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13.鞠乃と雛子その2

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「今日もお肉屋さんに寄って行かない?」
 鞠乃は雛子の返事も聞かずに、道を曲がり始めた。

「今日は良い」

 雛子はぶっきらぼうに言って、まっすぐ行こうとする。
「ダメよ。わたしお腹が空いてるんだもの」
 鞠乃は雛子の手を掴んだ。
「なんだよ」
 ずっと険悪な雰囲気が続いていた。怒っているのは雛子の方で鞠乃はそれに気づかないふりをしていた。
「コロッケ。食べて帰ろうよ」
「今日は気分じゃない」

「じゃあもう一緒に帰ってあげないわ」

 鞠乃は澄ました顔で言った。雛子にはその表情が憎たらしかった。
 雛子は黙って鞠乃を見つめた。
「これからずっとよ? 一緒に帰ってあげないから」
「なんでそんなこと言うんだ? 怒ってるのはうちの方なんだぞ」
「でも、一緒に帰らないと困るのは雛子ちゃんでしょ?」
「鞠乃、あんた最近調子に乗ってるよ。体育のときとか、うちのところに来るなよな」
「都合の良いのはお互いさまでしょ」
 雛子は目がくらむほど腹が立ってきた。
 ことの発端は、五時間目の体育の授業だった。
 その日の体育で二人一組になって体力測定を行った。
 そこで例のごとく鞠乃はぽつんと一人余った。
 いつもはそのままぼんやりしていて、体育教師に促されるままに誰かとペアを組ませられるのだが、今日に限ってはつかつかと雛子に歩み寄ると、今まさにクラスの女子とペアを組もうとしている雛子の手をぐいっと引っ張った。
「一緒にやろうよ」
 雛子は驚いた。
「いや、クラスの友だちと一緒にやるから」
 雛子が気まずそうに隣のクラスメートを指さすと、鞠乃は大胆に二人の間に割って入り、クラスメートの目を見た。
「良いでしょ。あなたは友だちがたくさんいるんだから。雛子ちゃんをわたしに貸して」
 有無を言わせない口調で言ってのけると、雛子の手を引っ張った。
 ペアになるのはこの時間だけ。実際誰とでもいいと言えば、誰とでもいい。体育教師がさっさとペアを作れと声をあげている。クラスメートは困ったように笑うと、他の女子とペアを作りに向かった。

「こういうことされると困るんだけど。あんたといるとうちまで変な目で見られるだろ」

 雛子は準備運動をしながら言った。
「わたしだって友だちが一人もいないように思われるのは嫌だもん」
「あんたが教室でBL読むのが悪いんだろ。それとそのぶりっこも」
「別にわたしは友だちが欲しいとは言ってないから。いつもひとりぼっちだと思われたくないだけ。ほら、笑ってよ。雛子ちゃんがむすっとしてると、やっぱり仲良くないみたいじゃない」

「あのさ、一緒に帰ってるからって、友だちに戻れると思ってるの? うちが言うのもなんだけど、無理じゃん。うちと鞠乃は」

「無理だね。知ってるよ」
「うちは理央に気を使わせたくないだけ。あんただって一人で帰るよりは良いから一緒に帰ってるだけだろ。だから、こういうときに頼られるのは嫌なんだよ」
「頼ってなんかないから。命令してるの」
 鞠乃は見下した笑みを浮かべた。
 自分で言っててもひどいことを言ってる自覚はあった。
 それなのに、鞠乃は平然としている。それどころか頼ってると勘違いしている雛子を嘲笑しているような雰囲気がある。
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