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一章 地獄の酒場
11話 飲み物くらい飲めるんだ!!
しおりを挟む「よっしゃ、決まりだな。じゃあ、もう一度確認するが、俺に賭ける者は手をあげろ!!」
ヴァーギンがそう言い一座の反応をうかがった。
だが、周囲はしんとしており、誰も手をあげるものはいなかった。
周囲の男はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべていて、悪戯が発覚するのを心待ちにする悪戯っ子のようだった。
「ちぇっ!! 誰もいねえのかよ!! じゃあ、今度はこのヤグラ君に賭けるやつは手をあげろ!!」
今度は一座が一斉に手をあげる。
「おいおい、俺に賭ける奴が一人もいなければ、勝負にならんだろ……。しょうがねえな、じゃあ、ここは俺が俺に賭けるとして、ほら、ここに二十リラ置いた。ヤグラ君が勝ったら、お前らはこの二十リラを二十等分だ。ささ、お前らもここに二十リラずつ出すんだ!! 俺が勝ったら、お前ら全員分の四百リラを総取りだ。いいな?」
俺はこの勝負の異常さに気が付き始めていた。
普通、ギャンブルは勝つ可能性が高い方の配当率が下がる。逆に勝つ可能性が低いほど、勝った時のリターンが大きい。
だから、ギャンブルになるのだ。勝ちやすいのに儲けが多いとか、勝ちにくいのに利益が薄いことは起こりえない。
俺たちの場合、誰だって、ヴァーギンに分があると思う。体の大きさからしても、俺はヴァーギンより一回り以上小さいのだ。
だが、ヴァーギンが勝てば、彼一人が四百リラを得ることになっている。逆に俺が勝っても、観客は一人一リラしか儲からない。
これはどういうことだろう。俺は必死に考えをめぐらせた。
だが、答えの見つからないまま、飲み比べが始まった。
「じゃあ、さっそく始めようじゃねえか」
「さあ、まずは一杯めだ。カンパーイ」
俺はヴァーギンと杯を交わしたところで、ふと手を止めた。
これ……どうやって飲むのが正解なんだ……。
もう言うまでもないことだが、俺の口は現在、尻の割れ目についており、鼻の下には役目を終えた花びらみたいに、恥ずかしがり屋の肛門がすぼんでいる。
これ……、さすがに取り巻きを前にケツから酒を飲むわけにはいかないよな……。
だけど、トイレに行って、流し込むこともできない。飲み比べである以上、飲んだという確かな証拠が必要なのだ。一人でトイレに行かせてくれるとは思えない。
「おい、なんだよ。まだ一杯めだぞ? さっさと飲めよ」
ヴァーギンが俺を睨んだ。
「飲むよ……。ちょっとまってくれよ」
「おい、まさか一杯めが飲めねえ、なんてことはないよなあ? 大の大人が二十人も、お前が勝つ方に賭けてるんだぜ」
ヴァーギンが俺をジリジリと追い詰めていく。
「分かった。飲むよ」
俺は黄色い布をつまみあげ、その下からブドウ酒を入れた。
そのとき、俺はある逆転の発想に至った。
そうまさに叛逆者の叛逆者たる逆転の発想だ。俺は現在、女神アオイから授けられた究極の蠕動運動を持っている。蠕動運動とは大腸や小腸が収縮、弛緩させることによって、便を押し出す働きのことだ。
とすれば、蠕動運動を逆方向に起こすことによって、ケツからブドウ酒を吸い上げることができるのではないか。
普通の人間にはそんな働きはできないだろう。だが、今俺が持っているのは人類史上最強の蠕動運動なのだ。俺は喉のあたりに力を籠め、フルスロットルで大腸を収縮させた。
ジュルジュルッ!! ジュルジュルジュッ!!
やった!!
俺の肛門が凄い勢いで酒を吸い上げていく!! 少なくとも、俺は席を立つことなく、杯を空けることができるのだ!!
消化管が逆でも、飲み物くらい飲めるんだ!!
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