早く主水助は下がり、上座で膝をついて首筋に脇
差を当てる。
「いけない」
蔵之介は声をあげる。
その直後、主水の刀が動いて、首筋から血が奔流となってあふれだし、客間を赤く染めた。
蔵之介は、何もできず、崩れ落ちる主水助の身体をただ見ていた。
広間に通されてからずっと、蔵之介は背筋を伸ばして待っていた。
傍らの一之新もまったく動かない。
半刻ほど経ってから、薄い緑の小袖に灰色の袴といういでたちの武家が姿を見せた。痩身で、無駄な肉はいっさいついていない。
年の頃は五十ぐらいであろうか。
動きはすばやく、無言で上座に腰を下ろす姿には迫力を感じる。
「待たせたな。私が細野主水助だ。話をしたいというのは、おぬしらか」
「はっ。手前は帳面方の戸田一之新。横に控えますは、小普請の辻蔵之介でございます」
一之新が話を切り出すと、主水助は顔をしかめた。
「おぬしか。うちの年貢について文句を言ってきたのは。面倒なことをしてくれた」
「役目でございますから。出入りがあわなければ、問いただすのは当然のこと」
「だが、結局、そちらの誤りであった。五年にわたって帳面をつけ間違えていたのであろう。ならば、とやかく言う必要はあるまい」
蔵之介は、一之新を伴って、細野家の屋敷に乗り込んでいた。すべてを明らかにするには、当主と会って話をすべきと考えてのことだ。
当初、細野主水助は、申し入れを断っていたが、今日になって会うこと言い出した。どうやら裏工作がうまくいったらしい。
「さようですが、ご迷惑をかけた以上は、ぜひ会って話をしたいと思いまして」
「では、話を聞こう。いや、その前に」
主水助の瞳は蔵之介に向いた。
「なぜ、無役の旗本がそこにいる。年貢の話に口をはさんでくるのはおかしいであろう」
「さようで」
応じたのは蔵之介だった。
「本来ならばお二人で話をしていただくところですが、今回は無理を言って連れてきていただきました。大岡様から聞いていませんでしたか」
「大書状はいただいた。だが、おぬしのことは書いていなかった」
「では、何かの手違いでしょう」
蔵之介は言い切った。
書状に名がないのは当然で、彼が一之新の供をすると決めたのは昨日のことだ。知られると何かと面倒になると思ってのことで、誰にも話はしなかった。
今回、主水助と対面できるように手筈を整えてくれたのは、若年寄の大岡主膳忠固だった。彼が一之新と蔵之介と会って話を聞き、主水助を口説き落としてくれた。
普段なら、無役の小普請が若年寄に口を利いてもらうことなどありえない。そもそも面談すらできないだろう。
思いもしなかった人のつながりが幕閣の大物を動かし、事件を解決するきっかけを作ってくれた。
「実のところ、手前は戸田様から頼まれて、年貢の件を調べておりました。蔵米の数があわないのはおかしく、どこかで間違いが出ているのであろうと。それを明らかにするために、いろいろと手を尽くして調べたところ、思わぬ答えにたどり着きました」
「帳面の誤りではあろう。それはさっきも言った」
「いえ、それは、主水様と顔をあわせるための方便でございます。年貢は間違いなく足りていませんでした。正しく言わせていただければ、一部が横流しされて、下り米問屋の大和屋に流れておりました」
「いい加減なことを申すな。蔵米をごまかすなど、あってはならぬことだ」
「まったくもって、そのとおりで。ですが、主水様はやっておられた。確かめただけでも五年。おそらくはもっと前から」
「何を馬鹿な。証しはあるのか」
「いいえ。年貢の徴収がおかしいところまでは突きとめましたが、その先はさっぱりで。どうやって大和屋に横流ししているのかもつかめぬままでした」
「そんなことであろう。ありもしないものを探し出すことはできまい」
主水助は強ばった顔で二人を見やった。
「去れ。もう、これ以上、話すことはない」
「もう少しお付き合いを」
蔵之介は強引に先をつづける。
「それであきらめるのも口惜しいので、我らはもう少し調べを進めることにしました。どれぐらいごまかしたかはわからずとも、贅をこらして遊んでいるならば、それが浮いた蔵米を金に代えた結果。そのように思ったのです」
蔵之介が横目で見ると、一之新が静かに語りはじめた。
「すると妙な金の流れがあることがわかりました。細野家は京の朝廷へ物を贈っているようですな。相手は公家、地下人、さらには正体をつかむことができぬ方々。この五年は欠かさず大和屋を通じて必ず付け届けをしているようで。額もかなりの大きくなっているようで」
主水助は表情を変えなかった。黙って彼らを見ている。
「それにあわせて、京からも人が来ていますな」
蔵之介は先をつづける。その声は厳しくなっていた。
「かなりの数で、奉公人のみならず、家臣にも迎えております。今日、我らを出迎えてくれた方も、京の生まれのようで。実に、丁寧な挨拶をしていただき、感服しいたしました」
「何が言いたい」
「細野家は、京と深い結びつきがある。密かに金や物を贈り、向こうからの人を受けいれている。使いもしょっちゅう送っているようですな。時節の挨拶にしては多すぎるぐらいに」
驚くべきことに、細野家は密かに京の勢力と関係を築いていた。それも、おそろしいほどに深く。
彼らは、さながら京の出先であるかのように、江戸の情勢を調べ、事細かに京へ知らせていた。お上や諸大名の動きはもちろん、大店や職人の商いの様子、さらには町のちょっとした噂まで、そこには含まれていた。
細野家は異様なふるまいをしており、それが事件と深くかかわっていた。
主水助は、正面から蔵之介を見据えていた。その眼光はおそろしく鋭い。
「なぜ、そのようなことを言う。その話、どこて聞いた」
「我らが調べた結果でございます。誰かに教えてもらったわけではありません」
蔵之介は嘘をついた。
京との関係を知るきっかけとなったのは、桐文堂からの手紙だった。
一之新と話しあっている最中に届いたあの手紙には、細野家と京との関係が細かく記されており、うかつに踏みこむと危険であるとの警告があった。隠密まがいの人物が送り込まれているとの記述もあり、両者の結びつきが途方もなく深いことも示されていた。
桐文堂がなぜこれほどの情報を知り得たのか。
蔵之介は疑問を持ち、宗左衛門と会うことを望んだが、尋ねた日は出かけていて会うことはできなかった。翌日、改めて赴こうとしたところで、大岡からの使者が来て、翌日、大岡と会って事の次第を知ることができた。
「細野様、お上が何も気づいていないとお思いか」
蔵之介は語気を強めた。
「朝廷との関係が変わってきている今、その動きには神経を尖らせています。江戸で、京の忍びが動いていることも早々につかんでおります。細野様は、お上に躍らされていたのでございますよ」
この十年で、幕府と朝廷の関係は大きく変化していた。
これまでになく、朝廷は権威の回復を前面に押し出し、幕府に強気な態度で臨んでいた。
光格天皇は朝廷の権威を強化するための施策を矢継ぎ早に出し、四〇〇年近く途絶えていた新嘗祭の復活にもこぎ着けた。さらに、天皇号をおよそ九〇〇年ぶりに使ったことで、天皇の権威を強く打ち出す姿勢も見せた。
異国船の襲来にも神経を尖らせており、何かと幕府に意見を求めることも目立つ。
そこに、この細野家の動きである。間違いなく、時流の変化が背後にはある。
蔵之介は口の中が乾くのを感じた。
先だって偽版元の三郎も言っていた。いつまでも、同じままではいない。時は流れており、太平の世もいずれは揺らぐ。その時には今までできなかったこともできるようになっており、その時を楽しみにしていると。
それは、はるか彼方のことのように思っていたが、違うのではないか。
すでに時の流れは大きく動いており、自分が気づかないところで物事は変わってきているのではないか。
京がおとなしくしていると思ったのは幻想であり、はるかな昔からつづく血の勢力を侮ってはならないのではないか。
「ねらいは何ですか。金ですか」
「馬鹿なことを。そんなつまらぬもので、我らは動かぬ」
主水助が太い言葉で応じた。
「京のお上は、古の時より日の本を統べる尊きお方。天子の輝きがあってこそ、我らは生きていける。敬い、尽くすのは当然のこと」
「細野家は旗本でございましょう。忠義の相手を間違えていませんか」
「そも徳川家は、天子様より征夷大将軍に任じられているからこそ、天下に号令を出すことが許される。天子様が認めなければ、単なる武家でしかない。どちらが尊いかははっきりしている」
主水助の口調にためらいはなかった。本気で天皇を尊んでいる。
蔵之介の背筋が冷たいものが流れる。
天下の旗本が幕府をここまで下に見るとは。
信じられない。
そこまで朝廷に入れ込んでいるのか。それとも他にわけがあるのか。
「お上が嗅ぎ回っていることは承知していた。だから静かにしているつもりだったが、おぬしたちが出てきて、それもできなくなった。年貢のごまかしを探られるのはうまくない。すべてが露見する前に、おぬしたちを始末するつもりで動いたのだが、どうやら焦ったようだな」
「襲ってきたのは、あなたの家臣か」
「違う。我らがあの方々を使うことなど許されぬ。ただお願いしただけだ」
「では、あれが京の隠密か。口封じのために仕掛けてきたわけか」
「……」
「だんまりが通用するとお思いか」
「……始末し損ねたところで、すべては終わった。我らのは打つ手を誤った」
「ならば、罪を認めて、すべてを白状するか」
「何を言うか。我らは何も悪いことはしておらぬ。ただ、事の次第を知られぬようにするのみ」
主水助は脇差を手に取った。
「されど、その前におぬしらの命いただく」
主水助はぱっと立ちあがり、脇差を抜いて、蔵之介に飛びかかってきた。
すさまじい速さであり、彼が剣技に長けていることがわかる。
蔵之介は、帯の隙間から寸鉄を取りだすと、上からの一撃を食い止めた。その勢いで胸をついて、主水助を押し返す。
蔵之介はその腕をつかんで取り押さえようとしたが、それよりも早く主水助は下がり、上座で膝をついて首筋に脇
差を当てる。
「いけない」
蔵之介は声をあげる。
その直後、主水の刀が動いて、首筋から血が奔流となってあふれだし、客間を赤く染めた。
蔵之介は、何もできず、崩れ落ちる主水助の身体をただ見ていた。
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