逆転の異世界生活~最強のチートスキルは『蠕動運動』でした。最高の逆転劇を見せてやる

先川(あくと)

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三章 クジ引き国王とツンデレメイドゾンビの幽霊

38話 キャラ属性が多すぎる!!

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「ツンデレメイドゾンビの幽霊…………。信じられるか?」

 俺は前を歩くミーノにそう聞いた。俺はすでにへとへとだというのに、ミーノは涼しい顔をして坂を上っていく。
 またしても山なのだが、前回と違ってすでに日が暮れている。俺たちは事情あって夜の登山に励んでいた。
「ミーノ、幽霊は信じる派です」
「いや、幽霊の話じゃなくてだなあ……」

 俺が信じられるかと聞いたのは、幽霊の存在ではない。このドカ盛り、山盛り、てんこ盛り、日本昔話に出てくる白ご飯のように、盛りに盛られたキャラ属性である。

 ツンデレ……、メイド……ゾンビ……の幽霊? 

 キャラ属性が多すぎる!!

 第一、ゾンビの幽霊ってなんだ? ゾンビになってなお、魂を宿し続け、肉体が朽ちたあと、幽霊になったってことか? 
だとしたら凄い怨念だ。
 俺は頭に白い三角をつけ、足元が透けたゾンビを思い浮かべた。メイド服に身をまとい、目尻を怒ったように吊り上げている。顔色は悪く、表情が欠落している。
 ツンデレメイドゾンビの幽霊だ。

「わたし、このクエストはノリ気じゃないんですよねえ……」

 ミーノの言葉にさきほどのイメージはかき消された。
「緊急クエストって断れないのか?」
「断れないんですよ。緊急クエストが発生しているうちは、他のクエストを受けることもできませんし……」
「なるほどなあ」
 ツンデレメイドゾンビの幽霊を探せ。
 このクエストは国王が直々に依頼したという。なんでも去年まで王宮のお膳係をつとめたメイドだそうだ。それがどういうわけかゾンビになり、その後、幽霊になったそうだ。
「そもそも王様ってどんな人なんだ?」
 つい最近、異世界転生してきた俺は、そのあたりのことをよく知らなかった。
「現在の国王はフリアーナ六世なんですけど、評判はあまりよくありません。別名、クジ引き国王って言われてるくらいで」
「クジ引き国王? なんだそれは」

「はい、フリアーナ六世は、先代のフリアーナ五世の弟にあたるんですよ。フリアーナ五世は一か月前に亡くなられたんですけど、死の間際にこんな遺言を残されたんです」

『本来、国王というものは、親から子へと受け継がれていくものではあるが、私には子どもがいない。そのため、次期国王は、私の兄弟の中から選ばれることになるだろう。私がここで指名をしてもいいが、兄弟の仲を私が引き裂くかもしれないと思うと耐えられない。ここは一つ、神前にてクジ引きをし、神のご意思をうかがうことにせよ』

 ミーノは国王口調になって、声を低くして言った。
「はあ。兄弟ゲンカの原因を作りたくないからクジ引きをしろと」

「そうです」
「それで、当たりくじを引いたのがフリアーナ六世だと」
「だから、通称クジ引き国王なんです」
「だからって、クジ引き国王って呼ばれるのはなあ……」
 仮にも国の頂点に存在する国王だ。国民からクジ引き国王と言われるということは、国民から尊敬されていないのだろう。

「仕方ないですよ。フリアーナ六世はもともと国王になる気なんてなかったんです。『自分はどうせ末っ子だから』って、マツリゴトの勉強もせずに、ひたすら物語を書いてたんですよ。物語しか書いてこなかった男が国王なんてできませんよ」

 ミーノは唇を尖らせて不安げに言った。
「まるで見てきたように言うな……」
「見てきたんですよ! シリンキ寺のお坊さんとお友達で、お寺でよく物語の読み合いっこをするんです。お寺は朝まで明るくって、うちからでもよく見えるんです」
「なるほどねえ。じゃあ、ミーノはよく知ってるわけだ」
「知ってるどころか!! 去年だったか、うちの前で気まぐれにお母さんを口説いたり、もうムチャクチャなんです。うちのお父さんなんか、『国王になると分かってたら殺してた』って」
 それはまた物騒な話だ。

「それじゃあ、政治もあんまりなんだな」

「はい。それでクジ引き国王です」
 嫌われ者の王族がクジ引きによって国王となった。
「それがなんで、ツンデレメイドゾンビの幽霊なんか探してるんだ?」
「それです!! 王都はいま、その噂で持ち切りなんですよ」
ミーノは悪戯っ子のように笑った。意外にもスキャンダラスな話題が好きなようだ。
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