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6章 湧き出る盗人
5、銃をよこせ
しおりを挟むしかし、その声は何の効果も上げなかった。
次の瞬間、のっぽの兵士の首が舞った。酔っ払いのようにふらりと傾いたかと思うと、奇妙な角度でねじれたままバリケードに突っ伏した。
「クソ!!」
デュアメルはのっぽの兵士を引きずり下ろすと、そのまま後方の床に寝かせた。
のっぽの兵士は額を撃ち抜かれ、すでに息をしていなかった。
「馬鹿野郎!!」
デュアメルは悪態をつくと、弾を装填し始めた。激しい怒りと同様にあっても、装填は淀みなく行われた。
「変わるわ、デュアメル」
装填を終えると同時に、ジョーがバリケードから離れた。
入れ替わるようにデュアメルがそこについた。
ジョーは弾薬箱から銃弾を取り出そうとした。そこで弾がもう残り少ないことに気が付いた。
剣、魔法が主体のジョーにとって小銃は他の隊員ほど優先される武器ではなく、装備が重くなることを嫌って、必要以上に携行していなかった。
それにアヴィリオンでもイーシャでも満足に銃弾を補充できなかったため、銃弾は最初から不足気味だった。
「弾がもうないわ」
「節約して使ってくれ」
シノは自分の弾薬箱をジョーの方へ滑らせた。シノの弾薬箱も弾は残り少なくなっていた。冒険者を救う際に、弾から魔晶石を取り出したのが仇となっていた。
「弾の残りは!」
シノは部隊全員に聞いた。
「私はまだまだ余裕だに!」
「こっちも当分は持ちそうです」
デュアメルとレナが答えた。
「残弾数には気を使ってくれ」
シノはここにきてはっきりと戦闘の苛烈さを思い知った。
練度の上では歴然とした差があったが、数が違い過ぎた。
そのうえ騎馬隊の強みは全く生かせず、本来であれば一瞬で片をつけられるはずのジョーの魔法も使うことが不可能だった。
「隊長、馬だ!!」
デュアメルは寝台車の外を指さした。
二人の群盗が馬を駆り立て、寝台車を回り込もうとしていた。
囚人用車両にはグラグラ・ウィリー一人を残してきただけで、機関車両に関しては全く手薄な状態だった。
「何をしてるんだ!! もっとスピードを出せねえのかよ」
「ここは頼んだ。一緒に来てくれ」
シノはレナの肩を掴むと、寝台車を離れ、車両の連結部に身を隠した。
「三、二、一」
シノはタイミングを合わせて、連結部から身を晒し、車両の横を駆ける群盗を撃ちぬいた。
群盗は打ち捨てられた人形のように手足をだらりとさせ、そのまま何の抵抗もせず、馬からずり落ちた。
「来るんだ」
シノとレナは囚人用車両に入った。すでに外の騒ぎを聞きつけていたようで、囚人らは抜け目ない様子で、檻の外を覗いていた。
「ウィル、回り込む敵を頼む」
「分かった」
ぐらぐらのウィリーは連結部から顔を覗かせると、後方から馬を駆る蛮族の姿を探した。
次の瞬間、ガタンッと車体が傾いたかと思うと、列車が急激にスピードを上げた。
火夫は見境なく燃料をつぎ込むことにしたようだ。
外にいた群盗は馬で追いかけることをあきらめ、家畜車両の中に飛び込んでいった。
家畜車の群盗はそれによってさらに数を増やした。
「持ちこたえれんぞ!!」
寝台車からデュアメルが叫び、シノは遅かれ早かれ列車を放棄するときが来ることを悟った。
「お前ら、出るんだ! トウセキを馬に乗せて運ぶ」
シノは檻の鍵をあけると、囚人に外に出るように言った。
「馬で逃げる? 隊長さん、ちょっとはシャキッとしてくれよ」
トウセキがくっくっと愉快そうな声を上げた。
彼はゆっくりと立ち上がり、シノのもとに近づいた。
「何がおかしい?」
「逃げれるわけないだろう。列車を失えばあとは追いつかれておしまいだ。俺は死にたくないんでね、そんな望みの薄い策には乗れないな」
「お前に選択肢はない」
「銃を寄こせ。俺が戦ってやる」
「そういえば渡してもらえると思うのか?」
「あの石を飲んじまった以上、あいつらは必ず俺を殺すだろう。死にたくないのは俺も同じだ。その前に、こっちが殺してやる」
「黙って言うことを聞くんだ、トウセキ!!」
「銃を寄こせといってるんだ!!」
シノとトウセキは、檻の前で睨みあった。
燃えるような気迫にも、シノは表情一つ変えなかった。
数秒の沈黙が二人を包みこんだ。
シノは一歩も譲るつもりはなかったが、トウセキとて黙って馬に乗せられるつもりはなかった。
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