逆転の異世界生活~最強のチートスキルは『蠕動運動』でした。最高の逆転劇を見せてやる

先川(あくと)

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最終章 最高の逆転劇

64話 ミーノとの待ち合わせ

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 ミーノの住むシリンキ村は王都へと続く街道に接している。その街道には馬が水を飲むための水飲み場があり、井戸から汲み上げた水を貯めておく石造りの水槽が設けられている。おれはその水槽に腰掛けてミーノを待っていた。
物流の要所でもあり、俺のような土地勘のない人間には貴重な待ち合わせ場所でもある。
 なんせ街道の周辺は似たような集落が続き、他に目印になるものは一つもないのだ。

 いや、一つだけある。

 その一つというのは村の境界線を定めた標石で、村と村の間、特に山や池の利用をめぐって度々争いが起きているようなところには、腰の高さほどの石塔を見かけることが多い。
 しかし、この標石は待ち合わせ場所には適さない。

 一度、この標石の前で待ち合わせをしていたら「隣村の野郎が標石を動かそうとしている!!」と威勢のいい若い連中に追いかけまわされた。

 俺は必死で逃げたが、奴らの足が馬鹿みたいに早くて一瞬で捕まってしまった。後はもう袋叩きにされるしかない。

 幸い隣村とは言え、誰も俺の顔を知らなかったのと、あまりにも俺が弱いため、「こんな男が標石を動かせるはずもない」と判断され、たんこぶと青あざ二十二個で許してもらった。それ以来、標石を待ち合わせ場所にするのはやめて、馬の水飲み場で待ち合わせしている。

 街道は王都に近い分、人の往来は激しく、何人もの商人が立ち寄り、馬に水を飲ませて去っていく。そろそろミーノが来てもおかしくない頃で、俺はシリンキ村の方を向いて、彼女の姿を探していた。

 商人の一人が声をかけてきたのはそのときだった。


 
「お兄ちゃん、それ、大丈夫かい?」
 気の良さそうなおじさんで、砂埃にまみれた顔をタオルで拭っている。
「え、ええ、大丈夫です」
 彼が何を心配しているのか分からなかったが、話を合わせておくことにした。

 この世界に来てから、大半の会話はうまく話が通じない。価値観も違えば、生きてきた背景も違うから、言葉が通じれば何でも理解し合えるというものでもない。そのたびに一々聞き返していれば、頭がおかしいと思われるから、俺はよく分かったふりをしていた。

「そうかなあ、どう考えても気になると思うけどなあ」
 俺がいかにも大丈夫そうに微笑み返したというのに、おじさんは俺の様子をやたらと気にしている。

「え……ま、まあ大丈夫っすよ」

「いいや、絶対気持ち悪いよ」
「大丈夫って言ってるじゃないですか」
 俺は頑なに平気なフリをした。
「気づいてないのかなあ。いや、気づいてないはずないと思うけどなあ……。お兄ちゃん、尻が水槽に浸かってるよ?」
「あ、ああ」
 商人のおじさんは俺の、濡れて色の濃くなったズボンを指さした。よほど人が良いのだろう。布で口元を覆った不審な男でも、尻が濡れているのが心配なのだから。

「大丈夫です! お気遣いなく!!」

 俺は爽やかな笑みを浮かべて手を振る。
 実は先ほど馬の水飲み場に尻を突っ込んで水を飲んでいたところだった。
 俺は消化管が上下逆についているため、水分補給はケツから行うしかない。しかし、人間の作りだした道具はどれもケツから水を飲むようには設計されていないから、コップも水筒も使い物にならない。
 それに喫茶店や酒場に入って、ズボンを下ろして、尻の割れ目の間にコップをあてがうなんて真似は余程の目立ちたがり屋か、世間を心底憎んでいる人間じゃなきゃできない。
 
 断っておくが、尻の割れ目には口がついているから汚くはない。おれはさっきから汚い話はしていないのだ。口から水を飲むという最も涼やかで清々しい行為について話をしているのだ。もし俺の話を汚いとか気持ち悪いとか思う人がいたら、口が尻の割れ目についていることに理解が追いついていないだけだ。
「そう? 誰でもお尻が濡れてるのは気持ち悪いと思うけどなあ」
 
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