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三章 クジ引き国王とツンデレメイドゾンビの幽霊
58話 そのうえ今度は牛フンだ!!
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「ミタカさんは物を浮かす能力があるんですよね」
「幽霊だからね」
「それは今も健在ですか?」
「うわっ! ちょっ!! イテっ」
ミタカさんは俺の身体を五十センチほど浮遊させた。俺は身をかがめる暇もなく、天井に頭をぶつけた。
「ふふふ。ご覧の通りよ」
「オーケーです。それなら、教会の窓から俺があるものを掲げるので、それをどんどん浮遊させていってください」
「あるもの?」
「見ればわかると思います。俺、窓から見えるようにしておきますから、それに気が付いたら、どんどんそれを浮遊させてください。次から次へと掲げますから、一つ残らず浮遊させていってください」
「分からないわねえ。それに何の意味があるの?」
「あとできっと説明します」
ミタカさんはあきらめたようにため息をつくと、なげやりに聞いた。
「それで、どれくらい高くまで浮遊させればいいの?」
「それはもうできるだけ高く。一度にあげるわけではないので、一つ一つの高さはまちまちになると思いますけど、それで構いません。どこまでも高く浮遊させていってください」
「はいはい。まあ、やってみるわ」
「おい、そろそろいいか?」
時間切れだった。アゴヒゲはゆっくりとした足取りで俺に近づいてきた。
「ミタカさん」
俺は最後に言った。
「きっとお湯はそこまで熱くないと思います。そりゃあ、少しは熱いと思いますけど、あたため過ぎたお風呂だと思ってください。一瞬で石ころを掴みだせば、もしかしたらヤケドしないかもしれません」
「そうかしら」
「それだけお願いします」
「いつまで喋ってんだよ。そろそろ出ろ!!」
俺はアゴヒゲに摘まみだされた。言いたいことは全部言えただろうか。
俺はミーノと落ち合って、教会の屋根から神明裁判が始まるのを待った。
時刻が近づくにつれて、教会は慌ただしくなった。神父やシスターが大きな鍋を運び出し即席の炉を作った。
フリアーナ六世が近衛兵を連れて二階へと上がっていくところを見た。礼拝堂を見渡せる部屋から結果を見届けるみたいだ。定刻の三十分前にはコフネさんも現れ、準備に参加した。コフネさんはお願いしたことをやり遂げてくれただろうか。十分前になるとぽつぽつと市民たちが現れはじめた。神明裁判は市民も見物することが可能だという。
時間になった。
ミタカさんはアゴヒゲとマッチョに挟まれるようにして連れてこられた。
ミタカさんと目が合った。
ミタカさんが小さく頷いて、俺は彼女に見えるよう、窓の外から牛フンをかかげた。手袋をして素手では触らないようにしているが、それでも牛フンは熱かった。発酵の過程で微生物の活動によって熱が生まれるのだろうか。
そんな話を聞いたことがあるが、詳しくは分からない。とにかく牛フンは熱く、東の騎馬民族はそれを暖房代わりにカーペットの下に敷くほどなのだ。
ミタカさんが浮遊能力を発揮したのだろう。俺の手から離れた牛フンがゆっくりと浮き上がった。
まるで神様に召されたように天に昇っていく牛フン。なかなかシュールで面白い。だが、見惚れている場合ではなかった。
ミーノがスコップを使って小さく丸めた牛糞を、窓からミタカさんに見せた。彼女はそれをどんどん浮遊させていく。
ミーノもかなりの汚れ役だ。牛五頭に引かせた大量の牛フンで団子を作らなきゃいけないのだから。
俺に関しては異世界に来てから、ケツに酒を流し込んだり、幼女のおしっこに飛び込んだりしている。
まったく……そのうえ今度は牛フンだ!!
ミーノも団子を作りながら、ときどき空を見上げた。
そのあいだに、中ではミタカさんの手にもともとの傷がないことを確認し、神様の加護を得るための祈りが捧げられた。
コフネさんから聞いた情報によれば、この祈りがかなり長い。神明裁判はおおよそ三時間かけて行われるそうだが、そのうちの二時間半はこの祈りに使われるそうだ。これだけ祈れば神様も気が付いて加護を与えてくれるはずだろう。そう大勢が納得するために、盛大に祈りをささげるのだ。
俺は祈りには目もくれずに牛フンを掲げ、浮遊させ続けた。大量の風船を放ったように、空には牛フンが浮かんでいる。一番最初に浮かせた牛フンはすでに米粒ほどの大きさになっている。
「幽霊だからね」
「それは今も健在ですか?」
「うわっ! ちょっ!! イテっ」
ミタカさんは俺の身体を五十センチほど浮遊させた。俺は身をかがめる暇もなく、天井に頭をぶつけた。
「ふふふ。ご覧の通りよ」
「オーケーです。それなら、教会の窓から俺があるものを掲げるので、それをどんどん浮遊させていってください」
「あるもの?」
「見ればわかると思います。俺、窓から見えるようにしておきますから、それに気が付いたら、どんどんそれを浮遊させてください。次から次へと掲げますから、一つ残らず浮遊させていってください」
「分からないわねえ。それに何の意味があるの?」
「あとできっと説明します」
ミタカさんはあきらめたようにため息をつくと、なげやりに聞いた。
「それで、どれくらい高くまで浮遊させればいいの?」
「それはもうできるだけ高く。一度にあげるわけではないので、一つ一つの高さはまちまちになると思いますけど、それで構いません。どこまでも高く浮遊させていってください」
「はいはい。まあ、やってみるわ」
「おい、そろそろいいか?」
時間切れだった。アゴヒゲはゆっくりとした足取りで俺に近づいてきた。
「ミタカさん」
俺は最後に言った。
「きっとお湯はそこまで熱くないと思います。そりゃあ、少しは熱いと思いますけど、あたため過ぎたお風呂だと思ってください。一瞬で石ころを掴みだせば、もしかしたらヤケドしないかもしれません」
「そうかしら」
「それだけお願いします」
「いつまで喋ってんだよ。そろそろ出ろ!!」
俺はアゴヒゲに摘まみだされた。言いたいことは全部言えただろうか。
俺はミーノと落ち合って、教会の屋根から神明裁判が始まるのを待った。
時刻が近づくにつれて、教会は慌ただしくなった。神父やシスターが大きな鍋を運び出し即席の炉を作った。
フリアーナ六世が近衛兵を連れて二階へと上がっていくところを見た。礼拝堂を見渡せる部屋から結果を見届けるみたいだ。定刻の三十分前にはコフネさんも現れ、準備に参加した。コフネさんはお願いしたことをやり遂げてくれただろうか。十分前になるとぽつぽつと市民たちが現れはじめた。神明裁判は市民も見物することが可能だという。
時間になった。
ミタカさんはアゴヒゲとマッチョに挟まれるようにして連れてこられた。
ミタカさんと目が合った。
ミタカさんが小さく頷いて、俺は彼女に見えるよう、窓の外から牛フンをかかげた。手袋をして素手では触らないようにしているが、それでも牛フンは熱かった。発酵の過程で微生物の活動によって熱が生まれるのだろうか。
そんな話を聞いたことがあるが、詳しくは分からない。とにかく牛フンは熱く、東の騎馬民族はそれを暖房代わりにカーペットの下に敷くほどなのだ。
ミタカさんが浮遊能力を発揮したのだろう。俺の手から離れた牛フンがゆっくりと浮き上がった。
まるで神様に召されたように天に昇っていく牛フン。なかなかシュールで面白い。だが、見惚れている場合ではなかった。
ミーノがスコップを使って小さく丸めた牛糞を、窓からミタカさんに見せた。彼女はそれをどんどん浮遊させていく。
ミーノもかなりの汚れ役だ。牛五頭に引かせた大量の牛フンで団子を作らなきゃいけないのだから。
俺に関しては異世界に来てから、ケツに酒を流し込んだり、幼女のおしっこに飛び込んだりしている。
まったく……そのうえ今度は牛フンだ!!
ミーノも団子を作りながら、ときどき空を見上げた。
そのあいだに、中ではミタカさんの手にもともとの傷がないことを確認し、神様の加護を得るための祈りが捧げられた。
コフネさんから聞いた情報によれば、この祈りがかなり長い。神明裁判はおおよそ三時間かけて行われるそうだが、そのうちの二時間半はこの祈りに使われるそうだ。これだけ祈れば神様も気が付いて加護を与えてくれるはずだろう。そう大勢が納得するために、盛大に祈りをささげるのだ。
俺は祈りには目もくれずに牛フンを掲げ、浮遊させ続けた。大量の風船を放ったように、空には牛フンが浮かんでいる。一番最初に浮かせた牛フンはすでに米粒ほどの大きさになっている。
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