異世界列車囚人輸送

先川(あくと)

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最終章 やめられない旅人

5、荒野に響く口笛

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 トウセキは血脂に滑るナイフを苦労して、ユズキエルの体内に食い込ませたが、今度は抜くのに手間取り、興味を失ったオモチャのようにつまらなさそうな視線を送った。

「理解力のないガキだな!! いい加減、諦めろ!!」

 トウセキはユーゴに向き直ると、豹のような身軽さで素早く間合いに入り、ユーゴを背負い投げにした。

「ぇふっ」
 激しく地面にたたきつけられたユーゴに、トウセキは馬乗りになった。

「馬鹿が!! 何が正しいかなんて考えてるからしくじるんだよ!! 俺なら、あの討伐隊から銃を貰い受けた時点で殺してた。お前が俺に勝てるチャンスはあのときしかなかったんだよ!!」

 トウセキは半狂乱になって拳を振り上げた。

 ユーゴの肉体は激しい衝撃に見舞われ、そのたびにトウセキの腕が勢いよくしなるのを感じた。

「俺が、本当のことを身をもって教えてやる!!」

一発ごとに骨が砕かれていくのが分かった。

「いいか? この世界は奪うか、奪われるか、殺すか、殺されるかだ」

 唇、頬、瞼、あらゆる皮膚が衝撃に耐えかねて破け、血煙があがった。

「お前らが討伐隊なんぞを呼んでるうちに、俺は次の列車を襲ってる」

 ユーゴはトウセキの顔に無数の赤い斑点ができるのが見えた。

「たとえ、俺を捕まえてもだ。お前らが、判事を呼んでるうちに、俺は十キロ先まで逃げ出してる」

 それが自分の血であることに絶望的な恐怖を覚えた。

「お前らの正義とやらはここにはない」

 ユーゴの意識は遠のき始めた。

「ここは誰からも見捨てられた岩と砂の土地だ。そして、俺たちは誰からも見捨てられた人間だ」

 あ、死んだ――。

 そう覚悟したとき、ふいにトウセキの攻撃がやんだ。

 トウセキはもはや聞く気力すらないほどユーゴを滅多打ちにすると、「ふう」と汗をぬぐって立ち上がった。

「じゃあな、坊主。まあ、刺激的な旅だったぞ」

 トウセキは口笛を吹いて歩き出した。

 それは意外にも情緒的なメロディで、不毛な荒野に響き渡り、さすらいの旅人に思わず顔をあげさせる、そんなメロディだった。

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