7 / 97
一章 地獄の酒場
七話 ギルドという場所は恐ろしい
しおりを挟む
俺は明らかに無視されていた。何か返事をしてくれれば、それに合わせて話を進めることもできるが、こう無視されると、会話は続かない。
その中で、集会所にはなぜか緊張感が漂っている。談笑していた冒険者たちが会話を止め、さりげなく俺の方を見ていたり、次のクエストの打ち合わせをしていた男たちが急に黙り込んでしまったのだ。
それどころか、先ほどまで酔いつぶれていた男までもが、目を覚まし、ことのなりゆきを見守っている。
もしかして、俺は声をかけてはいけない相手に声をかけたのではないか。
俺は居ても立っても居られなくなった。
「それじゃあ……失礼します」
俺は彼女から離れることにした。
彼女は結局一言も口を聞かなかったし、こちらを見ることさえしなかった。俺を邪険にするような態度も取らなかった。最初から俺が存在することを知らないみたいだった。
俺は仕方なく別の冒険者に声をかけることにした。
「あの……、ぼくはヤグラケイスケっていうものなんですけど……」
今度はカウンターでお茶を啜っている老人にした。方針はさっきと変わらない。一人でいて、酒を飲んでいない人間だ。
「………………」
老人もやっぱりただずるずると茶をすすっているだけだ。
「今日から冒険者になったんですけど、これからよろしくお願いします」
「………………」
いくら、酒場がうるさく、俺の声がお尻に吸収されて小さくなると言っても、俺が見ていることは分かっているはずだ。それなのに、老人もさっきの女性冒険者と同様、俺の存在を無視している。
だがどういうわけか話しかけた相手以外の、その場にいる全員が、俺を意識しているのだ。
これはどうなっているんだろう。
「…………じゃあ、そういうことで」
俺はその老人のもとを離れた。
俺はコミュニケーション能力もそれほど高い方ではない。知らない人に話しかけるなんて、現代人には忘れられた感覚なのだ。それをすでに二回もしている。現世、(いや今となってはもう前世か)の俺なら、それだけでどっと疲れを感じるはずだ。加えて、二度も無視された。俺のメンタルは既にボロボロだったが、俺はもう一度だけ試してみることにした。
「あの俺はヤグラっていうものなんですけど……」
今度はテーブルについて肉を齧っている獣人に話しかけてみた。
獣人と言っても、猫耳をして、しっぽを生やして、体表をふさふさの毛皮が覆っているだけで、骨格や顔立ちは人間みたいなのだ。性別は女性だろう。しなやかな体型と顔つきの柔らかさから俺はそう判断した。
「あの俺っ!! ヤグラっていうんですけど!!」
声を大きく荒げてみた。
「……………………」
だが、その獣人もやはり俺のことが全く見えていないみたいなのだ。
今度は周りの冒険者たちが露骨にニヤニヤしている。
誰からも無視される俺を見るのがそんなに楽しいのか。
「今日、冒険者になったんですけど、これからよろしくお願いします」
「……………………」
俺は少しだけイラっとしたが、相手に突っかかることはしなかった。この集会所では新人を無視するしきたりでもあるのかもしれない。それにいくら文句を言っても腕っぷしではかなわない。
俺は仕方なく、もう一度掲示板を覗いてみることにした。
一番簡単そうな、一人でもできるクエストをこなして、一度出直そう。
第一、一度もクエストをこなさないうちから、誰かとパーティーを組もうとするのは、よくないのではないか。最初から寄生するつもりだと思われたかもしれない。そんな奴とは組まないという暗黙の了解でもあるのか。俺はなんとかこの状況を説明しようと、あれこれ理由を考えた。自分に悪いところがなかったか。
だが、別に俺はパーティーを組もうと言ったわけではない。そういう思惑があったにしろ、簡単な挨拶をしただけだ。返事くらいしてくれてもいいのではないか。
俺は口を尖らせながら、掲示板の前に立った。口を尖らせるだけで、やたら割れ目にあたるのだが……。
ダンッ!
急に何かがぶつかってきたのはそのときだった。
その中で、集会所にはなぜか緊張感が漂っている。談笑していた冒険者たちが会話を止め、さりげなく俺の方を見ていたり、次のクエストの打ち合わせをしていた男たちが急に黙り込んでしまったのだ。
それどころか、先ほどまで酔いつぶれていた男までもが、目を覚まし、ことのなりゆきを見守っている。
もしかして、俺は声をかけてはいけない相手に声をかけたのではないか。
俺は居ても立っても居られなくなった。
「それじゃあ……失礼します」
俺は彼女から離れることにした。
彼女は結局一言も口を聞かなかったし、こちらを見ることさえしなかった。俺を邪険にするような態度も取らなかった。最初から俺が存在することを知らないみたいだった。
俺は仕方なく別の冒険者に声をかけることにした。
「あの……、ぼくはヤグラケイスケっていうものなんですけど……」
今度はカウンターでお茶を啜っている老人にした。方針はさっきと変わらない。一人でいて、酒を飲んでいない人間だ。
「………………」
老人もやっぱりただずるずると茶をすすっているだけだ。
「今日から冒険者になったんですけど、これからよろしくお願いします」
「………………」
いくら、酒場がうるさく、俺の声がお尻に吸収されて小さくなると言っても、俺が見ていることは分かっているはずだ。それなのに、老人もさっきの女性冒険者と同様、俺の存在を無視している。
だがどういうわけか話しかけた相手以外の、その場にいる全員が、俺を意識しているのだ。
これはどうなっているんだろう。
「…………じゃあ、そういうことで」
俺はその老人のもとを離れた。
俺はコミュニケーション能力もそれほど高い方ではない。知らない人に話しかけるなんて、現代人には忘れられた感覚なのだ。それをすでに二回もしている。現世、(いや今となってはもう前世か)の俺なら、それだけでどっと疲れを感じるはずだ。加えて、二度も無視された。俺のメンタルは既にボロボロだったが、俺はもう一度だけ試してみることにした。
「あの俺はヤグラっていうものなんですけど……」
今度はテーブルについて肉を齧っている獣人に話しかけてみた。
獣人と言っても、猫耳をして、しっぽを生やして、体表をふさふさの毛皮が覆っているだけで、骨格や顔立ちは人間みたいなのだ。性別は女性だろう。しなやかな体型と顔つきの柔らかさから俺はそう判断した。
「あの俺っ!! ヤグラっていうんですけど!!」
声を大きく荒げてみた。
「……………………」
だが、その獣人もやはり俺のことが全く見えていないみたいなのだ。
今度は周りの冒険者たちが露骨にニヤニヤしている。
誰からも無視される俺を見るのがそんなに楽しいのか。
「今日、冒険者になったんですけど、これからよろしくお願いします」
「……………………」
俺は少しだけイラっとしたが、相手に突っかかることはしなかった。この集会所では新人を無視するしきたりでもあるのかもしれない。それにいくら文句を言っても腕っぷしではかなわない。
俺は仕方なく、もう一度掲示板を覗いてみることにした。
一番簡単そうな、一人でもできるクエストをこなして、一度出直そう。
第一、一度もクエストをこなさないうちから、誰かとパーティーを組もうとするのは、よくないのではないか。最初から寄生するつもりだと思われたかもしれない。そんな奴とは組まないという暗黙の了解でもあるのか。俺はなんとかこの状況を説明しようと、あれこれ理由を考えた。自分に悪いところがなかったか。
だが、別に俺はパーティーを組もうと言ったわけではない。そういう思惑があったにしろ、簡単な挨拶をしただけだ。返事くらいしてくれてもいいのではないか。
俺は口を尖らせながら、掲示板の前に立った。口を尖らせるだけで、やたら割れ目にあたるのだが……。
ダンッ!
急に何かがぶつかってきたのはそのときだった。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜
大好き丸
ファンタジー
異世界「エデンズガーデン」。
広大な大地、広く深い海、突き抜ける空。草木が茂り、様々な生き物が跋扈する剣と魔法の世界。
ダンジョンに巣食う魔物と冒険者たちが日夜戦うこの世界で、ある冒険者チームから1人の男が追放された。
彼の名はレッド=カーマイン。
最強で最弱の男が織り成す冒険活劇が今始まる。
※この作品は「小説になろう、カクヨム」にも掲載しています。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで220万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
病弱な第四皇子は屈強な皇帝となって、兎耳宮廷薬師に求愛する
藤原 秋
恋愛
大規模な自然災害により絶滅寸前となった兎耳族の生き残りは、大帝国の皇帝の計らいにより宮廷で保護という名目の軟禁下に置かれている。
彼らは宮廷内の仕事に従事しながら、一切の外出を許可されず、婚姻は同族間のみと定義づけられ、宮廷内の籠の鳥と化していた。
そんな中、宮廷薬師となった兎耳族のユーファは、帝国に滅ぼされたアズール王国の王子で今は皇宮の側用人となったスレンツェと共に、生まれつき病弱で両親から次期皇帝候補になることはないと見限られた五歳の第四皇子フラムアーク付きとなり、皇子という地位にありながら冷遇された彼を献身的に支えてきた。
フラムアークはユーファに懐き、スレンツェを慕い、成長と共に少しずつ丈夫になっていく。
だがそれは、彼が現実という名の壁に直面し、自らの境遇に立ち向かっていかねばならないことを意味していた―――。
柔和な性格ながら確たる覚悟を内に秘め、男としての牙を隠す第四皇子と、高潔で侠気に富み、自らの過去と戦いながら彼を補佐する亡国の王子、彼らの心の支えとなり、国の制約と湧き起こる感情の狭間で葛藤する亜人の宮廷薬師。
三者三様の立ち位置にある彼らが手を携え合い、ひとつひとつ困難を乗り越えて掴み取る、思慕と軌跡の逆転劇。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる