逆転の異世界生活~最強のチートスキルは『蠕動運動』でした。最高の逆転劇を見せてやる

先川(あくと)

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三章 クジ引き国王とツンデレメイドゾンビの幽霊

42話 ミーノが見た幽霊について

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 俺たちは墓地を一周し、ツンデレメイドゾンビの幽霊を探した。そして、彼女がどこにもいないことを確かめると、墓地を後にした。
「無駄足でしたか。それはご苦労様です」
 リョーネンさんは俺たちを自分の部屋に通した。長居するつもりはなかったのだが、リョーネンさんはうどんをご馳走すると言って準備を始めてしまった。

「いえ、ダメでもともとです」

 リョーネンさんは包みをほどくと、中からうどんを取り出し、煮えたぎった鍋の中にいれた。そして、鍋の中に白い粉を流しいれた。
「あの、今は何を入れたんですか?」
 俺は気になってそう聞いた。
「ああ、これは塩ですよ。このあたりではうどんを茹でるときは塩を入れる習慣があります」
「王都では入れないんですってね。ミーノ、はじめて聞いたとき驚いちゃいました」
「おそらく、このあたりは沸点が低いからでしょう。標高が高く、気圧が低いですから」
 驚いたことに、リョーネンさんは科学的な知識を持っていた。異世界もそれほど遅れているわけではないのかもしれない。
「沸点? 気圧?」
 ミーノは首を傾げていた。
「水がボコボコって泡立つときの温度ですよ。気圧が低いと、沸騰する温度も低くなるのです。そのためうどんを温めるのに時間がかかってしまう。うどんはコシが命ですからなあ。塩を入れると沸点があがりますので、高温でうどんを茹でることができるのです」
「なんだか、分かったような……。分からないような……」
 ミーノは困ったような愛想笑いを浮かべていた。

「ヤグラ様は分かっているようですな。どこかで教育を受けられましたか?」
 リョーネンさんの眼光が鋭くなった。
「ええ、まあ……」
 小学校で習ったことだが、それを説明するにはまず小学校の説明から始めなくてはいけない。面倒なのではぐらかすことにした。

「凄い!! ヤグラ君はキョーイクを受けたことがあるんですか?」
 ミーノが眩しそうに俺を見つめる。
「ところで、ミーノは幽霊を見たことはあるのか?」
 俺は話を幽霊探しに戻すことにした。
「今まで幽霊って見たことなかったんすけど、実は一か月前から、突然見るようになったんです」

「へー、見間違いとかじゃなくて?」
 幽霊の大半は見間違いや気のせいで説明がつくという。幽霊の正体見たり枯れ尾花。昔からそんなもんなのだ。
「寝ぼけていたので、はっきりとは言えませんが……見間違いではないと思います。先月の夜おしっこをするためにトイレに行ったんですけど、トイレのドアの前で、ぼうっと光る白い女の人を見つけて……」
 ミーノの瞳に恐怖の影が差した。

「知ってる人?」

「いえ、知らない人です。ミーノも誰だろうと思って、じーっと見たんですけど、知らない人でした。でも、足が透けてて見えなかったから、ああ、幽霊なんだろうなって思って……」
「それでどうしたんだ?」
「トイレ、並んでますかって聞いたんです」
 幽霊がトイレの順番待ちをしていると思うところが、ミーノのズレているところだが、話の腰を折ってはいけないと思い黙っておくことにした。
「そしたらコクコクって頷いて私怖くなって『じゃあまた来ます』って言って、トイレを諦めてお布団に戻ったんです」
「へー、それで何ともなかったのか?」
「はい、それだけのことだったんですけど、改めて考えると凄く怖いと思いませんか?」
 ミーノの表情はより一層深刻になっている。
「何が?」

「だって、幽霊がトイレに並んでいたってことは、トイレの中には誰かが入ってたってことじゃないですか。家族はみんな眠っていましたし、トイレは家の奥にあって、そこに行くにはミーノたちが眠っているところを通り過ぎないといけないんです。いったいあの晩誰がトイレに入っていたんでしょう?」

「そう聞くと不気味だな……」

「でしょう? そんなことがここ一か月の間に何度もあって。見かけるのはいつも同じ幽霊で、メイドさんの幽霊ではないと思うんですけど……」
「その幽霊は、いつもトイレの順番待ちをしているのか?」
「はい……」
ふと思った。
 幽霊が順番待ちをしているなら、中で用を足しているのも幽霊なのではないか。幽霊には幽霊同士の社会があり、マナーがあるのかもしれない。そして、幽霊同士のマナーにのっとって中の人が用を足すのを待っているのだ。だとしらたら、中にいるのは、誰の幽霊だ? 中の幽霊こそが、ツンデレメイドゾンビの幽霊なのではないか。
 ミーノは順番待ちをしている幽霊はツンデレメイドゾンビの幽霊ではないと言っていたが、用を足しているのがどんな幽霊かは知らない。
 それなら、その可能性はじゅうぶんあるのではないか。
「ミーノ、うどんを食べ終わったら、すぐに帰ろう。トイレを確認しようじゃないか」
「えっ? あ……、はい」
 何となく察しがついたのか、ミーノは小さく頷いた。
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