逆転の異世界生活~最強のチートスキルは『蠕動運動』でした。最高の逆転劇を見せてやる

先川(あくと)

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最終章 最高の逆転劇

76話 ミーノの優しさ

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「種はだなあ……川に捨てたよ……」
「どこの川ですか? 拾える分だけ拾ってきてください」
「拾うのか!?」
 俺は素っ頓狂な声を出した。

「そりゃ、種は毎年全部集めて、祭壇に奉納するんですから」

 異世界とは厄介なものだ。種の始末にまで口出しされたんじゃ、嘘をつくのも一苦労だ。
 それにしてもまずい。

 俺は唾をゴクリと飲んだ。うまく泥棒に成りすましていても、種が拾ってこられないとなると、今までの嘘が全部ばれてしまう。嘘がバレればさっきの巾着の結び目のような口はなんだという話になる。やはりイソギンチャクの化け物か、餅巾着の怨念かという話になる。

 そこまで問い詰められたらもう言い逃れはできない。

 正直に、お尻の穴が口の真ん中についてるなんて言った日には、今までの信頼関係も、すべて水の泡だ。

「いや、川に捨てたんじゃなかった。全部飲み込んだんだった」
「全部飲み込んだ!? あれだけ大量の種を呑み込んだら、胃に詰まって死んじゃいますよ!! 馬鹿ですねえ、今吐き出し草を煎じてあげますから、全部出してください」
「吐き出し草はいいよ!!」
 俺は慌てて立ち上がったミーノの服を掴んだ。吐き出し草なんか飲まされた日には、いよいよ何が出てくるか分からない。

「よくありません」

「良いんだよ。俺って、胃がこんなに膨らむタチでさ、いくら種を飲み込んだって、順に消化されるよ」
 俺は相撲取りを抱えるように手を広げた。
「あのねえ、人の胃ってのはタチで膨らんだり、縮んだりするもんじゃないんですよ?」
「それが膨らむから世間は広いさ。な? 俺が良いって言うから、良いだろ? それより、俺はもう今回のことですっかり懲りたんだ。何か、罪を償う方法を一緒に考えてくれよ」

 俺が反省したところを見せると、ミーノは納得したように腰を下ろした。

「そうですねえ……梅干しはどこの村でも必需品ですから、市場に並ぶことも滅多にありません。豊作の年なら、王都の市場で買えるかもしれませんけど、それだって千リラや二千リラで買えるものじゃありませんし、山奥の誰も採らないような梅の木を探すにしても、少し時期が遅いですからね……」
「だよな。それで、俺はどうやって償えばいいと思う?」

 俺はその方面に話を進める。

「やっぱりお金で償うしかないんじゃありませんか?」
「それは大体いくらくらいだ?」
「うーん、安く見積もっても、二万リラくらいでしょうか?」

「二万リラ!?」

 それはいくら何でも高すぎる。二百リラくらいなら、弁償してもいいと思っていたが、その百倍はどうやっても払える金額ではなかった。

「厳しいとは思いますけど、こればっかりはクエストをこなして、ちょっとずつ貯めて返すしかありませんね」
「それまで俺はどうすればいい? 高跳びしようか、それとも亡命しようか?」
 ミーノは哀れむような目を俺に向けたが、最後には諦めたようにため息をついた。

「仕方ありません。それだけのお金ができるまでは、村のみんなには黙っておいてあげます。だって、そうでしょう? そりゃあ、どこか遠いところで隠れながらお金を稼いだら、安全に弁償できるかもしれませんけど、ヤグラ君はミーノが見張ってなきゃ、また悪い病気が出て、何か盗るかもしれません」

 盗らない。絶対だ。俺は人の物を盗っちゃうような男じゃないのだが、病的窃盗魔を自任する身としては、言い訳もできない。最悪、ミーノが黙っていてくれるなら、俺が怪しまれる筋合いはない。実際には盗っていないのだから、目撃情報が出る心配もない。
 俺としては、顔を見られた言い逃れさえできればいいわけで、あとは今まで通り暮らしていけばいい。
「分かった。この村にとどまって、弁償できるようお金を貯めることにするよ」
「その間、決してミーノの側を離れないこと!! 私の目の届くところでは、そんなお行儀の悪いことさせませんからね?」
「ありがとう……」
 俺はそのときだけは本心から礼を言った。ミーノが昨日言った「ずっと味方でいる」という言葉がとても頼もしく思えた。
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