異世界列車囚人輸送

先川(あくと)

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6章 湧き出る盗人

3、悪夢の始まり

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「ベッドを倒してバリケードを作ろう。ここで群盗を迎え撃つんだ」
「了解」

 デュアメルはベッドを横倒しにしながら、車両前方に移動していく。

「家畜車を取られましたね」

「あそこは四方八方から射線が通る。どのみち守り切ることは不可能だ」

 家畜車は木の柵で覆われているため、その構造上、外から容易に射撃することができた。
 あそこの防衛にこだわっていれば、外から突っ込まれた銃にハチの巣にされていたのは確かだろう。

 シノのセリフは客観的な事実ではありながら、負け惜しみに聞こえるのは否定できなかった。
 馬の退避は終わっておらず、敵の手に落ちるのがあまりにも早すぎたのだ。

「済んだことは仕方がないさ」

 これすら、負け惜しみに聞こえるか?
 シノは部下を鼓舞するために感情に訴えることが苦手だった。無根拠に力強い言葉を吐くには冷徹すぎた。

 しかし、劣勢の場面においては合理的な言葉が、これほど慰めにしか響かないものかと愕然した。

「隊長、次はどうします?」
 デュアメルは反撃の態勢を整えながら、何らかの作戦をシノに求めた。単にここで敵を迎え撃つだけでは後手後手に回ってしまう。
 敵に勢いを削ぐために、大胆な作戦をシノに求めていた。
 実際、これまでの戦闘で、シノはいくつもの当意即妙な作戦で戦況を切り開いてきた。

 撤退ができないからか……。

 しかし、デュアメルの言葉はシノには届かなかった。
 シノは今までの戦闘と今回の戦闘の決定的な違いに気づき、その違いが何をもたらすのかについて頭を巡らせていた。
 威力騎馬隊の任務は、偵察、奇襲、破壊工作、機動力を生かして敵部隊側面に回り込んでからの強襲と、攻撃と離脱といった柔軟な選択が可能だった。

 しかし、列車の中では離脱は不可能。
 馬に乗り換えて列車を放棄することはできるが、人数分の馬はおらず、また防衛側が有利なこの状況を手放すことは、すなわち敗北を意味していた。

 撤退不可能。

 つまりは、全滅もあり得るということだった。

 作戦続行が困難になった時点で離脱することができた威力騎馬隊にいれば、全滅や壊滅と隣り合わせの戦闘に慣れることはない。

 歩兵連隊の経験を持つデュアメルは別にしても、暗殺部隊にいたシノは、部下全員と一緒に玉砕するという救いがたい結末が目に浮かぶようなことはなかった。

「隊長、次の作戦は!?」
 デュアメルは再び叫んだ。
 しかし、シノは今まさに列車の中で玉砕する光景を思い描いていた。

「隊長、次の指示を!!」
 デュアメルが三度叫び、シノはようやくその声に気が付いた。

「とりあえずここの防衛だ。相手の出方を見て、次の行動を決める」
 シノは一見もっともらしいことを言ったにすぎなかった。

「そうね、とにかくここを防がないと。囚人用車両では食い止めきれないわよ」
 ジョーが同意してくれる。
 ジョーはドレスのスリットをまくり上げて、ふともものベルトに手を這わせたが、そこでポーションを切らしていることを思い出した。

「ああ、もう!! どうしてこううまくいかないのかしら」
「大丈夫だに! 姉御なら魔法なんかなくても余裕だに」
 レナは二丁拳銃をホルスターから抜き取る。
「そうですよ! 領土防衛代官の剣捌きをみせてやるんです!」
「デュアメル? こんな狭いところで剣なんか振り回せないわよ」

 ジョーは口の減らない隊員たちに呆れつつ、術式小銃に弾を込め、撃鉄を起こした。
 群盗は早くも寝台車の中に侵入してくる。
 敵の姿を見て、シノはひとまず考えをシンプルにすることができた。

 シノはバリケードの隙間から銃を覗かせると、落ち着いて狙いを定めた。

 全身を無防備にさらす群盗に対して無慈悲な一撃を加える。

 ぶぱっ――

 群盗の顔はパルプ状に裂けて飛び散った。

 後続の敵がそれを受け止めると、それを盾にするかのように突き進んでくる。

 その脇を追い越して、次の男が突撃してきた。

 ダンに脅されているのか、あるいは一種の集団催眠か、それとも蛮勇をみせるだけですぐに逃げ惑う者たちを相手にしてきたからか、群盗はしゃにむに突撃してきた。

 命を無駄に捨てるような行動だったが、それは術式小銃の弱点をついてもいた。

 一発ごとに装填が必要な小銃において、死に物狂いの特攻は兵士を慌てさせた。

 そのうえ群盗の持つ輪胴式魔銃は、狭い場所で苛烈な銃撃戦をするには向いていた。

「レナに任せるに!」
 レナは二丁拳銃をバリケードの上から覗かせると群盗よりも早く正確に射撃をくわえた。
「ぼおおおおおおおおおっ!!」

 銃弾を受けた群盗の一人が、自らの雄叫びに突き動かされるようにして突進してくる。

 身体は穴だらけのはずだが、痛がるそぶりも見せず、血をまき散らしながら突進してくる姿は悪夢のようだった。
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