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最終章 最高の逆転劇
78話 こんな素敵な朝が修羅場に変わるなんて思ってもいなかった
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「いや、でもさすがにまずくないかな?」
「何を言ってるんですか。タオルを巻いたら平気です。さあ、お風呂に入りますよ!!」
「タオルを巻いていてもだめだろう!! あの風呂じゃ、ほとんど抱き合ってるのと変わらんぞ」
「何言ってるんですか。温泉に行くんですよ」
あの小さな風呂に二人で入るのかと思ったが、そうではないらしい。
ミーノ曰く、村はずれに温泉があって、そこにいくつもりのようだった。
ミーノは準備を済ませると、俺の手を引くようにして温泉に向かった。
ついてみると、天然の温泉のようで、地面から水が湧き出して、一帯に湯気が立ち込めている。湧き出したお湯が、川に合流する途中で、地面を深く掘って岩で囲ったところがある。その隣に古い小屋が立っており、中は二つに仕切られている。着替えるだけの小屋のようで、壁に棚が吊ってある以外は、がらんとしていた。
俺はそこで服を脱ぐと、腰にタオルを巻いて外に出た。
「ところで、ヤグラ君ヘビは好みますか?」
「ヘビ? 別に好みはしないけど、今日の晩ご飯はヘビなのか?」
「いえ、そういうわけではないんですけど……それなら、ヘビを捕まえたり、下ろしたりしたことはありますか?」
ミーノはバスタオルで胸元から、足先をすっぽり覆っていた。背が低く、足元までタオルが巻き付いているから、歩きづらそうだった。それを大胆につかつか歩くから、タオルの切れ目から細い太ももがちらりと覗く。
「そんな恐ろしいことはしたことがない。今度のクエストはヘビ皮を採取するのか?」
「そういうわけじゃないですよ。まあ、とにかく入りましょう」
ミーノはそう言って、岩に腰を下ろすと、温泉に足先を浸けた。
「入浴料は要らないのか?」
「別に誰のものでもありませんし」
「俺たち以外に人はいないな」
「去年、大蛇の巣が近くにできてから、来る人が少なくなりました」
「ああ、それでさっきからヘビだ、ヘビだって言ってたのか。ってか、危ないな!!」
俺は恐ろしくなって周囲を見渡した。
「平気ですよ。大蛇って言っても、十メートルを超す超級大蛇ですから、巻きつかれたときには首の骨が折れて死んでますよ。痛がる暇もありません」
「それは安心だこと……」
俺はなるべく温泉の中央で、身を縮めていた。
適当に温まったところで、俺はそそくさと温泉から出た。ミーノに見られないように、頭と体を洗うと、体を拭いて小屋に戻る。
ミーノは長風呂が好きなようで、俺が上がってからもゆっくりと温泉に浸かっていた。その間「ヤグラ君、ちゃんとそこでじっとしていますよね?」と、小屋の方を向いて叫んだ。
俺が目を離したすきに泥棒をしないかと警戒している。
俺はそれよりも大蛇が心配で仕方なかったのだが、肝が据わってるのか、何か太刀打ちする術があるのか、ミーノは悠々と風呂に入っていた。
温泉から戻ると、ミーノは初めから客間に自分の分の布団を敷いた。いつもは、怪談話をした後で、怖くなって布団に入ってくるのだが、その日は最初から俺と同じ部屋で寝るつもりのようだ。
本当に四六時中監視するつもりなのだろう。
俺としてはずっと一緒にいた方が、村人から奇襲を受けずに済む。俺が梅干し泥棒だと自白したのはミーノだけだが、村人は根拠もなくよそ者の俺を疑っている。だから、どちらにしても油断できないのだ。
「じゃあ、今日はもう寝ましょうか。せっかく、ヤグラ君がこの村にいてくれるので、明日もクエストをこなしましょう」
ミーノは張り切った声を出した。
「そうだな」
「おやすみなさい」
明かりを消すと周囲は真っ暗になった。俺はもぞもぞとミーノが寝返りを打つ音を聞きながら眠りについた。
翌日、俺はミーノに揺すられて目を覚ました。具体的な時間は分からないが、太陽の角度からしてまだ早朝のようだった。
「ヤグラ君起きてください」
「ん……今日はまた馬鹿に早起きだな」
「当然ですよ。昼からクエストに行こうと思ったら、畑仕事も手伝ってもらいますからね」
「泊めてもらってるんだし、仕事を手伝うのはいいけど、それにしたって早いよ」
俺はこのときまで、こんな素敵な朝が修羅場に変わるなんて思ってもいなかった。
「そんなことありません。朝ご飯の支度をしなきゃ。ぐずぐずしてると、ムゥくんがお寺に行っちゃいます」
ミーノの弟は今年から、お寺に読み書きを習いに行っているそうだ。ミーノ自身は読み書き、特に書く方が苦手なこともあって、熱心に弟を寺にやっている。
「分かった。起きるよ、起きる」
俺は布団の上にあぐらをかくと、眠気を飛ばすように頭を振った。
「じゃあ、私は井戸で水を汲んできますね」
「何を言ってるんですか。タオルを巻いたら平気です。さあ、お風呂に入りますよ!!」
「タオルを巻いていてもだめだろう!! あの風呂じゃ、ほとんど抱き合ってるのと変わらんぞ」
「何言ってるんですか。温泉に行くんですよ」
あの小さな風呂に二人で入るのかと思ったが、そうではないらしい。
ミーノ曰く、村はずれに温泉があって、そこにいくつもりのようだった。
ミーノは準備を済ませると、俺の手を引くようにして温泉に向かった。
ついてみると、天然の温泉のようで、地面から水が湧き出して、一帯に湯気が立ち込めている。湧き出したお湯が、川に合流する途中で、地面を深く掘って岩で囲ったところがある。その隣に古い小屋が立っており、中は二つに仕切られている。着替えるだけの小屋のようで、壁に棚が吊ってある以外は、がらんとしていた。
俺はそこで服を脱ぐと、腰にタオルを巻いて外に出た。
「ところで、ヤグラ君ヘビは好みますか?」
「ヘビ? 別に好みはしないけど、今日の晩ご飯はヘビなのか?」
「いえ、そういうわけではないんですけど……それなら、ヘビを捕まえたり、下ろしたりしたことはありますか?」
ミーノはバスタオルで胸元から、足先をすっぽり覆っていた。背が低く、足元までタオルが巻き付いているから、歩きづらそうだった。それを大胆につかつか歩くから、タオルの切れ目から細い太ももがちらりと覗く。
「そんな恐ろしいことはしたことがない。今度のクエストはヘビ皮を採取するのか?」
「そういうわけじゃないですよ。まあ、とにかく入りましょう」
ミーノはそう言って、岩に腰を下ろすと、温泉に足先を浸けた。
「入浴料は要らないのか?」
「別に誰のものでもありませんし」
「俺たち以外に人はいないな」
「去年、大蛇の巣が近くにできてから、来る人が少なくなりました」
「ああ、それでさっきからヘビだ、ヘビだって言ってたのか。ってか、危ないな!!」
俺は恐ろしくなって周囲を見渡した。
「平気ですよ。大蛇って言っても、十メートルを超す超級大蛇ですから、巻きつかれたときには首の骨が折れて死んでますよ。痛がる暇もありません」
「それは安心だこと……」
俺はなるべく温泉の中央で、身を縮めていた。
適当に温まったところで、俺はそそくさと温泉から出た。ミーノに見られないように、頭と体を洗うと、体を拭いて小屋に戻る。
ミーノは長風呂が好きなようで、俺が上がってからもゆっくりと温泉に浸かっていた。その間「ヤグラ君、ちゃんとそこでじっとしていますよね?」と、小屋の方を向いて叫んだ。
俺が目を離したすきに泥棒をしないかと警戒している。
俺はそれよりも大蛇が心配で仕方なかったのだが、肝が据わってるのか、何か太刀打ちする術があるのか、ミーノは悠々と風呂に入っていた。
温泉から戻ると、ミーノは初めから客間に自分の分の布団を敷いた。いつもは、怪談話をした後で、怖くなって布団に入ってくるのだが、その日は最初から俺と同じ部屋で寝るつもりのようだ。
本当に四六時中監視するつもりなのだろう。
俺としてはずっと一緒にいた方が、村人から奇襲を受けずに済む。俺が梅干し泥棒だと自白したのはミーノだけだが、村人は根拠もなくよそ者の俺を疑っている。だから、どちらにしても油断できないのだ。
「じゃあ、今日はもう寝ましょうか。せっかく、ヤグラ君がこの村にいてくれるので、明日もクエストをこなしましょう」
ミーノは張り切った声を出した。
「そうだな」
「おやすみなさい」
明かりを消すと周囲は真っ暗になった。俺はもぞもぞとミーノが寝返りを打つ音を聞きながら眠りについた。
翌日、俺はミーノに揺すられて目を覚ました。具体的な時間は分からないが、太陽の角度からしてまだ早朝のようだった。
「ヤグラ君起きてください」
「ん……今日はまた馬鹿に早起きだな」
「当然ですよ。昼からクエストに行こうと思ったら、畑仕事も手伝ってもらいますからね」
「泊めてもらってるんだし、仕事を手伝うのはいいけど、それにしたって早いよ」
俺はこのときまで、こんな素敵な朝が修羅場に変わるなんて思ってもいなかった。
「そんなことありません。朝ご飯の支度をしなきゃ。ぐずぐずしてると、ムゥくんがお寺に行っちゃいます」
ミーノの弟は今年から、お寺に読み書きを習いに行っているそうだ。ミーノ自身は読み書き、特に書く方が苦手なこともあって、熱心に弟を寺にやっている。
「分かった。起きるよ、起きる」
俺は布団の上にあぐらをかくと、眠気を飛ばすように頭を振った。
「じゃあ、私は井戸で水を汲んできますね」
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