逆転の異世界生活~最強のチートスキルは『蠕動運動』でした。最高の逆転劇を見せてやる

先川(あくと)

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最終章 最高の逆転劇

66話 珍しく遅刻したミーノ

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 男は人だかりを避けるように背を丸めて歩いていたが、俺が尻に水を漬けて涼をとれ、と言うと、びっくりしたような顔をした。多くの人は、そこで何か言葉を交わすのだが、そいつは黙って頷くと、大勢が尻を漬けている水槽に僅かなスペースを見つけて、尻を突っ込んだ。全く気が進まないが、変に目立つよりは大人しく言うことに従おうと言った様子だった。

 俺は隣でおべんちゃらの一つも言おうと、愛想笑いを浮かべていたが、そいつは俺が褒めようと、おだてようと口をきこうとしない。

 どうも口に物が入っているらしく、しかめっ面をして膨らました頬を指さした。口に物が入っているなら、無理に喋ることはないと思って、俺はその男から離れていた。

 そいつはしばらくじっと涼んでいたが、頃合いを見て水槽から尻をあげた。
男は帰り際にプッと口の中の物を吐き捨てた。近づいてよく見ると、それは何か果物の種のようだった。

「なんだ、アンズかビワか何か食ってたのか」
 果物だったとなると、不審にも思えなかったので、気にしないことにした。
 俺が二三十人の濡れ尻主義者を作り出した頃、誰かが俺の肩を叩いた。

「ねえ、ヤグラ君何してるんですか?」

 振り返るとミーノが怪訝な顔をして立っている。半身になって、重心を後ろに残し、顔だけ俺の方へ向けている。俺の意味不明な行動に、話しかけようか迷ったらしい。ことと次第によっては即座に距離を取り、他人のふりをする気のようだ。
「いや、ちょっと色々あってな……」
 俺は言葉を濁した。

「あんまり水飲み場で遊んではいけませんよ。ここはお馬さんが水を飲む場所なんですから」
 ミーノは水飲み場に近づいていくと「はーい、みなさん散って散って!! お馬さんが水飲めないでしょ!!」と言って、通行人を追い払ってしまった。
 通行人は至極真っ当な意見に冷静さを取り戻したらしく、俺を見る目が一瞬にして険しくなる。

「ほら、やっぱりヤグラ君が何か教え込んだんでしょ。みんな睨んでますよ」
「さっきまでは知恵のある若者だと感心されてたんだけどな……」
「お馬さんの水を汚しちゃ知恵があってもいけません!! 水を新しくすること」
 俺はミーノに叱られながら、井戸で水を汲み、水槽の水を張り替えた。
 その間、ミーノは木陰に座って、服を摘まんでパタパタやってる。

 確かに今日は暑い。

 今年一番の暑さだ。暑いからこそ、俺のたくらみが成功したのだ。とはいえ、ミーノの仕草はあまりにも無防備だった。襟首から風を通しているようだが、大きく開いた胸元からわずかな膨らみが見え隠れする。
 これは良くないと思って、俺は咄嗟に目を反らした。
「それはそうと遅れてすみません。村で揉め事があって、どうも家を出にくい雰囲気だったんです」

 ミーノはこの暑い中、走ってきたらしい。顔中に汗を浮かべているが、その量が尋常じゃない。冷蔵庫から出してきた顔が結露したみたいになっている。
「揉め事?」

「え、ええ。その話はあとでしましょう。とりあえず今日は下級モンスターの討伐ですね。初めての討伐クエストなので張り切っていきましょう!!」

 ミーノは気持ちを切り替えるように、腕まくりをしたが、ふと何かに気が付くと、疑い深い視線を道端に投げかけた。

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